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第2章『ガイ-過去編-』
第17障『優しさの伝染』
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【23:55、山口の家にて…】
山口家の台所には、白マロがいつでも出入りできる猫専用扉がある。ガイと白マロはチビマルを連れて、そこから山口の家へ入っていった。
【台所にて…】
チビマルは寝ている。それをガイは蹴り起こした。
「あたッ…」
チビマルの体は、テーブルの脚に木のロープでくくりつけられている。
「起きたか。」
白マロがチビマルに話しかけた。チビマルは即座に自身の置かれた状況を理解した。
「ま、まさか…俺を殺す気じゃないだろうな…⁈」
「お前の返答次第じゃそうなるかもしれないな。」
ガイにその気はない。しかし、そう答える事に意味がある。ガイはチビマルを脅した。
「た、頼む!なんでもするから許してくれ!」
チビマルは必死に命乞いをしている。そんなチビマルに、ガイは質問を始めた。
「まず、お前のタレントはなんだ?」
「お、俺のタレントは『靴操』。靴を操る能力だ。操作条件は、操作したい靴に触れること。解除条件は、俺がタレントを解くか、操作中の靴が俺から半径50メートルよりも外に出ること。一度に何個でも操作できる。」
「ヤブ助のタレントは?」
「俺も詳しくはわからないが、人間を猫に、猫を人間に変える能力だ。発動条件はおそらく、対象者に触れること。」
ガイは白マロの方を向いた。
「間違いないか?」
「あぁ、おそらく本当だ。実際、ワガハイもそのぐらいしかわからん。」
ガイはチビマルの方を向き直した。
「じゃあ、次。あの時、俺と初めて会ってから、ヤブ助と会ったか?」
「いや、会ってない。会ったのは路地裏にいた猫共だけだ。あ、でも、あの猫共はヤブ助を見たって言ってた。」
「路地裏にいた猫達にこの件について話したか?」
「いや、ヤブ助を見なかったかと聞いただけだ。その後、白マロが来たら俺とヤブ助は見なかった事にしろって言ったんだ。」
ガイは顎に手を当て、思考し始めた。
「(…って事は、白マロの裏切り計画を知ってるのは、俺たち3人だけか。)」
ガイは再び、チビマルに話しかけた。
「最後に質問。俺たちの仲間になる気はないか?」
「「ッ⁈」」
ガイの意外な発言に、チビマルはもちろん、白マロも驚嘆した。
「な、何言ってるガイ!コイツはワガハイ達を殺そうとしたんだぞ!敵なんだぞ!裏切られるかもしれないんだぞ!」
「わかってるよ。けど、3対1の方がいいに決まってる。」
ガイの言う事は最もだ。2対1より3対1だ。
「ワガハイは反対だぞ。もし、仲間になったとしても信用できない。」
しかし、白マロの言い分もわかる。直前でチビマルが裏切り、ヤブ助につく可能性だってある。
「コイツはヤブ助の仲間だった。だけど自分の命が危なくなったら、コイツは仲間であるヤブ助を裏切ってまで助かろうとした奴だ。」
「なおさら信用できないじゃないか。」
白マロの言う通りだ。敵に捕まった途端、仲間の情報を晒してでも助かろうとする。今まさに裏切り行為をした奴を信用しろと言う方が無理だ。
しかし、ガイは続けた。
「ずるい奴。つまり、コイツは自分に正直なんだ。味方を裏切ってまで自分を守りたい、生き延びたいとする。そんなお前なら、今、ヤブ助と俺らのどっちについた方が良いか、わかるよな。」
ガイはチビマルを見た。
「…」
チビマルはガイを見た後、下を向き、思考した。
「(ヤブ助についたとしても2対2。生き延びる確率は五分。この戦いを放棄した場合、もしヤブ助が勝てば、きっと裏切り者の俺は奴に殺される…どちみち、俺はヤブ助が死なないと死ぬ…)」
考え込むチビマル。答えを待つガイ。
一方、白マロはガイを見ていた。ガイのことを『怖い』と思いながら。
「(ガイ…お前は良い奴だ。だけど、正直お前が怖い。お前がさっき言った『仲間にならないか』。チビマルの性格を見抜いた上での交渉…これはもはや、脅迫じゃないか…)」
その時、ガイはチビマルに話しかけた。いや、決断材料を与えたのだ。
「どうする?少なくとも、お前が仲間になってさえくれれば、俺たちは仲間であるお前を守ってやれるぞ。」
チビマルは再び考え込む。
