障王

泉出康一

文字の大きさ
111 / 211
第2章『ガイ-過去編-』

第47障『置いてきたもの』

しおりを挟む
【???にて…】

子供の泣き声が聞こえる。それをあやしつける女性の声も。

「僕、お父さんなんか嫌いだ…!大っ嫌いだ…!」
「ダメだよ。お父さんの事そんな風に言っちゃ。お父さんだってね、⬛︎⬛︎の為を思って毎日頑張ってるんだから。」
「でも…」
「いつかきっと、お父さんの気持ちがわかるようになるさ。」

俺、やっとわかったよ。父さん。こんなに辛かったんだね。でも、世界の為だから、仕方ないよね。弱音なんて吐けない。それに、アイツだってきっと許さないと思うし。
アイツは言った。オレは記憶だと。じゃあ、記憶に全てを支配される俺達は、一体なに?この世界の存続の為に、子供を作って子孫を残し、奴に器を与えるだけなの?それが障坂なの?わからない。理解できないよ。父さん。

【12月4日、20:30、障坂邸、父親の書斎にて…】

突発的な頭痛により意識を失ったガイが目を覚ました。

「(夢…)」

ガイは先程見ていたものを思い出しながら、体を起こした。

「(最近多いな…こういうの…)」

ガイは夏休み以降から、突如見知らぬ声が頭に響いたり、鮮明な夢を見る事が多々現れるようになっていた。

「記憶…」

夢の中で言っていた言葉。『記憶』。その言葉に、ガイは何かを感じ取った。しかし、この時のガイにはまだわからない。
何故ならガイには、ソレの存在にまだ気づいていないから。

「…風呂入って寝るか。」

ガイは書斎を出た。

【翌日(12月5日)、文化祭2日目、朝、学校にて…】

「嘘だろ…⁈」

ガイは自分のクラスの出し物が人間展示店という事を知り、さらに自分が女装をする事を知った。
椅子に座り驚嘆するガイ。そんなガイに、女子生徒達は昨日同様、メイクを施そうとしていた。
すると次の瞬間、ガイは椅子から立ち上がり、それを拒んだ。

「ちょっと障坂くん!動いちゃダメだよ!」
「いやいやいや!やらない!俺やらない!」

ガイの唐突な拒否に、女子生徒達は困惑した。

「急にどうしたの?障坂くん。」
「そうよ。今まで自分から喜んでやってくれたじゃない。」

実は、ガイは自身の容姿が女性のようだと思われる事を嫌悪していた。過去、使用人達に『女の子みたいで可愛い』と言われ続け、鬱陶しく思ったガイは自身の長いまつ毛を切断しようとした。直前で使用人達がそれに気づき阻止したが、以来、ガイの事を『女の子みたい』と発言するのは屋敷内ではNGとなった程だ。

「嫌だぁ!絶対にやりたくない!!!」

今までになく感情的に拒むガイ。そんなガイを見て、皆は驚いた。
しかし、ガイには昨日に続き、性癖製造機をやってもらわねば困る。

「お願いよ障坂くん!」
「もう開店の時間になっちゃうから!」

ガイは首を横に降り続ける。
その時、有野が立ち上がった。

「私がやる…」

それを見たクラスメイト達は少し驚嘆し、有野に尋ねた。

「でも有野さん、嫌だって…」 

すると、有野は答えた。

「元は私のワガママでガイを巻き込んだから…だから…」
「有野…」

有野は人前に立つのが嫌いだ。しかも見せ物にされるなどもっての外。ガイはそれをわかっていた。

「だから…私がやる…」

わかっていた。

「…」

この先、自分がとるであろう行動も。
そう。ガイの出した結論とは。

【数分後…】

「「「かぁぁんわいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃい!!!」」」

女子生徒達は量産型ファッションに身を包んだガイを取り囲んでいた。

「…」

ガイは死んだ魚のような目をしている。一方、クラスの女子達はキャーキャー言っている。まるで、目の前に猫の赤ちゃんが居るかのように。

「今日の衣装も最高!」
「何度見ても尊いわぁ~!」
「2日連続同じ衣装だと味気ないから、今日は別のを持ってきました!」
「さすが吉田さん!」
「わかってるぅ~!」

