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第2章『ガイ-過去編-』
第36障『転生したら佐藤武夫だった件』
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【11月29日、16:00、とある病院にて…】
本田との戦いの約17時間後、ガイの意識が目覚めた。
「んん……」
ガイは目を開けた。
視界に広がる大部分は白。ここはどうやら、病室のようだ。
「(俺、何してたんだっけ…?)」
ガイは体を起こした。
「(そうだ。先生…いや、本田に首を絞められて…助かったのか…?)」
ガイは自分の体を触った。そして、切断されたはずの両足、右腕がある事に気がついた。
「(親父がまた治したのか…)」
有野誘拐事件の時のように、父親がタレントで治してくれた、ガイはそう考えた。
しかし、ガイはこの時、違和感を感じていた。
「(俺の手、こんな感じだったっけ…)」
いつも見慣れている自分の手。それがまるで、別人の手のように思えた。
その時、病室のドアが開いた。
「(村上か?十谷か?)」
ガイは使用人の誰かが見舞いに来たのだと思った。いや、おかしい。障坂家の一人息子が大怪我で病院に運ばれたのだ。病室に一人の訳がない。
その時、30代前半くらいの見知らぬ女性が、ガイの病室に入ってきた。
「武夫ッ…!!!」
次の瞬間、女性は血相を変え、ガイを抱きしめた。
「わッぽん⁈」
ガイはビックリして変な声が出た。一方、女性は泣きながらガイの目覚めを喜んでいる。
「よかった…目を覚ましてくれて…」
女性はとても安堵している。しかし、ガイはこの女性を知らない。
「あ、あのさ…誰かと勘違いしてない?」
ガイは女性にそう言った。しかし、女性は首を傾げ、ガイに言い返した。
「何言ってるの?武夫。」
「たけお???」
やはり誰かと勘違いしている。そんなに、自分は武夫という人物そっくりなのだろうか、とガイは思った。
「(一体どういう事だ…)」
状況から察するに、この女性は武夫という人の母親。母親が息子を間違えるだろうか。
ガイは妙な胸騒ぎがして、病室にあった鏡を見た。すると、そこにはガイと同い年ぐらいの知らない男の子が映っていた。
「えっ…」
ガイは鏡に手を振った。すると、鏡に映っていた少年も同じ動きをした。
「んん?」
ガイはベッドから立ち上がり、スリッパを履いて、鏡に近づいた。
すると、鏡に映った少年もガイに近づいてきた。
「んんん⁈」
「どうしたの?武夫?」
ガイは女性の問いかけを無視して、病室を出た。
「ちょっと!武夫!」
【病院、廊下にて…】
廊下に出たガイは、自身の病室前に貼られたネームプレートを見た。そこには、こう書かれていた。
〈佐藤 武夫 様〉
「ぬぁんじゃこりゃァァァァァァァァァァァァァァァァア!!!?!?!??!!!」
ガイは柄にも無く大きな声で驚嘆した。
「(んなんななな、なんだコレ⁈どゆこと⁈俺は障坂ガイだ!武夫ちゃう!)」
その時、武夫の母親がガイに呼びかけた。
「どうしたの⁈武夫⁈」
「武夫ちゃう!!!」
ガイはパニック状態だ。そんなガイに、通りすがりの看護師は注意をした。
「病院ではお静かにね。武夫くん。」
「武夫ちゃうて!」
ガイは一旦、病室に戻った。
【病室にて…】
ガイは病室のベッドの上に座っている。また、武夫の母親は近くに置いてあった椅子に座った。
「記憶喪失…⁈」
「あぁ…ん…そんな感じかな。」
ガイは武夫の母親に、自身は記憶喪失だと説明した。その方が都合が良いと思ったのだ。
「もしかして、私の事も…?」
「大体は…まぁ…」
下手な嘘はすぐバレる。かと言って、真実を話す訳にもいかない。ガイは言葉を濁した。
そんな事よりも、ガイにはもっと考えるべき事があった。
「(何故、俺は別人になった…?死んで転生…いや、そんな都合の良い話は無い。まぁ、こうやって生きてるだけで、もう既に都合の良い話だけど。)」
ガイは昨夜の記憶を思い返した。
「(あの晩、俺は奴に首を絞められて死んで…そうだ。あの時、俺は見ていた。俺が首を絞められる様を、上から…)」
その時、ガイの中で一つの解答が出た。
「魂の転移…」
思わず口に出た。それを聞いた武夫の母親は首を傾げる。
「たましい?」
「あぁ、いや…なんでもない。」
