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第2章『ガイ-過去編-』
第33障『未来への危惧』
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【11月28日、24:30、住宅街にて…】
ガイは人気のない暗い夜道をフラフラと歩いている。
「行かなくちゃ…」
ガイはボソボソと何かを呟いている。どうやら、正気ではないようだ。
〈力が要る。〉
頭の中に声が響く。
「力が欲しい…」
ガイは頭に響いてきた声を復唱した。その言葉の意味も分からずに。
【とあるアパートの駐車場にて…】
ガイはいつの間にか、学校付近にあるアパートの駐車場へとやってきた。
そこそこ広い駐車場には、駐車された10台の車。見知った男。バラバラの女の遺体。
「ッ⁈」
見知った男はガイに気づくなり、焦った表情を浮かべ、振り返った。
しかし、ガイの顔を見るなり、安堵した。
「…んだよ。陸んトコの生徒じゃねぇか。」
陸、それはおそらく名前。ガイの担任の広瀬陸であると思われる。
「そういや、お前もハンディーキャッパーだったな。なんだ?俺のPSIに釣られてやってきたのか?蛾みてぇな奴だな。」
次の瞬間、ガイはPSIを身に纏い、その男に襲いかかった。
「ッ⁈」
男はガイの奇襲に驚きつつも、ガイの左拳を回避した。
間髪入れず、ガイは右脚で男に後ろ回し蹴りを放った。だが、男は後退し、それすらも回避した。
PSIの量は男が上。体格差、筋力差でも男が勝る。しかし、それら全てを補って余りあるガイの格闘センスと運動能力。ガイと男の身体能力は拮抗していた。
「コイツ…!」
一回りも年下の少年に追い詰められているという屈辱。男は苛立っていた。
男がガイに反撃しようとしたその時、ガイは男に何かを投げた。
「なぐッ…⁈」
ガイが投げたもの、それは地面に落ちていたバラバラの女性の遺体、その右腕だった。
なんと、ガイは他人の遺体を牽制の道具に使ったのだ。投げられた女性の右腕の切り口からは大量の血飛沫。それを利用し、ガイは目眩しとしてそれを投げつけたのだ。
男はその右腕を薙ぎ払った。その拍子に、男の顔に血が飛び散った。
「チッ…!」
男は袖で顔の血を拭った。
すると次の瞬間、ガイはその一瞬の隙を見計らって、男の顎を蹴り上げた。
「がふッ!!!」
男はふらついた。ガイはコレを勝機と捉え、男の顔面に右拳を放った。思いっきり、本気で。殺すつもりで。
だが、それが良くなかった。これが普通の喧嘩ならガイの勝ちだ。しかし、そうではない。コレは能力バトル。
「『簡易の次元低下論』!!!」
次の瞬間、ガイの拳は男の顔面をすり抜けた。
「解除ッ!!!」
すると、すり抜けたガイの右腕が肘辺りで切断された。
「……えっ……」
ずっと無表情だったガイの顔つきが変わった。
「(ど、何処だココ…俺は今、何してるんだ…)」
理解できない。なぜ自分はこんな深夜に、こんな駐車場に居るのか。訳がわからなかった。
「(先生…?)」
その時、ガイは今まで戦っていた相手が自分の担任の広瀬先生だという事に気がついた。
広瀬先生はガイに手刀を放っている。
「ッ⁈」
訳がわからない。しかし、ガイは命の危機を感じて、背後に大きく飛び退いた。
「あの体勢からかわすか…バケモンだなテメェ。」
「先生…コレは一体……」
その時、ガイは右腕に強烈な痛みを感じた。
そう。切断された痛みだ。
「ア"ア"ア"ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァア!!!!!!!!」
ガイは今まで経験した事の無い程の壮絶な痛みにより、苦痛の声を上げた。
「(痛い痛い痛い痛いッ!!!何だコレ⁈何で腕が千切れるんだ⁈何で⁈なんで⁈)」
わからない。何もかもわからない。痛みでわからない。何故、自分はココにいるのか。考える余裕もない。痛みで頭が回らない。しかし、これだけはわかる。
〈逃げろ。〉
次の瞬間、ガイは誰かに命令されるかのように、その場から走り出した。
【人気のない住宅街にて…】
ガイは切断された腕を押さえながら、走っていた。
「ハァ…!ハァ…!ハァ…!ハァ…!」
息が荒い。走行による息切れというより、痛みによるものだろう。しかし、どれだけ痛かろうが、ガイは思考をやめなかった。
「(今朝、体育教師が言っていた殺人事件…バラバラの女性の死体…広瀬先生…おそらく、殺人事件の犯人は広瀬先生だ…そしてそこに、どういう訳か俺が居合わせた…)」
ガイは電信柱にもたれた。
「(あの様子…先生はハンディーキャッパーだった…じゃあどうして、学校にいる時、PSIを感知できなかったんだ…)」
ハンディーキャッパー同士ならPSIを感知し合う事ができる。広瀬先生がハンディーキャッパーだったのなら、今日以前に気づけたはずだ。しかし、広瀬先生からはPSIを感知できなかった。
「(おそらく、ハンディーキャッパーになったんだ…殺人事件が起こった昨日の晩に…そして、先生の変貌ぶりから察するに、先生の発現したタレントは自我に影響を及ぼすもの…)」
ガイには広瀬先生が別人に見えた。口調、仕草、どれを取っても広瀬先生には似つかわしくなかったからだ。
そして、この考えはガイに一つの解答を与えた。
「(もしかして…俺があの場に居た理由も…)」
時々思い出す身に覚えのない記憶。今回のような、夢遊病に近い行動。それらは全て、近々発現するであろうタレントの予兆。ガイはそう結論付けた。
そして、それは正しかった。タレントは最大PSI容量が上がる程に発現の確率が高くなる。身に覚えの無い記憶を思い出す様になったのも最近の事。ガイの精神に影響を及ぼすであろうタレントは、着々と芽を出しているのだ。
「(俺は…どうなるんだ…)」
そのタレントが発現してしまえば、ガイ本来の人格はどうなってしまうのか。もしかしたら、消えて無くなってしまうかもしれない。かと言って、PSIの成長を止める事など不可能。ガイは怖かった。
しかし、今はそんな場合では無い。早く、千切れた右腕を止血しないと、出血多量で死亡してしまう。ガイが家へ向かおうとしたその時、それは来た。
「休憩中かぁ?」
広瀬先生だ。広瀬先生はガイの血垂れを目印に、後を追ってきたようだ。
「ッ⁈」
ガイは振り返り、構えた。
「やる気満々って顔だな。おもしれぇ…」
右腕を切断された状態では、広瀬先生から逃げ切る事は不可能。しかも相手はハンディーキャッパー。近くの民家に助けを求めても、被害が大きくなるだけ。ガイに戦う以外の選択肢はなかった。
ガイは上着を千切って、右腕を縛った。それにより、多少、出血は抑えられた。
「(時間はかけられない…)」
ガイはPSIを身に纏った。
「(やるしかない…!)」
ガイは人気のない暗い夜道をフラフラと歩いている。
「行かなくちゃ…」
ガイはボソボソと何かを呟いている。どうやら、正気ではないようだ。
〈力が要る。〉
頭の中に声が響く。
「力が欲しい…」
ガイは頭に響いてきた声を復唱した。その言葉の意味も分からずに。
【とあるアパートの駐車場にて…】
ガイはいつの間にか、学校付近にあるアパートの駐車場へとやってきた。
そこそこ広い駐車場には、駐車された10台の車。見知った男。バラバラの女の遺体。
「ッ⁈」
見知った男はガイに気づくなり、焦った表情を浮かべ、振り返った。
しかし、ガイの顔を見るなり、安堵した。
「…んだよ。陸んトコの生徒じゃねぇか。」
陸、それはおそらく名前。ガイの担任の広瀬陸であると思われる。
「そういや、お前もハンディーキャッパーだったな。なんだ?俺のPSIに釣られてやってきたのか?蛾みてぇな奴だな。」
次の瞬間、ガイはPSIを身に纏い、その男に襲いかかった。
「ッ⁈」
男はガイの奇襲に驚きつつも、ガイの左拳を回避した。
間髪入れず、ガイは右脚で男に後ろ回し蹴りを放った。だが、男は後退し、それすらも回避した。
PSIの量は男が上。体格差、筋力差でも男が勝る。しかし、それら全てを補って余りあるガイの格闘センスと運動能力。ガイと男の身体能力は拮抗していた。
「コイツ…!」
一回りも年下の少年に追い詰められているという屈辱。男は苛立っていた。
男がガイに反撃しようとしたその時、ガイは男に何かを投げた。
「なぐッ…⁈」
ガイが投げたもの、それは地面に落ちていたバラバラの女性の遺体、その右腕だった。
なんと、ガイは他人の遺体を牽制の道具に使ったのだ。投げられた女性の右腕の切り口からは大量の血飛沫。それを利用し、ガイは目眩しとしてそれを投げつけたのだ。
男はその右腕を薙ぎ払った。その拍子に、男の顔に血が飛び散った。
「チッ…!」
男は袖で顔の血を拭った。
すると次の瞬間、ガイはその一瞬の隙を見計らって、男の顎を蹴り上げた。
「がふッ!!!」