「(ヤブ助は仲間を守るほどお人好しじゃない。コイツらなら…)」
チビマルは決断した。
「わかった。俺はお前達につく。まぁ、前からヤブ助のことは気に入らなかったしな。それに、何より3対1ってのが良い。」
「決まりだな。」
次の瞬間、チビマルは豹変した。
「これからよろしくお願いしますよ!ガイの兄貴!」
さっきまでの敵意剥き出しから一変、強者に媚を売る下衆に成り代わったのだ。
「(こいつ…)」
白マロはチビマルを白い目で見ていた。しかし、生きていく上で必要なのは、チビマルや美由のような要領の良さなのかもしれない。
「あ、そうだった。もう1つ質問。」
ガイはチビマルに再び問いかけた。
「まだあるんすか?」
チビマルは首を傾げている。
「これが本当に最後の質問。」
「なんですかい?」
数秒の間の後、ガイは静かに言った。
「信用してもいいよな。」
「え…」
チビマルは一瞬、背筋が凍った。この時、チビマルは何故か、死を実感したからだ。ガイに、命を握られた気がした。
「あ、当たり前じゃないですか!俺たちは仲間ですぜ!」
ガイは数秒、チビマルの顔を見た後、微笑んだ。
「よかった。」
「…」
ガイの発言は白マロにはこう聞こえた。
〈裏切ったら殺しても良いよな〉
ガイは殺す事に否定的だった。だが、この交渉の鍵は死だ。
そんなガイを、白マロは理解できなかった。白マロにはガイが2人いるように見えていた。
「白マロ、チビマルの縄を切ってくれ。」
「…分かったよ。」
白マロは縄を切った。
「…でも、本当にいいんですか?縄を解いても。俺が裏切って寝込みを襲うかもしれないですぜ。もちろん、そんな事しませんけど。」
チビマルにガイ達を裏切るつもりなどない。しかし一応、チビマルはガイにそう問いかけた。
「俺はお前を信用した。さっきも言っただろ。」
そんなガイの返答に、目が点になった。
「こんな俺なんかを…?」
呆気に取られているチビマルに、白マロは言う。
「ガイがそう言ってるんだ。お前もガイを信用してやれ。」
「…」
チビマルはガイを見ていた。ガイは台所から出ようとしていた。
「んじゃ、また明日な。今日は疲れた。おやすみー。」
ガイは山口家のどこかの部屋へ行った。
「ワガハイも寝るか。」
白マロも行ってしまった。
「…」
チビマルはガイが言った発言を思い出していた。
〈お前を信用した。〉
「(信用してるなんて言われたの、久しぶりだな…)」
チビマルは生まれた時から野良猫として育ってきた。野良猫の世界は弱肉強食。騙し、騙されの世界。そんな野良猫の世界を生き延びていくために、チビマル自身も色々な猫達を騙し、裏切ってきた。そうしているうちに、いつしか自分を信用してくれる猫などいなくなった。
だから、ガイの『信用した』という言葉がただ単に嬉しかったのだ。
【廊下にて…】
ガイは真っ暗闇をまっすぐ歩いている。
「(真っ暗なのにある程度見えるな。さすが猫だな。)」
ガイが突き当りを曲がると、電気がついた部屋を見つけた。
「(誰か起きてんのか?)」
ガイはその部屋の襖を少し開け、中を覗いた。
「山口…?」
そこには、机に向かって勉強している山口の姿があった。
その時、何者かが背後からガイに話しかけてきた。
「何してる。」
ガイはビックリして振り返った。
「ビックリした…白マロか。」
「覗きか?お前、ご主人のことが好きなのか?」
「そんな趣味は無い。」
「ワガハイは好きだぞ。」
ガイと白マロは部屋の中の山口を見ている。
「アイツ何してんだ?まさか、勉強か?」
「その通り。勉強だ。」
それを聞き、ガイは少し驚いた。
「マジで…?あいつ、勉強なんかすんのか…?」
白マロは少し間を開けた後、話始めた。
「ご主人には夢がある。」
「ギャングスターか?」
「…ご主人は捨て子なんだ。」
「えっ…」
「ご主人は望まれずに生まれてきた人間。要らない子供だった。」
「…」
ギャングスター発言を取り消したいガイであった。
「男はご主人ができた事を知ると女と別れ、女もご主人を産んだらすぐに施設に預けた。」
「なんで、そんなこと…」
何故、猫のお前が知っているんだ、そうガイは問いかけた。
「夜、たまに泣いているんだ。ワガハイを抱きしめて…」
「…」
ガイは言葉が出ない。普段、あれだけおちゃらけている山口に、そんな悲しい過去があったなんて。ガイは、どう反応すれば良いかわからなかった。結果、ガイは別の質問を続けた。
