100 / 211
第2章『ガイ-過去編-』
第36障『転生したら佐藤武夫だった件』
しおりを挟む
【11月29日、16:00、とある病院にて…】
本田との戦いの約17時間後、ガイの意識が目覚めた。
「んん……」
ガイは目を開けた。
視界に広がる大部分は白。ここはどうやら、病室のようだ。
「(俺、何してたんだっけ…?)」
ガイは体を起こした。
「(そうだ。先生…いや、本田に首を絞められて…助かったのか…?)」
ガイは自分の体を触った。そして、切断されたはずの両足、右腕がある事に気がついた。
「(親父がまた治したのか…)」
有野誘拐事件の時のように、父親がタレントで治してくれた、ガイはそう考えた。
しかし、ガイはこの時、違和感を感じていた。
「(俺の手、こんな感じだったっけ…)」
いつも見慣れている自分の手。それがまるで、別人の手のように思えた。
その時、病室のドアが開いた。
「(村上か?十谷か?)」
ガイは使用人の誰かが見舞いに来たのだと思った。いや、おかしい。障坂家の一人息子が大怪我で病院に運ばれたのだ。病室に一人の訳がない。
その時、30代前半くらいの見知らぬ女性が、ガイの病室に入ってきた。
「武夫ッ…!!!」
次の瞬間、女性は血相を変え、ガイを抱きしめた。
「わッぽん⁈」
ガイはビックリして変な声が出た。一方、女性は泣きながらガイの目覚めを喜んでいる。
「よかった…目を覚ましてくれて…」
女性はとても安堵している。しかし、ガイはこの女性を知らない。
「あ、あのさ…誰かと勘違いしてない?」
ガイは女性にそう言った。しかし、女性は首を傾げ、ガイに言い返した。
「何言ってるの?武夫。」
「たけお???」
やはり誰かと勘違いしている。そんなに、自分は武夫という人物そっくりなのだろうか、とガイは思った。
「(一体どういう事だ…)」
状況から察するに、この女性は武夫という人の母親。母親が息子を間違えるだろうか。
ガイは妙な胸騒ぎがして、病室にあった鏡を見た。すると、そこにはガイと同い年ぐらいの知らない男の子が映っていた。
「えっ…」
ガイは鏡に手を振った。すると、鏡に映っていた少年も同じ動きをした。
「んん?」
ガイはベッドから立ち上がり、スリッパを履いて、鏡に近づいた。
すると、鏡に映った少年もガイに近づいてきた。
「んんん⁈」
「どうしたの?武夫?」
ガイは女性の問いかけを無視して、病室を出た。
「ちょっと!武夫!」
【病院、廊下にて…】
廊下に出たガイは、自身の病室前に貼られたネームプレートを見た。そこには、こう書かれていた。
〈佐藤 武夫 様〉
「ぬぁんじゃこりゃァァァァァァァァァァァァァァァァア!!!?!?!??!!!」
ガイは柄にも無く大きな声で驚嘆した。
「(んなんななな、なんだコレ⁈どゆこと⁈俺は障坂ガイだ!武夫ちゃう!)」
その時、武夫の母親がガイに呼びかけた。
「どうしたの⁈武夫⁈」
「武夫ちゃう!!!」
ガイはパニック状態だ。そんなガイに、通りすがりの看護師は注意をした。
「病院ではお静かにね。武夫くん。」
「武夫ちゃうて!」
ガイは一旦、病室に戻った。
【病室にて…】
ガイは病室のベッドの上に座っている。また、武夫の母親は近くに置いてあった椅子に座った。
「記憶喪失…⁈」
「あぁ…ん…そんな感じかな。」
ガイは武夫の母親に、自身は記憶喪失だと説明した。その方が都合が良いと思ったのだ。
「もしかして、私の事も…?」
「大体は…まぁ…」
下手な嘘はすぐバレる。かと言って、真実を話す訳にもいかない。ガイは言葉を濁した。
そんな事よりも、ガイにはもっと考えるべき事があった。
「(何故、俺は別人になった…?死んで転生…いや、そんな都合の良い話は無い。まぁ、こうやって生きてるだけで、もう既に都合の良い話だけど。)」
ガイは昨夜の記憶を思い返した。
「(あの晩、俺は奴に首を絞められて死んで…そうだ。あの時、俺は見ていた。俺が首を絞められる様を、上から…)」
その時、ガイの中で一つの解答が出た。
「魂の転移…」
思わず口に出た。それを聞いた武夫の母親は首を傾げる。
「たましい?」
「あぁ、いや…なんでもない。」
母親は不思議そうな顔でガイを見つめる。対して、ガイは思考を続けた。
