障王

泉出康一

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第2章『ガイ-過去編-』

第20障『ケジメ』

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【翌日、ファミレスにて…】

テーブルにはガイと山口、そして、人間化した白マロとヤブ助がいた。
ガイは山口に事情を説明していた。

「へーそんな事があったのか…いいな~!お前ばっかりバトルしてよ!」
「いいわけないだろ。銃向けられたり、腹にナイフ刺さったり、猫にされたり…」
「大変だな。お前。」

山口は他人事だ。
すると、ガイは白マロとヤブ助に話しかけた。

「こっちの話は終わった。次はお前らだ。人間の姿で、一体俺に何のようだ?」

すると、白マロは堂々とした口振りで話を始めた。

「ワガハイはこれから人間として生きる!」
「は?」

ガイは首を傾げた。

「お前、知ってたか!ご主人はオスなんだぞ!」
「うん。そりゃまぁ…」
「そして、ワガハイはメスだ。」
「うん。」
「って事はだ、ワガハイが人間になれば、ワガハイはご主人の妻になれるという事だ!」

白マロは誇らしげにガイに言い放った。そんな白マロに続けて、山口も誇らしげに話し始めた。

「どうだ!ガイ!羨ましいだろ!」
「…お似合いなんじゃない。」

ガイは対応に困っている。いや、面倒くさがっている。
しかし、そんな心無いガイの発言に、白マロは上機嫌に答えた。

「さすがガイ!わかってるぅ~!」

コイツこんなキャラだっけ。ガイはそう思った。
するとガイは、今度はヤブ助の方に話しかけた。

「ヤブ助。お前の話は何だ。」

ガイの問いかけに、ヤブ助は静かに話し始めた。

「俺はこの街を出る。後の事はチビマル任せることにした。負けた俺とケンケンはもうこの街に居場所はない。電車に乗って田舎の山奥で猫として暮らすことにするよ。」

どうやら、ガイ達との戦いに負けた事で、他の猫達から居場所を追われた、いや、これから追われるであろう事を承知しての決断だろう。

「ケンケンは?」
「奴はもう何処かへ行っちまったよ。」
「そうか…」

その時、ガイはある事に気がついた。

「でも、チビマルがこの街のボスならなんとかしてくれるんじゃないか?」

そう。後の事はチビマルに任せる、それはつまり、この街の次の猫王はチビマルになるという事。知り合いのチビマルに頼めば、ヤブ助の居場所などいくらでも確保できる。
しかし、ヤブ助は首を横に振った。

「ケジメはちゃんとつけねぇとな。」
「…」

ケジメ。その言葉に、ガイはある事を思い付いた。

「ヤブ助。俺ん家に来ないか?」
「「「えっ⁈」」」

ガイの発言を聞いたヤブ助、ひいては白マロや山口も驚きを露わにした。そんな中、ガイは話を続ける。

「もちろん、ペットとしてじゃなくて使用人として。この前の戦いでたくさん犬や猫飼っちゃったから、世話係が欲しかったんだ。」

そう。今、ガイの家には先日のデパートで協力させた犬猫達が20匹以上もいた。家で飼ってやるという約束だったからだ。ガイはその飼育役にヤブ助を選んだのだ。ヤブ助なら、動物の言葉がわかる。これ以上の適任者はいないと、ガイは判断したのだ。
そんなガイに向けて、ヤブ助は尋ねた。

「でも、俺がまたお前の命を狙うかもしれないぞ…」

ヤブ助は元敵。ガイに股間を潰された恨みを晴らす為、ガイに復習するかも知れない。
しかし、ガイはまっすぐ、ヤブ助の目を見て答えた。

「信用するよ。チビマルに教えられたからな。」
「でも…」

さんざんガイに迷惑をかけておいて、ひいては殺そうとした。そんな相手が今、居場所を提供してくれている。ヤブ助は思うところがあるようだ。
そんな思いを巡らせ、言葉を詰まらせるヤブ助に、ガイは言った。

