障王

泉出康一

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第2章『ガイ-過去編-』

第49障『猪頭愛児園』

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【12月7日、放課後、電車内にて…】

ガイは電車でとある所に向かっていた。

【ガイの回想…】

それは昼休みのこと。今度催される会合の件や、ガイが持っていた疑問の全てを、堺と広瀬に話した時の事であった。

「それなら、猪頭愛児園へ行ってみたら?」
「猪頭愛児園?」

堺の発言にガイは首を傾げる。

「猪頭財閥の御令嬢が独立して建てた児童養護施設だよ。」
「よく噛まずに言えたな。」
「クラス委員長だからね!」

ガイのツッコミに堺はいつも通りの返しをした。

「それで、どうしてそこが良いと思うんだ?」

広瀬は堺に尋ね、話を戻した。

「理由は分からないけど、その御令嬢は猪頭家とは縁を切ったらしいんだ。」
「なるほど。縁を切ったのなら、敵である可能性も無いって訳か。」

広瀬は堺の発言の意図を読み、解釈した。しかし、ガイは安心とは逆の読みをした。

「愛児園か…裏があるかもな。」
「どうして?」

そのガイの発言に、2人は首を傾げ、理由を尋ねた。

「タレントの発現条件は何だったか覚えてるか?」

それを聞き、広瀬は答えた。

「涼子に聞いた事がある。確か、体や精神に何らかの欠陥が生じると、それを補う為にPSIが…」

その時、広瀬は気づいた。

「まさか、身寄りの無い子供達の手足や目を…!」
「あぁ。その可能性が高い。」

ガイと広瀬の予想。それは、身寄りの無い子供達の体を生命が活動できる程度に破壊し、タレントを発現させるというもの。

「身寄りが無いから何をしても大丈夫。財閥だから大抵の事は揉み消せるしな。それに、子供達の臓器を売り飛ばせば、タレントは発現するし、金は儲かるし、一石二鳥だ。」

恐ろしい。コレが本当に行われているのなら、あまりにも非人道的だ。

「「…」」

広瀬と堺はあまりのショックに声が出せなかった。

「しかも相手は子供。どうにでもできる。洗脳して手駒にする事だってな。」

嫌な事をさらりと言うガイ。とても冷たい目だ。
その時、広瀬はガイに言った。

「行くべきじゃない。もしそれが本当なら、キミがどんな目に遭うか…」 

しかし、ガイは首を横に振った。

「いや行く。」
「ど、どうして⁈」

広瀬は理由を尋ねた。

「だからこそ行くんだ。」

2人にはガイの真意がわからなかった。それを察したガイは説明をする。

「もし本当にそいつが猪頭と絶縁して、善意で子供達を引き取っているのなら、普通に話をするだけ。」
「で、でももし!そうじゃなかった場合はとても危険…」

その時、ガイは広瀬の発言を遮り、言った。

「むしろその方が良い。」

そう言ったガイの顔は暗かった。闇が体現化したかのような、明るさの一片も見せない表情。

「敵がクズなら、こっちがどんな手を使おうが、どう利用しようが、心は痛まない。」

「「…」」

堺と広瀬はそんなガイの発言と表情を見て、絶句した。純粋に、怖かったのだ。ガイの、その闇が。
しかしその時、ガイの表情は一変し、堺と広瀬に微笑みかけた。

「ありがとな、2人とも。相談してよかった。」

この時、堺はあまり深く考えていなかった。ガイの変貌を。だが、広瀬はずっと考えていた。ガイのあの表情は、ソレと同じだったから。しかし、尋ねる勇気がない。

〈今回の件、他言や詮索は無用。約束な。〉

あの約束が、いや、脅迫が、広瀬に質問を許さなかった。

【現在、17:30、三曽我みそが町、猪頭愛児園、門前にて…】

ガイは猪頭愛児園の門の前へとやってきた。

「でっか…」

ガイは思わずそう呟いた。何せ、園の規模は軽くサッカーコートを超える程、広大だったからだ。
敷地内には衣食住ができる建物を含め、遊び場の庭、プールや畑、植物園なども完備されている。