母親は不思議そうな顔でガイを見つめる。対して、ガイは思考を続けた。
「(本田が言っていたあの言葉…)」
〈『魂移住計画』。魂を別の肉体に転移させる能力。俺はそれを使って生き延びた。広瀬先生の体に乗り移ってな。〉
「(俺にも、奴と同じようなタレントが発現した。あの時、あの場で。そして、それを無意識のうちに使っていて、この佐藤武夫の体に乗り移った…)」
ガイの推論は大体当たっていた。ある一点を除いては。
そして、一つの疑問が生じた。
「(もしそうなら、佐藤武夫は何処に…)」
ガイは今、こうやって佐藤武夫の体を自由に動かせている。しかし、本来この体は武夫のもの。今、佐藤武夫の肉体には、ガイの意識しか宿っていなかったのだ。
「(もしかしたら、俺のタレントは乗り移りじゃなく、乗っ取り…俺が、佐藤武夫の魂や意識を呑み込んだ…)」
そういう結論になるのは当然だ。この体に武夫の意識が無い以上、ガイが乗っ取った事になる。つまり、ガイは佐藤武夫を殺した。
「(俺が…コイツを…)」
無意識とはいえ、人を殺したという確かな事実に、ガイは罪悪感と後悔の念で胸が苦しかった。だから、ガイは逃げた。
「(いや、そんな訳ない。そもそも、俺の推察が当たっている保証もない。)」
ガイは再びベッドから降り、病室の棚を漁った。
「(俺が今やるべき事…)」
ガイは屋敷の使用人たち、学校の友達の事を思い出した。
「(帰るんだ…家に…)」
その時、武夫の母親は棚を漁るガイに話しかけた。
「どうしたのよ、武夫。さっきっから変な事ばかりして…」
いつもと違う様子の息子に、どうやら不信感を抱いているようだ。
そんな母親に対し、ガイは慣れない笑顔で語りかけた。
「べ、別に…!ちょっと服探してて…」
「服?」
母親は首を傾げている。
「どうして服なんか…?」
「え、ほら。今から退院しようと思って。」
すると、母親はすごい剣幕でガイに怒鳴った。
「何言ってるの!できる訳ないでしょ!あと三日は絶対安静なのよ!」
それを聞き、ガイは驚いた。
「えっ⁈退院って自由にできないの⁈」
ガイは今まで、自分の意思次第で退院が可能だった。財閥の権力か、はたまた、使用人達の交渉の末か。それ故、ガイは入院期間というものを知らなかったのだ。
「…」
女性はガイを見つめている。そして、安堵したように微笑みを浮かべた。
「…まぁ、元気そうでよかったわ。」
「…」
ガイはそんな彼女の顔を見て、自身の母親の事を思い出していた。
「(母さん、か…)」
ガイにとって懐かしい響き。そして、優しく暖かい記憶。彼女の言葉を聞いているだけで、心が安らぐ。まるで、本当の母親のように。ガイは母親という存在の偉大さに改めて気づかされた。
だが、今は現を抜かしている場合ではない。情報収集。佐藤武夫という人物について、そして、現状を理解せねばならない。ガイは武夫の母親に尋ねた。。
「俺ってさ…」
「俺?」
武夫の母親は不思議そうな表情を浮かべ、ガイに聞き返した。
そう。おそらく武夫の一人称は俺ではない。ガイはその事に気づき、焦った。
「あっ…いやいや!俺じゃなくて『オ・レ』!カフェオレとかの『オ・レ』!母さんは何オレが好きだっけ~?えへへ~…」
「母さん?」
ガイは再びミスった。おそらく、武夫は母親の事を『母さん』とは呼ばない。ガイは尚焦った。
「かッ…かか…か…かざーん!そう!カザーン!メダルゲームでめっちゃ儲かるやつ!カザーン!ヒョーザーン!久しぶりにやりたいなぁあ!あは!あはははは!!!」
ガイはもう笑うしかなかった。
「(あぁ…しんどい…おうち帰りたい…)」
ガイは今の自分の哀れさに涙がこぼれ落ちそうだった。
【23:00、武夫の病室にて…】
ガイはベッドの上で横になりながら、思考を巡らせていた。
「(今日は11月29日。俺が殺されたはずの時刻の約23時間後。そしてココは舞開町。戸楽市へは電車で40分くらい。帰ろうと思えばすぐ帰れる距離だ。)」
その時、ガイは体を起こした。
「(そうだ。帰れるじゃないか。屋敷の人間に理由を話せば、きっとわかってくれる。)」
ガイはスリッパを履いて立ち上がった。すると、ガイにとある疑問が生じた。
「(佐藤武夫の家族はどうなる…)」
そう。この体のまま障坂ガイとして生きていくとしたら、佐藤武夫はどうなる?その家族は?友人は?知人は?
