障王

泉出康一

文字の大きさ
42 / 211
第1章『チハーヤ編〜ポヤウェスト編』

第42障『託された想い』

しおりを挟む
インキャーン王国、闘技場、通路にて…

雷尿,ハルカ,ドレ,ソラ,シドは魔物の大群の相手をしていた。

「なんか敵の数多くなってないか⁈」
「ハァ~ン!無理やて~!」

雷尿は魔物の大群を巨大・硬質化した腕で殴り飛ばした。
しかし、魔物の進行は止まらない。

「まずい…ドピュっとPSIが尽きそうだ…!」

その時、ドレは魔物の相手をしながら雷尿に話しかけた。

「雷尿さん。弟達を頼みます。」
「な⁈ドピュっと何を…⁈」

雷尿は首を傾げている。

「聞きました。雷尿さん達は魔王を倒す為に旅をしていると。それに、あの障王の子孫なんですよね。」

ドレは雷尿の目を見た。

「貴方は、こんな所で死んでいい人じゃない。」
「ドレ君…」

ドレは一歩前に出て、魔物達の方を向いた。

「ココは僕に任せて!早く!弟達を……」

その時、ドレの横にソラとシドが並んだ。

「ソラ!シド!何してるんだ!早く雷尿さん達と逃げろ!」
「兄ちゃんを置いて逃げれる訳ないだろバーカ。」
「…それに、ドレ兄ちゃんだけじゃ…時間稼ぎにもならない…」
「それな!」

ソラとシドはドレの顔を見た。

「最後まで一緒に居たいんだよ。」
「僕たち…家族だから……」

ドレは2人の顔を見た。

「ソラ…シド……」

ドレは2人を抱きしめた。

「弱い兄ちゃんを…許してくれ……」

本当は兄として、何としてでも弟達を逃さなければならない。そう思いつつも、やはり、最後まで一緒に居たいという気持ちが勝った。死に直面して、ドレは自身の心の弱さを思い知ったのだった。

「行ってください。雷尿さん。」
「でも…!」

ドレは振り返った。

「頼みますよ……」
「ッ……」

『頼みますよ』、それは自分達の仇を取ってくれという意味。雷尿はドレ達の覚悟の表情を見た。

「あぁ。ドピュっと任せてくれ…!」

雷尿は魔物とは逆方向に走り出した。

「行きますよ!ハルカ王子!」
「う、うん……」

ハルカは雷尿について行った。

「…さて。やるか!ソラ!シド!」
「おうよ!」
「『紅』流してやる…!」

ドレ・ミュージック。男。享年18歳。
ソラ・ミュージック。男。享年14歳。
シド・ミュージック。男。享年12歳。

インキャーン王国、闘技場、コート内にて…

右腕を折られ、重症のナツカがコートの壁にもたれ、倒れている。その目の前には、死亡したレイパーTと、ダブルタレントで復活した全快のレイパーTがいる。
また、コート中央付近ではレイパーTに殴り飛ばされたシーオが跪いており、観客席には重傷のワンチャが倒れていた。

