障王

泉出康一

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第2章『ガイ-過去編-』

第30障『ただいま』

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【夜、伊寄村の北端、森の中にて…】

すっかり日は落ち、辺りは暗闇に包まれた。

「ガイさん!起きてください!ガイさん!」

ガイは地面に倒れている。その側で氷室がガイの体を摩っていた。
 
「氷室…」

ガイは目を覚ました。

「ガイさん、何故ココに…?村へ戻ったんじゃなかったんですか?」
「…わからない…」

ガイは体を起こし、辺りを見渡した。しかし、日は落ちた為、真っ暗で何も見えない。

「お前、こんな真っ暗な中でよく俺の居場所がわかったな。」

すると、氷室は自分の顔右半分、無数の目を指差した。

「この目、結構色んな物が見えるんです
よ。」
「なるほど…」

ガイは体の痛みを堪え、立ち上がった。

「村へ行こう。バケモノを殺さないと…」
「あ、それは大丈夫だそうです。」
「え…?」

ガイは首を傾げた。

「自分勝手研究所に変な人達が入ってきて、その人達が言ってたんです。村のバケモノは全部始末したって。」

【数時間前、地下研究所にて…】

氷室は地下研究所で高田と化したバケモノの残党を探していた。

「(いないなぁ…もう全部外へ出
たのかな…)」

その時、銃を持った黒スーツ男達
が氷室のいた部屋へとやってきた。
氷室は何か悪いモノを感じ、物陰に隠れた。

「(誰だ…あの人達…)」

氷室は物陰から様子を伺っている。
その時、仏教僧が身につけるような法衣を着た坊主頭の少年がこの部屋へとやってきた。

「(なんだ…アイツ…⁈)」

まるで闇を具現化したような瞳をもつ少年に、氷室はかつてない程の不気味さを感じた。
氷室の野生の勘が言っている。あの少年は危険だと。

芝見川しばみかわさん!」

その時、1人の男がその少年、芝見川に話しかけらた。

「研究所内にはもう高田は居ないと、石川さんから…」

すると、芝見川はその男に背を向けたまま、話した。

「報告が遅いんですよねぇ~、貴方は。」

その発言を聞き、男は恐怖した表情で芝見川に土下座した。
「も、申し訳ありません!なにしろ圏外でして…この研究所に入るまで気づかなくて…」 

その時、芝見川は振り返り、その男に向けて指を差した。

「『2回目』ですよぉ?」

すると、男は恐怖に歪んだ顔でその場から走り出そうとした。

「うわぁぁあぁあぁああぁぁぁあぁぁああぁぁぁぁぁあああぁぁあぁああぁあぁぁぁあぁぁぁあああ!!!?!?!??!!!」

次の瞬間、その男の体に赤いバツ印が浮かび上がった。

「あッ……………」

その時、男は床に倒れた。

「………」

男は死んでいる。それを見ていた他の男達は芝見川を見て恐怖している。一方、芝見川は饒舌に話し始めた。

「仏の顔も3度まで…なんとまぁ、なにゆえ仏はこうもクズ共に甘いのか。拙僧はそこまで甘くありませんよぉ。」

その時、芝見川は1人の男を指差した。

「代わって報告なさい。」
「は、はい!」

すると、指名された男は芝見川に恐怖しながらも、死んだ男が告げるべきだった話の続きを始めた。

「村、及び、その周辺の実験体は一善さん達が始末しました!」
「それで、拙僧は何をすれば良いのでしょうねぇ?」
「館林さんの回収と、それと、この研究所の後始末、だそうです…!」
「なるほどわかりました。」

すると、芝見川達は別の部屋へと移動し始めた。

【現在、森の中にて…】

氷室は研究所で見た芝見川達の事についてガイに話していた。

「…ってな感じです。」
「なるほど。」

その時、ガイはキノコ高田が言っていた事を思い出した。

〈館林の知り合いが白鳥組幹部って事もあってね…〉

ガイは自身の顎に手を当て思考している。

「(おそらく、そいつらがその白鳥組だ。何で一暴力団がハンディーキャッパーの研究なんかに手を貸すんだ…?タレントを使って何かするつもりなのか…?)」

ガイは、今度は腕を組んで思考した。

「(まぁ、この件に関して深掘りはやめよう。相手が相手だ。それに、これだけの大事、明日ニュースか何かで広まるだろう。俺が究明する必要はない。)」

その時、考え込むガイに対して、氷室はガイの名を読んだ。

「ガイさん…?」
「え…あぁ。ごめん。帰ろか。」

しかし、氷室は返事をしない。

「(そうか、コイツ…)」

氷室は異形なるモノに姿を変えられた。この姿では村へ帰る事はできない。

「この森で暮らしますよ。こんな姿、家族に見せられないですし。」

氷室はガイに笑顔でそう言った。しかし、その笑顔は悲しみで歪んでいた。ガイもそれをわかっていた。
その時、ガイは言った。

「うち来るか?」
「え?」

氷室は首を傾げた。

「俺ん家、実は結構金持ちでさ。執事としてなら雇えるぞ。」
「ほ、本当に…良いんですか…」
「うん。お前には何回も助けられたし。てか氷室がいなかったら俺死んでた。」
「でも、僕…バケモノですよ…」

氷室のそんな態度に、ガイは痺れを切らした。

「めんどくさい。来るか来ないかハッキリ言え。」
「い、行きます行きます!お願いします!」

【数分後、森の入り口にて…】

ガイと氷室が森から出てきた。

「とりあえず、氷室はココら辺で待っててくれ。俺が村に行って事情話してくる。」
「お願いします。」

その時、ガイ達は1台のパトカーが森の入り口に停まっている事に気がついた。

「キミ、もしかして障坂さんトコの?」
「え、あ、はい。」

氷室は警官に顔を見られないように、キャップを深く被った。
その時、パトカーから中年の男が降りてきた。

「おぉ、良かった。見つかったんだな。」
「誰?」

ガイはその男の素性を尋ねた。

「私は伊従村の村長、氷室英治えいじだ。十谷さん達から、キミの捜索に協力してくれと言われてね。村のみんなで探していた所なんだ。」

男の正体がわかり、ガイは氷室の方をチラ見した。氷室はキャップを深く被ったまま俯いている。
ガイは氷室父に尋ねた。

「俺1人なんかの為に、村長さん自らが?」
「そりゃあ障坂さんトコの大事な一人息子だからね。結構大ごとだよ。それに…」

その時、氷室父は悲しげな表情で話し始めた。

「うちの息子も行方不明でね…もう1ヶ月近く帰ってこないんだよ…」
「…」

すると、警官がガイの後ろにいる氷室に話しかけた。

「キミは…?」
「…」

氷室は俯き、黙っている。
その時、氷室父は氷室を見て、言った。

「亮太…!」

氷室父は一目で見抜いた。いくら帽子で顔を隠していようが、わかってしまう。それが親というものなのだろうか。
氷室は名前を呼ばれ、一瞬、体が震えた。

「無事だったんだな…!」

父親の声を聞いた氷室の瞳からは涙が溢れ出ていた。

「なんで…わかっちゃうんだよ…」
「わかるさ。俺の息子なんだから。」

氷室父は氷室に近づいた。すると、氷室は叫んだ。

「来ないでッ!!!」

氷室父は足を止めた。

「俺…もう人間じゃないから…」

そういうと、氷室はキャップを外し、顔右半分の無数の眼球を見せた。

「ひぇ…!!!」

それを見た警官は恐怖の声を上げた。
氷室は泣きながら話を続ける。

「だから俺…村にはもう…」

次の瞬間、氷室父は氷室を抱きしめた。

「辛かったな…ごめんな…亮太…」
「父さんッ…!」

2人は抱きしめ合いながら、涙を流している。

「帰ろう。村に。」
「でも、こんな姿見たら…みんな…」
「大丈夫。村の人達だって、わかってくれるよ。みんな、亮太は良い子だって知ってるんだから。少し外見が変わったくらいで嫌いになんかならないさ。」
「本当に…帰っても良いの…?」
「あぁ。お母さんも亜美も亮太に会いたがってる。」

ガイは氷室達の姿を見て、少し寂しそうな表情を浮かべている。

「(父親、か…)」

ガイには氷室のような父親はいない。行方不明になったとて、きっと心配すらしないであろう。ガイは氷室が少し羨ましかった。

【数十分後、村長の家、居間にて…】

村長家の居間には、村人や氷室の家族達が集まっており、そこへ、ガイや氷室達がやってきた。
最初は皆、氷室の変化に驚きを隠せずにいたものの、皆、それを受け入れた。兄を探して毎日交番に立ち寄っていた亜美も、氷室の帰還を大いに喜んだ。

「亜美ちゃん、よかったね。お兄さんが戻ってきて。」
「うん!」

警官の発言に亜美は元気よく頷いた。
また、氷室の友達や近所の人達まで、次々と氷室に話しかけている。

「お帰り!亮太君!」
「お前今までどこ行ってたんだよ!」
「心配したんだぞ!」

その時、氷室はですよ。のモノマネをした。

「みんな、心配かけて……あーいとぅいまてーん!!!」

古い。もうそんなネタやってる奴はいない。
しかし、村人達は皆、笑っている。

「あははは!やっぱ亮太君は面白いな!」
「そんな最新のネタやるなんて!」

それを聞いたガイは絶句した。

「えっ…」

『この村の流行はどうなってんだ』というツッコミをしたい気持ちはあったものの、『楽しそうでなによりだ』と思い、発言を抑えるガイであった。

「(よかったな…)」

ガイは居間から出た。

【村長の家、廊下にて…】

ガイは氷室に嫉妬していた。あれこそ、ガイの欲していた家族だからだ。
居間から出たのも、氷室を見ていると妬み嫉みの感情が湧いてくるから。そして、そんな自分に嫌気が差したから。

「…」

ガイは無言で廊下を歩いている。どこへ向かうでもなく。

「ガイ…!」

ガイが曲がり角を曲がったそこには、十谷,村上,猫の姿のヤブ助がいた。

「あっ…」

ガイは3人から目を逸らした。再会というものに対して、少し照れ臭く感じたのだ。

「あー、その…さ。俺…」

ガイが何か言わねばと意味無い言葉を口ずさんだその時、村上は大きな声でガイの名を呼んだ。

「ガイ様!」
「んな、なに…?」

ガイは村上のその奇妙な行動に困惑した。
一方、村上,十谷,ヤブ助の3人は目で合図を送り合っている。

「それではいきますよ!せーのっ!」

村上の発言後すぐ、3人は声を合わせてガイに言った。

「「「お帰りなさいませ!!!」」」

ガイは呆気に取られている。

「…え?」

困惑するガイに村上が説明を始めた。

「ガイ様が帰ってきたら全員で言おうって決めてたんですよ!」

それに続き、ヤブ助と十谷も発言した。

「恥ずかしいから嫌だと言ったんだがな。」
「おお~!!!ガイ様ぁ~!!!よくぞご無事でぇ~!!!」

ガイは氷室の家族を見て、自分は不幸な人間だと思った。母親は自分が幼い時に亡くなり、父親はクズ。ガイは氷室みたいな家族が欲しかった。ずっと前からそう思っていた。
しかし、ガイは既に持っていたのだ。氷室の家族とは少し形は違うが、自分なりの大切な家族が。
次の瞬間、ガイは3人を抱きしめた。

「が、ガイ様…⁈」
「どうしたんだ⁈お前らしくないぞ?」
「ぬほぉ~!!!感激でございますぅ~!!!」

普段のガイなら絶対にしないこの行動。ヤブ助達は驚きを隠せずにいた。

「(バカだなぁ…俺って…)」

コレがガイの家族。それに気づけなかった自分の愚かさを心で嘆いた。
そして、ガイは笑顔で3人に言葉を返した。

「ただいま!!!」

翌日、テレビのニュースや新聞では、どういう訳か、今回の事件については一切報道されなかった。
そして、この事件は永久的に闇に葬られたのであった。
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