三日夜の餅はハイティーと共に

Dry_Socket

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第十章 裁きと除目と薫物合わせ

13.衛門さんの退職

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 今日のうちに夫婦になっちゃえば?とあたしは思ったのだけど。
 「すみません…これだけ酔っぱらってると、ちょっと…私の方が無理かと…」
 と断られてしまった。

 ったくもう。
 飲みすぎなんだよ、プンプン。

 それからまた寝てしまい、明け方に元信様は帰っていった。

 「私は諦めませんから…
 姫のお気持ちにすがるような感じが情けないのですが」
 あたしの手にキスして、幾分元気になったようだった。

 御帳台の中は酒臭い空気になってしまって、朝から大掃除になってしまった。
 あたしはぽつんと部屋の隅に追いやられ、薫物の調合に没頭していた。

 昨夜の元信様の言葉がヒントになると思った。
 「姫…いつもと違う薫りがしますね…これは何ですか?
 とても爽やかな…左近衛中将(義光)と夏に作って居られた?」

 昨夜もあたしは薫物の材料の箱を開けていて、いろいろと試していたのだった。
 この素材は、たまたま試しに単独でくゆらせてみた。

 これはイレギュラーすぎるので材料には加えていなかったのだけど。
 やり方によっては使えるかも。

 昼前に、壺装束に着替えた衛門さんが挨拶に来た。
 「姫様…お元気で…」
 後は言葉にならず、あたしたちは手を取り合って泣いた。

 ここの世界にあたしが早々に馴染めたのは、式部さんや内侍さんも勿論だけど、衛門さんの溌溂とした明るい元気さに助けられたからだよ…
 急に東宮が来たりしても、割と動じずに状況を楽しむような性格が、とても有り難かった。

 「姫様も、治部卿様とお幸せになられてくださいね。
 わたくしは、月子姫様のお側に居られて、幸せでございましたわ」

 最後にそう言って、迎えに来た彼氏に連れられて右大臣家(じゃないか、太政大臣家か)を出て行った。
 ばいばい、元気でね。

 この時代、女性は特に家庭に入ってしまうと、ほぼ外には出ないらしい。
 たまに、本当にたまにお寺に行くくらいで…

 もう会うこともないんだろうな。
 寂しいな…

 その日もずっと一日中、お殿様と伊靖君、元信様の昇進を祝う使者や贈り物がひっきりなしに訪れ、お殿様はどこで何をしているのか帰ってこなかった。

 あたしはお殿様と早く話がしたいとじりじりして待っていたのだけど、一向に帰ってこないので、苛々して家令に八つ当たりしていた。

 そうしたら北の方様に呼び出され
 「殿方は大事なお仕事があって帰ってこられないのですよ。
 まあ、他の女人のところへお出ましのこともあるでしょうけど…
 貴女ももうすぐご結婚されるのですから、そこのところはきちんと理解しておかないと」
 と『新妻の心得』的なものを説教されてしまった。

 結婚…できるのかどうなのか!
 まあ、誰かしらとは結婚させられちゃうんでしょうけど、そうじゃなくて!

 元信様と一緒になれるのか!
 それを聞きたいんだよ!


 結局、それから2日後くらいにやっと帰ってきたけれど、あたしと話をする暇なんかはないそうで(失礼な!)、いろいろ人と会ったり家令と長々と話し込んでいたりでまったく捕まらなかった。

 
 そうこうするうちに、薫物合わせの日が、来てしまった。
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