障王

泉出康一

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第2章『ガイ-過去編-』

第28障『あの日の  』

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【地下研究所、海洋生物保管室にて…】

キノコ高田に寄生されたガイが、海洋生物保管室へと入ってきた。

「なぁ、お前さ、自分で宿主から離れる事とかできんの?」

ガイは頭頂部に寄生しているキノコ高田に話しかけた。

「できるけどやらないよ?」
「そうか…」

ガイは自分の意思とは無関係に、バケモノと化した海洋生物がいる巨大なプールへと歩いていく。

「…」

これからバケモノのプールに落とされるというのに、ガイは落ち着いている。
ガイには作戦があった。寄生中の高田はおそらく、宿主から酸素供給を行なっている。つまり、ガイが海洋生物からの攻撃に耐え抜けば、いずれはガイの血中酸素濃度が減少し、たまらず高田はエラ呼吸が可能な海洋生物達に宿主を乗り換える。幸い、PSIの操作は高田の対象外。ガイはありったけのPSIを体に纏い、防御力を上げ、海洋生物達の猛攻に耐えるつもりだ。
しかし、この策は賭けである。果たして、今のガイのPSIでバケモノと化した海洋生物の達攻撃を防ぎ切れるのか。もし、それに耐え抜いたとして、高田がガイから離れた後、ガイは自力で陸に上がる事はできるのか。ガイは落ち着いていたのではない。覚悟を決めていたのだ。

「覚悟を決めているところ悪いが…」

その時、高田が喋り始めた。

「私はキミと、根比べをするつもりはない。」
「えっ…」

ガイは驚いた。根比べ、それはつまり、高田がガイから離れるまでの攻防。何故、高田はそれを。

「私はキミの脳に寄生しているんだ。」

それを聞いたガイの表情が一変した。

「思考を読めないはずがないだろ。」

そう。高田は思考を読み、ガイの作戦を全て知っていたのだ。
しかし、高田がそれを知ったところで、結局は根比べになる。最悪、両者が死ぬ事も。

「キミの作戦には穴がある。」
「なに…⁈」

「よく考えてみなよ。プールあの中にいるのは館林が作った実験体サンプル達。つまり、私のタレント支配下にあるという事だ。」
次の瞬間、高田はガイの体を操り、プールの中へと飛び込んだ。

【水中にて…】

水中にはバケモノと化した海洋生物達が並んでいた。その並びには、どこか知性が見られる。
そう。奴らは高田のタレント『支配プログラム挿入モンスターマスター』により、高田になっていたのだ。
その時、水中の高田バケモノ達は体から針のようなものを突出させた。

 「(しまった…!)」

ガイがそう思った時には、もう遅かった。あの針に背中を刺されれば、脊髄に高田のPSIを流されて、ガイは高田になってしまう。そうなってしまえば、キノコ高田はもうガイに寄生する必要はなくなり、陸へと上がるだろう。『根比べをしない』とは、こういう事だったのだ。
ガイはその事を見落としていた。ガイの策はやるまでもなく、無意味に終わったのだ。

「(くそッ…!)」

ガイは必死に体を動かそうとした。しかし、キノコ高田に寄生されている今、ガイの体の主導権はキノコ高田にある為、指1本たりとも動かせない。
その時、1体の高田バケモノがガイの背中に針を刺した。

「ッ…!!!」

その高田はガイの脊髄にPSIを流し込んでいる。

「(まずい…意識が……)」

徐々に、ガイの意識が高田に侵食されていく。このまま、ガイは何も抵抗できず、新たな高田として終わってしまう。ガイは自身の人生の死を覚悟した。
するとその時、ガイの頭に声が響いてきた。 
 
〈ココで死なれたら困るなぁ。〉

聞き覚えのない声。しかし、どこかひどく懐かしい。まるで、ずっと前から知っていたような。
次の瞬間、ガイの脊髄に針を刺した高田バケモノの体が破裂した。
それを見たキノコ高田含め、他の高田バケモノ達は驚嘆した。また、ガイ自身も何が起こったかわかっていないようだ。

「(あれ…体が動く…⁈)」

その時、ガイはキノコ高田が寄生しているにも関わらず、何故か自身の体が動かせるようになっていた事に気づいた。
そして、ガイはPSIを身に纏い、高田バケモノ達を素手で倒していく。

