三日夜の餅はハイティーと共に

Dry_Socket

文字の大きさ
170 / 307
第七章 宮中

6.主上と更衣様の容態

しおりを挟む
 「伊都子姫…久しぶりだ。
 弥生に、お命が危うかった時には本当に心配しましたよ。
 今は息災ですか」
 主上は深いバリトンで優しく声をかけてくれる。

 「ありがとうございます。
 お陰様で、毎日、元気に慌ただしく過ごしております。
 主上におかれましても、ご機嫌麗しく遊ばして恐悦に存じ奉ります」
 あたしは舌を噛みそうになりながら、また頭を下げる。

 東宮が横でニヤニヤしてるのが、なんか腹立つ。
 元信様は反対に、すごく心配そうな表情。
 
 扇の骨の透かし部分からそっと主上と更衣様を覗き見る。
 
 主上は黄櫨染の袍をゆったりと着こなし、御帳台に座っている。
 優雅な貫禄があるというか…気品があるなあ…

 あれ、更衣様、お顔の色が…?
 さっきより白い気がする。
 元信様の視線も、更衣様にそそがれている気がする。

 「ああ、草紙は中宮にお借りして読みましたよ。
 筆力の高い、良い女房をお持ちですね。
 姫の日常が彩り豊かに、賑やかに楽しく描いてあって。
 読んでいてこちらも思わず笑みがこぼれる」

 「あの物語は、ほぼ現実の逸話だそうでございますわ。
 伊都子姫の日常がそのまま真実、草紙になっているそうでございます」
 楓間の更衣様が言い添える。

 主上は驚いたように「なんと…」と言って蝙蝠かわほりを口許に当てた。
 「では、東宮は、本当にあんなに頻繁に右大臣家を訪れておるのか」
 「はい」なぜか東宮はドヤ顔。

 「今日は、伊都子姫様が…
 さまざまな珍しいお土産をお持ちくださいましたのよ」
 少し苦しそうに、更衣様が言う。

 「ほう…どのようなものか、楽しみであるな。
 伊都子姫、こちらへいらして、ご説明をお願いしますよ」

 あたしは楓間の更衣様の様子が心配で、即座に頷いて膝行しっこうして御帳台に行く。
 元信様に「更衣様の様子見てきます」と小声で言うと、「頼みます」と元信様も小さな声で答えた。

御帳台に入り、申し訳ないけど主上は無視して「更衣様、大丈夫でいらっしゃいますか」と声をかける。

 「お腹が…」
 と呻いて、更衣様は伏してしまう。

 わ、顔色真っ青。
 あたしは女房さん達に「ご不浄へ!」と指示して、更衣様の腕をあたしの肩に回して持ち上げようとした。
 
 うーむ。
 自分の単衣重ひとえがさねも重いのに、女性とはいえ、大人を持ち上げるのは無理か。

 そこへ「失礼いたします!姉上!」と言いながら元信様が御帳台に入ってきて、更衣様を抱き上げ、厠の方へ行く。
 あたしも二人について、御帳台を出た。

 厠に着くや否や、更衣様は戻してしまった。
 お腹も下してるみたい。
 女房さん達が大慌てで元信様の束帯を拭こうとする。

 あたしは鋭く制した。
 「ちょっと待って!
 更衣様は昨夜と今朝、何を召し上がられた?」
 
 「今朝は、あまり食欲がないと仰せで…白湯のみでございました。
 昨夜は、固粥・干し鮑・海藻・大根の羹と唐菓子…」
 一人の女房さんが思い出すように言う。

 全部、火が通ってるか。
 何だろう、食中毒っぽいんだよね。

 「あ、あと珍味と申しまして、生牡蠣が…」
 「それだわ!」
 あたしは大声で言った。

 真牡蠣はシーズンじゃないから…岩牡蠣か!
 だとしたらノロウィルスかな。
 貝毒じゃないといいけど。

 あたしは唇を噛んだ。



しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない

二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。 ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。 当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。 だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。 ――君の××××、触らせてもらえないだろうか?

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

処理中です...