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悪役令嬢エヴァンジェリンの災難②
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映像は続く――。
子猫用の柔らかな御飯を手に乗せ、優しい笑顔で食べさせるエヴァンジェリン。その姿は幼子を労わる慈母のよう……誰もがその姿に見惚れていた。
そもそも、エヴァンジェリンは目つきがキツイ事を除けば、十分美しい少女だった。噂の所為で、偏見の目で見られた結果が更なる悪評に繋がり、エヴァンジェリンの清らかさのある美しさに学園の者達が気が付かなかったに過ぎない。
誰もが見惚れている中、面白く無さそうに爪を噛んでいたのはマリ―ロッテだ。彼女は、明かされたエヴァンジェリンの真実の姿に焦躁を募らせていた。
上手い事エヴァンジェリンから略奪しようとしていたセドリックが、呆けた顔で映像を見ている事に気が付いたからである。おかげで先程の追及が忘れられたようなのは有難かったが、マリ―ロッテにとって良く無い状況には変わりない。
マリ―ロッテは、もう少しでセドリックの心を手に入れられると確信していたのだ――まぁ、まったくの勘違いなのだが……。
セドリックは、政略結婚の意味が分からない程馬鹿じゃ無かった。エヴァンジェリンとの結婚に意味はあっても、マリ―ロッテとの結婚には意味が無い事を知っている。
彼が婚約破棄を突き付けたのは、マリ―ロッテへの恋心では無く――非道な事をするような人間を王家の縁者に出来ないという正義感からであった。
この婚約は、王太子がもう一つの公爵家から王子妃を迎えた事で、パワーバランスを偏らせない為に第2王子であるセドリックがエヴァンジェリンの実家ゲッテンシュミット公爵家に婿入りするものだ。
マリ―ロッテはゲッテンシュミット公爵家の縁戚ではあるものの、嫁いだ公爵の妹が産んだ娘――伯爵家の令嬢である……。
公爵がマリ―ロッテを養子にでもすれば話はかわるかもしれないけれど、愛娘を悪役令嬢だと言いふらす妹の事を公爵は嫌っていたので、その娘である彼女が養子に入るような事は天地が引っくり返ってもあり得ないだろう。
公爵家に婿入りする予定のセドリック――
彼の夢は、王太子である兄を支えて行きたいと言うものだ。
その妻が非道な人間であれば、支えるどころか兄の足を引っ張りかねないとセドリックは危惧していた。――とは言え、顔を合わせた時のエヴァンジェリンが普通だったので、噂と実際は違うものだな――と考えていたのだ。
だが、今回――彼女の身近な従妹であるところのマリ―ロッテが申し訳無さそうに被害を訴え、学園に蔓延している噂と相まって、セドリックに行動を起させてしまったのだった。
今回の件が無ければ、セドリックは普通にエヴァンジェリンと結婚していただろう。それが、政略結婚なのだから。まぁ、そもそもの根本――エヴァンジェリンが非道な人間である――と言う所が間違いなのだが……。
「美しい――……」
ポツリと呟かれたセドリックの言葉に、マリ―ロッテは眦を釣り上げてエヴァンジェリンを見た。
殺気の籠った視線にエヴァンジェリンは一切気が付かない。何故なら立ったまま気絶するという器用な状態に陥っていたからである……。
エヴァンジェリンにとってこの状況は所謂、公開処刑に等しかった。子猫にしか本音を話せない残念な令嬢――。友達も一人もいないそんな寂しく人に隠していた部分を、公衆の面前で明らかにされたのだ。そりゃあ気絶したくもなるだろう……。
エヴァンジェリンの後ろに立つ侍女は、密かにガッツポーズを作っていた。その心の内は、エライ大騒ぎになっていたが、今は割愛したいと思う。
ただ、小さく侍女が呟いた「よっしゃ!」の声でエヴァンジェリンは初めて我に返った。そして、周囲の自分を見る戸惑った目線に怯えしゃがみこむ。
「何ですの?これ、どんな状況――」
恥ずかしさに苛まれながら半泣きで身悶えするエヴァンジェリンに、セドリックが駆け寄った。
「エヴァンジェリン――済まない――私は君を誤解していたようだ……」
恥ずかしがり、不安そうに涙を浮かべるエヴァンジェリンに自分の上着をかけて隠す様にしてから、セドリックはそう囁くようにエヴァンジェリンに話した。
「許して、貰えないだろうか――愛しい人」
エヴァンジェリンは、セドリックの行動に酷く感謝したけれど、唐突な告白には戸惑った。
