障王

泉出康一

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第2章『ガイ-過去編-』

第48障『最悪の選択』

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【翌日(12月6日)、13:10、戸楽市第一中学校、中庭にて…】

ガイ,山口,堺,広瀬は昼食をとっていた。

「11連勤しんどー!!!」

この学校では土日に文化祭をする。そして、期末テストからの期間が短い為、生徒達は文化祭までの休日を返上して学校へ来ていた。しかも、何故か休日を返上して来た生徒には授業を施すという鬼仕様。それ故、真面目に学校へ来ていた者は今日で11連勤なのだ。山口はそれを嘆いていた。

「しかも今日、月曜日ー!1週間の始まりー!過労死するー!」

荒れる山口を堺はなだめる。

「まぁまぁ。文化祭、楽しかったからいいじゃん。」
「それとこれとは話が別じゃい!土日来てやってんのに授業されるって訳わかんねぇだろ!しかも寝るなって怒られたし!」

2人の会話を無視して、ガイは広瀬に話しかけた。

「広瀬。先生の様子はどうなんだ?」
「わからない。面会できないから…涼子を信じるしかない。」
「そうか。」

騒ぐ山口と堺に対し、ガイと広瀬は黙っている。
数秒後、沈黙が嫌いな広瀬はガイに話しかけた。

「そういえばガイ君は最近どう?」

ガイは首を傾げた。

「どうって?」
「本田から体を取り返してまだ2日目じゃん?体調とか、なんか、変わった所とか…」

その時、広瀬は本田と戦った時の、ガイの中のソレを思い出した。

「(そうだ、奴は…一体どうなったんだ…まだ、ガイ君の中に居るのか…)」

思考する広瀬にガイは答える。

「まぁ、特には無いかな。心配してくれてありがとな。」

しかし、広瀬は考えに夢中で反応が遅れる。

「え…あ、ううん!お礼なんていいよそんな…」
「…?」

よそよそしい広瀬を見て、ガイは疑問を持った。しかし、あまり深く考える事はなかった。
それよりも考えるべき事。それは。

「(会合…ハンディーキャッパーの集い…)」

そう。ガイは父親の言っていた会合について、調べなければならなかった。

「なぁ、広瀬。会合かいごうって知ってるか?」

ガイはダメ元で広瀬に聞いてみた。

「え?解剖かいぼう?」
「あ、いや、ごめん。何でもない。」
「…?」

当然、タレントを得て数日の広瀬が知っているはずはない。まぁ、タレントを得たのはガイもつい最近だが。

【5限目、教室にて…】

1-4では国語の授業が行われている。
ガイは全く話を聞かずに、会合について考えていた。

「(ハンディーキャッパーの集い…)」

父親は言っていた。会合にはハンディーキャッパーが集うと。つまり、ハンディーキャッパーなら、この会合について知ってる人物が居るかも知れない。

「(手当たり次第、当たってみるか…)」

【放課後、戸楽市二中学校区内、ゲーセンにて…】

ガイはとある人物とアーケードレースゲームをしながら話をしていた。

「じゃあお前も知らないんだな、山尾。」

その人物は山尾やまお瞬太郎しゅんたろう。かつて陣野に利用されていたハンディーキャッパーだ。

「あぁ。陣野は確かにハンディーキャッパーを集めてた。けど何でかは知らないし、その会合ってやらも知らん。」

山尾はガイにそう言った。本当に、何も知らされていたかったようで、会合とやらの存在も知らなかった。
その時、ガイは前に山尾が言っていた発言を思い出していた。

〈財閥の連中がヤクザとかと連んで何かしでかすらしい。その為に、ハンディーキャッパーを集めてるんだって…〉

その次に、ガイは母親の実家がある伊従村での出来事、主に氷室ひむろ少年の言葉を思い出した。

〈館林の目的はよくわかりませんが、何処かのヤクザ屋さんとお友達のようですよ。なんだっけなぁ…はくちょう?だったっけ…〉

気になるワードは財閥とヤクザ。ガイはそれらを推測し、山尾に尋ねた。

「お前が前に言っていたヤクザ。もしかして、白鳥しらとり組って奴じゃないか?」

それを聞いた山尾は、何かを思い出したかのようにゲームをする手が止まった。

「そうだ…それだよそれ!確かそんな名前だった!」

ガイは山尾の手が止まったその隙に、山尾が操作する車体に赤こうらを直撃させた。

「あ!ちょ!ずっり!ずっっっりッ!」

山尾の操作する車体はコースアウトし、海に落ちた。

「ぉお堕ちるなクッパぁぁぁぁあ!!!『我と彼方の代入法セルチョイス』使えッ!!!」
「クッパはタレント使えないぞ。」

【夜、障坂邸、ガイの部屋にて…】

ガイはネットなどで白鳥組の事を調べていた。
ネットの情報では、白鳥組は約2万人の構成員から成り、ゴルデン最大規模の指定暴力団であると書かれている。さらに調べていくと、武器の密造や違法薬物の販売、人身売買などにも手を染めているという書き込みもあった。しかし、それらの多くは根拠の無いものばかり。そして、何より気掛かりなのは、タレントやハンディーキャッパーの書き込みは一切なかった事だ。コレだけの情報があるにも関わらず、それらの類いが全くないのはおかしい。何か、とてつもなく巨大な何かに隠蔽されているようだった。