「じゃあ、ここの老夫婦は誰なんだ?」
「ご主人を施設から引き取った人達、ご主人の育て親だ。2人には子供が産まれなかったらしい。」
すると、白マロは呆れたような表情で話し始めた。
「…なんだろうな。望まずに子を産む奴もいれば、望んでも産めない人間もいる…おかしな話だ。」
世の中の理不尽さ。それを理解できるのは猫も同じなのだろう。
ガイは質問を続ける。
「もしかして、山口がこんな時間まで勉強してるのは、なにか理由があるんじゃないか?」
「あぁ。ご主人は育て親であるあの2人に恩返しがしたいらしい。」
「恩返し?」
ガイは首を傾げた。
「老夫婦が自分を施設から引き取って幸せにしてくれたように、今度は自分が世界中の孤児達を幸せにしてみせるって。」
「そんなの…」
できる訳ない。そう言いかけたガイだったが、途中で発言をやめた。しかし、白マロにはその続きは言わなくても理解できた。
「そんな事わかってる。けど、誰もやめろなんて言えないだろ。」
「…」
ガイは無言で白マロから目を逸らした。
「おそらく、ご主人だってわかってる。世界中の子供達を助けることなんてできないんだ…」
白マロは少し悲しそうだ。自分の主人がどれだけ努力しても、それが完全に叶う願いではないと知ったから。
その時、ガイは言った。
「優しさは伝染する。」
「えっ…?」
白マロは唐突なガイの発言に首を傾げた。
「山口のその1人だ。心優しい老夫婦にうつされた優しさの1人…」
ガイは白マロに質問した。
「もし、山口が助けた子供達も、山口と同じことを考えたら…?」
「あっ…」
白マロはガイの言っている意味を理解した。
「時間はかかるが、徐々にそういう子供達は減っていくんじゃないかな。」
「そうか…ご主人はそんな風に考えて…」
白マロは納得の表情をしている。
「…まぁ、そこまで考えてるかどうかはわからないけどな。」
その時、ガイは襖を大胆に開けた。
「行ってやれ。」
山口が襖の方を見た。
「あ、白マロ!帰ってたのか!心配したんだぞ。」
白マロは山口に飛びついた。
「おいおい、どうした?今日はやけに甘えん坊将軍だな。」
山口は白マロの頭を撫でている。
「(伝染するのが優しさだけならいいんだけどな…)」
ガイはその場から離れた。
山口家の台所には、白マロがいつでも出入りできる猫専用扉がある。ガイと白マロはチビマルを連れて、そこから山口の家へ入っていった。
【台所にて…】
チビマルは寝ている。それをガイは蹴り起こした。
「あたッ…」
チビマルの体は、テーブルの脚に木のロープでくくりつけられている。
「起きたか。」
白マロがチビマルに話しかけた。チビマルは即座に自身の置かれた状況を理解した。
「ま、まさか…俺を殺す気じゃないだろうな…⁈」
「お前の返答次第じゃそうなるかもしれないな。」
ガイにその気はない。しかし、そう答える事に意味がある。ガイはチビマルを脅した。
「た、頼む!なんでもするから許してくれ!」
チビマルは必死に命乞いをしている。そんなチビマルに、ガイは質問を始めた。
「まず、お前のタレントはなんだ?」
「お、俺のタレントは『靴操』。靴を操る能力だ。操作条件は、操作したい靴に触れること。解除条件は、俺がタレントを解くか、操作中の靴が俺から半径50メートルよりも外に出ること。一度に何個でも操作できる。」
「ヤブ助のタレントは?」
「俺も詳しくはわからないが、人間を猫に、猫を人間に変える能力だ。発動条件はおそらく、対象者に触れること。」
ガイは白マロの方を向いた。
「間違いないか?」
「あぁ、おそらく本当だ。実際、ワガハイもそのぐらいしかわからん。」
ガイはチビマルの方を向き直した。
「じゃあ、次。あの時、俺と初めて会ってから、ヤブ助と会ったか?」
「いや、会ってない。会ったのは路地裏にいた猫共だけだ。あ、でも、あの猫共はヤブ助を見たって言ってた。」
「路地裏にいた猫達にこの件について話したか?」
「いや、ヤブ助を見なかったかと聞いただけだ。その後、白マロが来たら俺とヤブ助は見なかった事にしろって言ったんだ。」
ガイは顎に手を当て、思考し始めた。
「(…って事は、白マロの裏切り計画を知ってるのは、俺たち3人だけか。)」
ガイは再び、チビマルに話しかけた。
「最後に質問。俺たちの仲間になる気はないか?」
「「ッ⁈」」
ガイの意外な発言に、チビマルはもちろん、白マロも驚嘆した。
「な、何言ってるガイ!コイツはワガハイ達を殺そうとしたんだぞ!敵なんだぞ!裏切られるかもしれないんだぞ!」
「わかってるよ。けど、3対1の方がいいに決まってる。」
ガイの言う事は最もだ。2対1より3対1だ。
「ワガハイは反対だぞ。もし、仲間になったとしても信用できない。」
しかし、白マロの言い分もわかる。直前でチビマルが裏切り、ヤブ助につく可能性だってある。
「コイツはヤブ助の仲間だった。だけど自分の命が危なくなったら、コイツは仲間であるヤブ助を裏切ってまで助かろうとした奴だ。」
「なおさら信用できないじゃないか。」
白マロの言う通りだ。敵に捕まった途端、仲間の情報を晒してでも助かろうとする。今まさに裏切り行為をした奴を信用しろと言う方が無理だ。
しかし、ガイは続けた。
「ずるい奴。つまり、コイツは自分に正直なんだ。味方を裏切ってまで自分を守りたい、生き延びたいとする。そんなお前なら、今、ヤブ助と俺らのどっちについた方が良いか、わかるよな。」
ガイはチビマルを見た。
「…」
チビマルはガイを見た後、下を向き、思考した。
「(ヤブ助についたとしても2対2。生き延びる確率は五分。この戦いを放棄した場合、もしヤブ助が勝てば、きっと裏切り者の俺は奴に殺される…どちみち、俺はヤブ助が死なないと死ぬ…)」
考え込むチビマル。答えを待つガイ。
一方、白マロはガイを見ていた。ガイのことを『怖い』と思いながら。
「(ガイ…お前は良い奴だ。だけど、正直お前が怖い。お前がさっき言った『仲間にならないか』。チビマルの性格を見抜いた上での交渉…これはもはや、脅迫じゃないか…)」
その時、ガイはチビマルに話しかけた。いや、決断材料を与えたのだ。
「どうする?少なくとも、お前が仲間になってさえくれれば、俺たちは仲間であるお前を守ってやれるぞ。」
チビマルは再び考え込む。
「(ヤブ助は仲間を守るほどお人好しじゃない。コイツらなら…)」
チビマルは決断した。
「わかった。俺はお前達につく。まぁ、前からヤブ助のことは気に入らなかったしな。それに、何より3対1ってのが良い。」
「決まりだな。」
次の瞬間、チビマルは豹変した。
「これからよろしくお願いしますよ!ガイの兄貴!」
さっきまでの敵意剥き出しから一変、強者に媚を売る下衆に成り代わったのだ。
「(こいつ…)」
白マロはチビマルを白い目で見ていた。しかし、生きていく上で必要なのは、チビマルや美由のような要領の良さなのかもしれない。
「あ、そうだった。もう1つ質問。」
ガイはチビマルに再び問いかけた。
「まだあるんすか?」
チビマルは首を傾げている。
「これが本当に最後の質問。」
「なんですかい?」
数秒の間の後、ガイは静かに言った。
「信用してもいいよな。」
「え…」
チビマルは一瞬、背筋が凍った。この時、チビマルは何故か、死を実感したからだ。ガイに、命を握られた気がした。
「あ、当たり前じゃないですか!俺たちは仲間ですぜ!」
ガイは数秒、チビマルの顔を見た後、微笑んだ。
「よかった。」
「…」
ガイの発言は白マロにはこう聞こえた。
〈裏切ったら殺しても良いよな〉
ガイは殺す事に否定的だった。だが、この交渉の鍵は死だ。
そんなガイを、白マロは理解できなかった。白マロにはガイが2人いるように見えていた。
「白マロ、チビマルの縄を切ってくれ。」
「…分かったよ。」
白マロは縄を切った。
「…でも、本当にいいんですか?縄を解いても。俺が裏切って寝込みを襲うかもしれないですぜ。もちろん、そんな事しませんけど。」
チビマルにガイ達を裏切るつもりなどない。しかし一応、チビマルはガイにそう問いかけた。
「俺はお前を信用した。さっきも言っただろ。」
そんなガイの返答に、目が点になった。
「こんな俺なんかを…?」
呆気に取られているチビマルに、白マロは言う。
「ガイがそう言ってるんだ。お前もガイを信用してやれ。」
「…」
チビマルはガイを見ていた。ガイは台所から出ようとしていた。
「んじゃ、また明日な。今日は疲れた。おやすみー。」
ガイは山口家のどこかの部屋へ行った。
「ワガハイも寝るか。」
白マロも行ってしまった。
「…」
チビマルはガイが言った発言を思い出していた。
〈お前を信用した。〉
「(信用してるなんて言われたの、久しぶりだな…)」