「(本田が言っていたあの言葉…)」
〈『魂移住計画』。魂を別の肉体に転移させる能力。俺はそれを使って生き延びた。広瀬先生の体に乗り移ってな。〉
「(俺にも、奴と同じようなタレントが発現した。あの時、あの場で。そして、それを無意識のうちに使っていて、この佐藤武夫の体に乗り移った…)」
ガイの推論は大体当たっていた。ある一点を除いては。
そして、一つの疑問が生じた。
「(もしそうなら、佐藤武夫は何処に…)」
ガイは今、こうやって佐藤武夫の体を自由に動かせている。しかし、本来この体は武夫のもの。今、佐藤武夫の肉体には、ガイの意識しか宿っていなかったのだ。
「(もしかしたら、俺のタレントは乗り移りじゃなく、乗っ取り…俺が、佐藤武夫の魂や意識を呑み込んだ…)」
そういう結論になるのは当然だ。この体に武夫の意識が無い以上、ガイが乗っ取った事になる。つまり、ガイは佐藤武夫を殺した。
「(俺が…コイツを…)」
無意識とはいえ、人を殺したという確かな事実に、ガイは罪悪感と後悔の念で胸が苦しかった。だから、ガイは逃げた。
「(いや、そんな訳ない。そもそも、俺の推察が当たっている保証もない。)」
ガイは再びベッドから降り、病室の棚を漁った。
「(俺が今やるべき事…)」
ガイは屋敷の使用人たち、学校の友達の事を思い出した。
「(帰るんだ…家に…)」
その時、武夫の母親は棚を漁るガイに話しかけた。
「どうしたのよ、武夫。さっきっから変な事ばかりして…」
いつもと違う様子の息子に、どうやら不信感を抱いているようだ。
そんな母親に対し、ガイは慣れない笑顔で語りかけた。
「べ、別に…!ちょっと服探してて…」
「服?」
母親は首を傾げている。
「どうして服なんか…?」
「え、ほら。今から退院しようと思って。」
すると、母親はすごい剣幕でガイに怒鳴った。
「何言ってるの!できる訳ないでしょ!あと三日は絶対安静なのよ!」
それを聞き、ガイは驚いた。
「えっ⁈退院って自由にできないの⁈」
ガイは今まで、自分の意思次第で退院が可能だった。財閥の権力か、はたまた、使用人達の交渉の末か。それ故、ガイは入院期間というものを知らなかったのだ。
「…」
女性はガイを見つめている。そして、安堵したように微笑みを浮かべた。
「…まぁ、元気そうでよかったわ。」
「…」
ガイはそんな彼女の顔を見て、自身の母親の事を思い出していた。
「(母さん、か…)」
ガイにとって懐かしい響き。そして、優しく暖かい記憶。彼女の言葉を聞いているだけで、心が安らぐ。まるで、本当の母親のように。ガイは母親という存在の偉大さに改めて気づかされた。
だが、今は現を抜かしている場合ではない。情報収集。佐藤武夫という人物について、そして、現状を理解せねばならない。ガイは武夫の母親に尋ねた。。
「俺ってさ…」
「俺?」
武夫の母親は不思議そうな表情を浮かべ、ガイに聞き返した。
そう。おそらく武夫の一人称は俺ではない。ガイはその事に気づき、焦った。
「あっ…いやいや!俺じゃなくて『オ・レ』!カフェオレとかの『オ・レ』!母さんは何オレが好きだっけ~?えへへ~…」
「母さん?」
ガイは再びミスった。おそらく、武夫は母親の事を『母さん』とは呼ばない。ガイは尚焦った。
「かッ…かか…か…かざーん!そう!カザーン!メダルゲームでめっちゃ儲かるやつ!カザーン!ヒョーザーン!久しぶりにやりたいなぁあ!あは!あはははは!!!」
ガイはもう笑うしかなかった。
「(あぁ…しんどい…おうち帰りたい…)」
ガイは今の自分の哀れさに涙がこぼれ落ちそうだった。
【23:00、武夫の病室にて…】
ガイはベッドの上で横になりながら、思考を巡らせていた。
「(今日は11月29日。俺が殺されたはずの時刻の約23時間後。そしてココは舞開町。戸楽市へは電車で40分くらい。帰ろうと思えばすぐ帰れる距離だ。)」
その時、ガイは体を起こした。
「(そうだ。帰れるじゃないか。屋敷の人間に理由を話せば、きっとわかってくれる。)」
ガイはスリッパを履いて立ち上がった。すると、ガイにとある疑問が生じた。
「(佐藤武夫の家族はどうなる…)」
そう。この体のまま障坂ガイとして生きていくとしたら、佐藤武夫はどうなる?その家族は?友人は?知人は?