知ったこっちゃない。そんな無責任な言葉で片付けて良いものなのか。ガイは迷った。
「(いやいや、何を迷ってるんだ。俺は佐藤武夫を知らない。知らない奴がどうなろうがどうだって…)」
その時、ガイは武夫の母親の顔を思い出した。
「…」
優しさを象徴したかのようなあの微笑みに、ガイの心は揺らいだ。あの笑顔はまさしく、ガイが久しく忘れていた母親のもの。そして、母親から言われたあの言葉が蘇る。
〈優しい子に育ったわね…〉
ガイはスリッパを抜き、布団に潜り込んだ。
「(寝よ。)」
ガイは眠りについた。
【翌日(11月30日)、朝、戸楽市第一中学校、1-4教室にて…】
珍しく、山口が始業時間前に教室に走り込んできた。
「っしゃあ!今日は全然間に合った!」
山口はガッツポーズしている。
そこへ、堺がやってきた。
「おはよう、山口くん。珍しいね。遅刻しないなんて。」
「おいおい堺ぃ~。それじゃまるで、俺がほぼ毎日遅刻してるみてぇじゃねぇかぁ~。」
「まるでその通りだからだよ。」
その時、山口は扉の近くの席で携帯ゲームをしている有野に話しかけた。
「俺さ、遅刻しなかった日のこと『安全日』って名付けようと思うんだけど、どう?」
「話しかけないで。」
当然の塩対応。
「有野さん、学校にゲーム機持ってきちゃダメだよ…」
堺は有野に注意した。クラス委員長として。
有野は渋々、ゲーム機をカバンに入れた。そして、教室を見渡し、言った。
「…ガイ、今日も休みかな…」
当然だが、ガイはまだ学校には来ていなかった。そして、昨日も。
「もしかして、また事件に巻き込まれてるんじゃ…」
堺の心配に対して、山口は茶化すように発言する。それに続け、有野も。
「それ、ありおりのはべりだな!」
「マジいまそかり…」
2人はアハアハと笑っている。
「もう…2人とも、もうちょっと心配しようよ。」
しかし、山口は言った。
「アイツなら大丈夫だって。だってガイだぜ?ちょっとやそっとじゃ死なねーって。有野もそう思うだろ?」
「マジいまそかり…」
気に入ったようだ。
そんな2人の様子を見て、堺はため息をついた。
「(信用してるのか無関心なのか…)」
勿論、答えは前者である。堺は少しばかり、心配性が過ぎるのだ。
その時、とある人物が教室に入ってきた。それを見て、山口は言った。
「お!ほら見ろ!ちゃんと来たじゃねーか!」
山口はその人物に声をかけた。
「おう!ガイ!俺より後に登校してくるなんていい度胸じゃねーか!」
なんと、それはガイであった。
「あぁ?」
いつものガイと何か違う。
しかし、そんな事はお構いなしに、山口は続けた。
「今日からお前は俺より先に起きろ!俺より早く寝るな!飯は美味く作れ!いつも綺麗でいろ!」
「急な関白宣言…」
堺はツッコミを入れた。そしてその後、堺はガイに挨拶した。
「おはよう障坂くん。昨日はどうしたの?」
「え、あぁ…サボりだよ、サボり。」
「そ、そうなんだ…」
ガイの口調が荒い。堺はそれに動揺した。
「(機嫌悪いのかな…?)」
その時、有野もガイに挨拶をした。
「おはよ…」
すると、有野に気づいたガイは、有野の姿を見て目を見開いた。そして、こう思った。
「(バラバラにしてぇ…)」
そう。この男はガイではない。
「おい!ガイ!俺は今日を『安全日』と名づける事にしたんだ!どう思う⁈」
山口は突拍子もなく先程の会話を掘り返した。その会話を聞いていなかった人に対して。
しかしガイ、いや、男は戸惑う事なく言い切った。
「そりゃあ…ぶち犯す!しかねぇだろ!」
「障坂くん⁈」
そう!この男、本田大地だ!
本田との戦いの約17時間後、ガイの意識が目覚めた。
「んん……」
ガイは目を開けた。
視界に広がる大部分は白。ここはどうやら、病室のようだ。
「(俺、何してたんだっけ…?)」
ガイは体を起こした。
「(そうだ。先生…いや、本田に首を絞められて…助かったのか…?)」
ガイは自分の体を触った。そして、切断されたはずの両足、右腕がある事に気がついた。
「(親父がまた治したのか…)」
有野誘拐事件の時のように、父親がタレントで治してくれた、ガイはそう考えた。
しかし、ガイはこの時、違和感を感じていた。
「(俺の手、こんな感じだったっけ…)」
いつも見慣れている自分の手。それがまるで、別人の手のように思えた。
その時、病室のドアが開いた。
「(村上か?十谷か?)」
ガイは使用人の誰かが見舞いに来たのだと思った。いや、おかしい。障坂家の一人息子が大怪我で病院に運ばれたのだ。病室に一人の訳がない。
その時、30代前半くらいの見知らぬ女性が、ガイの病室に入ってきた。
「武夫ッ…!!!」
次の瞬間、女性は血相を変え、ガイを抱きしめた。
「わッぽん⁈」
ガイはビックリして変な声が出た。一方、女性は泣きながらガイの目覚めを喜んでいる。
「よかった…目を覚ましてくれて…」
女性はとても安堵している。しかし、ガイはこの女性を知らない。
「あ、あのさ…誰かと勘違いしてない?」
ガイは女性にそう言った。しかし、女性は首を傾げ、ガイに言い返した。
「何言ってるの?武夫。」
「たけお???」
やはり誰かと勘違いしている。そんなに、自分は武夫という人物そっくりなのだろうか、とガイは思った。
「(一体どういう事だ…)」
状況から察するに、この女性は武夫という人の母親。母親が息子を間違えるだろうか。
ガイは妙な胸騒ぎがして、病室にあった鏡を見た。すると、そこにはガイと同い年ぐらいの知らない男の子が映っていた。
「えっ…」
ガイは鏡に手を振った。すると、鏡に映っていた少年も同じ動きをした。
「んん?」
ガイはベッドから立ち上がり、スリッパを履いて、鏡に近づいた。
すると、鏡に映った少年もガイに近づいてきた。
「んんん⁈」
「どうしたの?武夫?」
ガイは女性の問いかけを無視して、病室を出た。
「ちょっと!武夫!」
【病院、廊下にて…】
廊下に出たガイは、自身の病室前に貼られたネームプレートを見た。そこには、こう書かれていた。
〈佐藤 武夫 様〉
「ぬぁんじゃこりゃァァァァァァァァァァァァァァァァア!!!?!?!??!!!」
ガイは柄にも無く大きな声で驚嘆した。
「(んなんななな、なんだコレ⁈どゆこと⁈俺は障坂ガイだ!武夫ちゃう!)」
その時、武夫の母親がガイに呼びかけた。
「どうしたの⁈武夫⁈」
「武夫ちゃう!!!」
ガイはパニック状態だ。そんなガイに、通りすがりの看護師は注意をした。
「病院ではお静かにね。武夫くん。」
「武夫ちゃうて!」
ガイは一旦、病室に戻った。
【病室にて…】
ガイは病室のベッドの上に座っている。また、武夫の母親は近くに置いてあった椅子に座った。
「記憶喪失…⁈」
「あぁ…ん…そんな感じかな。」
ガイは武夫の母親に、自身は記憶喪失だと説明した。その方が都合が良いと思ったのだ。
「もしかして、私の事も…?」
「大体は…まぁ…」
下手な嘘はすぐバレる。かと言って、真実を話す訳にもいかない。ガイは言葉を濁した。
そんな事よりも、ガイにはもっと考えるべき事があった。
「(何故、俺は別人になった…?死んで転生…いや、そんな都合の良い話は無い。まぁ、こうやって生きてるだけで、もう既に都合の良い話だけど。)」
ガイは昨夜の記憶を思い返した。
「(あの晩、俺は奴に首を絞められて死んで…そうだ。あの時、俺は見ていた。俺が首を絞められる様を、上から…)」
その時、ガイの中で一つの解答が出た。
「魂の転移…」
思わず口に出た。それを聞いた武夫の母親は首を傾げる。
「たましい?」
「あぁ、いや…なんでもない。」
母親は不思議そうな顔でガイを見つめる。対して、ガイは思考を続けた。
「(本田が言っていたあの言葉…)」
〈『魂移住計画』。魂を別の肉体に転移させる能力。俺はそれを使って生き延びた。広瀬先生の体に乗り移ってな。〉
「(俺にも、奴と同じようなタレントが発現した。あの時、あの場で。そして、それを無意識のうちに使っていて、この佐藤武夫の体に乗り移った…)」
ガイの推論は大体当たっていた。ある一点を除いては。
そして、一つの疑問が生じた。
「(もしそうなら、佐藤武夫は何処に…)」
ガイは今、こうやって佐藤武夫の体を自由に動かせている。しかし、本来この体は武夫のもの。今、佐藤武夫の肉体には、ガイの意識しか宿っていなかったのだ。
「(もしかしたら、俺のタレントは乗り移りじゃなく、乗っ取り…俺が、佐藤武夫の魂や意識を呑み込んだ…)」
そういう結論になるのは当然だ。この体に武夫の意識が無い以上、ガイが乗っ取った事になる。つまり、ガイは佐藤武夫を殺した。
「(俺が…コイツを…)」
無意識とはいえ、人を殺したという確かな事実に、ガイは罪悪感と後悔の念で胸が苦しかった。だから、ガイは逃げた。
「(いや、そんな訳ない。そもそも、俺の推察が当たっている保証もない。)」
ガイは再びベッドから降り、病室の棚を漁った。
「(俺が今やるべき事…)」
ガイは屋敷の使用人たち、学校の友達の事を思い出した。
「(帰るんだ…家に…)」
その時、武夫の母親は棚を漁るガイに話しかけた。
「どうしたのよ、武夫。さっきっから変な事ばかりして…」
いつもと違う様子の息子に、どうやら不信感を抱いているようだ。
そんな母親に対し、ガイは慣れない笑顔で語りかけた。
「べ、別に…!ちょっと服探してて…」
「服?」
母親は首を傾げている。
「どうして服なんか…?」
「え、ほら。今から退院しようと思って。」
すると、母親はすごい剣幕でガイに怒鳴った。
「何言ってるの!できる訳ないでしょ!あと三日は絶対安静なのよ!」
それを聞き、ガイは驚いた。
「えっ⁈退院って自由にできないの⁈」
ガイは今まで、自分の意思次第で退院が可能だった。財閥の権力か、はたまた、使用人達の交渉の末か。それ故、ガイは入院期間というものを知らなかったのだ。
「…」
女性はガイを見つめている。そして、安堵したように微笑みを浮かべた。
「…まぁ、元気そうでよかったわ。」
「…」
ガイはそんな彼女の顔を見て、自身の母親の事を思い出していた。
「(母さん、か…)」
ガイにとって懐かしい響き。そして、優しく暖かい記憶。彼女の言葉を聞いているだけで、心が安らぐ。まるで、本当の母親のように。ガイは母親という存在の偉大さに改めて気づかされた。
だが、今は現を抜かしている場合ではない。情報収集。佐藤武夫という人物について、そして、現状を理解せねばならない。ガイは武夫の母親に尋ねた。。
「俺ってさ…」
「俺?」
武夫の母親は不思議そうな表情を浮かべ、ガイに聞き返した。
そう。おそらく武夫の一人称は俺ではない。ガイはその事に気づき、焦った。
「あっ…いやいや!俺じゃなくて『オ・レ』!カフェオレとかの『オ・レ』!母さんは何オレが好きだっけ~?えへへ~…」
「母さん?」
ガイは再びミスった。おそらく、武夫は母親の事を『母さん』とは呼ばない。ガイは尚焦った。
「かッ…かか…か…かざーん!そう!カザーン!メダルゲームでめっちゃ儲かるやつ!カザーン!ヒョーザーン!久しぶりにやりたいなぁあ!あは!あはははは!!!」
ガイはもう笑うしかなかった。
「(あぁ…しんどい…おうち帰りたい…)」
ガイは今の自分の哀れさに涙がこぼれ落ちそうだった。
【23:00、武夫の病室にて…】
ガイはベッドの上で横になりながら、思考を巡らせていた。
「(今日は11月29日。俺が殺されたはずの時刻の約23時間後。そしてココは舞開町。戸楽市へは電車で40分くらい。帰ろうと思えばすぐ帰れる距離だ。)」
その時、ガイは体を起こした。
「(そうだ。帰れるじゃないか。屋敷の人間に理由を話せば、きっとわかってくれる。)」
ガイはスリッパを履いて立ち上がった。すると、ガイにとある疑問が生じた。
「(佐藤武夫の家族はどうなる…)」
そう。この体のまま障坂ガイとして生きていくとしたら、佐藤武夫はどうなる?その家族は?友人は?知人は?
知ったこっちゃない。そんな無責任な言葉で片付けて良いものなのか。ガイは迷った。
「(いやいや、何を迷ってるんだ。俺は佐藤武夫を知らない。知らない奴がどうなろうがどうだって…)」
その時、ガイは武夫の母親の顔を思い出した。
「…」
優しさを象徴したかのようなあの微笑みに、ガイの心は揺らいだ。あの笑顔はまさしく、ガイが久しく忘れていた母親のもの。そして、母親から言われたあの言葉が蘇る。
〈優しい子に育ったわね…〉
ガイはスリッパを抜き、布団に潜り込んだ。
「(寝よ。)」
ガイは眠りについた。
【翌日(11月30日)、朝、戸楽市第一中学校、1-4教室にて…】
珍しく、山口が始業時間前に教室に走り込んできた。
「っしゃあ!今日は全然間に合った!」
山口はガッツポーズしている。
そこへ、堺がやってきた。
「おはよう、山口くん。珍しいね。遅刻しないなんて。」
「おいおい堺ぃ~。それじゃまるで、俺がほぼ毎日遅刻してるみてぇじゃねぇかぁ~。」
「まるでその通りだからだよ。」
その時、山口は扉の近くの席で携帯ゲームをしている有野に話しかけた。
「俺さ、遅刻しなかった日のこと『安全日』って名付けようと思うんだけど、どう?」
「話しかけないで。」
当然の塩対応。
「有野さん、学校にゲーム機持ってきちゃダメだよ…」
堺は有野に注意した。クラス委員長として。
有野は渋々、ゲーム機をカバンに入れた。そして、教室を見渡し、言った。
「…ガイ、今日も休みかな…」
当然だが、ガイはまだ学校には来ていなかった。そして、昨日も。
「もしかして、また事件に巻き込まれてるんじゃ…」
堺の心配に対して、山口は茶化すように発言する。それに続け、有野も。
「それ、ありおりのはべりだな!」
「マジいまそかり…」
2人はアハアハと笑っている。
「もう…2人とも、もうちょっと心配しようよ。」
しかし、山口は言った。
「アイツなら大丈夫だって。だってガイだぜ?ちょっとやそっとじゃ死なねーって。有野もそう思うだろ?」
「マジいまそかり…」
気に入ったようだ。
そんな2人の様子を見て、堺はため息をついた。
「(信用してるのか無関心なのか…)」
勿論、答えは前者である。堺は少しばかり、心配性が過ぎるのだ。
その時、とある人物が教室に入ってきた。それを見て、山口は言った。
「お!ほら見ろ!ちゃんと来たじゃねーか!」
山口はその人物に声をかけた。
「おう!ガイ!俺より後に登校してくるなんていい度胸じゃねーか!」
なんと、それはガイであった。
「あぁ?」
いつものガイと何か違う。
しかし、そんな事はお構いなしに、山口は続けた。
「今日からお前は俺より先に起きろ!俺より早く寝るな!飯は美味く作れ!いつも綺麗でいろ!」
「急な関白宣言…」
堺はツッコミを入れた。そしてその後、堺はガイに挨拶した。
「おはよう障坂くん。昨日はどうしたの?」
「え、あぁ…サボりだよ、サボり。」
「そ、そうなんだ…」
ガイの口調が荒い。堺はそれに動揺した。
「(機嫌悪いのかな…?)」
その時、有野もガイに挨拶をした。
「おはよ…」
すると、有野に気づいたガイは、有野の姿を見て目を見開いた。そして、こう思った。
「(バラバラにしてぇ…)」
そう。この男はガイではない。
「おい!ガイ!俺は今日を『安全日』と名づける事にしたんだ!どう思う⁈」
山口は突拍子もなく先程の会話を掘り返した。その会話を聞いていなかった人に対して。
しかしガイ、いや、男は戸惑う事なく言い切った。
「そりゃあ…ぶち犯す!しかねぇだろ!」
「障坂くん⁈」
そう!この男、本田大地だ!
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「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
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