チビマルは生まれた時から野良猫として育ってきた。野良猫の世界は弱肉強食。騙し、騙されの世界。そんな野良猫の世界を生き延びていくために、チビマル自身も色々な猫達を騙し、裏切ってきた。そうしているうちに、いつしか自分を信用してくれる猫などいなくなった。
だから、ガイの『信用した』という言葉がただ単に嬉しかったのだ。
【廊下にて…】
ガイは真っ暗闇をまっすぐ歩いている。
「(真っ暗なのにある程度見えるな。さすが猫だな。)」
ガイが突き当りを曲がると、電気がついた部屋を見つけた。
「(誰か起きてんのか?)」
ガイはその部屋の襖を少し開け、中を覗いた。
「山口…?」
そこには、机に向かって勉強している山口の姿があった。
その時、何者かが背後からガイに話しかけてきた。
「何してる。」
ガイはビックリして振り返った。
「ビックリした…白マロか。」
「覗きか?お前、ご主人のことが好きなのか?」
「そんな趣味は無い。」
「ワガハイは好きだぞ。」
ガイと白マロは部屋の中の山口を見ている。
「アイツ何してんだ?まさか、勉強か?」
「その通り。勉強だ。」
それを聞き、ガイは少し驚いた。
「マジで…?あいつ、勉強なんかすんのか…?」
白マロは少し間を開けた後、話始めた。
「ご主人には夢がある。」
「ギャングスターか?」
「…ご主人は捨て子なんだ。」
「えっ…」
「ご主人は望まれずに生まれてきた人間。要らない子供だった。」
「…」
ギャングスター発言を取り消したいガイであった。
「男はご主人ができた事を知ると女と別れ、女もご主人を産んだらすぐに施設に預けた。」
「なんで、そんなこと…」
何故、猫のお前が知っているんだ、そうガイは問いかけた。
「夜、たまに泣いているんだ。ワガハイを抱きしめて…」
「…」
ガイは言葉が出ない。普段、あれだけおちゃらけている山口に、そんな悲しい過去があったなんて。ガイは、どう反応すれば良いかわからなかった。結果、ガイは別の質問を続けた。
「じゃあ、ここの老夫婦は誰なんだ?」
「ご主人を施設から引き取った人達、ご主人の育て親だ。2人には子供が産まれなかったらしい。」
すると、白マロは呆れたような表情で話し始めた。
「…なんだろうな。望まずに子を産む奴もいれば、望んでも産めない人間もいる…おかしな話だ。」
世の中の理不尽さ。それを理解できるのは猫も同じなのだろう。
ガイは質問を続ける。
「もしかして、山口がこんな時間まで勉強してるのは、なにか理由があるんじゃないか?」
「あぁ。ご主人は育て親であるあの2人に恩返しがしたいらしい。」
「恩返し?」
ガイは首を傾げた。
「老夫婦が自分を施設から引き取って幸せにしてくれたように、今度は自分が世界中の孤児達を幸せにしてみせるって。」
「そんなの…」
できる訳ない。そう言いかけたガイだったが、途中で発言をやめた。しかし、白マロにはその続きは言わなくても理解できた。
「そんな事わかってる。けど、誰もやめろなんて言えないだろ。」
「…」
ガイは無言で白マロから目を逸らした。
「おそらく、ご主人だってわかってる。世界中の子供達を助けることなんてできないんだ…」
白マロは少し悲しそうだ。自分の主人がどれだけ努力しても、それが完全に叶う願いではないと知ったから。
その時、ガイは言った。
「優しさは伝染する。」
「えっ…?」
白マロは唐突なガイの発言に首を傾げた。
「山口のその1人だ。心優しい老夫婦にうつされた優しさの1人…」
ガイは白マロに質問した。
「もし、山口が助けた子供達も、山口と同じことを考えたら…?」
「あっ…」
白マロはガイの言っている意味を理解した。
「時間はかかるが、徐々にそういう子供達は減っていくんじゃないかな。」
「そうか…ご主人はそんな風に考えて…」
白マロは納得の表情をしている。
「…まぁ、そこまで考えてるかどうかはわからないけどな。」
その時、ガイは襖を大胆に開けた。
「行ってやれ。」
山口が襖の方を見た。
「あ、白マロ!帰ってたのか!心配したんだぞ。」
白マロは山口に飛びついた。
「おいおい、どうした?今日はやけに甘えん坊将軍だな。」
山口は白マロの頭を撫でている。
「(伝染するのが優しさだけならいいんだけどな…)」
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