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第2章『ガイ-過去編-』
第49障『猪頭愛児園』
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【12月7日、放課後、電車内にて…】
ガイは電車でとある所に向かっていた。
【ガイの回想…】
それは昼休みのこと。今度催される会合の件や、ガイが持っていた疑問の全てを、堺と広瀬に話した時の事であった。
「それなら、猪頭愛児園へ行ってみたら?」
「猪頭愛児園?」
堺の発言にガイは首を傾げる。
「猪頭財閥の御令嬢が独立して建てた児童養護施設だよ。」
「よく噛まずに言えたな。」
「クラス委員長だからね!」
ガイのツッコミに堺はいつも通りの返しをした。
「それで、どうしてそこが良いと思うんだ?」
広瀬は堺に尋ね、話を戻した。
「理由は分からないけど、その御令嬢は猪頭家とは縁を切ったらしいんだ。」
「なるほど。縁を切ったのなら、敵である可能性も無いって訳か。」
広瀬は堺の発言の意図を読み、解釈した。しかし、ガイは安心とは逆の読みをした。
「愛児園か…裏があるかもな。」
「どうして?」
そのガイの発言に、2人は首を傾げ、理由を尋ねた。
「タレントの発現条件は何だったか覚えてるか?」
それを聞き、広瀬は答えた。
「涼子に聞いた事がある。確か、体や精神に何らかの欠陥が生じると、それを補う為にPSIが…」
その時、広瀬は気づいた。
「まさか、身寄りの無い子供達の手足や目を…!」
「あぁ。その可能性が高い。」
ガイと広瀬の予想。それは、身寄りの無い子供達の体を生命が活動できる程度に破壊し、タレントを発現させるというもの。
「身寄りが無いから何をしても大丈夫。財閥だから大抵の事は揉み消せるしな。それに、子供達の臓器を売り飛ばせば、タレントは発現するし、金は儲かるし、一石二鳥だ。」
恐ろしい。コレが本当に行われているのなら、あまりにも非人道的だ。
「「…」」
広瀬と堺はあまりのショックに声が出せなかった。
「しかも相手は子供。どうにでもできる。洗脳して手駒にする事だってな。」
嫌な事をさらりと言うガイ。とても冷たい目だ。
その時、広瀬はガイに言った。
「行くべきじゃない。もしそれが本当なら、キミがどんな目に遭うか…」
しかし、ガイは首を横に振った。
「いや行く。」
「ど、どうして⁈」
広瀬は理由を尋ねた。
「だからこそ行くんだ。」
2人にはガイの真意がわからなかった。それを察したガイは説明をする。
「もし本当にそいつが猪頭と絶縁して、善意で子供達を引き取っているのなら、普通に話をするだけ。」
「で、でももし!そうじゃなかった場合はとても危険…」
その時、ガイは広瀬の発言を遮り、言った。
「むしろその方が良い。」
そう言ったガイの顔は暗かった。闇が体現化したかのような、明るさの一片も見せない表情。
「敵がクズなら、こっちがどんな手を使おうが、どう利用しようが、心は痛まない。」
「「…」」
堺と広瀬はそんなガイの発言と表情を見て、絶句した。純粋に、怖かったのだ。ガイの、その闇が。
しかしその時、ガイの表情は一変し、堺と広瀬に微笑みかけた。
「ありがとな、2人とも。相談してよかった。」
この時、堺はあまり深く考えていなかった。ガイの変貌を。だが、広瀬はずっと考えていた。ガイのあの表情は、ソレと同じだったから。しかし、尋ねる勇気がない。
〈今回の件、他言や詮索は無用。約束な。〉
あの約束が、いや、脅迫が、広瀬に質問を許さなかった。
【現在、17:30、三曽我町、猪頭愛児園、門前にて…】
ガイは猪頭愛児園の門の前へとやってきた。
