障王

第1章『チハーヤ編〜ポヤウェスト編』

第55障『詰んだ』

夜、ポヤウェスト城、3F、玉座の間にて…

脳震盪を起こし、床に跪くエッチャ。同じく、喉にナイフが突き刺さり、床に倒れている意識の無いジャック。そして、ナツカに向かって歩いてくるタクシスの4人が居た。

「（体が重い…動かせねぇ…！）」

ナツカは何故か体を動かす事が出来ずにいた。
そんなナツカに向かって、タクシスは腕組みをしたまま歩いてきた。

「今さっき、勝負は決まったんだ。御お前の死もな。」
「なにッ…⁈」
「冥土の土産に御おしえてやろう。私のタレントを。」

すると、タクシスはナツカの正面に立ち止まり、話し始めた。

「『タクシードライバーは止まらないハンドライブ』。速度の大きさを変化させる能力だ。」
「速度の大きさ…⁈」

タクシスは続けた。

「変えられる速さは時速0.1～300キロメートル。もう気づ意いて意いるだろうが、操作条件は腕を組む事。そして、一度対象に触れる事。」

タクシスは自身の首を主張した。そこには、浅い切り傷が見られた。

「初手、あの坊主頭の青年の攻撃だ。彼の剣は確実に私の首を捉えて意いた。だが、私の首を切断する事はできなかった。何故なら、彼の剣が私に触れた瞬間に、私はタレントを発動させ、彼の剣撃の速度を時速0.1キロメートルに変化させたからだ。」

タクシスはナツカを顎でさした。

「そして、今の貴様も私のタレントにより、時速0.1キロメートルでしか動けずに意いる。止まって意いる訳ではな意い。ゆっくり動意いて意いるのだ。時速0.1キロメートル、つまり、秒速2.8センチメートルでな。」

次の瞬間、タクシスは腕を組んだまま、ナツカの顔面に蹴りを入れた。

「うぐッ…！！！」

普通なら背後へ飛ばされる程の衝撃。しかし、ナツカの体は今、時速0.1キロメートルでしか動く事が出来ない。それ故、ナツカはその場に留まったままだ。

「わかるか？このタレントの凄さが？」

タクシスはナツカの腹に蹴りを入れた。

「ぐはッ！！！」

ナツカは吐血した。血は床にべっとりとこぼれ落ちた。

「繰り返し言うが、操作条件は腕を組む事。そして、一度対象に触れる事。」

タクシスは再び、ナツカの顔面に蹴りを入れた。

「つまり、一度私に触れられてしまえば、もう私のタレントからは逃れられな意いという事だ。」

タクシスは再び、ナツカの顔面に蹴りを入れた。

「つまり、貴様はもう終わり。『詰んだ』と意いうやつだ。」

タクシスはまたもや、ナツカの顔面に蹴りを入れた。

「ハァ…！ハァ…！ハァ…！ハァ…！」

ナツカは鼻の骨が折れ、歯も数本欠けてしまっていた。

「あとはこうやって、嬲り殺すだけの簡単な御お仕事です。」

タクシスはナツカの腹を蹴り上げた。

「ゔぐぅッ…！！！」

ナツカは虫の息だ。

「遺言があるなら聞くぞ？」

すると、ナツカは弱々しく呟いた。

「…オメェ、どっから声出してんダ…？」
「は…？」

タクシスは困惑した。

「オメェの頭部…車輪じゃねぇか…ずっと気になってたんダよ…目とか口とか…何処にあんダろうなぁってよぉ…それが気になって、死ぬに死にきれねぇ…」
「変な奴だ。死ぬ前に、そんな事が知りた意いなど…まあ、意意いいだろう。」

すると、タクシスは頭部の車輪をナツカの顔に近づけた。

「ココだ。車輪の中央。小さな穴が意いくつも空意いて意いるだろう。ここから、声を発して意いる。同時に、この穴は目の役割も果たして意いてな。ココで気流を読み取り、物体の位置を読み取る事が出来るのだ。」

その時、ナツカは再び弱々しく呟いた。

「オメェ、優しぃなぁ…ちゃんと教えてくれるなんてよぉ…」
「死にゆく者の最後の頼みだからな。それに、まぁまぁ楽しめた。その御お礼だ。」

すると、ナツカはクスクスと笑い始めた。

「どうした？何が御おかし意い？」

ナツカはタクシスを睨みつけた。

「なめてんじゃねぇぞボケ…ッ！」

次の瞬間、ナツカはタクシスの車輪の穴に向けて、血を吐いた。

「御御ぎょぎょ⁈」

すると、その拍子にタクシスは腕組みをやめてしまった。

「（今ダッ！！！）」

ナツカはタクシスに向けて剣を振り下ろした。

説明しよう！
ナツカはタクシスに蹴られた際、自身の口から吐いた血が、すぐさま床に落下した事に気がついた。また、目や口は時速0.1キロメートルより速く動かせる事にも。この2点からナツカは、タクシスへの吐血攻撃を思いついたのだ。実際、タクシスはナツカとの会話を試みる為、ナツカの首から上にはタレントを使わなかった。それ故、ナツカの吐血攻撃は成功したのだ。
また、ナツカがタクシスの顔の位置を聞いたのも、吐血攻撃により視界を奪う事が目的である。誰しも、顔に液体がかかればそれを取り除こうとする。コレはもはや本能と言っても過言ではない。タクシスもその本能により、顔にかかったナツカの血を取り除こうとした。よって、腕組みをやめてしまい、タレントを解除してしまったのだ。

