障王

泉出康一

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第1章『チハーヤ編〜ポヤウェスト編』

第27障『ハンデ』

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インキャーン王国、夕方、宿屋にて…

「えっちゃ、俺ら最強ちゃうん!」
「あったりめぇダろ!優勝間違い無しでい!」

エッチャとナツカはハイタッチした。
その時、カメッセッセと後ろの人はベッドの上でディープキスをし始めた。

「えっちゃ、仲良なってるやん。」
「どうでも良いけど外でやれや。キモいんダよ。」

2人は部屋を出た。

ニキは扉の方を見た。

「外でやるのもどうかと思いますけどね…」
「ところで、決勝戦で戦うチームの試合、ドピュっと誰か見たか?」

一瞬、部屋が沈黙になった。

「アッシ見たでゲスよ。」
「「「ヤスぅぅう!!!」」」

一同は歓喜している。

「でかしたぞオメェ!」

ナツカはヤスを指差して大喜びしている。

「それで、敵チームはドピュっとどんなタレントを?」
「それがさっぱり分からないんでヤンス。空飛んだり瞬間移動したり…」
「ドピュっとダブルタレント持ちか。」
「それにそいつ、1人で戦ってたでヤンス。」

それを聞き、エッチャはヤスに問いかけた。

「えっちゃ、1人?」
「はい。1対5で、相手は手も足も出てなかったでヤンス。」
「凄いよな。」

ガイが返事をした。

「確かに凄ぇけど、何で5人で戦わ……ダッ⁈」

その時、ナツカ達は部屋にガイがいる事に気がついた。

「えっちゃ、お前はガイ…!」
「(ドピュっと気づかなかった…!)

ニキは明らかに表情が険しくなったエッチャを見て、何か2人に関係があるのだろうと推測した。

「知り合いですかい?」
「俺の左腕切り落とした奴や!」
「なに…⁈」

エッチャのその言葉を聞き、ガイを知らぬ者達は構をとった。

「ドピュっと敵なのか⁈」
「あぁ。」

ガイはナツカ達を見渡した。

「初対面の人もいるし、自己紹介するよ。俺はガイ。障王の末裔だ。今は訳あって魔障将やってまーす。」
「障王だと…アハァァ⁈」
「何故、障王の末裔がドピュっと魔王の味方を…?」
「ん?訳あって。」