「でっか…」
ガイは思わずそう呟いた。何せ、園の規模は軽くサッカーコートを超える程、広大だったからだ。
敷地内には衣食住ができる建物を含め、遊び場の庭、プールや畑、植物園なども完備されている。
「(猪頭財閥の令嬢ってのは間違いなさそうだな。)」
ガイは園の規模を見て、堺の話が本当である事を確信した。
その時、ガイはインターホンを鳴らした。
数秒後、誰かが応答した。少年の声だ。
〈蜂の巣にしてやる!!!〉
すると、応答は無くなり、門の鍵が開いた。
「は…?蜂の巣…?」
ガイは困惑した。いきなりの蜂の巣宣言に、理解が追いつかなかったのだ。
ガイは門に手をかけた。
「(鍵を開けたって事は、入って来いって事か…?)」
ガイはかなり身構えていた。もし、猪頭愛児園が非人道的な実験施設だったのなら、即戦闘になるからだ。しかし、先程の発言でガイの緊張が一気に解けてしまった。
ガイは何の気構えもせず、門を開けた。
【猪頭愛児園、庭にて…】
ガイは猪頭愛児園の敷地内へと足を踏み入れた。
「ッ⁈」
すると次の瞬間、ガイは妙な感覚に襲われた。
「(なんだ、この感じ…⁈まるで…まるで、猛獣の縄張りに足を踏み入れたような…)」
ガイは自由を抑制されたような支配感に襲われた。この空間では、ガイの命すら、自分のものでは無いかのように。
そして、ガイはこの感覚を知っている。
「(そうだ…以前にも2回…俺はこの感覚を味わっている…)」
1回目、それは陣野の『青面石化談話』を喰らった時。2回目、それは有野誘拐事件の際、誘拐犯の父親、道田智蔵の『拷問リレー』の空間に転送された時。
そう。コレは支配型のタレントを受けた時の感覚。PSI的に成長したガイは、それを以前よりも鮮明に感じ取れるようになっていたのだ。
「(ココに居たらまずい…!)」
過去の経験から危険を察知したガイは、敷地内から出ようとした。
「待てぇぇぇぇぇぇぇぇい!!!」
その時、施設の建物から3人の少年少女が叫び、走ってきた。
「(PSI…!)」
ガイはその少年少女からPSIを感じ取った。彼らはハンディーキャッパーだ。
それを知ったガイはPSIを纏い、構えた。
一方、構えをとるガイを見て、3人はガイから距離を取り、立ち止まった。
その時、中央にいた髪がボサボサの少女は、右隣の眼鏡をかけた少年に話しかけた。
「勉。アレやれ。」
「了解。」
すると、メガネをかけた少年は叫んだ。
「『おままごと』発動!!!」
少年は右腕を上に掲げ、指パッチンをした。
「…ッ!」
その時、ガイはこの敷地内へ入った時と同様の感覚に襲われた。おそらく勉は、支配型のタレントを使用したのだ。
「(何をした…)」
ガイは辺りを観察したが、特に何も起こっていない。
その時、勉はガイの方へ一歩踏み出し、ガイに話しかけた。
「自己紹介タイムです。自己紹介しましょう。」
「は…?」
ガイは首を傾げた。そんなガイを無視して、勉は話を続ける。
「僕が追加したその条件を満たさない限り、アナタはココから出る事も進む事も、僕らと戦う事すらできません。それが僕のタレント、『おままごと』です。」
勉少年の発言を聞き、ガイは門に手を触れようとした。
「ッ…!」
すると次の瞬間、門の手前に電流の壁のようなものが、ガイの手を拒んだ。
その様子を見ていた勉は、ガイに尋ねた。
「わかってくれましたか?」
ガイは3人の方を向き直し、質問した。
「自己紹介したら、俺はココから出られるのか?」
「いいえ。自己紹介はあくまで戦闘開始の合図。つまり、僕達と戦うための条件。外へ出る為には別の条件をクリアしてもらいます。」
「別の条件…?」
その時、中央の少女が両手を腰に当て言った。
「アタシらに勝つ事だ!」
説明しよう!
勉のタレントは『おままごと』。物語の設定に条件を追加する能力である。このタレントは発動時、一定範囲内に居るものに効果がある。その為、タレント使用者である勉は必ず、自身のタレントの支配下になってしまうのだ。
ガイがこの敷地内に入った時点では、園を調べるも、引き返すも自由だった。しかし、勉はこのタレントで条件を追加したのだ。ココから先へ進む、もしくは出る為には、自分達に戦って勝たなければならない。そして、戦う為には自己紹介をする。勉はこの2つの条件を追加したのだ。
タイプ:支配型
「自己紹介の内容は?」
ガイはこの条件が真実であると悟り、勉に自己紹介の内容を聞いた。
「名前と年齢。それと、好きな人のタイプです。あ、ちなみに嘘はダメですよ。」
「え…好きな人?なんで?」
「秘密です。」
その時、勉と日焼けした少年は見つめ合い、ガッツポーズをした。
「(よくやったぞ!勉!)」
「(当然です…!)」
2人は真ん中の少女が好きだった。それ故、この場を利用して、少女の好きな人のタイプを聞き出そうと計らっていたのだ。
すると、中央の少年が自身の胸に拳を当てた。
「まずはアタシからだ!朝倉友那!8歳!好きな…タイプは…」
その時、友那は言葉を詰まらせた。そして、頬を赤らめた。どうやら、好きな人のタイプを言うのが恥ずかしいようだ。
そんな友那の姿を見て、少年2人も頬を赤らめた。
「(あの友那ちゃんが照れてる…!)」
「(貴重ですよコレは…!)」
そんな3人の様子を、ガイは冷めた目で見ていた。
「(早くしろよ…)」
しかしその時、ガイは気づいてしまった。
「(まずい…!俺の好きな人のタイプが…バレる…!)」
いや、ガイがまずいのは好きな人のタイプがバレる事では無い。好きなタイプを言う事こそが、まずい理由なのだ。どういう事かはすぐわかる。
その時、友那は口を開いた。
「あ…足の速い人…」
「「小学生かッ!!!」」
小学生です。
2人は同時にツッコんだ。
次に、勉が自己紹介を始めた。
「僕は昼吉勉。8歳。好きなタイプは…」
勉も頬を赤らめ、言葉を詰まらせた。
「お前もうこの条件変えろよ!」
ガイは強めに勉に提案、兼、ツッコミを入れた。すると、勉はメガネのズレを直し、頷いた。
「そ、そうですね…無駄でしたね。変えましょう。」
勉はガイの提案を呑んだ。目的である友那の好きなタイプも聞く事も叶った為、コレ以上この条件は不要だと判断したのだ。ついでに自分も言いたくないし。
しかし、友那はそれを許さなかった。
「ふざけんな!てめーらも言え!殺すぞ!」
そりゃそうだ。1人だけ恥ずかしい思いをしたのだから。
友那の発言により、勉は仕方なく続行した。
「わ、わかりましたよ…僕が、好きなのは…」
数秒の沈黙の後、勉は友那の方を向いた。
「友那ちゃん…僕はキミが好きです…!」
「え…⁈」
それを聞いた日焼け少年が焦りを見せた。
「お、おまっ!抜け駆けずりー!蜂の巣にすんぞ!!!」
「早い者勝ちですよ!バーカ!」
勉は友那に尋ねた。
「友那ちゃん!キミの気持ちを聞かせてください!」
すると、友那は顔色一つ変えずに答えた。
「無理。アタシ、勉のこと別に好きじゃ無い。」
勉は死んだ。精神的な意味で。
それを聞いた日焼け少年が嘲笑った。
「ぎゃはははは!!!1人で抜け駆けするからだバーカ!」
すると、日焼け少年はガイの前へ一歩出て、自己紹介を始めた。
「俺は夜東将利!8歳!好きなタイプは…」
次の瞬間、将利は友那の方を向いて言った。
「友那ちゃん!!!キミです!!!」
すると、友那は即答した。
「無理。」
将利は死んだ。精神的な意味で。
勉と将利は地面に倒れている。そんな3人の様子を、ガイはまたもや冷めた目で傍観していた。
「(コイツら面倒臭い…)」
しかし、彼らの様子を見て、ガイはとある確信が生まれ始めていた。
「(でもコイツら、明らかに洗脳なんかされてないよな。酷い人体実験をされてる様子もないし…何よりクソ元気だし…)」
彼らの様子からして、ガイの悪い予想、いや、ガイにとっては都合の良い予想は外れていた。そういう確信を。
しかし、気がかりはあった。
「(だとしたら何で、コイツらは俺と戦いたがるんだ…?)」
そう。ココが普通の児童養護施設なら、ガイに戦いを挑む理由などないはず。
その時、友那はガイに指を刺した。
「次はてめーだ、オトコオンナ。」
「オトコオンナ言うな。」
ガイは自己紹介を始めた。
「障坂ガイ。13歳。好きなタイプは…」
ガイは言葉を詰まらせた。しかし、いつまでも黙っている訳にはいかない。ガイは頬を赤らめながらも、決心した。
果たして、ガイの好きな人のタイプとは…!
「…女装した俺…」
それを聞いた友那は、まるで道端の吐瀉物を見るかのような目で言った。
「きも…」
ガイは死んだ。精神的な意味で。
ガイは電車でとある所に向かっていた。
【ガイの回想…】
それは昼休みのこと。今度催される会合の件や、ガイが持っていた疑問の全てを、堺と広瀬に話した時の事であった。
「それなら、猪頭愛児園へ行ってみたら?」
「猪頭愛児園?」
堺の発言にガイは首を傾げる。
「猪頭財閥の御令嬢が独立して建てた児童養護施設だよ。」
「よく噛まずに言えたな。」
「クラス委員長だからね!」
ガイのツッコミに堺はいつも通りの返しをした。
「それで、どうしてそこが良いと思うんだ?」
広瀬は堺に尋ね、話を戻した。
「理由は分からないけど、その御令嬢は猪頭家とは縁を切ったらしいんだ。」
「なるほど。縁を切ったのなら、敵である可能性も無いって訳か。」
広瀬は堺の発言の意図を読み、解釈した。しかし、ガイは安心とは逆の読みをした。
「愛児園か…裏があるかもな。」
「どうして?」
そのガイの発言に、2人は首を傾げ、理由を尋ねた。
「タレントの発現条件は何だったか覚えてるか?」
それを聞き、広瀬は答えた。
「涼子に聞いた事がある。確か、体や精神に何らかの欠陥が生じると、それを補う為にPSIが…」
その時、広瀬は気づいた。
「まさか、身寄りの無い子供達の手足や目を…!」
「あぁ。その可能性が高い。」
ガイと広瀬の予想。それは、身寄りの無い子供達の体を生命が活動できる程度に破壊し、タレントを発現させるというもの。
「身寄りが無いから何をしても大丈夫。財閥だから大抵の事は揉み消せるしな。それに、子供達の臓器を売り飛ばせば、タレントは発現するし、金は儲かるし、一石二鳥だ。」
恐ろしい。コレが本当に行われているのなら、あまりにも非人道的だ。
「「…」」
広瀬と堺はあまりのショックに声が出せなかった。
「しかも相手は子供。どうにでもできる。洗脳して手駒にする事だってな。」
嫌な事をさらりと言うガイ。とても冷たい目だ。
その時、広瀬はガイに言った。
「行くべきじゃない。もしそれが本当なら、キミがどんな目に遭うか…」
しかし、ガイは首を横に振った。
「いや行く。」
「ど、どうして⁈」
広瀬は理由を尋ねた。
「だからこそ行くんだ。」
2人にはガイの真意がわからなかった。それを察したガイは説明をする。
「もし本当にそいつが猪頭と絶縁して、善意で子供達を引き取っているのなら、普通に話をするだけ。」
「で、でももし!そうじゃなかった場合はとても危険…」
その時、ガイは広瀬の発言を遮り、言った。
「むしろその方が良い。」
そう言ったガイの顔は暗かった。闇が体現化したかのような、明るさの一片も見せない表情。
「敵がクズなら、こっちがどんな手を使おうが、どう利用しようが、心は痛まない。」
「「…」」
堺と広瀬はそんなガイの発言と表情を見て、絶句した。純粋に、怖かったのだ。ガイの、その闇が。
しかしその時、ガイの表情は一変し、堺と広瀬に微笑みかけた。
「ありがとな、2人とも。相談してよかった。」
この時、堺はあまり深く考えていなかった。ガイの変貌を。だが、広瀬はずっと考えていた。ガイのあの表情は、ソレと同じだったから。しかし、尋ねる勇気がない。
〈今回の件、他言や詮索は無用。約束な。〉
あの約束が、いや、脅迫が、広瀬に質問を許さなかった。
【現在、17:30、三曽我町、猪頭愛児園、門前にて…】
ガイは猪頭愛児園の門の前へとやってきた。
「でっか…」
ガイは思わずそう呟いた。何せ、園の規模は軽くサッカーコートを超える程、広大だったからだ。