男はふらついた。ガイはコレを勝機と捉え、男の顔面に右拳を放った。思いっきり、本気で。殺すつもりで。
だが、それが良くなかった。これが普通の喧嘩ならガイの勝ちだ。しかし、そうではない。コレは能力バトル。
「『簡易の次元低下論』!!!」
次の瞬間、ガイの拳は男の顔面をすり抜けた。
「解除ッ!!!」
すると、すり抜けたガイの右腕が肘辺りで切断された。
「……えっ……」
ずっと無表情だったガイの顔つきが変わった。
「(ど、何処だココ…俺は今、何してるんだ…)」
理解できない。なぜ自分はこんな深夜に、こんな駐車場に居るのか。訳がわからなかった。
「(先生…?)」
その時、ガイは今まで戦っていた相手が自分の担任の広瀬先生だという事に気がついた。
広瀬先生はガイに手刀を放っている。
「ッ⁈」
訳がわからない。しかし、ガイは命の危機を感じて、背後に大きく飛び退いた。
「あの体勢からかわすか…バケモンだなテメェ。」
「先生…コレは一体……」
その時、ガイは右腕に強烈な痛みを感じた。
そう。切断された痛みだ。
「ア"ア"ア"ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァア!!!!!!!!」
ガイは今まで経験した事の無い程の壮絶な痛みにより、苦痛の声を上げた。
「(痛い痛い痛い痛いッ!!!何だコレ⁈何で腕が千切れるんだ⁈何で⁈なんで⁈)」
わからない。何もかもわからない。痛みでわからない。何故、自分はココにいるのか。考える余裕もない。痛みで頭が回らない。しかし、これだけはわかる。
〈逃げろ。〉
次の瞬間、ガイは誰かに命令されるかのように、その場から走り出した。
【人気のない住宅街にて…】
ガイは切断された腕を押さえながら、走っていた。
「ハァ…!ハァ…!ハァ…!ハァ…!」
息が荒い。走行による息切れというより、痛みによるものだろう。しかし、どれだけ痛かろうが、ガイは思考をやめなかった。
「(今朝、体育教師が言っていた殺人事件…バラバラの女性の死体…広瀬先生…おそらく、殺人事件の犯人は広瀬先生だ…そしてそこに、どういう訳か俺が居合わせた…)」
ガイは電信柱にもたれた。
「(あの様子…先生はハンディーキャッパーだった…じゃあどうして、学校にいる時、PSIを感知できなかったんだ…)」
ハンディーキャッパー同士ならPSIを感知し合う事ができる。広瀬先生がハンディーキャッパーだったのなら、今日以前に気づけたはずだ。しかし、広瀬先生からはPSIを感知できなかった。
「(おそらく、ハンディーキャッパーになったんだ…殺人事件が起こった昨日の晩に…そして、先生の変貌ぶりから察するに、先生の発現したタレントは自我に影響を及ぼすもの…)」
ガイには広瀬先生が別人に見えた。口調、仕草、どれを取っても広瀬先生には似つかわしくなかったからだ。
そして、この考えはガイに一つの解答を与えた。
「(もしかして…俺があの場に居た理由も…)」
時々思い出す身に覚えのない記憶。今回のような、夢遊病に近い行動。それらは全て、近々発現するであろうタレントの予兆。ガイはそう結論付けた。
そして、それは正しかった。タレントは最大PSI容量が上がる程に発現の確率が高くなる。身に覚えの無い記憶を思い出す様になったのも最近の事。ガイの精神に影響を及ぼすであろうタレントは、着々と芽を出しているのだ。
「(俺は…どうなるんだ…)」
そのタレントが発現してしまえば、ガイ本来の人格はどうなってしまうのか。もしかしたら、消えて無くなってしまうかもしれない。かと言って、PSIの成長を止める事など不可能。ガイは怖かった。
しかし、今はそんな場合では無い。早く、千切れた右腕を止血しないと、出血多量で死亡してしまう。ガイが家へ向かおうとしたその時、それは来た。
「休憩中かぁ?」
広瀬先生だ。広瀬先生はガイの血垂れを目印に、後を追ってきたようだ。
「ッ⁈」
ガイは振り返り、構えた。
「やる気満々って顔だな。おもしれぇ…」
右腕を切断された状態では、広瀬先生から逃げ切る事は不可能。しかも相手はハンディーキャッパー。近くの民家に助けを求めても、被害が大きくなるだけ。ガイに戦う以外の選択肢はなかった。
ガイは上着を千切って、右腕を縛った。それにより、多少、出血は抑えられた。
「(時間はかけられない…)」
ガイはPSIを身に纏った。
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