「俺たちに迷惑かけたんだから、責任とってちゃんと奉仕しろよ。それもケジメってやつだろ。」

ガイの理屈は正しい。そんなガイに対して、ヤブ助は最後の確認に出た。

「いいのか…?俺なんかで…」
「うん。」

ガイは間を置く事もなく、即答した。

「すまない…恩に着るッ…!」

ヤブ助はガイに深々と頭を下げた。

【数十分後、ファミレス前にて…】

ガイ達がファミレスの中から出てきた。

「んじゃ、帰るわ。」

ガイは山口と白マロに言った。

「おう!じゃあ、また明日な!」

山口はそれに返答した。しかし、ガイはその返答に疑問を抱いた。

「なんで明日会う事になってんだよ。」

そう。今は夏休み。学校で会う事はない。という事はつまり、『遊びに行こうぜ!』という意味であろう。ガイ自身、それを理解はしていたが、敢えて理由を聞いた。

「会わねーのか?暇だろ?」
「俺、明日から始業式の2日前まで、ずっと母さんの実家にいる予定だから。」
「まじかよ…ちぇ…」

ガイは残念そうな山口に言った。

白マロ未来の奥さんとイチャイチャしとけよ。」

すると、ガイの発言を聞いた山口と白マロは嬉しそうに赤面した。

「おまっwwや~め~ろ~よ~ww」
「気が早いぞ~ガイ~ww」

2人は嬉しそうにニヤニヤと笑っている。

「「…」」

2人のバカップル振りに少しイラッと来たガイとヤブ助であった。
ガイは、そんな2人に背を向け、手を振った。

「じゃーな。」

ガイはその場を去り、ヤブ助はその後をついて行こうとした。
するとその時、白マロは叫んだ。

「ちょっと待った!」

ガイとヤブ助は白マロの呼び止めに足を止めた。

「なんだよ。まだなんかあんのか。」

ガイは振り返った。そこには、真剣な表情をした白マロがいた。

「ずっとお礼言うの忘れてた。今回、お前がいなければワガハイは死んでいた。ワガハイに協力してくれてありがとう!感謝してるぞ!」

白マロからの純粋な感謝の言葉。ガイは嬉しかった。

「どー致しまして。相変わらず、上からだな。何様だよ。」
「ワガハイは白マロである。」

ガイは少し微笑んだ。

「知ってる。バイバイ。」

ガイは家の方へと歩いていった。そんなガイに向けて、山口は叫んだ。

「じゃあな!ガイ!また今度な!」

歩みを進めるガイ。しかし、ヤブ助は踵を返して白マロに話しかけた。

「白マロ、悪かったな…」

ヤブ助は白マロに謝罪した。
今回の件、ヤブ助の動機はただ一つ。白マロと一緒にいたかった。昔のように。ただそれだけだった。

「別にいいよ。」

白マロもそれをわかっていたようだ。
その時、ガイはヤブ助を呼んだ。

「ヤブ助、そんな奴らほっといて早く帰るぞ。」

それを聞いた山口は声を荒げた。

「そんな奴らってなんだよ!」

腹を立てる山口。一方、白マロはヤブ助に目配せした。

「ほら、早く行ってこい。」
「あぁ…」

ヤブ助はガイの後を追った。

「俺たちも帰るか。」
「うん!」

山口達も自分たちの家へ帰った。

【夕方、障坂邸にて…】

「ただいまー。」

ガイは玄関扉を開け、屋敷の中に入った。
するとそこには、メイドの村上がガイを出迎えてくれていた。

「おかえりなさいませ。」

その時、村上はガイの背後にいる人間姿のヤブ助に気がついた。

「お友達ですか?」
「ううん。新しい使用人。」

ガイはヤブ助を前に出した。

「どうも。ヤブ助です。」

ヤブ助は村上にお辞儀した。村上は、ガイが唐突に新しい使用人を連れてきた事に困惑しながらも、ヤブ助にお辞儀をした。
ヤブ助の挨拶の後、ガイは村上に言った。

「親父に合わせてよ。戸籍も経歴もないから即採用だと思うけど。」

するとその時、通路の奥から執事長の十谷が現れた。

「いけませんぞ!そんな何処の馬の骨ともわからない者を!危険です!」

どうやら、ヤブ助に戸籍がない事を耳にし、ヤブ助を危険分子だと判断したようだ。
しかし、ガイは十谷に言い返した。

「元暴力団No.2が何言ってんだよ。」

それを聞いた十谷は慌て始めた。

「ガイ様!それは言わないお約束ですよ!」

そう。この屋敷に来る前、十谷はとある指定暴力団の若頭だったのだ。
それが初耳だった村上は十谷に尋ねた。

「それホントですか⁈」

十谷は村上から目線を逸らした。

「む、昔の話ですよ…」

十谷は頬を指で掻いている。気まずい事がある時の十谷のクセのようだ。
すると再び、十谷は声を荒げ、ガイに尋ねた。

「それより!そいつは何者ですか⁈」

ガイは至って冷静に答える。

「猫だよ。見せてやれ、ヤブ助。」