「(この世界を調べた時と同じ…同じ違和感だ…)」

以前、ガイは言った。この世界はまるで、誰かによって作られたゲームだと。全てが、ナニカの意志によって決定づけられている。この世界が、現実ではないような、そんな違和感が。
そして、ガイは確信した。

「(財閥…ゴルデン…タレント…そして世界…全てが繋がっている…)」

根拠は無い。しかし、ガイにはそれがわかった。きっと、ガイには無い、ガイの中の記憶が告げているのだ。
ガイはベッドの上に横になった。

「(会合に行けば、全てわかる…のか…)」

【翌日(12月7日)、昼休み、学校、中庭にて…】

ガイ,堺,広瀬は昼食をとっている。
その時、広瀬は堺に尋ねた。

「山口くんは?」
「休みだよ。今日は何が何でもサボってやるって言ってたから。止めたんだけどね。」

次の瞬間、堺は花壇のレンガに思いっきり頭を打ち付けた。

「えぇ⁈ちょっとぉ⁈何してんの⁈」

広瀬は驚嘆した。しかし、ガイは無視して昼食の弁当を食べている。

「クラスメイトのサボりを止められなかった自分への罰だよ。」

堺は額から血を流しながら笑顔でそう答えた。

「や、やめた方がいいと思うぞ…」

広瀬はめちゃくちゃ引いている。
一方、ガイは会合について思考していた。

「(おそらく会合には白鳥組と、ゴルデン四大財閥が深く関わっている。)」

山尾や氷室の言葉を察するに、ガイはそう考えたのだ。ゴルデン四大財閥とは、障坂・猪頭・出口・陣野。コレら4つの財閥を意味する。

「(コイツらに聞けば、きっと会合の日時や場所は判明する。しかし…)」

しかし、問題があった。障坂は父親の独壇場で、陣野は刑務所に居るとガイは思っていた。つまり、残る財閥は猪頭と出口。そのどちらかにコレを聞かねばならない。

「(信用できるのか…)」

財閥同士があまり友好的ではない事を知っていたガイ。更にそこへハンディーキャッパーが絡んでくる。何が起こるかわからない。

「ガイ君…?」

その時、上の空だったガイを気にかけ、広瀬が話しかけてきた。

「え…あ、何?」

ガイはその呼びかけに応答した。

「何か、悩みでもあるの…?」
「え…?」

ガイは首を傾げた。悩み、という程ではないが、気になる事はあるのは事実。広瀬、いや、堺もそれを見抜いていた。

「ガイ君、最近ずっと考え事してるからさ。また何かに巻き込まれてるのかなって。」
「もしそうなら、僕たち協力するよ。何せクラス委員長だからね!」

2人の言葉には、打算や悪意というものは一切感じられなかった。心からガイを心配していたのだ。

「…」

その時、ガイは涙を流した。それを見た堺と広瀬は驚愕した。ガイの性格的に、人前で涙を流すなど考えられなかったからだ。

「ご、ごめん!まさかそんなに思い詰めてるなんて知らなくて!」
「言いたくないなら言わなくていいんだよ障坂くん!」

ガイは涙を拭い、2人に言った。

「いや、そうじゃない。悩みなんてない。」

自分でもわからない。何故、涙を流したのか。優しさに当てられただけで、果たして涙なんて流すものなのか。ガイは自分が自分で理解できなかった。
しかし、2人の気持ちに応えたいというガイの思いは真実。その結果、ガイは最悪の選択をしてしまった。

「2人に、聞いて欲しいんだ…」

ガイは堺と広瀬に、会合について話してしまった。今、自分が置かれている状況や、財閥、白鳥組、そして、この世界についても。
この選択が後々、ガイを更なる地獄へ突き落とす事になる。

【12月18日、深夜、とある施設にて…】

大部屋の和室のような場所。そこで、ガイは血に塗れた友田に両肩を掴まれていた。

「アンタのせいだ…」

友田は泣きながら、ガイを睨みつけた。

「アンタが私たちを巻き込んだから…お父さんとお母さんは…!」

2人の周りには、正気の無い目をした有野や、同じく血に塗れた堺、人間化したヤブ助や、伊従村で出会った氷室などが居る。そして、泣き喚く17人の子供達。

「この人殺し…ッ!!!」
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