「（コイツのタレント発動条件は腕組み…つまり、腕を斬り落とせばタレントは使えねぇ…！）」

ナツカはタクシスの腕を切断しようとした。

「（しまったッ…！）」

しかし、あと一歩、ナツカの剣は届かなかった。
ナツカがタクシスから受けたダメージは相当なもの。顔面を蹴られ続けた事で、視界にも影響が出ている。それ故、仕留め損ったのだ。
タクシスはすぐさま、ナツカを蹴り飛ばした。

「ぶぐはぁッ！！！」

ナツカは数メートル蹴り飛ばされ、地面に倒れた。

「ゴホッ…！ゴホッ…！ゴホッ…！」

ナツカは吐血している。

「危なかった…」

タクシスは頭部の車輪についたナツカの血を拭き取っている。

「だが、相手が貴様でよかった。もし今のが坊主頭の青年だったなら、私は腕だけでなく首まではねられて意いた。」
「くそぉ…ッ！」

ナツカは自分の不甲斐なさを嘆いた。
その時、脳震盪から回復したエッチャが立ち上がった。

「えっちゃ、今度は俺が…」

剣を構えようとするエッチャ。それと同時に、タクシスは腕を組んだ。

「『タクシードライバーは止まらないハンドライブ』！！！」

すると、エッチャとナツカの動きが時速0.1キロメートルに変化した。

「えっちゃ、またか…！」
「すまねぇ…！」

タクシスはエッチャの方へ歩き始めた。

「もう油断はしな意い…」

するとその時、玉座の間の扉が開いた。

「何者だ…⁈」

タクシスは扉の方を見た。

「雷尿…？」

ナツカ達はそれが雷尿とハルカだと思った。しかし、そこに居たのは若い2人の女騎士だった。

「誰…⁈」

その時、黒髪ロングのつり目の方の女が喋った。

「ポヤウェスト二大騎士長！パエーザ・リーエ！！！」

それに続けて、茶髪ショートの垂れ目の女も喋った。

「同じく！ナドゥーラ・ハゲコユスキー！！！」

彼女たちの背後から雷尿とハルカが現れた。

「みんな！ドピュっと無事か⁈」
「全然無事じゃねぇよぉ～…！」

エッチャは雷尿に言った。

「えっちゃ、雷尿！ジャックがやばい！早よ手当てしてくれ！」
「よし！ドピュっと任せろ！」

雷尿がジャックに駆け寄ろうとしたその時、タクシスが叫んだ。

「させはせん！『タクシードライバーハンドライブ』！！！」

タクシスは時速300キロメートルでジャックの元まで移動した。

「速ッ⁈」

ハルカが驚嘆の声を上げた次の瞬間、移動中のタクシスの両足が切断された。

「…えっ…？」

タクシスは床に倒れた。

「（な、なにが…⁈）」

切れ落ちた足の僕を見ると、そこには光る糸のようなものが張り巡らされていた。
それは、パエーザのタレントによるものだった。

「それは私のPSIで作った糸。」

パエーザはジャックのすぐ手前の地面にPSIで作った糸を張っていた。タクシスは高速で移動した為、そのPSI糸に足が絡まり、足を切断されたのだ。

「えっちゃ、何が起こってん…⁈」

その時、ナドゥーラが、動けずに床に倒れているタクシスに近づいた。

「ダメだ！そいつに触れるな！」
「え？」

ナツカの忠告に、ナドゥーラは戸惑った。

「そいつのタレントは一度触れられたら最後、死ぬまでタレントで動けなくさせる！」
「へぇ～。」

しかし、ナドゥーラはナツカの忠告を無視してタクシスの首に触れた。

「おい！」

ナツカはツッコんだ。

「大丈夫よ…『脆弱カイム』！！！」

次の瞬間、タクシスの首がまるで乾いた土を剥がすかの如くパラパラに崩れ、タクシスの頭部は切断された。
タクシスは死んだ。

「え…」

ナツカとエッチャは驚愕していた。

「（えっちゃ、一瞬やん…）」
「（ワシら死ぬ思いで戦ったってのに…）」

ナドゥーラは死んだタクシスの頭部を掴んだ。

「首取れた～ww」