障王

泉出康一

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第1章『チハーヤ編〜ポヤウェスト編』

第40障『全身性感帯』

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インキャーン王国、闘技場、中央出入口にて…

メロはニキから目を逸らした。

「…私、自信無いわよ…」
「やらねぇと、お前さんの妹は助からねぇぜ。」
「…」

ニキが魔物の方へ歩き出そうとしたその時、メロはニキを呼び止めた。

「待って!」

ニキは振り返った。

「アンタ、怖くないの…?こんな私なんかに、命かけるなんて…」
「大丈夫だ。絶対、上手くいく。」

ニキは不安そうなメロに微笑みかけた。

「信じようぜ。自分をよぉ。」
「ッ……」

ニキは魔物の方へ歩き始めた。

「いくぞ!!!」
「了解…!」

ニキが魔物から半径10メートルの地点に足を踏み込んだ。

「ッ…!」

次の瞬間、ニキの感覚が消えた。

説明しよう!
この魔物のタレントの名前は『静寂サイト』。自身を中心とする半径10メートル以内にいる自分以外の生物の五感を奪う能力である。
五感を奪うという事はつまり、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚、それら全てを感じなくするという事。目は見えなくなり、匂いや味を感じず、音も聞こえない。そして、腕や脚など体の感覚もなくなる。よって、攻撃を喰らっているかも、体を動かしているかどうなのかもわからないのだ。
タイプ:支配型

魔物のタレント射程範囲内に入ったニキは、右腕を上げた。

「(来た…!)」

次の瞬間、魔物は鎖を使い、大鎌をニキに向けて放った。
しかし、ニキは五感を奪われているにも関わらず、その鎌を伏せて回避した。
魔物は再び鎌をニキに放った。だが、またもやニキはそれを横に回避し、魔物に徒歩で近づいていく。

「(行ける…!)」

ニキの考えた作戦、それはメロが『想伝テレパス』でニキを指示する事。メロがニキの脳内に直接思念を送り込む事で、五感を奪われたニキに、敵の居場所や攻撃のタイミングなどを伝えていたのだ。
しかし、いくらメロの指示があるとはいえ、触覚すらも奪われたニキには、回避や歩幅の微調整など出来るはずもない。いや、そもそも、体を動かしているかどうかさえ。
だがニキは、過去の経験から『おそらくこんなものだろう』という不確かな感覚のみで体を動かしていたのだ。不安で仕方がないはず。しかし、それが出来るのは、自分の経験則が絶対であるという自信。そして、メロから絶えず送られてくる思念こそ、自分が今、無事であるという証明。

「(おそらく、奴との距離約5メートル…順調だ。後は奴にダブルタレントが無ぇ事を祈るだけ…いや、きっと無い。人質を取ったのが何よりの証拠。いける!いけるぞ!)」

ニキは魔物の攻撃を回避しながら、徐々に魔物との距離を詰めていく。
しかし、メロからの思念が途絶えた。

「ッ⁈」

ニキは足を止めた。

「(お、おい!どうした⁈)」

メロの『想伝テレパス』はメロからの一方通行。ニキの思念はメロには届かない。
するとその時、メロからニキに思念が送られてきた。

〈大きく右に回避!そのままタレント領域外へ走れ!〉

ニキはメロの指示通りに行動した。
その時、ニキは魔物のタレント射程範囲内から出た。ニキの五感が戻った。

「なッ…⁈」

ニキは目の前の光景に絶句した。

「うッ…くッ……!」

メロは首から血を流し、倒れていた。その側には、とある魔物が立っている。

「間一髪やねん…あーん!!!」

その魔物はレイパーTと一緒にチハーヤを襲い、デカマーラに攻めてきた魔障将マイアンであった。
マイアンは血のついたナイフを手にしている。おそらく、それでメロの首を切り裂いたのであろう。

「おっちゃんが偶ッ々様子見に来なかったら、お前、死んでたねんよ?あーん!!!」

マイアンは出入り口に立っている死神姿の魔物を指差した。

「   。」

その魔物は口をパクパクさせている。

「え?よく聞こえんねん!もっとデッカい声出ぁせぁや!」

しかし、魔物は口をパクパクさせるだけで声は出さない。

「あ、そうか。お前、声帯無かったねんな。悪い悪いねん…あーん!!!」

すると、マイアンは死神姿の魔物の元へ移動した。

「メロ!!!」

ニキはメロに駆け寄った。

「『貼着ペタン』!!!」

ニキはメロの首の傷をくっ付け、出血を止めた。

「おい!しっかりしろ!」

しかし、メロの意識は朦朧もうろうとしている。血を流しすぎたのだ。
その時、メロの『四色の個性玉エレメントオプション』が解除され、4つの光玉は血の塊になり、地面に落ちた。

「(最後の力を振り絞って、俺を助けてくれたのか…)」

出入口前に移動したマイアンは、ニキの方に向き直った。

「お前に紹介したんねん。コイツは大魔障ビンカーン。全身性感帯やねん…あーん!!!」

そう言うと、マイアンは死神姿の魔物、ビンカーンの肩に手を置いた。

「   ッ!!!」

すると、ビンカーンはとても気持ちよさそうな顔をした。全身性感帯というのは嘘ではないようだ。

「おっちゃんとコイツのミラクルコラボレーション、今から見せんねん。」

そう言うと、マイアンはビンカーンをこちょこちょし始めた。

「必殺!こちょこちょオーガズム!!!」
「  ッ!!!   ッ!!!   ッ!!!   ッ!!!   ~~~ッ!!!」

ビンカーンは絶頂に達した。
ニキは理解不能な顔でそれを見ていた。

「お前、『何してるんだコイツら』って顔してるねん。」
「当たり前だろ。」

マイアンはニキに指を差している。

「わからんなら、教えたんねん。」

すると、マイアンは超絶笑顔になった。

「遊んどんねん!!!」
「は…?」

ニキは『何してんだコイツら』の顔を続けている。

「おっちゃんはな、人が地獄見とる時に、こうやって余裕ぶったりおちょくったりすんのが大好きやねん。」

マイアンは両手を広げた。

「弱い者いじめほど気持ちの良い事は無いねん!!!あーーーーーん!!!!!」

ニキはそんなマイアンに軽蔑の眼差しを向けた。

「クズが。」
「おーん?そんな事言ってええねんか?」

次の瞬間、マイアンはビンカーンが人質として抱えているミファの首にナイフを突きつけた。

「殺すぞ♡」
「ッ……」

ニキは動けなかった。

「(どうすれば良い…俺、一人で…コイツら相手に…)」

ニキは肩を落とした。

「(無理だ……経験,覚悟,勘,能力,運…俺の全部を出し切っても…)」

ニキはマイアンのPSIを見た。凄まじい。戦闘タイプでは無いものの、レイパーTと同じ魔障将なだけはある。

「(この実力差は…埋められないッ…!)」

ニキが絶望しかけたその時、1本の矢がマイアンの元へ飛んできた。

「『空間穴アナル』!!!」

マイアンは空間に穴を開け、その矢をどこか別空間へ飛ばした。

「…嫌な奴が来ちゃったねん…」

マイアンは顔をしかめている。

「誰だ…⁈」

ニキは背後を振り返った。

「ケモテイの気配がすぃたからな。」

そこには、全裸のカメッセッセが立(勃)っていた。

真っ裸マッパで来たッ!」
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