障王

泉出康一

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第2章『ガイ-過去編-』

第24障『知らずの記憶』

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【8月26日、伊寄村の北端、森の中にて…】

あまり日の届かない森の奥深く。ガイは巨大クマのハンディーキャッパー、竹本と戦闘を続けていた。

次の瞬間、辺りに血飛沫が散る。その出血量は半端なものではない。動脈が切断され、常人ならば数分、いや、数秒たらずで死に至るものだ。

ガイは死を覚悟した。この血は間違いなく自分のものだからだ。ガイは竹本の攻撃を回避できなかったのだ。

「「えっ………」」

ふと、ガイと竹本は同時に困惑の声を上げた。
その数秒後、地面に巨大な物が落下する音がしな。そう。竹本の腕だ。

「うっぐッッがァァァァアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァア!!!?!?!」

竹本は右腕を切断された痛みにより、苦痛の叫びを上げた。

「(なんだ…何が起こった…)」

なんと、ガイは無意識の内に竹本の振り下ろされた右腕を切断していたのだ。
何故、こんな事が起こったのか。それは、自己に対する驚異的なまでの防衛本能が働いた。そう考える他ない。しかし、実際はそうではなかった。

「コロスッ!!!!!」

しかし、竹本にとってそんな事はどうでもいい。竹本は今、自身の右腕を切り落とされた怒りに身を任せ、ガイを殺そうとしている。

「(来るッ…!)」

ガイの方も、いったん考えをやめ、戦いに集中した。
すると次の瞬間、竹本はガイに向かって走り出した。先程と同じ超スピード。しかし、今回のガイはそれを回避した。どうやら、ガイはたったの一回で、竹本のスピードに順応したようだ。
そして、ガイはさっき竹本に投げつけた金槌を拾い、またもや、木の上まで飛び上がった。

「逃げんジャねェェェェェエ!!!!!」

竹本はガイが乗っている木の方へ走ってきた。
それと同時に、ガイはPSIを纏い、車に向かって金槌を投げた。車からはガソリンが溢れている。

「ウガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァア!!!!!」

竹本は木をなぎ倒し、木から落下したガイに馬乗りになった。

「(やばい…!)」

次の瞬間、竹本はガイの左腕を殴りつけた。

「あ"あ"ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!」

ガイは苦痛の叫びを上げた。どうやら、左腕の骨は完全に砕けてしまったようだ。

「嬲り殺シテやルッ!!!!!」

その時、今度は右腕を破壊しようとする竹本に向かって、ガイはポケットからカッターを取り出し、竹本の目に突き刺した。

「ヌグォォオ!!!?!?!」
ガイはカッターの芯を竹本の目の中で折り、もう片方の目も突き刺した。

「グヌァァァァァァァァァァァアァアァァァァア!!!?!?!」

竹本は両目を抑え、苦しみもがいている。その隙に、ガイはPSIを身に纏い、竹本の下から抜け出した。
しかし、抜け出す際に右肩を引っ掻かれてしまった。

「うぅッ…!」

右肩の傷は深く、大量に血が流れ出ている。

「どォこダァあ!!!どぉこニイるぅうゥ!!!」

竹本はガイに両目をやられた為、手探りであたりを探っている。
ガイは車の方へ行き、車内からライターを手に入れた。そして、ガイは車の屋根を叩いて、音を立てた。

「そぉこォかァァァァア!!!!!」

音を聞いた竹本は猛ダッシュで車の方へ突っ込んできた。
ガイは木の上まで飛び上がり、それを回避した。木の下では竹本が車に激突している。

「クソガァ!!!何処ニいル!!!!!」

ガイはライターの火をつけ、木の上から竹本に投げつけた。

「ヌグガァァァァアァアァアァアァアァアァァァァア!!!!!!」

竹本の体には車から溢れたガソリンが付着していた。その為、竹本は火だるまとなった。
その時、ガイはその場から逃げ出した。車に引火したのに気づいたからだ。

そして次の瞬間、車が爆発した。竹本はその爆発を間近に受けた。きっと無事では済まない。
その時、ガイは爆発に巻き込まれない所まで避難していた。

「ハァ…!ハァ…!ハァ…!」

左腕の骨折と右肩の出血。さらにはPSIの消費。ガイの疲労はピークに達していた。今すぐにでもヤブ助達を追って、村まで行きたいところではあるが、体がいう事を聞かなかったのだ。