それはそうだろう。
今まで、嫌われているだろうと思っていた相手だ。ましてや、この映像が原因で一目ぼれされている事をエヴァンジェリンは知らないのだから……。
困惑して戸惑うエヴァンジェリンを見ながら、セドリックはこれもまた可愛い――とボケた事を考えていた。
そんなセドリックを睨んでいる侍女にはまったく気が付いていない。
侍女からしてみれば、敬愛するお嬢様に酷い事をした相手と言う認識で、いっそ「殺りますか?お嬢様――」って気持しか無かった。
ただ、王子がエヴァンジェリンに恋したっぽいので「ざまぁみろ。お嬢様の可愛さを思い知ったか!」という気持ちもあってとても複雑だった。
更に複雑だったのは、エヴァンジェリン本人は気が付いてすらいなかったけれど、彼女の初恋はこのセドリックであった事だ。
何故なら、セドリックだけは内心はどうだか知らないが、エヴァンジェリンを婚約者として丁重に扱ってくれたのだから――悪役令嬢として扱わなかったセドリックにエヴァンジェリンが恋をしてもおかしくは無いだろう。
ただ、エヴァンジェリンはその気持ちに気が付く前に蓋をした。いずれされる婚約破棄を思って、その感情に気が付かない振りをしたのだ。それを侍女は知っていたのである。
エヴァンジェリンを労わるセドリックの姿に、マリ―ロッテを守るように立っていた令息達が戸惑ったように顔を見合わせていた。何が真実か分からなくなっていたのだ。
他の生徒達も、座りこむエヴァンジェリンとその彼女に寄り添うセドリックを見ていた。
「え?――あの――」
エヴァンジェリンがそう声を上げた時だった――。
『よっし!これでいいんじゃないかしら??』
嬉しそうな声が聞こえて、皆が映像を振り返った。
そこに映っていたのはマリ―ロッテだ。誰もいない教室で、自分で教科書をビリビリに破いている。その姿に、皆が一瞬固まった。
何が起こっているのか分からない……そんな空気が充満する。
映像の中では、マリ―ロッテがハラハラと涙を零し始める――そして、教室に戻って来た者達が、彼女を慰め始めた――。場面が変わる。
今度は、何処かの廊下だ――キョロキョロとしたマリ―ロッテが、セドリック達が曲がり角の先にいる事に気が付くと、さも誰かに押された様に転がり出た。
『きゃっ!』
『どうした?大丈夫かい??』
驚きながら、駆け寄るセドリックに『え、えぇ……』とマリ―ロッテは気弱な感じで応た。
それから、怯えるように自分の後ろを見る――そこにはだれもいなかったけれど『エヴァ……いいえ、何でもありませんわ!』とそう言ってマリ―ロッテは立ちあがり、気丈そうにみえる笑顔を浮かべて立ち去った。
また、場面が変わる。
画びょうを自分の靴に入れるマリ―ロッテ。自ら噴水に飛びこむマリ―ロッテ。上手い具合に被害者を装うその映像は、マリ―ロッテの本性を明らかにするのには十分であった。
そして最後が、階段の中ほどから『自分で』転がり落ちるマリ―ロッテ。もはや、誰もがマリ―ロッテの自作自演だったのだと理解していた。
マリ―ロッテは青褪めた顔をしながら呆然と突っ立っていた。最初に出た映像がエヴァンジェリンだった所為で油断していたのだ。
自分の自作自演が明かされるような事態になって混乱していたマリ―ロッテは、周囲の視線の変化に気が付くのが遅れた。それはマリ―ロッテを蔑む視線――。
いまや、純真無垢なエヴァンジェリンを陥れた悪女としてマリ―ロッテは認識されつつあった。
マリ―ロッテは、セドリックに助けを求めて目を合わせたが、批判と怒りの籠った目で見返され震えて目を逸らせた――。慌てて、守ってくれていた令息達を見れば、距離を開け――責めるような視線を返される。
事、ここに至ってはどんな言い逃れも通用しないと理解して、泣きながら慌てて逃げ去る事しか出来なかった。
「エヴァンジェリン――私の言葉は君には信じられないものだろう――けれど、この映像を見て――本当の君を知って私の妻になる人は君以外にいないと確信した――。エヴァンジェリン、君以外嫌なんだ――どうか、学園を卒業したらすぐ私と結婚して欲しい――」
真っ赤になって混乱中のエヴァンジェリン。彼女はどうしたら良いかまったくわからない状況だった。
ただでさえ、いっぱいいっぱいなのに更なる公開プロポーズである。
更に言えば、二人の婚姻は5年後の予定であったので、学園を卒業してすぐだと計算が合わない。ちゃっかり結婚式の予定を早めたセドリックであった。
