259 / 307
第十章 裁きと除目と薫物合わせ
13.衛門さんの退職
しおりを挟む
今日のうちに夫婦になっちゃえば?とあたしは思ったのだけど。
「すみません…これだけ酔っぱらってると、ちょっと…私の方が無理かと…」
と断られてしまった。
ったくもう。
飲みすぎなんだよ、プンプン。
それからまた寝てしまい、明け方に元信様は帰っていった。
「私は諦めませんから…
姫のお気持ちにすがるような感じが情けないのですが」
あたしの手にキスして、幾分元気になったようだった。
御帳台の中は酒臭い空気になってしまって、朝から大掃除になってしまった。
あたしはぽつんと部屋の隅に追いやられ、薫物の調合に没頭していた。
昨夜の元信様の言葉がヒントになると思った。
「姫…いつもと違う薫りがしますね…これは何ですか?
とても爽やかな…左近衛中将(義光)と夏に作って居られた?」
昨夜もあたしは薫物の材料の箱を開けていて、いろいろと試していたのだった。
この素材は、たまたま試しに単独で薫らせてみた。
これはイレギュラーすぎるので材料には加えていなかったのだけど。
やり方によっては使えるかも。
昼前に、壺装束に着替えた衛門さんが挨拶に来た。
「姫様…お元気で…」
後は言葉にならず、あたしたちは手を取り合って泣いた。
ここの世界にあたしが早々に馴染めたのは、式部さんや内侍さんも勿論だけど、衛門さんの溌溂とした明るい元気さに助けられたからだよ…
急に東宮が来たりしても、割と動じずに状況を楽しむような性格が、とても有り難かった。
「姫様も、治部卿様とお幸せになられてくださいね。
わたくしは、月子姫様のお側に居られて、幸せでございましたわ」
最後にそう言って、迎えに来た彼氏に連れられて右大臣家(じゃないか、太政大臣家か)を出て行った。
ばいばい、元気でね。
この時代、女性は特に家庭に入ってしまうと、ほぼ外には出ないらしい。
たまに、本当にたまにお寺に行くくらいで…
もう会うこともないんだろうな。
寂しいな…
その日もずっと一日中、お殿様と伊靖君、元信様の昇進を祝う使者や贈り物がひっきりなしに訪れ、お殿様はどこで何をしているのか帰ってこなかった。
あたしはお殿様と早く話がしたいとじりじりして待っていたのだけど、一向に帰ってこないので、苛々して家令に八つ当たりしていた。
そうしたら北の方様に呼び出され
「殿方は大事なお仕事があって帰ってこられないのですよ。
まあ、他の女人のところへお出ましのこともあるでしょうけど…
貴女ももうすぐご結婚されるのですから、そこのところはきちんと理解しておかないと」
と『新妻の心得』的なものを説教されてしまった。
結婚…できるのかどうなのか!
まあ、誰かしらとは結婚させられちゃうんでしょうけど、そうじゃなくて!
元信様と一緒になれるのか!
それを聞きたいんだよ!
結局、それから2日後くらいにやっと帰ってきたけれど、あたしと話をする暇なんかはないそうで(失礼な!)、いろいろ人と会ったり家令と長々と話し込んでいたりでまったく捕まらなかった。
そうこうするうちに、薫物合わせの日が、来てしまった。
「すみません…これだけ酔っぱらってると、ちょっと…私の方が無理かと…」
と断られてしまった。
ったくもう。
飲みすぎなんだよ、プンプン。
それからまた寝てしまい、明け方に元信様は帰っていった。
「私は諦めませんから…
姫のお気持ちにすがるような感じが情けないのですが」
あたしの手にキスして、幾分元気になったようだった。
御帳台の中は酒臭い空気になってしまって、朝から大掃除になってしまった。
あたしはぽつんと部屋の隅に追いやられ、薫物の調合に没頭していた。
昨夜の元信様の言葉がヒントになると思った。
「姫…いつもと違う薫りがしますね…これは何ですか?
とても爽やかな…左近衛中将(義光)と夏に作って居られた?」
昨夜もあたしは薫物の材料の箱を開けていて、いろいろと試していたのだった。
この素材は、たまたま試しに単独で薫らせてみた。
これはイレギュラーすぎるので材料には加えていなかったのだけど。
やり方によっては使えるかも。
昼前に、壺装束に着替えた衛門さんが挨拶に来た。
「姫様…お元気で…」
後は言葉にならず、あたしたちは手を取り合って泣いた。
ここの世界にあたしが早々に馴染めたのは、式部さんや内侍さんも勿論だけど、衛門さんの溌溂とした明るい元気さに助けられたからだよ…
急に東宮が来たりしても、割と動じずに状況を楽しむような性格が、とても有り難かった。
「姫様も、治部卿様とお幸せになられてくださいね。
わたくしは、月子姫様のお側に居られて、幸せでございましたわ」
最後にそう言って、迎えに来た彼氏に連れられて右大臣家(じゃないか、太政大臣家か)を出て行った。
ばいばい、元気でね。
この時代、女性は特に家庭に入ってしまうと、ほぼ外には出ないらしい。
たまに、本当にたまにお寺に行くくらいで…
もう会うこともないんだろうな。
寂しいな…
その日もずっと一日中、お殿様と伊靖君、元信様の昇進を祝う使者や贈り物がひっきりなしに訪れ、お殿様はどこで何をしているのか帰ってこなかった。
あたしはお殿様と早く話がしたいとじりじりして待っていたのだけど、一向に帰ってこないので、苛々して家令に八つ当たりしていた。
そうしたら北の方様に呼び出され
「殿方は大事なお仕事があって帰ってこられないのですよ。
まあ、他の女人のところへお出ましのこともあるでしょうけど…
貴女ももうすぐご結婚されるのですから、そこのところはきちんと理解しておかないと」
と『新妻の心得』的なものを説教されてしまった。
結婚…できるのかどうなのか!
まあ、誰かしらとは結婚させられちゃうんでしょうけど、そうじゃなくて!
元信様と一緒になれるのか!
それを聞きたいんだよ!
結局、それから2日後くらいにやっと帰ってきたけれど、あたしと話をする暇なんかはないそうで(失礼な!)、いろいろ人と会ったり家令と長々と話し込んでいたりでまったく捕まらなかった。
そうこうするうちに、薫物合わせの日が、来てしまった。
1
あなたにおすすめの小説
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
お隣さんはヤのつくご職業
古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。
残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。
元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。
……え、ちゃんとしたもん食え?
ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!!
ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ
建築基準法と物理法則なんて知りません
登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。
2020/5/26 完結
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる