障王

泉出康一

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第2章『ガイ-過去編-』

第37障『体育教師の生き様』

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【翌日(11月30日)、朝、戸楽市第一中学校、1-4教室にて…】

朝礼の時間、広瀬先生の代わりに体育教師がやってきた。

「あ、体育教師だ。」
「体育教師が来た。」
「なんで体育教師?」
「広瀬先生はー?」
「ウンコ中なんだろ、広瀬先生は。」

ウンコ発言は石川である。

「広瀬先生は今日もお休みだ。しばらくは、俺こと、体育教師が来る事となるだろう。」

名は決して名乗らない。それが、しがない体育教師の生き方である。

「なんで先生休みなのー?」
「理由教えろよ体育教師ー!」
「痔が悪化して入院したって聞いたぞー!」

痔発言は石川である。
その時、体育教師は声を荒げた。

「あーん!もう!うるさいうるさいうるさい!体育教師が何でも知ってると思うなよお前ら!体育教師だってな、知らない事もあるんだよ!泣きたい時もあるんだよ!何もかも投げ出して逃げたい時だってあるんだよ!」

体育教師。39歳。バツ7。先月、校長の頭にビンタかまして減給された。

「(相当溜まってんだな。教師ってやつは。)」

ガイの肉体に魂を転移させた本田大地は、その様子を傍観していた。
その時、本田の頭の中に声が響いてきた。

〈広瀬陸もそうだったの?〉
「(あぁ。だからこそ、付け入る隙があった。)」
〈肉体の主導権は、あくまで元あった魂だからな。〉
「(そこまで知ってんのか、お前。)」

本田はその声と頭の中で会話している。

〈ところで、ガイこの肉体にはもう慣れた?〉
「(あぁ。身体能力や頭の回転は過去1だ。これで人殺して良いなら文句はねぇんだがな。)」
〈まぁまぁ。あと4~5日すれば本当のガイがやってくる。この肉体を求めて。〉

その時、本田は真剣な表情で心の中のナニカに尋ねた。

「(本当に、障坂ガイは体を取り戻しに来るんだろうな?それも4~5日後に。」
〈間違いないね!〉
「(それを返り討ちにすれば…本当に、この体は俺の物にして良いんだよな…?)」
〈うん。勿論。〉

この発言は嘘か真実か。いや、違う。コレは挑発だ。ガイを倒せるものなら倒してみろ。このナニカはそう言っている。
それを理解した本田はニヤリと微笑んだ。

「(そんじゃま、それまで大人しく学生生活してやっか。)」
〈その意気だよ!ガンバ!〉
「(テメェなめてんのか…?)」

【放課後、教室にて…】

1年4組は文化祭の出し物や用意をしている。通り魔殺人事件の犯人が捕まり、放課後の居残りが可能になったからだ。

「それでは!うちのクラスの出し物を決めていきたいと思います!」

堺はクラス委員長として、教卓の前で話を進めている。

「何か案ある人ー!」

すると、生徒達は口々に案を言い始めた。

「俺、劇やりてー!」
「私、カフェが良い!」
「全員でバンドやろーぜ!」
「えー!やっぱ飲食店だろ!」
「お化け屋敷!」
「やーい!お前んち、お化け屋敷ー!」
「カァァンタァァァア!!!」

皆、ふざけ始めてきた。

「ウンコ食べ放題!ス○トロバイキングにするべ!」

ウンコ発言は石川である。

「足の裏の皮ケバブだろ!炙ったら美味いらしいぞ!」

足の裏の皮発言は山口である。

「ちょ、ちょっと!みんなマジメにやってよ!」

堺は皆の好き勝手な発言に困惑している。

【数分後…】

「えーっと、じゃあ…1-4の出し物は『人間展示店』に決まりました。」

説明しよう!
『人間展示店』とはその名の通り、人間を展示する店舗である。しかし、ただ人間を展示するだけでは面白くない。オシャレさ、奇抜さ、滑稽さ、美しさなど、その人間にあったファッションをし、その上で装飾を施した人間を教室内に展示する。要するに、歩かないパリコレである。この場合、展示される人間は1-4の生徒だ。

「展示は前半組と後半組、それぞれ10人ぐらいで。残りは受付とか裏方やってもらいます。」

堺は意外な統率力を見せ、また、クラスの皆も積極的に堺に協力し、次々と役割が決まっていく。しかし、その中で一人、全く協力的でない者がいた。

「(はぁ…人殺してぇぇ…)」

本田だ。本田はこのクラス、と言うより、若者のノリについて行けずにいた。

「(こんなのがあと4日もあんのか…)」

その時、本田の頭に声が響いてきた。

〈楽しめよ。何事も楽しんだもん勝ちだぞ?〉

本田は目の前に広がる光景を見た。クラスの皆は楽しそうに役割やら仕事やらを話し合っている。その光景を見た本田に、とある記憶が蘇った。

「(楽しめ、か…)」

それは本田がまだ中学生の頃の記憶。本田は年齢を偽り、バイトをしていた。施設を出る為、そして、妹を養うには、何としてでも金が必要だったのだ。それ故、友達と遊ぶという事はしてこなかった。本当は遊びたかった。部活もやってみたかった。しかし、それをする事なく、本田は快楽殺人者として人生を終えた。
しかし、今、目の前に広がるのは、かつて手にできなかった、思い描いた光景。

「おいガイ!お前も前半やろうぜ!」

山口は椅子に座っていた本田の手を引っ張り、教卓の方へと強引に連れていった。

「(まぁ、たった4~5日の辛抱。こういうのも、偶には悪くねぇ…な。)」

本田は笑みを浮かべている。その表情に、一切の悪意は感じられなかった。
約1時間の話し合い。クラス全員の役割が決まった。ガイ本田は前半の受付組に選ばれた。

【一方その頃、舞開町、病院、武夫の病室にて…】

ガイは夕食を摂っている。

「うっす…」

あまりの薄味に、ガイは思わず口ずさんだ。

「…」

ガイは窓の外、病院の中庭を見ている。

「(暇だ…)」

するとその時、病室の扉が開いた。
ガイは母親か看護師が来たのだと思ったが、実際にやって来たのは、ガイよりも一回り年下の少年だった。

「えっ…」

少年は驚いた表情をしている。ガイも同じだ。
そして、少年はガイに尋ねた。

「お兄ちゃん誰?どうして俺の部屋にいるの?」

どうやら、少年は部屋を間違えたようだ。

勇輝ゆうきくん!」

その時、一人の看護師が少年の元へやってきた。

「ダメよ。勝手に他の人の部屋入っちゃ。」
「違うよ!あのお兄ちゃんが僕の部屋にいたんだよ!」

すると、その看護師はガイに頭を下げた。

「ごめんなさい。この子、部屋間違えちゃったみたいで…」

看護師のその発言を聞いた少年はまたもや声を荒げた。

「違うって!あのお兄ちゃんが勝手に…」

どうやら、自分が部屋を間違えたと認めたくないようだ。そんな少年を看護師は優しくなだめる。
そして、二人はその場から去っていった。

「(なんだったんだ…)」

【19:00、障坂邸、食堂にて…】

本田は豪勢な夕食を摂っている。そんな彼の周りには、ヤブ助,村上,十谷,他数名の使用人たちが立っていた。しかし、何やら険悪な雰囲気である。
その時、十谷が本田に話しかけた。

「おい、貴様。ガイ様には会ったのか。」
「あぁ。殺しちまった。」

本田は笑みを浮かべ、対して十谷は本田を睨んでいる。

「冗談通じねぇ奴だな~。」

本田はステーキを口に運んだ。

「会ってねぇよ。」

十谷達はガイの体に本田がいる事を知っていた。何故なら、障坂家当主であるガイの父親、障坂巌に全ての事情を聞いていたからだ。また、巌は全ての事情を知りながら、本田を家に置いたのだ。

「(まったく、旦那様は一体何を考えておられるのか。こんな殺人鬼を家に…それもガイ様の体で…)」

【夜、ガイの部屋にて…】

本田はガイのベッドの上でゲームをしている。そして、机の上には猫の姿のヤブ助がいる。どうやら、監視役のようだ。

「おい。殺人鬼。」

ヤブ助は本田に話しかけた。

「お前、何で大人しくガイとして生活してんだ?」

しかし、本田は答える事なくゲームを続けている。

「メリットでもあるのか?それとも、ガイの親父に弱みでも握られたか?」

すると、本田は面倒臭そうな口調でヤブ助に言った。

「詮索は無用。そう言われたんじゃなかったか?テメェらのご主人様によぉ。」
「…」

ヤブ助たち使用人は、この件には一切干渉するな、いつも通りに振る舞え、それが障坂家当主である障坂巌からの命令だ。

「安心しろ。障坂ガイを殺したらこんな所出てってやる。」

その言葉を聞き、ヤブ助は本田を睨みつけた。殺意の篭った眼差しで。

「その時は、俺がお前を殺しに行く。どんな手を使っても。どこに居ようとも。お前が、自分から死にたくなるぐらい、しつこくな。」

それを聞いた本田はキシキシと笑い始めた。

「悪くねぇなぁ、それも。」

【一方その頃、舞開町、病院、武夫の病室にて…】

就寝時間となり、ガイは病室のベッドの上で横になっている。

「…」

しかし、どうやら眠くないようだ。

「(シムシティやりたい…)」

その時、ガイの病室の扉が開いた。

「やだッ⁈なにッ⁈」

真っ暗の部屋の中、急に開く扉。当然、怖い。ガイは唐突な恐怖により、思わずオネエ口調で驚いてしまった。

「(おばけ…⁈)」

タレントという非現実的な力を知っているガイにとっては、妖怪や幽霊といった類もまた、現実に存在しうるもの。そういう思考回路になっていた。しかし、実際に扉を開けたのは幽霊ではない。

「こんばんは!」

それは昼間にガイの部屋へやってきた少年だった。

「(あ、コイツ、昼間の…)」

何故、こんな時間に少年がやってきたのか。そして、ガイは思った。

「(この病院、夜間カギとかかけてないのか?不用心すぎる…)」

その時、少年はガイに頭を下げた。

「昼間はごめんなさい…」

そして、少年はすぐさま顔を上げた。

「…って言えって言われた。」
「(どう考えても今じゃないだろ。)」

というツッコミをグッと胸の奥に押し込み、ガイは少年に言う。

「大丈夫。全然気にしてないから。」

ガイは作り笑顔で少年に微笑みかけている。
すると、それを見た少年も笑顔になり、ガイに近寄ってきた。

「ねぇ!お兄ちゃん!UNOしよう!」
「は…?」

何故、こんな夜中に。ガイはこの少年の無垢な非常識に困惑している。

「なんで…?」
「暇だから!!!」

少年は迷いなくそう答えた。

「(なんか、山口の相手してるみたいだ…)」

ガイはため息を吐きつつも、自身も暇を持て余していた為、少年の案に乗った。

【数分後…】

「はい!今UNOって言ってなーい!!!」

ガイは少年を指差し、そう言った。大人げない。

「お兄ちゃん、性格悪いね。友達少ないでしょ。」
「うッ…」

二人は深夜までUNOに没頭した。
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