敷地内には衣食住ができる建物を含め、遊び場の庭、プールや畑、植物園なども完備されている。
「(猪頭財閥の令嬢ってのは間違いなさそうだな。)」
ガイは園の規模を見て、堺の話が本当である事を確信した。
その時、ガイはインターホンを鳴らした。
数秒後、誰かが応答した。少年の声だ。
〈蜂の巣にしてやる!!!〉
すると、応答は無くなり、門の鍵が開いた。
「は…?蜂の巣…?」
ガイは困惑した。いきなりの蜂の巣宣言に、理解が追いつかなかったのだ。
ガイは門に手をかけた。
「(鍵を開けたって事は、入って来いって事か…?)」
ガイはかなり身構えていた。もし、猪頭愛児園が非人道的な実験施設だったのなら、即戦闘になるからだ。しかし、先程の発言でガイの緊張が一気に解けてしまった。
ガイは何の気構えもせず、門を開けた。
【猪頭愛児園、庭にて…】
ガイは猪頭愛児園の敷地内へと足を踏み入れた。
「ッ⁈」
すると次の瞬間、ガイは妙な感覚に襲われた。
「(なんだ、この感じ…⁈まるで…まるで、猛獣の縄張りに足を踏み入れたような…)」
ガイは自由を抑制されたような支配感に襲われた。この空間では、ガイの命すら、自分のものでは無いかのように。
そして、ガイはこの感覚を知っている。
「(そうだ…以前にも2回…俺はこの感覚を味わっている…)」
1回目、それは陣野の『青面石化談話』を喰らった時。2回目、それは有野誘拐事件の際、誘拐犯の父親、道田智蔵の『拷問リレー』の空間に転送された時。
そう。コレは支配型のタレントを受けた時の感覚。PSI的に成長したガイは、それを以前よりも鮮明に感じ取れるようになっていたのだ。
「(ココに居たらまずい…!)」
過去の経験から危険を察知したガイは、敷地内から出ようとした。
「待てぇぇぇぇぇぇぇぇい!!!」
その時、施設の建物から3人の少年少女が叫び、走ってきた。
「(PSI…!)」
ガイはその少年少女からPSIを感じ取った。彼らはハンディーキャッパーだ。
それを知ったガイはPSIを纏い、構えた。
一方、構えをとるガイを見て、3人はガイから距離を取り、立ち止まった。
その時、中央にいた髪がボサボサの少女は、右隣の眼鏡をかけた少年に話しかけた。
「勉。アレやれ。」
「了解。」
すると、メガネをかけた少年は叫んだ。
「『おままごと』発動!!!」
少年は右腕を上に掲げ、指パッチンをした。
「…ッ!」
その時、ガイはこの敷地内へ入った時と同様の感覚に襲われた。おそらく勉は、支配型のタレントを使用したのだ。
「(何をした…)」
ガイは辺りを観察したが、特に何も起こっていない。
その時、勉はガイの方へ一歩踏み出し、ガイに話しかけた。
「自己紹介タイムです。自己紹介しましょう。」
「は…?」
ガイは首を傾げた。そんなガイを無視して、勉は話を続ける。
「僕が追加したその条件を満たさない限り、アナタはココから出る事も進む事も、僕らと戦う事すらできません。それが僕のタレント、『おままごと』です。」
勉少年の発言を聞き、ガイは門に手を触れようとした。
「ッ…!」
すると次の瞬間、門の手前に電流の壁のようなものが、ガイの手を拒んだ。
その様子を見ていた勉は、ガイに尋ねた。
「わかってくれましたか?」
ガイは3人の方を向き直し、質問した。
「自己紹介したら、俺はココから出られるのか?」
「いいえ。自己紹介はあくまで戦闘開始の合図。つまり、僕達と戦うための条件。外へ出る為には別の条件をクリアしてもらいます。」
「別の条件…?」
その時、中央の少女が両手を腰に当て言った。
「アタシらに勝つ事だ!」
説明しよう!