この件も含めて、父である国王陛下に知られたら暫く謹慎だろうなぁ――とセドリックは思ったけれど、エヴァンジェリンの魅力が広く知られてしまった以上、結婚を早める事だけは絶対に譲る気は無かった。
「ずりぃ……」
ポショリと聞こえた声は、エヴァンジェリンの可愛らしさに気が付いた婚約者のいない幾人かの本音を表すものだった。
セドリックはこれでも周りを把握していた。特に何人かの男がエヴァンジェリンに焦がれる視線を送っていた事もだ。なので、セドリックは先手を打った訳である。婚約破棄の破棄――。
それをエヴァンジェリンが了承すれば、世は並べて事もなし――余程の事が無い限り、二人が結婚する未来は変えようも無い。
エヴァンジェリンが混乱している今がチャンスとばかりにセドリックは畳みかけた。
「愛してる、エヴァンジェリン――どうか、私を捨てないで欲しい」
返答を促されるように懇願されて、エヴァンジェリンの混乱は加速した。返答を保留にすれば良いだけなのだが、ガッシリと肩を掴まれ、熱のこもった視線で……掠れた声で告げるセドリックの言葉には真実味が溢れていた。
視線を絡め取られて外す事が出来ず、まるでエヴァンジェリンとセドリックしかこの場にいないかのような空気感……。ついにエヴァンジェリンはセドリックの気迫に負けてコクリと頷いた。
崩れ落ちる幾人かの男達――。
そして、逆転劇に歓声を上げる生徒達が祝福の言葉を叫んだ。
セドリックは、感無量の想いを噛みしめた後、踊るように浮き立つ心のままにエヴァンジェリンの頬にキスすると、彼女を抱き上げてクルクルとその場を回った。
混乱して驚いた顔をしていたエヴァンジェリンだったけれど、セドリックの堪え切れない心からの笑顔に嬉しくなって、クスクスと笑い始めた――。
____________________________________________________
次はアッサリ目の結末の後――侍女の話になりますm(_ _)m
別の話ですが『乙女ゲームの悪役令嬢に転生しましたが、トラウマ級の幼馴染を撃退したい。』の次に投稿予定の話を上書きミスで消しました……(泣)――只今書きなおし中です。
今日中には投稿できると思いますm(_ _)m
興味を持って頂けたらそちらも宜しくお願い致します……。
子猫用の柔らかな御飯を手に乗せ、優しい笑顔で食べさせるエヴァンジェリン。その姿は幼子を労わる慈母のよう……誰もがその姿に見惚れていた。
そもそも、エヴァンジェリンは目つきがキツイ事を除けば、十分美しい少女だった。噂の所為で、偏見の目で見られた結果が更なる悪評に繋がり、エヴァンジェリンの清らかさのある美しさに学園の者達が気が付かなかったに過ぎない。
誰もが見惚れている中、面白く無さそうに爪を噛んでいたのはマリ―ロッテだ。彼女は、明かされたエヴァンジェリンの真実の姿に焦躁を募らせていた。
上手い事エヴァンジェリンから略奪しようとしていたセドリックが、呆けた顔で映像を見ている事に気が付いたからである。おかげで先程の追及が忘れられたようなのは有難かったが、マリ―ロッテにとって良く無い状況には変わりない。
マリ―ロッテは、もう少しでセドリックの心を手に入れられると確信していたのだ――まぁ、まったくの勘違いなのだが……。
セドリックは、政略結婚の意味が分からない程馬鹿じゃ無かった。エヴァンジェリンとの結婚に意味はあっても、マリ―ロッテとの結婚には意味が無い事を知っている。
彼が婚約破棄を突き付けたのは、マリ―ロッテへの恋心では無く――非道な事をするような人間を王家の縁者に出来ないという正義感からであった。
この婚約は、王太子がもう一つの公爵家から王子妃を迎えた事で、パワーバランスを偏らせない為に第2王子であるセドリックがエヴァンジェリンの実家ゲッテンシュミット公爵家に婿入りするものだ。
マリ―ロッテはゲッテンシュミット公爵家の縁戚ではあるものの、嫁いだ公爵の妹が産んだ娘――伯爵家の令嬢である……。
公爵がマリ―ロッテを養子にでもすれば話はかわるかもしれないけれど、愛娘を悪役令嬢だと言いふらす妹の事を公爵は嫌っていたので、その娘である彼女が養子に入るような事は天地が引っくり返ってもあり得ないだろう。
公爵家に婿入りする予定のセドリック――
彼の夢は、王太子である兄を支えて行きたいと言うものだ。