「(猪頭財閥の令嬢ってのは間違いなさそうだな。)」

ガイは園の規模を見て、堺の話が本当である事を確信した。
その時、ガイはインターホンを鳴らした。
数秒後、誰かが応答した。少年の声だ。

〈蜂の巣にしてやる!!!〉

すると、応答は無くなり、門の鍵が開いた。

「は…?蜂の巣…?」

ガイは困惑した。いきなりの蜂の巣宣言に、理解が追いつかなかったのだ。
ガイは門に手をかけた。

「(鍵を開けたって事は、入って来いって事か…?)」

ガイはかなり身構えていた。もし、猪頭愛児園が非人道的な実験施設だったのなら、即戦闘になるからだ。しかし、先程の発言でガイの緊張が一気に解けてしまった。
ガイは何の気構えもせず、門を開けた。

【猪頭愛児園、庭にて…】

ガイは猪頭愛児園の敷地内へと足を踏み入れた。

「ッ⁈」

すると次の瞬間、ガイは妙な感覚に襲われた。

「(なんだ、この感じ…⁈まるで…まるで、猛獣の縄張りに足を踏み入れたような…)」

ガイは自由を抑制されたような支配感に襲われた。この空間では、ガイの命すら、自分のものでは無いかのように。
そして、ガイはこの感覚を知っている。

「(そうだ…以前にも2回…俺はこの感覚を味わっている…)」

1回目、それは陣野の『青面石化談話ノーグットパーティ』を喰らった時。2回目、それは有野誘拐事件の際、誘拐犯の父親、道田智蔵の『拷問リレーゴーカムトゥワイス』の空間に転送された時。
そう。コレは支配型のタレントを受けた時の感覚。PSI的に成長したガイは、それを以前よりも鮮明に感じ取れるようになっていたのだ。

「(ココに居たらまずい…!)」

過去の経験から危険を察知したガイは、敷地内から出ようとした。

「待てぇぇぇぇぇぇぇぇい!!!」

その時、施設の建物から3人の少年少女が叫び、走ってきた。

「(PSI…!)」

ガイはその少年少女からPSIを感じ取った。彼らはハンディーキャッパーだ。
それを知ったガイはPSIを纏い、構えた。
一方、構えをとるガイを見て、3人はガイから距離を取り、立ち止まった。
その時、中央にいた髪がボサボサの少女は、右隣の眼鏡をかけた少年に話しかけた。

つとむ。アレやれ。」
「了解。」

すると、メガネをかけた少年は叫んだ。

「『おままごとクラッキング・サガ』発動!!!」

少年は右腕を上に掲げ、指パッチンをした。

「…ッ!」

その時、ガイはこの敷地内へ入った時と同様の感覚に襲われた。おそらく勉は、支配型のタレントを使用したのだ。

「(何をした…)」

ガイは辺りを観察したが、特に何も起こっていない。
その時、勉はガイの方へ一歩踏み出し、ガイに話しかけた。

「自己紹介タイムです。自己紹介しましょう。」
「は…?」

ガイは首を傾げた。そんなガイを無視して、勉は話を続ける。

「僕が追加したその条件を満たさない限り、アナタはココから出る事も進む事も、僕らと戦う事すらできません。それが僕のタレント、『おままごとクラッキング・サガ』です。」

勉少年の発言を聞き、ガイは門に手を触れようとした。

「ッ…!」

すると次の瞬間、門の手前に電流の壁のようなものが、ガイの手を拒んだ。
その様子を見ていた勉は、ガイに尋ねた。

「わかってくれましたか?」

ガイは3人の方を向き直し、質問した。

「自己紹介したら、俺はココから出られるのか?」
「いいえ。自己紹介はあくまで戦闘開始の合図。つまり、僕達と戦うための条件。外へ出る為には別の条件をクリアしてもらいます。」
「別の条件…?」