知ったこっちゃない。そんな無責任な言葉で片付けて良いものなのか。ガイは迷った。
「(いやいや、何を迷ってるんだ。俺は佐藤武夫を知らない。知らない奴がどうなろうがどうだって…)」
その時、ガイは武夫の母親の顔を思い出した。
「…」
優しさを象徴したかのようなあの微笑みに、ガイの心は揺らいだ。あの笑顔はまさしく、ガイが久しく忘れていた母親のもの。そして、母親から言われたあの言葉が蘇る。
〈優しい子に育ったわね…〉
ガイはスリッパを抜き、布団に潜り込んだ。
「(寝よ。)」
ガイは眠りについた。
【翌日(11月30日)、朝、戸楽市第一中学校、1-4教室にて…】
珍しく、山口が始業時間前に教室に走り込んできた。
「っしゃあ!今日は全然間に合った!」
山口はガッツポーズしている。
そこへ、堺がやってきた。
「おはよう、山口くん。珍しいね。遅刻しないなんて。」
「おいおい堺ぃ~。それじゃまるで、俺がほぼ毎日遅刻してるみてぇじゃねぇかぁ~。」
「まるでその通りだからだよ。」
その時、山口は扉の近くの席で携帯ゲームをしている有野に話しかけた。
「俺さ、遅刻しなかった日のこと『安全日』って名付けようと思うんだけど、どう?」
「話しかけないで。」
当然の塩対応。
「有野さん、学校にゲーム機持ってきちゃダメだよ…」
堺は有野に注意した。クラス委員長として。
有野は渋々、ゲーム機をカバンに入れた。そして、教室を見渡し、言った。
「…ガイ、今日も休みかな…」
当然だが、ガイはまだ学校には来ていなかった。そして、昨日も。
「もしかして、また事件に巻き込まれてるんじゃ…」
堺の心配に対して、山口は茶化すように発言する。それに続け、有野も。
「それ、ありおりのはべりだな!」
「マジいまそかり…」
2人はアハアハと笑っている。
「もう…2人とも、もうちょっと心配しようよ。」
しかし、山口は言った。
「アイツなら大丈夫だって。だってガイだぜ?ちょっとやそっとじゃ死なねーって。有野もそう思うだろ?」
「マジいまそかり…」
気に入ったようだ。
そんな2人の様子を見て、堺はため息をついた。
「(信用してるのか無関心なのか…)」
勿論、答えは前者である。堺は少しばかり、心配性が過ぎるのだ。
その時、とある人物が教室に入ってきた。それを見て、山口は言った。
「お!ほら見ろ!ちゃんと来たじゃねーか!」
山口はその人物に声をかけた。
「おう!ガイ!俺より後に登校してくるなんていい度胸じゃねーか!」
なんと、それはガイであった。
「あぁ?」
いつものガイと何か違う。
しかし、そんな事はお構いなしに、山口は続けた。
「今日からお前は俺より先に起きろ!俺より早く寝るな!飯は美味く作れ!いつも綺麗でいろ!」
「急な関白宣言…」
堺はツッコミを入れた。そしてその後、堺はガイに挨拶した。
「おはよう障坂くん。昨日はどうしたの?」
「え、あぁ…サボりだよ、サボり。」
「そ、そうなんだ…」
ガイの口調が荒い。堺はそれに動揺した。
「(機嫌悪いのかな…?)」
その時、有野もガイに挨拶をした。
「おはよ…」
すると、有野に気づいたガイは、有野の姿を見て目を見開いた。そして、こう思った。
「(バラバラにしてぇ…)」
そう。この男はガイではない。
「おい!ガイ!俺は今日を『安全日』と名づける事にしたんだ!どう思う⁈」
山口は突拍子もなく先程の会話を掘り返した。その会話を聞いていなかった人に対して。
しかしガイ、いや、男は戸惑う事なく言い切った。
「そりゃあ…ぶち犯す!しかねぇだろ!」
「障坂くん⁈」
そう!この男、本田大地だ!