その妻が非道な人間であれば、支えるどころか兄の足を引っ張りかねないとセドリックは危惧していた。――とは言え、顔を合わせた時のエヴァンジェリンが普通だったので、噂と実際は違うものだな――と考えていたのだ。
だが、今回――彼女の身近な従妹であるところのマリ―ロッテが申し訳無さそうに被害を訴え、学園に蔓延している噂と相まって、セドリックに行動を起させてしまったのだった。
今回の件が無ければ、セドリックは普通にエヴァンジェリンと結婚していただろう。それが、政略結婚なのだから。まぁ、そもそもの根本――エヴァンジェリンが非道な人間である――と言う所が間違いなのだが……。
「美しい――……」
ポツリと呟かれたセドリックの言葉に、マリ―ロッテは眦を釣り上げてエヴァンジェリンを見た。
殺気の籠った視線にエヴァンジェリンは一切気が付かない。何故なら立ったまま気絶するという器用な状態に陥っていたからである……。
エヴァンジェリンにとってこの状況は所謂、公開処刑に等しかった。子猫にしか本音を話せない残念な令嬢――。友達も一人もいないそんな寂しく人に隠していた部分を、公衆の面前で明らかにされたのだ。そりゃあ気絶したくもなるだろう……。
エヴァンジェリンの後ろに立つ侍女は、密かにガッツポーズを作っていた。その心の内は、エライ大騒ぎになっていたが、今は割愛したいと思う。
ただ、小さく侍女が呟いた「よっしゃ!」の声でエヴァンジェリンは初めて我に返った。そして、周囲の自分を見る戸惑った目線に怯えしゃがみこむ。
「何ですの?これ、どんな状況――」
恥ずかしさに苛まれながら半泣きで身悶えするエヴァンジェリンに、セドリックが駆け寄った。
「エヴァンジェリン――済まない――私は君を誤解していたようだ……」
恥ずかしがり、不安そうに涙を浮かべるエヴァンジェリンに自分の上着をかけて隠す様にしてから、セドリックはそう囁くようにエヴァンジェリンに話した。
「許して、貰えないだろうか――愛しい人」
エヴァンジェリンは、セドリックの行動に酷く感謝したけれど、唐突な告白には戸惑った。
それはそうだろう。
今まで、嫌われているだろうと思っていた相手だ。ましてや、この映像が原因で一目ぼれされている事をエヴァンジェリンは知らないのだから……。
困惑して戸惑うエヴァンジェリンを見ながら、セドリックはこれもまた可愛い――とボケた事を考えていた。
そんなセドリックを睨んでいる侍女にはまったく気が付いていない。
侍女からしてみれば、敬愛するお嬢様に酷い事をした相手と言う認識で、いっそ「殺りますか?お嬢様――」って気持しか無かった。
ただ、王子がエヴァンジェリンに恋したっぽいので「ざまぁみろ。お嬢様の可愛さを思い知ったか!」という気持ちもあってとても複雑だった。
更に複雑だったのは、エヴァンジェリン本人は気が付いてすらいなかったけれど、彼女の初恋はこのセドリックであった事だ。
何故なら、セドリックだけは内心はどうだか知らないが、エヴァンジェリンを婚約者として丁重に扱ってくれたのだから――悪役令嬢として扱わなかったセドリックにエヴァンジェリンが恋をしてもおかしくは無いだろう。
ただ、エヴァンジェリンはその気持ちに気が付く前に蓋をした。いずれされる婚約破棄を思って、その感情に気が付かない振りをしたのだ。それを侍女は知っていたのである。
エヴァンジェリンを労わるセドリックの姿に、マリ―ロッテを守るように立っていた令息達が戸惑ったように顔を見合わせていた。何が真実か分からなくなっていたのだ。
他の生徒達も、座りこむエヴァンジェリンとその彼女に寄り添うセドリックを見ていた。
「え?――あの――」
エヴァンジェリンがそう声を上げた時だった――。
『よっし!これでいいんじゃないかしら??』
嬉しそうな声が聞こえて、皆が映像を振り返った。
そこに映っていたのはマリ―ロッテだ。誰もいない教室で、自分で教科書をビリビリに破いている。その姿に、皆が一瞬固まった。
何が起こっているのか分からない……そんな空気が充満する。
映像の中では、マリ―ロッテがハラハラと涙を零し始める――そして、教室に戻って来た者達が、彼女を慰め始めた――。場面が変わる。
今度は、何処かの廊下だ――キョロキョロとしたマリ―ロッテが、セドリック達が曲がり角の先にいる事に気が付くと、さも誰かに押された様に転がり出た。
『きゃっ!』
『どうした?大丈夫かい??』
