珍・桑田少年の品定め

泉出康一

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第19珍 『名前』

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満足研究所、舞香が居た部屋にて…

ガズムがボルドビに報告をしている。

「奴ら、木本と宮崎を殺して逃げ出したようです。」
「まぁいい。いずれ、また会う事になる。ゴールデンクラッカーは?」
「死にましたよ。」
「そうか。それでいい。」

2045年9月14日、明け方、とある山奥の館にて…

ココは矢里本珍三郎が所有する館の一つで、隠れ家として使っている。
満足研究所からの脱出後、幸太郎達はこの館へとやってきたのだ。

館内、庭にて…

圭人と珍三郎は庭で何やら話をしている。

「悪いな。人ん家に、勝手に墓作って。」
「かまわん。」

珍三郎は二つの墓を見た。

「長岡と宮崎…だったか?お前の同級生だってな。」
「高校三年の時、同じクラスやってん。」

その時、珍三郎が持っていたタブレット端末から、矢里本珍太郎の声が流れてきた。

〈懐かしいでござるな。〉
「何やろなぁ。お前も植松も大介も…おまけに宮崎まで…俺に関わった奴どんどん死んでいくやん…」

圭人は涙を流した。
珍三郎は無言でその場から去った。

館内、廊下にて…

珍三郎はタブレット端末を持って歩いている。

〈…ごめんでござる。珍三郎。〉
「何がだ。」
〈こんな事に巻き込んでしまって…拙者が『ちんちん満足の会』なんて作らなければ、お前も幸太郎も、今頃はきっと、普通の人生を送れていたはずなのに…〉
「俺に謝るな。俺は好きで巻き込まれたんだ。お前の腑抜けた満足論を正す為にな。」
〈珍三郎…〉
「それより、他にもっと言う事があるだろ。」
〈にょよぉ?言う事?〉
「俺に腹違いの弟がいた事。つまり、お前の不倫問題についてだ。母さんが知ったら泣くぞ。ま、その母さんも一昨年病気で死んだけど。」
〈ち、違うでござるよ!ゴム無しでいいって言われたからてっきり安全日かと…!〉
「子供いるのに風俗行くなボケ。」

その時、珍三郎は市村とバレットの姿を発見した。
二人は何やら話をしている。しかし、バレットは市村の顔を見るのを避けている。

「お前の補佐、ボルドビに色々と弱みを握られていたみたいだな。」
「それでアイツ裏切ったんか。そんなら俺に相談してくれればよかったのににょ~。」

バレットは市村の顔をチラ見した。

「…きも…」
「のぃ?今なんかーたか?」
「別に。」

その時、珍三郎がやってきた。

「二人だけか?他の者は?」

珍三郎の館、とある部屋にて…

海佳,植松、そして幸太郎の母の真優佳がベッドで眠っている。
その側には、椅子に座っているモカとレインの姿があった。
その時、幸太郎が部屋に入ってきた。

「海佳達は…?」
「お前の妹は問題ない。傷跡は残るだろうがな。母親も、じきに目を覚ます。だが…」

モカは植松を見た。

「出血による体力の低下。それに加えて、傷口からの感染症もみられる。」
「じゃあ早く病院に…!」

その時、レインは涙を流した。

「もう…手遅れだって……」
「そんな……」

モカは椅子から立ち上がり、少し離れた壁に寄りかかった。

「…側に居てやれ。」

幸太郎はレインの横に座った。

「ごめん…俺が不甲斐ないばっかりに、植松…君のお姉さんを…」
「謝らないで下さい。私も姉も、覚悟の上です…」
「…ごめん…」

幸太郎はただ謝ることしかできない。

「…私たち姉妹が次期会長候補の補佐役になった理由、姉から聞きました?」
「いや、まだ。次期会長になったら教えてやるって植松が…」
「仇討ちです。」
「仇…?」
「父が殺されました。次期会長候補の一人、王・珍々…ボルドビ・アッカールに。私たちは奴を殺す為、補佐役になったんです。」
「そうだったのか…」
「ボルドビについては、姉と情報を交換していました。しかし、次期会長試験では、純粋に姉と勝負をしていたのです。楽しかったですよ。特に、姉が私の策に引っかかってくれた時なんて。」

レインは少し涙ぐんでいる。

「飛行船のアレか?大勢の人間が死んだんだぞ。俺だって死にかけたし。」
「まさか貴方が乗り込んでくるなんて思わなかったんです。絶対、姉が止めると思ったから…それに、船の爆発は完全にトランスの暴走。今でも後悔してます。」
「それでも、お前のやった事は…」
「分かってます。許される事じゃない。だから、この戦いが終われば死のうと思ってます。」
「いや、何もそこまでしなくても…」
「姉の居ない世界なんて、生きている意味ないですから…」
「…それって、逃げてるだけじゃないか。」
「え…」

レインは俯いていた顔を上げた。

「償いの為じゃない。嫌な現実から目を逸らしてるだけだ。死んでどうなる。」

レインは黙って聞いている。

「そんな事、植松の前で言ってやるなよ…」

その時、植松が弱々しく声を発した。

「それな…」
「お姉ちゃん!」
「お前、起きてたのか⁈」
「幸太郎の言う通りや。レイン…お前は生きろ…」

植松はとても苦しそうにしている。

「でも、お姉ちゃんが居ないと私…」
「大丈夫や。お前なら…」

植松は幸太郎を見た。

「妹を頼む…」
「植松…」

その時、幸太郎達は植松の死期を悟った。

「一つ、聞いていいか。」
「なんや…」
「そういえば俺、まだ植松の名前聞いてなかった。」
「そんなことか…」
「てっきりパンツの色でも聞くと思ったか?」
「まぁな…」

植松は目を閉じた。

「リンカ…植松リンカや…」

その時、幸太郎は植松の手を握った。

「ありがとう。リンカ。」
「はは…急に名前で呼ぶなや……」

植松の腕の力が抜けていく。手を握っていた幸太郎はそれに気づいた。

「僧侶枠…やん……」

植松リンカ。18歳。死亡。

「お姉ちゃん…お姉ちゃんッ…!」

レインは声を上げて泣いていた。幸太郎も涙を流している。

「僧侶枠か…そういえば、その口癖も聞きそびれてたな…」

その時、幸太郎は椅子から立ち上がった。

「モカさん。頼みがある。」
「…言ってみろ。」

モカは幸太郎の頼みが分かっていた。読心術を使わなくとも。しかし、分かっていてもその言葉は、幸太郎の口から聞かなければならない。それが幸太郎の、決意の表れなのだから。

「俺に、戦い方を教えてくれ…!」
「いいだろう。とびきりキツいのを仕込んでやる。」
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