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第四章 上達部との交流
18.宮中からの迎え
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そこへ、主上からの御使いが来た。
慌てるお殿様を尻目に、東宮はあたしの手を離してのんびり伸びをする。
「ああ、いけない、今夜は主上と中宮と関白と一緒に、管弦の催しがあるんでした。
権中納言、宮中に戻るぞ」
「え、私もですか?」
権中納言様は、紙から顔を上げて驚いたように訊く。
「当然だろう。今日は最後まで付き合え。
私だけかたっくるしい催しに出るなんてまっぴらだ。
左近衛中将はどこへ行った?」
「はい」と後ろで声がした。
「ここにおります」
「宮殿に戻るぞ」
欠伸をしながら東宮が言う。
「…はい」元信様は平伏する。
ええーっ元信様まで連れてっちゃうの?
あたしの表情を見て、東宮は一瞬、きゅっと口元を引き締める。
それから悪戯っぽく笑う。
「姫のそんな表情を見てしまったら、もう絶対に左近衛中将を連れて行かなきゃ。
私も兄上とおんなじだな。
…というのは冗談です。
左近衛中将には牛車の警護をしてもらわなくてはね。
何しろ流鏑馬神事で一番になるほどの、弓矢の名手だから」
ああ、カッコ良かったよねえ、あれ…
あたしは思い出しうっとりする。
東宮はまた、どこか痛むように目を細める。
手を伸ばしてあたしの頬に触れ、顔を自分の方へ向けた。
「姫、明後日の第一回幾望会の準備は進んで居られますか?
なかなか難しい課題でしょう」
あたしは余裕で、にこっと笑ってみせる。
「さようですわね…でも、わたくしには右大臣家の司厨長という強い味方がおりますから」
東宮は眩しそうにあたしを見つめ「楽しみにしておりますよ」と言って、立ち上がった。
お殿様と伊靖君とあたしが平伏する中「ではまた参りますね、ご機嫌よう、月子姫」と言って巻き上げた御簾をくぐって出て行く。
「ああ、雨が止んだな」
という声が外廊下から聴こえる。
「では、失礼いたします。
今日はありがとうございました」
権中納言様は丁寧にお辞儀して出て行こうとし、あたしの傍に戻ってきた。
「また、算学のお話をしましょう。
今日はまったく脱帽いたしました。
こんな女人は初めてだ。
月子姫からも、数学の問題などあれば、ぜひ解かせてください」
わあ出た、数学バカ。
良いとも、お相手仕りましょ。
っていうか、東宮と権中納言様、二人ともさらっと「月子姫」とか言って去って行ったけど!
元信様はあたしの両手を取り「必ず今夜中に戻ってきます、待っていてください」と耳元で囁いて部屋を出て行った。
うん、待ってるっ!
さっきの元信様の態度に不安だったあたしは、途端に気分が浮上していくのを感じた。
慌てるお殿様を尻目に、東宮はあたしの手を離してのんびり伸びをする。
「ああ、いけない、今夜は主上と中宮と関白と一緒に、管弦の催しがあるんでした。
権中納言、宮中に戻るぞ」
「え、私もですか?」
権中納言様は、紙から顔を上げて驚いたように訊く。
「当然だろう。今日は最後まで付き合え。
私だけかたっくるしい催しに出るなんてまっぴらだ。
左近衛中将はどこへ行った?」
「はい」と後ろで声がした。
「ここにおります」
「宮殿に戻るぞ」
欠伸をしながら東宮が言う。
「…はい」元信様は平伏する。
ええーっ元信様まで連れてっちゃうの?
あたしの表情を見て、東宮は一瞬、きゅっと口元を引き締める。
それから悪戯っぽく笑う。
「姫のそんな表情を見てしまったら、もう絶対に左近衛中将を連れて行かなきゃ。
私も兄上とおんなじだな。
…というのは冗談です。
左近衛中将には牛車の警護をしてもらわなくてはね。
何しろ流鏑馬神事で一番になるほどの、弓矢の名手だから」
ああ、カッコ良かったよねえ、あれ…
あたしは思い出しうっとりする。
東宮はまた、どこか痛むように目を細める。
手を伸ばしてあたしの頬に触れ、顔を自分の方へ向けた。
「姫、明後日の第一回幾望会の準備は進んで居られますか?
なかなか難しい課題でしょう」
あたしは余裕で、にこっと笑ってみせる。
「さようですわね…でも、わたくしには右大臣家の司厨長という強い味方がおりますから」
東宮は眩しそうにあたしを見つめ「楽しみにしておりますよ」と言って、立ち上がった。
お殿様と伊靖君とあたしが平伏する中「ではまた参りますね、ご機嫌よう、月子姫」と言って巻き上げた御簾をくぐって出て行く。
「ああ、雨が止んだな」
という声が外廊下から聴こえる。
「では、失礼いたします。
今日はありがとうございました」
権中納言様は丁寧にお辞儀して出て行こうとし、あたしの傍に戻ってきた。
「また、算学のお話をしましょう。
今日はまったく脱帽いたしました。
こんな女人は初めてだ。
月子姫からも、数学の問題などあれば、ぜひ解かせてください」
わあ出た、数学バカ。
良いとも、お相手仕りましょ。
っていうか、東宮と権中納言様、二人ともさらっと「月子姫」とか言って去って行ったけど!
元信様はあたしの両手を取り「必ず今夜中に戻ってきます、待っていてください」と耳元で囁いて部屋を出て行った。
うん、待ってるっ!
さっきの元信様の態度に不安だったあたしは、途端に気分が浮上していくのを感じた。
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