「おまんらの負けや!障王!」

レイパーTはナツカに近づいた。

「(死ぬ…のか…ワシが……こんなクズ野郎に……何も出来ないまま……このまま……)」

レイパーTは拳を振り上げた。

「(母ちゃん…ワシもうダメだ……ワシ死ぬ……)」

ナツカが生きる事を諦めたその時、レイパーTの動きが止まった。

「なん…ダ……」

ナツカはレイパーTの方を見た。

「えっちゃ、ナツカ!!!」

するとそこには、ニシキサマと相討ちになったはずのエッチャ,ジャック,オナブが居た。

数分前…

通路にて、瀕死のエッチャ,ジャック,オナブが倒れている。また、マツイの死体もある。
そこへ、オナブやマツイの仲間、ラッシーがやってきた。

「オナブ!マツイ!」

ラッシーは倒れている者達の生死を確認した。

「(よかった…オナブは生きてる。『カメッセッセ』の2人も…でも、マツイは…)」

ラッシーは首を切断されたマツイを見て、悲しい表情を浮かべた。

「(みんな重傷だ…ど、どうすれば…)」

ラッシーはオナブを抱えた。

「(とりあえず、オナブ安全な場所に…)」

その時、ラッシーの横をガイ,ヤブ助,もょもとが通り過ぎて行った。
ヤブ助

「やはり、中央出口には見張が居たな。」
「仕事サボって遊びに来てんのバレたらヤバいって…」

猫の姿のヤブ助ともょもとは会話しながら、ガイの後ろを歩いている。

「お、おい!ちょっと待てよ!」

ラッシーは素通りしていくガイ達を呼び止めた。

「お前達、確か決勝戦でチーム『カメッセッセ』と戦ってた奴らだよな!」

3人はラッシーの方を振り返った。

「コイツらを安全な場所に運び出す!手伝ってくれ!」

ガイは倒れているエッチャを見た。

「……あぁ。コイツか。全然気づかなかった。死体かと思ったわ。」

ガイは向き直り、再び歩き始めた。

「待てって!手伝ってくれよ!」
「そいつら、もう死ぬ。運んだって無駄だよー。」

ガイは聞く耳を持たない。
ヤブ助ともょもとは、申し訳なさそうな顔をしながら、ガイの後についていった。

「まだ助かるかも知れないだろ!頼むよ!俺の仲間なんだよ!」

ラッシーは必死に、ガイに頼み込んだ。しかし、ガイは見向きもしない。
しかし次の瞬間、ガイは足を止めた。

「ガイ…?」

ヤブ助はガイが急に足を止めた事に対して、疑問を抱いた。
そして、ガイはラッシーの方を振り返った。

「そいつら全員治してあげる。俺のお願い聞いてくれたらな。」

約1分後、エッチャは目を覚ました。

「えっちゃ…ココ、天国…か…?」

その時、エッチャはラッシーに気づいた。ガイ達はそそくさと去って、もういなかった。

「…」

エッチャはラッシーの特徴的な鼻をじっと見ている。

「…えっちゃ、天使って鼻潰れてんねんな。」
「俺だよ!1回戦でお前らと戦ったラッシー・マーラッシーだ!」

ラッシーは怒っている。

「えっちゃ、覚えてへんわ。」
「お前ッ…!」

ラッシーは怒りを堪え、話し始めた。

「ガイって奴、知ってるだろ。アイツがお前らを治したんだ。」
「えっちゃ、ガイが…?なんで?」

エッチャは疑問の表情を浮かべた。

「取引だって。体を治してやる代わりに、コートに戻れってさ。」
「なんでなん?」

ラッシーは続けた。

「たぶん、時間稼ぎだ。自分達が逃げる為のな。コートに人が密集すれば、魔物はそこに集まる。あのガイって奴は俺たちを囮にするつもりなんだ。」
「えっちゃ、アイツどこまでもクソやな…」

その時、エッチャは両腕がある事に気がついた。

「(ガイに斬られた左腕…生えてるやん…)」

左腕をじっと見ているエッチャに、ラッシーは言った。

「左手はサービスだってさ。そういや、お前、元々無かったもんな。左腕。事故か?」
「え…っちゃ、まぁ…」

その時、ジャックとオナブも目を覚まし始めた。

「えっちゃ、取引なんか無視して逃げようや。」
「…それは出来ない…」

そう言うと、ラッシーは自身の服をめくって胸元を見せた。
そこには光るバツ印が付けられていた。

「ガイのタレントだ。約束を破れば死ぬらしい。お前達にも付いてるぞ。」
「えっちゃ、まじか…」

ラッシーは服を着直した。

「とりあえず、コートへ向かおう。行けば印は取れるらしいから。」

現在、コート内にて…

オナブはレイパーTの体に触れ、『人体の運行見合わせ報告パラライズ・ラグ』を使い、レイパーTの時を静止させている。

「今だオナ!コイツを殺すニー!」
「えっちゃ、俺に任せろ!」

エッチャは剣を両手で握り、レイパーTに向けて剣を振りかざした。

「待て!エッチャ!そいつを殺すな!」

ナツカはエッチャを止めた。

「えっちゃ、なんでやねん⁈」
「不死身なんダ!そいつが死んだら、次のそいつが出てくんダよ!」

エッチャは困惑した。

「えっちゃ、何言ってんねん…?」
「そこに転がってんダろ。そいつの死体がよぉ。」

ナツカは1人目のレイパーTの死体を指差した。

「えっちゃ、2人おるやん⁈双子⁈」
「とにかく、そいつを殺しても意味無ぇんダよ!」

その時、出入り口前に立っていたラッシーが、ナツカ達の元へ走ってきた。

「やばいぞ!魔物が大勢向かってきてる!印も消えたんだ!早く逃げよう!」

ナツカは困惑している。

「(くそッ!どうすればいいんダ…!)」

その時、オナブは叫んだ。

「お前達だけで逃げるオナ!!!」
「オナブ…⁈」

ラッシーはオナブを見た。

「コイツが不死身だって言うなら、こうするしかないニー!その隙に、お前達は早く逃げるオナ!」
「そんな事したら、お前が…」

その時、オナブは言った。

「…マツイが死んだ。」

倒れながらも聞いていたシーオも衝撃のあまり声を漏らした。

「マツイが…」

オナブは続ける。

「オイラは何も出来ず、助けてもらってばかり…最後ぐらい、かっこつけさせろオナ…」

しかし、ラッシーはそれを許さなかった。

「ダメだ!そんな事絶対に…」

次の瞬間、オナブは叫んだ。

「仲間が死ぬ所なんて見たくないんだッ!!!」

オナブはエッチャとジャックを見た。

「みんなを頼むオナ…」
「えっちゃ、オナブ…」

その時、ラッシーは会場内の出入り口前に立った。

「お前だけで時間稼ぎなんて無理だ。」
「ラッシー…?」
「俺の『自走エスコ』なら、ココに来る魔物の侵攻を遅らせられる。」

ラッシーはオナブの方を振り返った。

「俺もまだ、何の活躍もしてないからな。」

すると、ラッシーは叫んだ。

「そういう事だ!ココは俺とオナブで時間を稼ぐ!シーオとワンチャを頼んだぞ!」

腹を押さえ苦しんでいるシーオが口を開いた。

「やめろ…ッ!お前ら…ッ!」

その時、ジャックは重傷のナツカとシーオを抱え上げた。

「オナブ…ラッシー………ッ!」

ジャックは2人を抱えたまま、会場を後にした。それと同時に、観客席に登り、気絶したワンチャを抱えたエッチャも、会場内から外へ出た。

「聞いてるか、オナブ。」
「なニー?まさか、愛の告白オナ?」
「そんな訳ないだろ…」

魔物の大群はもうラッシーのすぐ目の前までやってきている。

「マツイへの弔いだ。たっぷり時間稼いでやろうぜ!」
「勿論!チョロいもんオナ!」

ラッシー・マーラッシー。男。享年25歳。
オナブ・オナス。男。享年20歳。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗
ファンタジー
俺と相棒二人だけの冴えない冒険者パーティー。普段はスライム退治が専門だ。その冴えない日常を語る。

処理中です...