その時、ナツカは数日前、ガイに会った事を思い出した。

「まさか、決勝戦の相手って…」
「そうそう。俺。」
「えっちゃ、何しに来た!」

エッチャは声を荒げている。

「ハンデあげようと思ってさ。」
「ハンデ…?」
「うん。だって、まともに戦って俺に勝てる訳ないだろww縛りプレイってやつ?」

ガイのその発言を聞き、皆はムッとした。

「『磁力マグネ』、『飛翼フライド』、『突起ジグザ』、『角箱ボックス』、『我と汝の仮定法セルチェンジ』。俺は明日、この5つのタレントしか使わない。」

その事を聞くと、雷尿は信じられない表情をした。

「ドピュっと待てよ!タレントは多くても1人3つまで…1人で5つのタレントなんて有り得ない!」
「これらのタレントが、一つのタレントの派生だとしたら?」

それを聞くと、雷尿は納得した様子だ。

「(保存型、か…)」
「ま、そういう事だから、安心して明日バスケしよーな。じゃ。」

ガイが部屋のドアから出ようとした。

「待てや!!!」

ナツカがそれを止めようとしたその時、ガイの姿が消えた。

「消えた…⁈」
「あの野郎…」

その日の夜、寝室にて…

エッチャは急激な尿意により、目を覚ました。

「えっちゃ、漏れそう…」

何を隠そう、エッチャは膀胱が赤ちゃんなのだ。
エッチャはベッドから降りた。
その時、ナツカの姿が目に入った。

「ん…?」

ナツカの目は開いていた。寝ているわけではないようだ。

「えっちゃ、目ぇ乾燥せーへんの?」
「目ぇ全開で寝る奴なんて居ねぇわ。」
「ジャック。」

ジャックは目を全開にして寝ていた。

「バカと一緒にすんな。」
「でも珍しいな。ナツカが寝てへんの。」
「ちょっとな。」
「ガイの事か?」
「…許せねぇんダよ。ヘラヘラしやがって…」

ナツカの表情が険しくなった。

「魔王復活させたって自慢げに言いやがった…!そのせいで、ワシの村は無くなったんダ…!母ちゃんもリョーカも、アイツが殺したようなもんダろ…!それなのにアイツ…」

その時、ナツカは涙を流した。

「何が…ハンデだ……」

エッチャは涙を拭っているナツカを見た。

「ナツカ。」
「…なんダよ…」
「勝とうぜ。明日。」
「エッチャ…」

エッチャは微笑んだ。

「…漏らしてんぞ。」

翌日、格闘場にて…

「ただいまより!第238回エセバスケットボール大会、決勝戦を開始いたします!」

観客席にて…

「頑張って下さい!皆さん!」

ヤスの隣では、カメッセッセと後ろの人がイチャイチャしている。

「ケモテイか?♡」
「ケモテイよ♡」

チーム『カメッセッセ』のベンチにて…

「『飛翼フライド』は翼を生やす奴。『磁力マグネ』は多分、磁力に関係する奴ダと思う。」
「えっちゃ、『突起ジグザ』は尖らせる奴やんな?オチクビサマって魔物が使ってた奴。」
「後の2つは知らねぇ奴。」

ナツカのぶっきらぼうな説明が終わると、ジャックはナツカの肩に手を置き顔を覗き込んだ。

「作戦はどうするんだ?…アハッ!!!」

ナツカは超絶不快と言わんばかりの顔をしている。
ニキは優しくジャックをナツカから引き剥がした。

「とりあえず、相手のタレントを調べる所からでしょう。でなけりゃ、作戦の立てようがねぇです。」

ジャックはこくりと頷いた。

「それじゃあ、第1クオーターはドピュっと敵のタレントを調べる方向で行こう。」
「「「おう!!!」」」

ガイのチームのベンチにて…

ベンチには、ガイを含め5人居た。見知らぬ隻眼の少年。勇者の服装コスプレをした少年、もょもと。残り2人は汚らしいおっさんだった。

「今回も俺1人で行くから。」
「ずりーよ!決勝戦ぐらい俺にも戦わせろ!」

その時、ガイはもょもとに金属でできた薄い板の用なものを投げて渡した。
それはこのファンタジーな世界では決して有ってはならない物。スマホだ。ガイはポケットからスマホを取り出し、もょもとに渡したのだ。

「ほら。ゲームやってていいから。」
「ぃやぁったぁ~!」

もょもとはスマホゲームをやり始めた。
その時、ガイは2人の汚らしいおっさんに話しかけた。

「この試合が終わったら、残りの報酬あげる。頼むからそこでじっとしてろよ。」

「「うぃ~。」」

おっさん達は酒を飲んでいる。
ガイは隻眼の少年に話しかけた。

「球出しとジャンプボール頼むな。」
「あぁ。」

コート内にて…

チーム『カメッセッセ』はジャックが、ガイのチームは隻眼の少年がジャンプボールを担当するようだ。

実況席にて…

「それでは!今大会の決勝戦!開始です!」

コート内にて…

審判はボールを真上に上げた。
それと同時に、両者は飛んだ。

「先手必勝~!!!アッハ~!!!」

ボールを弾くのかと思いきや、ジャックはその少年に向けて拳を突き出した。

「ファウルありなんだぜぇ~へぇ~へぇ~へぇ~へぇ~!!!」

シーオの受け売りである。

「いいぞ!ジャック!ぶっ殺せ!」

ナツカの興奮した声援が飛ぶ。
ジャックの拳が少年の顔に触れかけた次の瞬間、少年の姿が消えた。

「(消えた…⁈)」

少年の姿は無い。しかし、少年の着ていた衣服だけが宙に浮いていた。

「えっちゃ、上や!」

ジャックはエッチャの声で視線を上に向けた。

「猫ぉお⁈」

ジャックの頭上には、人語を話す猫、ヤブ助が居たのだ。

実況席にて…

「なんと!コート内に突如として猫が現れましたー!」
「アレはおそらく変身能力。タレントを使い、猫になる事で的を小さくさせ、ジャック選手の拳を回避した。変質型のタレントでしょう。」

コート内にて…

猫の姿のヤブ助はボールをガイの方へ蹴り飛ばした。

「させるかぁあ!微分魔法!『x=0バーティカル』!!!」

すると、ボールは真下に方向を変え、ニキの元へ落下した。

「よし…」

ニキはボールをキャッチした。はずだった。しかし、ボールはガイの手にあった。

「(な、何が起こったんだ…⁈)」
「『飛翼フライド』!!!」

次の瞬間、ガイの背中から翼が生え、ボールを片手に宙を飛んだ。
ガイはどんどん上昇していき、天井スレスレで止まった。

「『突起ジグザ』!!!」

ガイは天井に手をつけた。
すると次の瞬間、天井全体から無数の土片が、ナツカ達に向けて突起してきた。

「小手調べだ!全部かわせよ~!!!」
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