「(少し…休憩するか……)」

木の陰に座ろうとしたその時、ガイはとんでもないモノを目の端に捉えた。

「なッ…⁈」

ガイは振り返った。するとそこには、体長10メートルを超える竹本の姿があった。
この時、ガイは理解した。コレが竹本のタレント。自身の体を巨大化させる能力だという事に。
しかし、竹本は両目を潰されていた為、ガイの姿を取られられずにいた。竹本は手当たり次第に森の木々を破壊し続けている。

「(両目を潰しておいて正解だった。けど…)」

その時、ガイのすぐ近くの木々が、竹本の腕一振りで吹き飛んだ。

「(このままココに居たらまずい。早く逃げないと…)」

ガイは森から出る為に走り出そうとした。しかし次の瞬間、ガイは地面に倒れ込んでしまった。
先程も言ったが、ガイの疲労はピークに達していた。本来なら気を失っているレベルだ。しかし、ガイは気力と危機感でなんとか持ち堪えている状態だった。

「(動け…!早く…逃げろ…!)」

自分の体に鞭を打ち、ガイはなんとか立ち上がった。

「ハァ…!ハァ…!ハァ…!」

息は荒く、足は震え、視界もぼやけている。しかしガイは、森の出口に向かって歩き続けた。帰らねばならない理由があったから。

「(約束したんだ…絶対帰るって…)」

3人との約束。自身を心配してくれる十谷の為。信じてくれた村上とヤブ助の為。ガイは何としてでも帰らねばならなかった。例え、どんなに傷を負っていたとしても。

【数分後、森の出口付近にて…】

ガイは森の出口前まで辿り着いた。

「やった……」

森を抜けられる。しかし、安堵した束の間、ガイは妙な違和感を覚えた。

「(そういえば…さっきから静かすぎる…)」

そう。数分前、巨大化した竹本は手当たり次第に森の木々を破壊していた。当然、騒音が辺りに響き渡る。しかし、今は音一つない。
ガイは振り返った。

「へぇ。コレがPSIって奴か。」
「ッ⁈」

なんと、ガイの背後には通常サイズの竹本が立っていたのだ。

「キミ、ハンディーキャッパーだったんだね。僕と同じだぁ~。」

次の瞬間、竹本はPSIを身に纏い、爪でガイの腹部を切り裂いた。

「がはッ…!!!」

竹本の爪は背骨をも切断し、ガイの体は上半身と下半身に分けられた。
ガイは地面に倒れた。

「僕のPSIは感じにくいらしいね。そのせいで、僕も今までPSIとかわからなかったんだよ。」

PSIは波動性のエネルギー。つまり、波長がある。そして、竹本のPSIは波長が通常のハンディーキャッパーのPSIとは少し違う。そうなるように、竹本は作られたのだ。ガイが竹本のPSIを感知できなかったのはその為である。

「まぁいいや。キミ、どうせ死ぬもんね。」

胴体を切断されたガイに、まだ意識はあった。しかし、それも時間の問題だ。
薄れゆく意識の中、ガイが最後に思い返したのはあの記憶。

〈今は2012年よ。〉
〈連合って知ってるか?〉
〈僕はリアム・エルバイド。〉

身に覚えの無い記憶。しかし、ひどく懐かしい。目を閉じれば、そこに、この記憶の答えがある。

「(ダメ…だ……俺は…まだ……死ね……な………)」

ガイは意識を失った。

〈仲間になれ。障坂。〉
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