その時、1人の女子生徒がガイに鏡を向けた。

「ほら見て!障坂くん!こんなに可愛いのよ!」
「そうよ!嫌がる事ないわ!自信を持って!」

ガイは無気力に鏡の中の自分に視線を向けた。

「………なッ⁈」

次の瞬間、ガイは鏡の縁を掴み、顔を近づけた。

「なんだぁあこの美少女はぁぁあ!!!」

ガイの中の何かが弾けた。
その後、文化祭は無事に終了した。

【夕方、教室にて…】

「え?打ち上げ来ないの?」
「あぁ。ちょっと寄る所があってな。」

どうやら、文化祭の打ち上げがあるようだ。ガイ以外のクラスメイトは全員参加するらしい。
ガイは堺からの誘いを断った。寄る所、それは、おそらく彼処。

【夜、舞開町、佐藤家にて…】

ガイは佐藤家のリビングで、椅子に座って武夫の母親と話をしている。

「話は十谷さんから聞いたわ。」
「すみません。大丈夫だって言ったのに…」

ガイは頭を下げた。そんなガイに、武夫の母は言う。

「謝らないで。あなたは何も悪くないんだから。」
「でも…」
「息子の入院費も学校への申告も全てやってくれて…感謝こそすれ、恨んだりしないわ。」

そう発言した母親の笑顔には、悲しみの感情が見てとれた。
障坂家専属の病院では、部外者の立ち入りは禁止されている。それ故、武夫の母親は入る事ができない。つまり、息子の見舞いに行く事ができないのだ。
例え眠ったままの息子でも、顔を見たいのが母親の心情。それが叶わぬ嘆きこそ、この笑顔の意味なのだ。

【とある和風の屋敷にて…】

客間には4人居た。その4人は四角い机を囲って、椅子に座っていた。
手前に座っていたのは長身の若い女。170cmはあるだろう。髪を後ろで束ねており、鋭い目付きをしている。名前は猪頭いがしら秀頼ひでより。ゴルデン四大財閥の一つ、猪頭家次期当主だ。
右手に座るは黒髪の青年。20歳前後か。左眼に眼帯をつけている。若いのに大した貫禄の持ち主だ。名前は出口でぐち哲也てつや。同じく、ゴルデン四大財閥の一つで、出口家現当主だ。
左手に座るは30代前半の男。見覚えがある。そう、彼は陣野じんの智高ともたか。かつて山尾兄弟を軟禁し、ガイに倒された男だ。タレントは『青面石化談話ノーグットパーティ』。陣野も2人同様、ゴルデン四大財閥の一つだ。
そして、奥に座る銀髪の男。髭を生やし、サングラスをかけた見るからにヤバそうな中年男性。名前は陽道ひどうかなめ。ゴルデン最大規模の指定暴力団、白鳥しらとり組の現組長だ。
その時、陽道が話し始めた。

「ここいらで1つ…同盟なんてどうだ?」
「同盟…?」

出口は尋ねた。他の2人も、陽道の発言の真意が気になるようだ。
陽道はそれに応える。

「今度の会合の話は聞いてるだろ。おそらくだが、障坂はそこでアレの提出を秤にかける。外へ行く為にな。」

それを聞き、出口,猪頭,陣野の順に発言した。

「何故、うちのリーダーに話をつけないんだ。同盟なら俺じゃなくしゅうだろ。」
「その通りだ。そもそも私はハンディーキャッパーではない。そういう類の話は姉に言うんだな。」
「お、おおお俺は協力しない!もうヤバい橋を渡る気はないぞ!」

そんな彼らに、陽道は言う。

「全員乗り気じゃねぇって感じだな。じゃあ何で今日ココに集まったんだ?あ?」

それに出口が答えた。

「後でどんな目に遭うかわからんからな。」

猪頭も賛同する。

「右に同じ。それに、アンタならどんな手を使ってでも私達を呼び出しただろ。」

猪頭はやれやれといった感じで腕を組み、話を続ける。

「まったくアンタと障坂はよく似ている。まぁ、障坂の方が幾分マシだがな。」

一瞬、その場が凍りつく。
数秒後、猪頭が再び口を開いた。

「話は何だ。」

【数十分後、電車内にて…】

ガイは武夫の母親と話した後、戸楽市の自分の家へと向かっていた。

「…」

ガイは窓から夜空を見上げている。

「(色んなものを置いてきた…)」

夜空には無数の星が散らばっていた。

「(俺はそれら全部…取り戻す事ができるのか…)」

取り戻す。一体何を取り戻すのか。おそらくは記憶。ガイはタレントを手に入れ、仲間を手に入れ、そして、強さを手に入れた。カードは揃った。全ては始まりのあの日の為。
会合。それはガイにとっての始まり。ガイが地獄に堕ちるまでの、始まりの一部。物語は最終局面へと移行する。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗
ファンタジー
俺と相棒二人だけの冴えない冒険者パーティー。普段はスライム退治が専門だ。その冴えない日常を語る。

王様の恥かきっ娘

青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。 本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。 孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます 物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります これもショートショートで書く予定です。

処理中です...