障王

泉出康一

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第2章『ガイ-過去編-』

第29障『約束』

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【夕方、伊寄村の北端、森の中にて…】

ガイが地下研究所から出てきた。

「(村までは結構遠い。このまま走って向かうより、一度家へ戻って、予備の車で向かった方が早い。)」

非常時とは言え、無免許運転、ダメ、絶対。
ガイが家へと戻ろうとしたその時、何かとてつもなく嫌なモノを感じ取り、背後を振り返った。

「ッ…!」

なんと、ガイの背後10mに大熊のハンディーキャッパー、竹本が立っていた。いや、今は高田だ。クマ高田と名付ける。
クマ高田は両目と右腕を失っている。意識がまだ竹本の時にガイにやられたものだ。目が見えないのにガイを認識できるのは、ガイのPSIを感知しているからだろう。

「まさか生きて研究所から出てくるとは。念の為、ここに留まっていて正解だった。氷室君がいない所を見るに、彼は死んだか。それとも、研究所の残党わたしを殲滅しているか。」

その時、 クマ高田は自身の体にPSIを纏った。

「竹本君の記憶を見させてもらった。結論から言うと、キミは危険だ。惜しいが、キミはココで殺す事にする。」

ガイに殺意を放つクマ高田。ガイはPSIを纏い、構えた。

「(PSIが濃い…)」

元は竹本の体。つまり、高田として目覚めるよりも前から、ハンディーキャッパーとしてPSIが蓄えられた肉体。他の高田バケモノ達とはそのPSIの絶対容量が桁違いだ。
次の瞬間、クマ高田はガイに襲いかかってきた。

「ッ!!!」

ガイは氷室からもらった骨刀を、向かってくるクマ高田に向けて振り下ろした。
骨刀がクマ高田に直撃しかけたその時、クマ高田は空中へ大きく飛んだ。

「なッ…⁈」

ガイはクマ高田の予想だにしない行動に驚嘆しつつ、クマ高田を目で追う事をやめなかった。
あの巨大にも関わらず、クマ高田は三階建ての住居ほどの跳躍を成した。
すると、ガイはクマ高田の真下に移動した。どうやら、着地狩りをするつもりだろう。しかし、クマ高田は地上には落ちて来なかった。

「は…⁈」

ガイは信じられない光景を目の当たりにした。
なんと、クマ高田は空中の何も無い所に直立していたのだ。
すると、クマ高田は空中に留まったまま話し始めた。

「巨大化の方はPSI効率が悪くてね。それに私の性には合わない。新たに発現したコチラのタレントを使わせてもらうよ。」

その時、クマ高田は空中からガイに向かって落下してきた。
困惑するガイ。しかし、すぐさまガイは冷静になり、思考しながら骨刀を振るった。

「(浮遊するタレント…いや、飛んでるというよりは立っていた。奴のタレントは一体…)」

その時、ガイはとある事に気がついた。

「(待て…なんで奴は今、自分のタレントを明かした…?)」

新たに発現したタレントをガイに見せなければ、クマ高田は油断を突いてガイを倒せたものを。何故、意味の無い場面で自身のダブルタレントを明かしたのか。高田の用意周到さからして、そんな愚行をするとは思えない。
そう。コレは高田の罠だ。

「んなッ…⁈」

その時、ガイの振るった骨刀が止まった。いや、見えない何かに止められたのだ。

説明しよう!
クマ高田のダブルタレントは『透固プロレア』。気体を固める能力である。固められた気体は一切の外力を受け入れない為、破壊する事はできず、その場に留まる。気体の固体化を解くには、クマ高田のタレント解除か、固体化された気体に付加されたPSIが全て消費されるかしか方法はない。
タイプ:変質型

今、ガイの骨刀はその固体化された空気に阻まれていた。それ故、ガイは骨刀を振ることができなかったのだ。また、クマ高田が自身のタレントを明かした理由。それは、空を飛ぶタレントと思わせる事で、ガイの油断を誘う為。まさに今、それが為され、ガイは危機に面している。
クマ高田はガイに向かって落下してきている。このままでは、ガイはクマ高田に踏み潰されてしまう。

「くッ…!」

その時、ガイは骨刀を捨て、後方へ飛び退いた。骨刀は固体化した空気に挟まり、空中に留まっている。
地面に着地したクマ高田は空気の固体化を解除し、ガイの骨刀を回収した。

「良い剣だ。氷室君が作ったのかな。」

すると、クマ高田はその骨刀を粉々に粉砕し、ガイに問いかけた。

「キミ、タレント使えないんだろ。」
「…」

ガイは返事をしない。当然だ。タレントがまだ発現していない事を悟られれば、ガイは圧倒的に不利になる。
しかし、クマ高田はガイにタレントが無い事を確信している。

「タレントが無い。武器も無い。PSIの絶対的容量は私の方が上。体格差でも私が勝る。この状況、キミがどう足掻いたって勝ち筋なんて見いだせないと思うけど、一応聞くね。勝算はあるかい?」

すると、ガイは言い切った。

「無い!」

次の瞬間、ガイはその場から逃げ出した。
ガイは地下研究所へ戻るつもりだ。そして、氷室と合流し、2人でクマ高田を倒す。それしか方法が無い。今のガイ一人では絶対に勝てない。それ故の逃走。
しかし、それは叶わなかった。

「あぐぁッ…⁈」

その時、ガイは見えない壁、いや、固体化された
空気に行手を阻まれた。

「(壁…⁈)」

ガイは見えない壁に手を触れている。
その時、クマ高田はゆっくりとガイに近づきながら、話を始めた。

「既に逃げ道は閉ざした。今やココは私とキミだけの檻。」

クマ高田はガイが取るであろう『逃走』という手段を防ぐ為、あらかじめココら一帯を空気の壁で覆っていたのだ。縦横30メートル。高さ10メートル。木をよじのぼっての脱出も許さない、蓋付きの檻。
ガイがクマ高田の方を振り返ったその時、クマ高田はガイの間近に迫っていた。

「ッ⁈」

次の瞬間、クマ高田はガイの体を薙ぎ払った。

「がはッ!!!」

ガイは数メートル側方へ吹き飛ばされた。

「くッ…あ"ぁ…ッ!」

ガイは地面に倒れ、苦しみもがいている。PSIを纏い、受け身を取ったにも関わらず、クマ高田の一撃はガイの肋骨にヒビを入れた。

「ッ…」

その時、クマ高田は自身の手の平に鋭い痛みを感じた。

「(トゲ…?)」

クマ高田の手の平には、木の枝が突き刺さっていたのだ。
ガイは吹き飛ばされる寸前、クマ高田の手の平に木の枝を刺し、微かに反撃していたのだ。

「(この少年…)」

絶対追い込まれても、なお戦うことを諦めない少年。クマ高田は改めて、ガイの危険さを理解した。

「(今すぐ、殺さなければならない。この少年の中に眠る、悪魔が目覚める前に…)」

その時、クマ高田は自身の身に纏うPSIを増幅させた。

「キミのその才を摘み取ってしまうには、私はあまりにも小物過ぎる。だが許してくれ、少年。出る杭は打たなければならない。私の為に。」

するとその時、クマ高田は天井の蓋、固体化させた空気を解除した。

「『巨大化エルド』!!!」

次の瞬間、クマ高田が巨大化していき、その体躯は10メートルを超えた。
それを見て、ガイはこの空気の檻の蓋が無い事を悟り、痛みを堪えて、急いで木をよじのぼり、檻の外へ出ようとした。
ガイが近くの高い木に登ろうとしたその時、ガイの動きは止まった。

「(体が…!)」

クマ高田が巨大化した理由、それはPSIを広げる為。そうする事で、ココら一帯の空気全てを固体化し、ガイを捕獲する事ができる。

「(まずい…息ができない…!)」

固体化した空気はその場から動かない。つまり、呼吸ができない。ガイの身動きを封じ、窒息死させる、クマ高田の狙いはそれだ。殴り殺すより安全、かつ、確実。
呼吸ができず苦しむガイ。対して、クマ高田はそんなガイをじっと観察している。

「(何だこの違和感は…少年は今にも死にかけている。私の勝利は確実だ。なのに何故…何なのだ、この妙な感じは…)」

クマ高田の言う通り。優勢は変わらない。にも関わらず、クマ高田の頭の中には悪い予想ばかりが浮かんできた。

「(動け…!俺の体…!)」

ガイは体を動かそうと必死だ。しかし、ガイの体は動かない。

「(絶対帰るって約束したんだ…村上と…ヤブ助と…十谷と…)」

すると、ガイは何かを思い出した。

「(約束……?)」

その時、ガイのPSIが膨れ上がっていった。

「(そうだ…俺…誰かと約束してたんだ…あの日に…)」

徐々に膨れ上がるガイのPSI。それを見ていたクマ高田の表情に焦りが見えた。

「(まずい…!)」

このまま何もしなければ、きっと負ける。そう思ったのだ。
次の瞬間、クマ高田はガイに向けて左腕を振り下ろし、直前で空気の固体化を解除した。

「ッ⁈」

ガイはクマ高田の攻撃に気づかず、地面に倒れている。それどころか、ガイは息をする事すら忘れていた。それ程までに、あの日の記憶を思い出そうとしていたのだ。
クマ高田の巨大化した左腕がガイの体を押しつぶすその時、クマ高田の体がバラバラに切断された。

「え………」

手、足、胴、頭、クマ高田の体の全てが無秩序に切断され、それらの断片は次々と地面へ落下していった。
クマ高田は死亡した。その体は地面に落ちるとすぐに、元の大きさに戻った。

「確かに、実験は成功のようだな。」

その時、地面に倒れたガイの元へ、2人の男が近づいてきた。しかし、ガイは気づかない。

「コイツも高田さんになってんですかね?殺します?」

それは以前、館林と話をしていた黒スーツの男達、一善と前田だった。おそらく、クマ高田を倒したのはこの2人だろう。
一善と前田は倒れたガイの顔を見た。

「よく見ろ。このガキはあの方の息子だ。洗脳される訳がない。」
「…ってか、もう死んでんじゃないっすかー?息してないっすよ?」
「…」

その時、一善はガイの腹を蹴った。

「ゴホッ!ゴホッ!ゴホッ!」

ガイは咳き込んだ。いや、呼吸を思い出したのだ。そして、ガイはようやく、一善と前田の存在に気がついた。

「(誰…だ……)」

しかし、ガイの意識は朦朧としており、とても声を出せる状態ではない。

「あ、生き返った。」

その時、一善はガイに背を向けて歩き出した。

「行くぞ、前田。」
「え?コイツ置いてくんすか?」
「あの人の息子だ。自分で何とかするだろ。俺達は残りの始末だ。」
「りょーかいっす。」

2人はガイから去っていく。
あの人の息子。あの人とは間違いなくガイの父親、障坂巌の事だ。

「(待てて……)」

ガイはこの2人が何者か、父親とはどういう関係かを問いただしたかった。しかし、声が出ない。

「(待っ…て……)」

ガイは意識を失った。
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