ガイの合図でヤブ助はPSIを身に纏った。

「『人間化猫化キャットマン』!!!」

そして、ヤブ助は猫の姿になった。

「「んなッ⁈」」

村上と十谷は驚愕した。そんな2人に対し、ガイは説明を続ける。

「まぁ、超能力を使える猫って感じ。戸籍が無いのは野良猫だからだよ。」

その時、猫の姿のヤブ助はガイに尋ねた。

「もういいか?」
「うん、いいよ。」

ヤブ助は人間の姿に戻った。それと同時に、ガイは1つの疑問を抱いた。

「俺、今は人間の姿なのに、猫のお前の言葉がわかったぞ…?」

先程、ガイに『もういいか?』と尋ねた時のヤブ助の姿は猫だった。にも関わらず、人間の姿のガイはヤブ助の言葉が理解できたのだ。これは一体どういう事なのか。

「俺のタレントで一度でも猫か人間になったら、両方の言葉がわかるようになるんだ。そういうタレントでもある。ちなみに、猫になれば、犬やウサギや馬なんかの言葉も理解できるようになるぞ。」
「なるほど。」

ガイは納得した。一度でも猫になってしまえば、猫や犬の声を理解できるようになる。先程のヤブ助の猫語を理解できたのはその為だったのだ。
その時、十谷は口を開いた。

「コレがタレント…」

その言葉を聞き、ガイは十谷に喰い気味に尋ねた。

「十谷、知ってたのか?」
「はい。以前、旦那様から聞いた覚えがあります。」

ガイは驚いた。ハンディーキャッパーである自分さえ、いや、障坂巌の息子である自身でさえ、タレントを知ったのはつい3~4ヶ月前なのだから。

「(親父は何で、俺にその事を話さなかったんだ…?)」

その時、ガイは以前、父親に言われた言葉を思い出した。

〈人は考える事をやめれば『成長』はしなくなる。悩め。考えろ。そして『理解』しろ。その為なら、俺はお前へのどんな奉仕でも惜しまない。〉

「(自分で理解…か…)」

父親が何故、ガイにタレントの事を教えなかったのか。それはガイの『成長』の為。ガイにはそれが理解できた。しかし、父親は一体、何がしたいのか。それだけは未だにわからなかった。

【夜、障坂邸にて…】

その夜、ヤブ助は親父の面接に合格し、見事、障坂家の使用人として雇われた。
障坂巌の採用基準、ガイがわかってる限りそれは2つだ。1つは障坂巌に弱みを握られているパターン。十谷がそれだ。弱みを握られている為、障坂巌に反抗できない。それが理由だ。
2つ目は戸籍や経歴、人間関係が全くないパターン。今回のヤブ助や、村上がこれに当てはまる。戸籍がない人間、犯罪で使うにはうってつけの人間。また、人間関係が全く無い、コレは死んでもバレないとの理由。

【ガイの部屋にて…】

ガイはベッドの上でゲームをしている。
その時、村上がガイの部屋のドアをノックした。

「ガイ様~。明日、お母様のご実家に行かれるんですよね。ご用意はできましたか?」

ドア越しに村上はガイに話しかけている。

「うん。大丈夫。」
「いや、大丈夫とかじゃなくて、用意出来ましたかー?」

少し間が空いた後、ガイは答えた。

「大丈夫。」
「だから、大丈夫とかそういうのじゃないんですって!」

村上がドアを開け、ガイの部屋に入ってきた。

「あ…」

ベッドの上でゲームをしていたガイ。しかし、村上が部屋に入ってきたのを見て、ゲーム機を布団の中に隠した。
村上は部屋の中を見て声を荒げた。

「なんにも用意してないじゃないですか!」

ガイの部屋は綺麗だった。整理整頓が行き届いた部屋。しかし、そこに帰省の用意の跡は見えなかった。

「今すぐ用意してください!」

ガイは布団の中に隠したゲーム機をチラチラ見ている。どうやら、この状況でもゲームを続けているようだ。
するとその時、村上はガイが布団の中に隠したゲーム機を取り上げた。

「あぁ!ちょっと!今はヤバイって!操竜!操竜してるから!」
「用意できたら、操竜させてあげます。」
「無理無理!間に合わない!」

ヤブ助は通路から、ガイと村上のやり取りをこっそり見ている。

「(コイツ、家ではこんななのか…)」

【一方その頃、山口家にて…】

山口は机に向かって勉強をしていた。その様子を、白マロは静かに応援しながら眺めていた。

「(頑張れ、ご主人!!!)」

山口は熱心に勉強している。ガイとはえらい違いだ。

【とあるお笑い番組にて…】

「そろりそろり!」
「ど~ん~だ~け~!!!」
「わっはっはっはー!」
「ま~ぼ~ろ~し~!」
「こ~れ~に~て~!ハンディーキャット編!お~し~ま~い~!お~し~ま~い~!」
「ぱ~い~ず~r
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