本田との戦いの約17時間後、ガイの意識が目覚めた。
「んん……」
ガイは目を開けた。
視界に広がる大部分は白。ここはどうやら、病室のようだ。
「(俺、何してたんだっけ…?)」
ガイは体を起こした。
「(そうだ。先生…いや、本田に首を絞められて…助かったのか…?)」
ガイは自分の体を触った。そして、切断されたはずの両足、右腕がある事に気がついた。
「(親父がまた治したのか…)」
有野誘拐事件の時のように、父親がタレントで治してくれた、ガイはそう考えた。
しかし、ガイはこの時、違和感を感じていた。
「(俺の手、こんな感じだったっけ…)」
いつも見慣れている自分の手。それがまるで、別人の手のように思えた。
その時、病室のドアが開いた。
「(村上か?十谷か?)」
ガイは使用人の誰かが見舞いに来たのだと思った。いや、おかしい。障坂家の一人息子が大怪我で病院に運ばれたのだ。病室に一人の訳がない。
その時、30代前半くらいの見知らぬ女性が、ガイの病室に入ってきた。
「武夫ッ…!!!」
次の瞬間、女性は血相を変え、ガイを抱きしめた。
「わッぽん⁈」
ガイはビックリして変な声が出た。一方、女性は泣きながらガイの目覚めを喜んでいる。
「よかった…目を覚ましてくれて…」
女性はとても安堵している。しかし、ガイはこの女性を知らない。
「あ、あのさ…誰かと勘違いしてない?」
ガイは女性にそう言った。しかし、女性は首を傾げ、ガイに言い返した。
「何言ってるの?武夫。」
「たけお???」
やはり誰かと勘違いしている。そんなに、自分は武夫という人物そっくりなのだろうか、とガイは思った。
「(一体どういう事だ…)」
状況から察するに、この女性は武夫という人の母親。母親が息子を間違えるだろうか。
ガイは妙な胸騒ぎがして、病室にあった鏡を見た。すると、そこにはガイと同い年ぐらいの知らない男の子が映っていた。
「えっ…」
ガイは鏡に手を振った。すると、鏡に映っていた少年も同じ動きをした。
「んん?」
ガイはベッドから立ち上がり、スリッパを履いて、鏡に近づいた。
すると、鏡に映った少年もガイに近づいてきた。
「んんん⁈」
「どうしたの?武夫?」
ガイは女性の問いかけを無視して、病室を出た。
「ちょっと!武夫!」
【病院、廊下にて…】
廊下に出たガイは、自身の病室前に貼られたネームプレートを見た。そこには、こう書かれていた。
〈佐藤 武夫 様〉
「ぬぁんじゃこりゃァァァァァァァァァァァァァァァァア!!!?!?!??!!!」
ガイは柄にも無く大きな声で驚嘆した。
「(んなんななな、なんだコレ⁈どゆこと⁈俺は障坂ガイだ!武夫ちゃう!)」
その時、武夫の母親がガイに呼びかけた。
「どうしたの⁈武夫⁈」
「武夫ちゃう!!!」
ガイはパニック状態だ。そんなガイに、通りすがりの看護師は注意をした。
「病院ではお静かにね。武夫くん。」
「武夫ちゃうて!」
ガイは一旦、病室に戻った。
【病室にて…】
ガイは病室のベッドの上に座っている。また、武夫の母親は近くに置いてあった椅子に座った。
「記憶喪失…⁈」
「あぁ…ん…そんな感じかな。」
ガイは武夫の母親に、自身は記憶喪失だと説明した。その方が都合が良いと思ったのだ。
「もしかして、私の事も…?」
「大体は…まぁ…」
下手な嘘はすぐバレる。かと言って、真実を話す訳にもいかない。ガイは言葉を濁した。
そんな事よりも、ガイにはもっと考えるべき事があった。
「(何故、俺は別人になった…?死んで転生…いや、そんな都合の良い話は無い。まぁ、こうやって生きてるだけで、もう既に都合の良い話だけど。)」
ガイは昨夜の記憶を思い返した。
「(あの晩、俺は奴に首を絞められて死んで…そうだ。あの時、俺は見ていた。俺が首を絞められる様を、上から…)」
その時、ガイの中で一つの解答が出た。
「魂の転移…」
思わず口に出た。それを聞いた武夫の母親は首を傾げる。
「たましい?」
「あぁ、いや…なんでもない。」
母親は不思議そうな顔でガイを見つめる。対して、ガイは思考を続けた。
「(本田が言っていたあの言葉…)」
