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第七章 宮中
16.宮中大捜査
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その日は、あたしは御帳台から出なかった。
出られなかった。
あたしの顔、どうなってる?
なんて冗談にでも訊くのが怖い。
あたしの、本当の顔だったら?
起きた時の女房さん達の反応からして、そんなことはないと解っていても、恐ろしかった。
鏡を見るのも怖くて化粧もせず、大殿油ををギリギリまで光度を落としてじっと座っていた。
涙がずっと頬を伝う。
「姫様…あの、主上・東宮様・左近衛中将様、その他殿方から、矢継ぎ早にお文が参っております。
ものすごい量なのですが…いかが致しましょう?」
御帳台の外から、困り果てたように内侍さんが言う。
あたしは涙の合間に、答えようとするんだけど、声にならない。
内侍さんは「わたくしが代読いたしましょうか。姫様にお聞かせ申し上げますわ」と言ってくれた。
ガサガサと紙を広げる音がし「まず主上からでございます」と言う。
あたしは咄嗟に「あ、主上は…後で自分で読むわ」と制した。
昨日の、あたしの正体についてだったら、と思ったから。
「承知いたしました。では、東宮様より」
内侍さんは、届いた時系列で手紙を次々に読んでいった。
『時系列』と書いたように、主上・東宮・元信様・右近衛大将様・権中納言様、義光と伊靖君に至るまで、時間を追って、一人が何通も手紙を寄越していた。
主上の手紙も、最初のだけは御帳台の中に入れてもらって、後のは内侍さんに読んでもらった。
あたしへの愛の言葉や美辞麗句を省いて、要点だけをまとめると。
・今朝から、昨日の毒殺事件、厨司長の自殺事件の捜査が、宮中を上げて始まった。
・関白や太政大臣が捜査などやらなくて良い、伊都子姫の醜い嫉妬だと言ったが、主上と東宮が頑として撥ね退けて、捜査を押し進めている。
・昨日の、姫の行動をすべて時系列で書き出し、毒を入れに厨房へなど行けなかったことを証明する。
・中宮や女御、それぞれの女房のところ、それから厨のスタッフに若公達が手分けして聞き込みに行っている。
・兵部卿様・左衛門督様・蔵人の頭様・参議様といった、幾望会の参加者の方々も申し出てくれて、一緒に捜査に加わっている。
(驚いたことに、元信様のお兄様も)
・事情を知った、中宮や女御・更衣達から「伊都子姫が毒を盛ったりするはずがない!」と抗議の声、さまざまな証言の声が上がっている。
・関白も太政大臣も、自分の娘の中宮や女御から「伊都子姫の仕業ではない!」と責め立てられ、だんだん旗色が悪くなってきている。
・厨のスタッフは、昨日は牡蠣中毒(というかノロウィルス罹患)で休んでいる者も多かったらしい。
休んだスタッフにもひとりひとり丁寧に話を聞いたところ遂に「厨司長が何かを、中宮の料理に入れていた」という証言を得た。
・昨日の塵などは検非違使の命でそのまま取ってあったので、調べたところ薬包紙が見つかり、蛇毒を粉末にしたものの残りが見つかった。
そして、その日の夜遅く。
慌ただしく検非違使庁の役人が右大臣家にやってきた。
あたしは御帳台の中、お殿様があたしの部屋の床に平伏する中、役人は畏まって、持ってきた書状の文言を読み上げた。
「昨日の中宮毒殺未遂事件において、右大臣御娘・蒲原伊都子姫は無関係であったことを、主上・関白殿より証明された。
検非違使庁もこの判断を支持し、無実を保証するものとする。」
出られなかった。
あたしの顔、どうなってる?
なんて冗談にでも訊くのが怖い。
あたしの、本当の顔だったら?
起きた時の女房さん達の反応からして、そんなことはないと解っていても、恐ろしかった。
鏡を見るのも怖くて化粧もせず、大殿油ををギリギリまで光度を落としてじっと座っていた。
涙がずっと頬を伝う。
「姫様…あの、主上・東宮様・左近衛中将様、その他殿方から、矢継ぎ早にお文が参っております。
ものすごい量なのですが…いかが致しましょう?」
御帳台の外から、困り果てたように内侍さんが言う。
あたしは涙の合間に、答えようとするんだけど、声にならない。
内侍さんは「わたくしが代読いたしましょうか。姫様にお聞かせ申し上げますわ」と言ってくれた。
ガサガサと紙を広げる音がし「まず主上からでございます」と言う。
あたしは咄嗟に「あ、主上は…後で自分で読むわ」と制した。
昨日の、あたしの正体についてだったら、と思ったから。
「承知いたしました。では、東宮様より」
内侍さんは、届いた時系列で手紙を次々に読んでいった。
『時系列』と書いたように、主上・東宮・元信様・右近衛大将様・権中納言様、義光と伊靖君に至るまで、時間を追って、一人が何通も手紙を寄越していた。
主上の手紙も、最初のだけは御帳台の中に入れてもらって、後のは内侍さんに読んでもらった。
あたしへの愛の言葉や美辞麗句を省いて、要点だけをまとめると。
・今朝から、昨日の毒殺事件、厨司長の自殺事件の捜査が、宮中を上げて始まった。
・関白や太政大臣が捜査などやらなくて良い、伊都子姫の醜い嫉妬だと言ったが、主上と東宮が頑として撥ね退けて、捜査を押し進めている。
・昨日の、姫の行動をすべて時系列で書き出し、毒を入れに厨房へなど行けなかったことを証明する。
・中宮や女御、それぞれの女房のところ、それから厨のスタッフに若公達が手分けして聞き込みに行っている。
・兵部卿様・左衛門督様・蔵人の頭様・参議様といった、幾望会の参加者の方々も申し出てくれて、一緒に捜査に加わっている。
(驚いたことに、元信様のお兄様も)
・事情を知った、中宮や女御・更衣達から「伊都子姫が毒を盛ったりするはずがない!」と抗議の声、さまざまな証言の声が上がっている。
・関白も太政大臣も、自分の娘の中宮や女御から「伊都子姫の仕業ではない!」と責め立てられ、だんだん旗色が悪くなってきている。
・厨のスタッフは、昨日は牡蠣中毒(というかノロウィルス罹患)で休んでいる者も多かったらしい。
休んだスタッフにもひとりひとり丁寧に話を聞いたところ遂に「厨司長が何かを、中宮の料理に入れていた」という証言を得た。
・昨日の塵などは検非違使の命でそのまま取ってあったので、調べたところ薬包紙が見つかり、蛇毒を粉末にしたものの残りが見つかった。
そして、その日の夜遅く。
慌ただしく検非違使庁の役人が右大臣家にやってきた。
あたしは御帳台の中、お殿様があたしの部屋の床に平伏する中、役人は畏まって、持ってきた書状の文言を読み上げた。
「昨日の中宮毒殺未遂事件において、右大臣御娘・蒲原伊都子姫は無関係であったことを、主上・関白殿より証明された。
検非違使庁もこの判断を支持し、無実を保証するものとする。」
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