勉のタレントは『おままごと』。物語の設定に条件を追加する能力である。このタレントは発動時、一定範囲内に居るものに効果がある。その為、タレント使用者である勉は必ず、自身のタレントの支配下になってしまうのだ。
ガイがこの敷地内に入った時点では、園を調べるも、引き返すも自由だった。しかし、勉はこのタレントで条件を追加したのだ。ココから先へ進む、もしくは出る為には、自分達に戦って勝たなければならない。そして、戦う為には自己紹介をする。勉はこの2つの条件を追加したのだ。
タイプ:支配型
「自己紹介の内容は?」
ガイはこの条件が真実であると悟り、勉に自己紹介の内容を聞いた。
「名前と年齢。それと、好きな人のタイプです。あ、ちなみに嘘はダメですよ。」
「え…好きな人?なんで?」
「秘密です。」
その時、勉と日焼けした少年は見つめ合い、ガッツポーズをした。
「(よくやったぞ!勉!)」
「(当然です…!)」
2人は真ん中の少女が好きだった。それ故、この場を利用して、少女の好きな人のタイプを聞き出そうと計らっていたのだ。
すると、中央の少年が自身の胸に拳を当てた。
「まずはアタシからだ!朝倉友那!8歳!好きな…タイプは…」
その時、友那は言葉を詰まらせた。そして、頬を赤らめた。どうやら、好きな人のタイプを言うのが恥ずかしいようだ。
そんな友那の姿を見て、少年2人も頬を赤らめた。
「(あの友那ちゃんが照れてる…!)」
「(貴重ですよコレは…!)」
そんな3人の様子を、ガイは冷めた目で見ていた。
「(早くしろよ…)」
しかしその時、ガイは気づいてしまった。
「(まずい…!俺の好きな人のタイプが…バレる…!)」
いや、ガイがまずいのは好きな人のタイプがバレる事では無い。好きなタイプを言う事こそが、まずい理由なのだ。どういう事かはすぐわかる。
その時、友那は口を開いた。
「あ…足の速い人…」
「「小学生かッ!!!」」
小学生です。
2人は同時にツッコんだ。
次に、勉が自己紹介を始めた。
「僕は昼吉勉。8歳。好きなタイプは…」
勉も頬を赤らめ、言葉を詰まらせた。
「お前もうこの条件変えろよ!」
ガイは強めに勉に提案、兼、ツッコミを入れた。すると、勉はメガネのズレを直し、頷いた。
「そ、そうですね…無駄でしたね。変えましょう。」
勉はガイの提案を呑んだ。目的である友那の好きなタイプも聞く事も叶った為、コレ以上この条件は不要だと判断したのだ。ついでに自分も言いたくないし。
しかし、友那はそれを許さなかった。
「ふざけんな!てめーらも言え!殺すぞ!」
そりゃそうだ。1人だけ恥ずかしい思いをしたのだから。
友那の発言により、勉は仕方なく続行した。
「わ、わかりましたよ…僕が、好きなのは…」
数秒の沈黙の後、勉は友那の方を向いた。
「友那ちゃん…僕はキミが好きです…!」
「え…⁈」
それを聞いた日焼け少年が焦りを見せた。
「お、おまっ!抜け駆けずりー!蜂の巣にすんぞ!!!」
「早い者勝ちですよ!バーカ!」
勉は友那に尋ねた。
「友那ちゃん!キミの気持ちを聞かせてください!」
すると、友那は顔色一つ変えずに答えた。
「無理。アタシ、勉のこと別に好きじゃ無い。」
勉は死んだ。精神的な意味で。
それを聞いた日焼け少年が嘲笑った。
「ぎゃはははは!!!1人で抜け駆けするからだバーカ!」
すると、日焼け少年はガイの前へ一歩出て、自己紹介を始めた。
「俺は夜東将利!8歳!好きなタイプは…」
次の瞬間、将利は友那の方を向いて言った。
「友那ちゃん!!!キミです!!!」
すると、友那は即答した。
「無理。」
将利は死んだ。精神的な意味で。
勉と将利は地面に倒れている。そんな3人の様子を、ガイはまたもや冷めた目で傍観していた。
「(コイツら面倒臭い…)」
しかし、彼らの様子を見て、ガイはとある確信が生まれ始めていた。
「(でもコイツら、明らかに洗脳なんかされてないよな。酷い人体実験をされてる様子もないし…何よりクソ元気だし…)」
彼らの様子からして、ガイの悪い予想、いや、ガイにとっては都合の良い予想は外れていた。そういう確信を。
しかし、気がかりはあった。
「(だとしたら何で、コイツらは俺と戦いたがるんだ…?)」
そう。ココが普通の児童養護施設なら、ガイに戦いを挑む理由などないはず。
その時、友那はガイに指を刺した。
「次はてめーだ、オトコオンナ。」
「オトコオンナ言うな。」
ガイは自己紹介を始めた。
「障坂ガイ。13歳。好きなタイプは…」
ガイは言葉を詰まらせた。しかし、いつまでも黙っている訳にはいかない。ガイは頬を赤らめながらも、決心した。
果たして、ガイの好きな人のタイプとは…!
「…女装した俺…」
それを聞いた友那は、まるで道端の吐瀉物を見るかのような目で言った。
「きも…」
ガイは死んだ。精神的な意味で。
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主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
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