〈『魂移住計画』。魂を別の肉体に転移させる能力。俺はそれを使って生き延びた。広瀬先生の体に乗り移ってな。〉
「(俺にも、奴と同じようなタレントが発現した。あの時、あの場で。そして、それを無意識のうちに使っていて、この佐藤武夫の体に乗り移った…)」
ガイの推論は大体当たっていた。ある一点を除いては。
そして、一つの疑問が生じた。
「(もしそうなら、佐藤武夫は何処に…)」
ガイは今、こうやって佐藤武夫の体を自由に動かせている。しかし、本来この体は武夫のもの。今、佐藤武夫の肉体には、ガイの意識しか宿っていなかったのだ。
「(もしかしたら、俺のタレントは乗り移りじゃなく、乗っ取り…俺が、佐藤武夫の魂や意識を呑み込んだ…)」
そういう結論になるのは当然だ。この体に武夫の意識が無い以上、ガイが乗っ取った事になる。つまり、ガイは佐藤武夫を殺した。
「(俺が…コイツを…)」
無意識とはいえ、人を殺したという確かな事実に、ガイは罪悪感と後悔の念で胸が苦しかった。だから、ガイは逃げた。
「(いや、そんな訳ない。そもそも、俺の推察が当たっている保証もない。)」
ガイは再びベッドから降り、病室の棚を漁った。
「(俺が今やるべき事…)」
ガイは屋敷の使用人たち、学校の友達の事を思い出した。
「(帰るんだ…家に…)」
その時、武夫の母親は棚を漁るガイに話しかけた。
「どうしたのよ、武夫。さっきっから変な事ばかりして…」
いつもと違う様子の息子に、どうやら不信感を抱いているようだ。
そんな母親に対し、ガイは慣れない笑顔で語りかけた。
「べ、別に…!ちょっと服探してて…」
「服?」
母親は首を傾げている。
「どうして服なんか…?」
「え、ほら。今から退院しようと思って。」
すると、母親はすごい剣幕でガイに怒鳴った。
「何言ってるの!できる訳ないでしょ!あと三日は絶対安静なのよ!」
それを聞き、ガイは驚いた。
「えっ⁈退院って自由にできないの⁈」
ガイは今まで、自分の意思次第で退院が可能だった。財閥の権力か、はたまた、使用人達の交渉の末か。それ故、ガイは入院期間というものを知らなかったのだ。
「…」
女性はガイを見つめている。そして、安堵したように微笑みを浮かべた。
「…まぁ、元気そうでよかったわ。」
「…」
ガイはそんな彼女の顔を見て、自身の母親の事を思い出していた。
「(母さん、か…)」
ガイにとって懐かしい響き。そして、優しく暖かい記憶。彼女の言葉を聞いているだけで、心が安らぐ。まるで、本当の母親のように。ガイは母親という存在の偉大さに改めて気づかされた。
だが、今は現を抜かしている場合ではない。情報収集。佐藤武夫という人物について、そして、現状を理解せねばならない。ガイは武夫の母親に尋ねた。。
「俺ってさ…」
「俺?」
武夫の母親は不思議そうな表情を浮かべ、ガイに聞き返した。
そう。おそらく武夫の一人称は俺ではない。ガイはその事に気づき、焦った。
「あっ…いやいや!俺じゃなくて『オ・レ』!カフェオレとかの『オ・レ』!母さんは何オレが好きだっけ~?えへへ~…」
「母さん?」
ガイは再びミスった。おそらく、武夫は母親の事を『母さん』とは呼ばない。ガイは尚焦った。
「かッ…かか…か…かざーん!そう!カザーン!メダルゲームでめっちゃ儲かるやつ!カザーン!ヒョーザーン!久しぶりにやりたいなぁあ!あは!あはははは!!!」
ガイはもう笑うしかなかった。
「(あぁ…しんどい…おうち帰りたい…)」
ガイは今の自分の哀れさに涙がこぼれ落ちそうだった。
【23:00、武夫の病室にて…】
ガイはベッドの上で横になりながら、思考を巡らせていた。
「(今日は11月29日。俺が殺されたはずの時刻の約23時間後。そしてココは舞開町。戸楽市へは電車で40分くらい。帰ろうと思えばすぐ帰れる距離だ。)」
その時、ガイは体を起こした。
「(そうだ。帰れるじゃないか。屋敷の人間に理由を話せば、きっとわかってくれる。)」
ガイはスリッパを履いて立ち上がった。すると、ガイにとある疑問が生じた。
「(佐藤武夫の家族はどうなる…)」
そう。この体のまま障坂ガイとして生きていくとしたら、佐藤武夫はどうなる?その家族は?友人は?知人は?
