三日夜の餅はハイティーと共に

Dry_Socket

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第七章 宮中

30.手紙と星空

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 「実はですね」
 と元信様はあたしを見る。
 
 なに、まだ何かあるの?
 お腹いっぱいだよもう。
 
 「右大臣殿に今日、さきの太政大臣殿からお呼び出しがかかって居られるそうです。
 恐らく、ご子息であられる権中納言殿が、姫に、有体に言えば惚れて居られるので、してくれないかという打診であろうと」

 う、げーっ!
 父親まで出てくるの?!
 あたしはのけぞった。

 「前の太政大臣殿と右大臣殿は、政治の世界でも私生活でも言わば戦友であり同志である。
 なかなか断りにくいなあ…と弱って居られました」
 
 いやいやいや、断ってよちゃんと!
 頼むよ、お殿様!

 「姫を取り巻く現実は、もう私たちの手の届く範囲から逸脱して、宮中の大人たちの手に渡ってしまいました。
 私たち若者は、大人にできるだけ抗って抗って、自分たちの手で勝ち取っていかなくてはね…」
 
 元信様は、頬を寄せて
 「愛しています。ふたりで必ず幸せになりましょう」
 と囁いた。

 あたしは何度も頷く。
 うん。幸せになりたい。
 あなたと、ふたりで。

 これ以上ここにいると本当に我慢できなくなりそうだから、と言って、帰ってしまった元信様を見送って、あたしは手燭を日が暮れて真っ暗な外廊下の端近に置いた。

 御帳台から、東宮の手紙と昨日読めなかった主上の一通目の手紙をより分けて抱え、また廊下に戻る。

 手燭の淡い光にかざして、手紙を読んでいく。
 東宮の手紙は、いつものようにふざけているのか真面目なのか、からかうような言葉と真剣な愛の言葉を綺麗にちりばめつつ、文章としてはとても美しくまとめてあって、さすがの腕前と言わざるを得ない。

 こんなお文を一日に何度も、しかも東宮という立場の人からもらえるなんて、あたしは度が過ぎた幸せを享受しているのだと思う。
 東宮に嫁して居られる元信様の妹君や、許嫁の二の姫だってこんな手紙はもらっていないだろう。

 東宮の手紙に、特に不審な点はなかった。と思う。
 うーん、でも、何となく元気がないと言えば、ない。
 ただそれが、出家に繋がるかと問われれば、疑問だなあ…

 昨日の主上の、一通目の手紙には愛しい月子姫、と書いてあるだけで、他には特筆すべきことはなかった。
 ああ、良かった…
 そうだよね、女房さん達も読むかもしれないのに、あたしの正体なんて書かないよね。

 こういう手紙、あたしだけが読むなんて勿体ないな。
 よし、内侍さんに「月子姫物語」での公開の許可を出そう。

 その時、風が吹いて、手燭の火が消えた。
 あたしは手紙が散らばらないように手で押さえ、空を見上げた。

 わぁ…!
 星!星!星!

 満天の星空!!

 凄い!
 何で今まで見上げなかったんだろう。

 平成日本より断然空気が綺麗だし、光害もないから…
 降るような星空。

 天の川がくっきりと見える。
 銀河の端っこ。
 知識として知っていても、肉眼で見るのは初めてだった。

 そうか、今日は新月なんだ。
 だから、星しかないからこんなにも美しい星空が見える。

 あたしは、月なのかな。

 あたしがいないほうが、他の星たちは綺麗に見えるのだろうか。
 主上のお后様たち、東宮のお后様たち…
 二の姫や縫姫、内大臣の姫君も…

 知らぬ間に涙が頬を伝う。
 あたしはひとり、星空を見上げながら静かに泣いていた。
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