驚きながら、駆け寄るセドリックに『え、えぇ……』とマリ―ロッテは気弱な感じで応た。
それから、怯えるように自分の後ろを見る――そこにはだれもいなかったけれど『エヴァ……いいえ、何でもありませんわ!』とそう言ってマリ―ロッテは立ちあがり、気丈そうにみえる笑顔を浮かべて立ち去った。
また、場面が変わる。
画びょうを自分の靴に入れるマリ―ロッテ。自ら噴水に飛びこむマリ―ロッテ。上手い具合に被害者を装うその映像は、マリ―ロッテの本性を明らかにするのには十分であった。
そして最後が、階段の中ほどから『自分で』転がり落ちるマリ―ロッテ。もはや、誰もがマリ―ロッテの自作自演だったのだと理解していた。
マリ―ロッテは青褪めた顔をしながら呆然と突っ立っていた。最初に出た映像がエヴァンジェリンだった所為で油断していたのだ。
自分の自作自演が明かされるような事態になって混乱していたマリ―ロッテは、周囲の視線の変化に気が付くのが遅れた。それはマリ―ロッテを蔑む視線――。
いまや、純真無垢なエヴァンジェリンを陥れた悪女としてマリ―ロッテは認識されつつあった。
マリ―ロッテは、セドリックに助けを求めて目を合わせたが、批判と怒りの籠った目で見返され震えて目を逸らせた――。慌てて、守ってくれていた令息達を見れば、距離を開け――責めるような視線を返される。
事、ここに至ってはどんな言い逃れも通用しないと理解して、泣きながら慌てて逃げ去る事しか出来なかった。
「エヴァンジェリン――私の言葉は君には信じられないものだろう――けれど、この映像を見て――本当の君を知って私の妻になる人は君以外にいないと確信した――。エヴァンジェリン、君以外嫌なんだ――どうか、学園を卒業したらすぐ私と結婚して欲しい――」
真っ赤になって混乱中のエヴァンジェリン。彼女はどうしたら良いかまったくわからない状況だった。
ただでさえ、いっぱいいっぱいなのに更なる公開プロポーズである。
更に言えば、二人の婚姻は5年後の予定であったので、学園を卒業してすぐだと計算が合わない。ちゃっかり結婚式の予定を早めたセドリックであった。
この件も含めて、父である国王陛下に知られたら暫く謹慎だろうなぁ――とセドリックは思ったけれど、エヴァンジェリンの魅力が広く知られてしまった以上、結婚を早める事だけは絶対に譲る気は無かった。
「ずりぃ……」
ポショリと聞こえた声は、エヴァンジェリンの可愛らしさに気が付いた婚約者のいない幾人かの本音を表すものだった。
セドリックはこれでも周りを把握していた。特に何人かの男がエヴァンジェリンに焦がれる視線を送っていた事もだ。なので、セドリックは先手を打った訳である。婚約破棄の破棄――。
それをエヴァンジェリンが了承すれば、世は並べて事もなし――余程の事が無い限り、二人が結婚する未来は変えようも無い。
エヴァンジェリンが混乱している今がチャンスとばかりにセドリックは畳みかけた。
「愛してる、エヴァンジェリン――どうか、私を捨てないで欲しい」
返答を促されるように懇願されて、エヴァンジェリンの混乱は加速した。返答を保留にすれば良いだけなのだが、ガッシリと肩を掴まれ、熱のこもった視線で……掠れた声で告げるセドリックの言葉には真実味が溢れていた。
視線を絡め取られて外す事が出来ず、まるでエヴァンジェリンとセドリックしかこの場にいないかのような空気感……。ついにエヴァンジェリンはセドリックの気迫に負けてコクリと頷いた。
崩れ落ちる幾人かの男達――。
そして、逆転劇に歓声を上げる生徒達が祝福の言葉を叫んだ。
セドリックは、感無量の想いを噛みしめた後、踊るように浮き立つ心のままにエヴァンジェリンの頬にキスすると、彼女を抱き上げてクルクルとその場を回った。
混乱して驚いた顔をしていたエヴァンジェリンだったけれど、セドリックの堪え切れない心からの笑顔に嬉しくなって、クスクスと笑い始めた――。
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次はアッサリ目の結末の後――侍女の話になりますm(_ _)m
別の話ですが『乙女ゲームの悪役令嬢に転生しましたが、トラウマ級の幼馴染を撃退したい。』の次に投稿予定の話を上書きミスで消しました……(泣)――只今書きなおし中です。
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