知ったこっちゃない。そんな無責任な言葉で片付けて良いものなのか。ガイは迷った。
「(いやいや、何を迷ってるんだ。俺は佐藤武夫を知らない。知らない奴がどうなろうがどうだって…)」
その時、ガイは武夫の母親の顔を思い出した。
「…」
優しさを象徴したかのようなあの微笑みに、ガイの心は揺らいだ。あの笑顔はまさしく、ガイが久しく忘れていた母親のもの。そして、母親から言われたあの言葉が蘇る。
〈優しい子に育ったわね…〉
ガイはスリッパを抜き、布団に潜り込んだ。
「(寝よ。)」
ガイは眠りについた。
【翌日(11月30日)、朝、戸楽市第一中学校、1-4教室にて…】
珍しく、山口が始業時間前に教室に走り込んできた。
「っしゃあ!今日は全然間に合った!」
山口はガッツポーズしている。
そこへ、堺がやってきた。
「おはよう、山口くん。珍しいね。遅刻しないなんて。」
「おいおい堺ぃ~。それじゃまるで、俺がほぼ毎日遅刻してるみてぇじゃねぇかぁ~。」
「まるでその通りだからだよ。」
その時、山口は扉の近くの席で携帯ゲームをしている有野に話しかけた。
「俺さ、遅刻しなかった日のこと『安全日』って名付けようと思うんだけど、どう?」
「話しかけないで。」
当然の塩対応。
「有野さん、学校にゲーム機持ってきちゃダメだよ…」
堺は有野に注意した。クラス委員長として。
有野は渋々、ゲーム機をカバンに入れた。そして、教室を見渡し、言った。
「…ガイ、今日も休みかな…」
当然だが、ガイはまだ学校には来ていなかった。そして、昨日も。
「もしかして、また事件に巻き込まれてるんじゃ…」
堺の心配に対して、山口は茶化すように発言する。それに続け、有野も。
「それ、ありおりのはべりだな!」
「マジいまそかり…」
2人はアハアハと笑っている。
「もう…2人とも、もうちょっと心配しようよ。」
しかし、山口は言った。
「アイツなら大丈夫だって。だってガイだぜ?ちょっとやそっとじゃ死なねーって。有野もそう思うだろ?」
「マジいまそかり…」
気に入ったようだ。
そんな2人の様子を見て、堺はため息をついた。
「(信用してるのか無関心なのか…)」
勿論、答えは前者である。堺は少しばかり、心配性が過ぎるのだ。
その時、とある人物が教室に入ってきた。それを見て、山口は言った。
「お!ほら見ろ!ちゃんと来たじゃねーか!」
山口はその人物に声をかけた。
「おう!ガイ!俺より後に登校してくるなんていい度胸じゃねーか!」
なんと、それはガイであった。
「あぁ?」
いつものガイと何か違う。
しかし、そんな事はお構いなしに、山口は続けた。
「今日からお前は俺より先に起きろ!俺より早く寝るな!飯は美味く作れ!いつも綺麗でいろ!」
「急な関白宣言…」
堺はツッコミを入れた。そしてその後、堺はガイに挨拶した。
「おはよう障坂くん。昨日はどうしたの?」
「え、あぁ…サボりだよ、サボり。」
「そ、そうなんだ…」
ガイの口調が荒い。堺はそれに動揺した。
「(機嫌悪いのかな…?)」
その時、有野もガイに挨拶をした。
「おはよ…」
すると、有野に気づいたガイは、有野の姿を見て目を見開いた。そして、こう思った。
「(バラバラにしてぇ…)」
そう。この男はガイではない。
「おい!ガイ!俺は今日を『安全日』と名づける事にしたんだ!どう思う⁈」
山口は突拍子もなく先程の会話を掘り返した。その会話を聞いていなかった人に対して。
しかしガイ、いや、男は戸惑う事なく言い切った。
「そりゃあ…ぶち犯す!しかねぇだろ!」
「障坂くん⁈」
そう!この男、本田大地だ!
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる