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第五章 四人きょうだい

12.庚申待・1

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 元信様は、伊靖君によると主上に加えて東宮からも意地悪されているそうで。
 
 義光から詳細を聞いて事情を知っている伊靖君は、水無月会の翌日あたしの部屋へ遊びに来て訳知り顔に言う。
 
 「姉上という変人が、とんでもなく地位の高いご兄弟から妙にモテるせいで、如月当初は貧乏くじを引いたはずの左近衛中将殿が、今や嫉妬の標的ですよ」

 「第一回幾望会の参加者が姉上の噂を吹聴して回って、評判がうなぎのぼりになってしまってます。
 私や左近衛中将殿にこっそり参加させてくれとおっしゃってくる御仁もいて。
 そんな権限はないと申し上げても聴いて下さらない」

 それは、別の意味で貧乏くじを引かされているのでは…
 元信様が、ドがつくM様で良かったわ。
 普通の殿方だったら嫌われちゃうよ、あたし。

 元信様は伊靖君の言う通りクソ忙しいらしく、訪れもなかった。
 庚申待もまた宮中で過ごすことになりそうです…という文が来て、あたしはガッカリしながらも、水無月会の話を書いた。

  庚申待の日。
 あたしは料理長に、今夜の夜食を作ってもらうよう頼んだ。

 玄米粉を使って、ビーフンにしてもらうことにした。
 出汁の利いたスープに入れて、炒め野菜を載せたらお腹にもたまりそうだし。

 東宮に会うために頑張って玄米食を続けている、二の姫がいじらしくて愛おしくてならない。
 東宮のバカ野郎に、少しでも二の姫の気持ちを知って欲しい。

 昼頃に、元信様から文とお菓子の差し入れが届いた。
 『今夜の水無月会のお供に、召し上がってください。
 姫の手作りのお菓子には敵いませんが…』

 とあたしの大好きな手蹟で書いてあった。
 あたしも従者ずさの行直さんを待たせて、急いで文をしたため、今日のおやつのかりんとうと餡入り蒸しパンを料理長に包んでもらった。

 『お菓子、ありがとうございました。
 皆で頂きます。
 少しですがかりんとうと蒸しパンを作りましたので召し上がってくださいね。
 またいらしてくださるのをお待ちしております』

 行直さんは、渡した絹の袋の匂いに気づいたらしく「良い香りでございますね、殿がお喜びになります」と精悍な顔に少し笑みを浮かべて、深くお辞儀をして帰っていった。

 その後、何故か権中納言様から文が来て、今日、伺っても良いですかと書いてあった。
 左近衛中将は宮中と東宮御所を飛び回っていて、捕まえられなくてまだ聞いていないんだけれども、と律義に書いてある。

 うーん。どうしよう。
 でも今日は、第二回幾望会の遊戯として考えている、簡単な四則演算のお試しをやろうと思ってるんだよね。
 手伝ってもらう名目で、来てもらってもいいか。

 あたしは、きょうだい会ですので姉と弟妹がおりますが、それでも宜しければお越しください、次回の幾望会のご相談もしたいのでと返信した。
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