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第十章 裁きと除目と薫物合わせ

8.東宮のプロポーズ

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 お膳を片付けてもらって牛乳プリンを運んでもらっている間に、東宮は扇子をパチンと鳴らして閉じ目を伏せた。
 
 「月子姫、ありがとう。
 いつも私のワガママを聞いてくれて…」

 何?どうしたの?
 東宮がそんなことを言うなんて…
 槍でも降るんじゃないの??

 あたしの表情を見た東宮は笑いだす。
 「世にも奇妙なことを言いだすと、恐れていらっしゃるのかな?
 くるくると変わる貴女の表情は、見ていて本当に飽きないな。
 お可愛らしいですよ、いつも」

 そう言って顔を近づけ、素早く唇にキスする。

 「さて、二の姫もお呼びして、一緒に牛乳プリンを頂きましょうか。
 誰か、二の姫をお呼びして参れ」

 程なくして式部さんと共に、二の姫が嬉しそうにやってくる。
 東宮は自分の隣に招き寄せて座らせる。
 二の姫は頬を赤らめて、言われるがままに座った。

 「路頭の儀の後にお会いしたときは、お身体が辛そうで、お歩きになるのもままならなかったのに、ずいぶんお元気になられましたね」
 東宮は優しく語りかける。

 二の姫はこくんと頷いて「はい。あの時、お姉様がわたくしの病の原因を見抜いて、治療法を教えてくださったお陰で、今は以前には考えられないほど身体がラクになりました」と小さな声で言った。

 「それは良かった。
 その後さまざまな催しでお会いするたびにお綺麗になられるのを、私も嬉しく拝見しておりましたよ」
 東宮はにこやかにさらりと言って、二の姫は更に赤くなる。

 「御鷹狩のとき、私が怪我を負ってここへ運び込まれた夜に、二の姫も私の傍についていてくださったとか。
 あの時は、私は熱に浮かされていて、貴女に大変失礼なことを口走ってしまった。
 申し訳なかったと思っています」

 そうだよ、あたしと二の姫を間違えてとんでもないことを言ったんだよ!
 二の姫に謝る機会がなくて、あたしもそのままにしてたんだった。
 
 東宮は二の姫の髪を撫でて手を握る。
 「それだけお元気になられれば、右大臣もそろそろ許してくれるだろう。
 東宮御所へ来て、私の后になりませんか」

 え…
 
 あたしも二の姫も、驚いて東宮の顔を見る。
 東宮は二の姫の顔を覗き込むようにして「私の后になってください」と微笑んだ。

 二の姫は泣き出してしまった。
 うれし泣き、だよね。

 東宮は二の姫の肩を抱いてゆっくり撫でる。

 あたしは急な展開に驚いてしばらく何も言えずにいたけど、はっと気づいて「お、めでとうございます」と手をついて頭を下げた。

 心臓がバクバクして、胸が苦しい。
 肺炎がまだ、治りきってないからだ、そうだ絶対。
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