「(な、何故⁈何故なんだ⁈何故、コイツは動ける⁈)」

キノコ高田はガイの操作が制御できず、焦っている。
その時、キノコ高田はガイの頭から離れ、陸へと向かった。

「(わからない…だが今は追求より対処!この水槽のフタを閉じて、奴を溺死させる!そうすれば、体も後で回収できる!ハンディーキャッパーの実験体はなんとしても欲しい!)」

キノコ高田は陸地へ上がった。
ガイはそれに気づき、キノコ高田の後を追おうとした。他の高田バケモノ達は全て討伐し、今、ガイを水中に止める者は誰もいない。
しかし、ガイはうまく陸へと泳げなかった。

「(息が…!)」

ガイはもう限界だった。肉体に送る酸素供給が減少し、体を満足に動かせなかったのだ。そして、次第に脳にまで酸素が送られなくなり、ガイは死ぬだろう。

「(せっかく…助かったのに…)」

ロボットは電気が無ければ動かない。今のガイはそれと同じだ。酸素が足りない。気合いでどうこうなるレベルではない。生物の理として必然。例え、PSIがあっても。
ガイは意識を失った。

【???にて…】

誰かが話をしている。1人は男。育ちの良さそうな気品のある男だ。もう1人は女だ。男のように、身に余る気品さは無いものの、安らぎを体現化させたような、落ち着きのある美しい女だ。
男は真っ青な顔で大量の汗をかいている。それを心配そうに女は見つめる。

「…大丈夫。いつものやつだ。」
「でも顔色が…今日は仕事お休みになられたらどうですか…?」
「いや、まだやらねばならない事がある。俺が俺でいるうちに…」
「でも…」

その時、男は女に優しく微笑みかけた。

「心配してくれてありがとう。キミの方こそ、体には気をつけて。」
「うん…」

男は女を抱きしめた。

「それじゃあ、行ってくる。⬛︎⬛︎さん。」
「はい。いってらっしゃい。」

【地下研究所、海洋生物保管室にて…】

ガイが目を覚ました。

「夢…か……」

ガイは溺れたはずのプール横の床で仰向けになっていた。

「よかったぁ~!気がついたんですね!」

ガイの側には氷室が座っていた。

「よかったねぇ~よかったよぉ~。」

氷室はもう中のモノマネをしている。ガイはそれをスルーして、氷室に質問した。

「氷室が助けてくれたのか…?」
「はい。」

どうやら、プールに溺れたガイを氷室が助けだしたようだ。

「あ、ついでにキノコの高田も殺しましたよ。寄生されないように遠くから。」
「寄生…って、お前。なんでその事知ってるんだ?」
「だって、ガイさん。僕の心臓貫いたじゃないですか。クリティカルヒット♪やった!」

氷室はエビバディのモノマネをしている。

「ガイさんが僕を刺した時、ガイさんの頭にキノコ高田アイツが生えてたから、操られてるのかなーって。」

その時、ガイはキノコ高田に操られ、氷室の胸を刺した事を思い出した。

「そうだ!お前、大丈夫なのか⁈」
「え、あ、はい。即死する前に心臓作り替えましたから。」
「お、おう…」

氷室は笑顔でとんでもない事を言っている。

「(コイツのタレントもかなり化け物だな…というか俺はいつになったら発現するんだ…?)」

そんな思考を巡らせる中、ガイは先程見た夢の内容を思い出していた。そして、ガイの中で一つの結論が生まれた。

「…そんな訳ないか…」

しかし、ガイはそれを否定した。否定せざるおえない理由があったからだ。
そんなガイの独り言を聞いた氷室がガイに問いかけた。

「何がですか?」
「…いや、何でもない。」

ガイは立ち上がった。

「前言った通り、氷室は村へ向かってくれ。俺はココに残ったバケモノ共を殺す。」

しかし、氷室は俯き、返事をしない。

「氷室…?」
「僕がココに残ります。村の方はガイさんに任せて良いですか?」

氷室は歪んだ笑顔でガイに微笑みかけた。

「…」

悲しみに満ちた表情。バケモノの姿の自分を家族に見られたくない。それを察したガイは無言で頷いた。

「ありがとうございます。」

氷室は礼を言い、奥の通路へと歩き始めた。

「…」

やるせない。かと言って、無責任な発言はできない。ガイにはどうしようもできない。

「ごめん、氷室…」

ガイは地上へと向かった。
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