その時、中央の少女が両手を腰に当て言った。

「アタシらに勝つ事だ!」

説明しよう!
勉のタレントは『おままごとクラッキング・サガ』。物語の設定に条件を追加する能力である。このタレントは発動時、一定範囲内に居るものに効果がある。その為、タレント使用者である勉は必ず、自身のタレントの支配下になってしまうのだ。
ガイがこの敷地内に入った時点では、園を調べるも、引き返すも自由だった。しかし、勉はこのタレントで条件を追加したのだ。ココから先へ進む、もしくは出る為には、自分達に戦って勝たなければならない。そして、戦う為には自己紹介をする。勉はこの2つの条件を追加したのだ。
タイプ:支配型

「自己紹介の内容は?」

ガイはこの条件が真実であると悟り、勉に自己紹介の内容を聞いた。

「名前と年齢。それと、好きな人のタイプです。あ、ちなみに嘘はダメですよ。」

「え…好きな人?なんで?」
「秘密です。」

その時、勉と日焼けした少年は見つめ合い、ガッツポーズをした。

「(よくやったぞ!勉!)」
「(当然です…!)」

2人は真ん中の少女が好きだった。それ故、この場を利用して、少女の好きな人のタイプを聞き出そうと計らっていたのだ。
すると、中央の少年が自身の胸に拳を当てた。

「まずはアタシからだ!朝倉あさくら友那ゆな!8歳!好きな…タイプは…」

その時、友那は言葉を詰まらせた。そして、頬を赤らめた。どうやら、好きな人のタイプを言うのが恥ずかしいようだ。
そんな友那の姿を見て、少年2人も頬を赤らめた。

「(あの友那ちゃんが照れてる…!)」
「(貴重ですよコレは…!)」

そんな3人の様子を、ガイは冷めた目で見ていた。

「(早くしろよ…)」

しかしその時、ガイは気づいてしまった。

「(まずい…!俺の好きな人のタイプが…バレる…!)」

いや、ガイがまずいのは好きな人のタイプがバレる事では無い。好きなタイプを言う事こそが、まずい理由なのだ。どういう事かはすぐわかる。
その時、友那は口を開いた。

「あ…足の速い人…」
「「小学生かッ!!!」」

小学生です。
2人は同時にツッコんだ。
次に、勉が自己紹介を始めた。

「僕は昼吉ひるよしつとむ。8歳。好きなタイプは…」

勉も頬を赤らめ、言葉を詰まらせた。

「お前もうこの条件変えろよ!」

ガイは強めに勉に提案、兼、ツッコミを入れた。すると、勉はメガネのズレを直し、頷いた。

「そ、そうですね…無駄でしたね。変えましょう。」

勉はガイの提案を呑んだ。目的である友那の好きなタイプも聞く事も叶った為、コレ以上この条件は不要だと判断したのだ。ついでに自分も言いたくないし。
しかし、友那はそれを許さなかった。

「ふざけんな!てめーらも言え!殺すぞ!」

そりゃそうだ。1人だけ恥ずかしい思いをしたのだから。
友那の発言により、勉は仕方なく続行した。

「わ、わかりましたよ…僕が、好きなのは…」

数秒の沈黙の後、勉は友那の方を向いた。

「友那ちゃん…僕はキミが好きです…!」
「え…⁈」

それを聞いた日焼け少年が焦りを見せた。

「お、おまっ!抜け駆けずりー!蜂の巣にすんぞ!!!」
「早い者勝ちですよ!バーカ!」

勉は友那に尋ねた。

「友那ちゃん!キミの気持ちを聞かせてください!」

すると、友那は顔色一つ変えずに答えた。

「無理。アタシ、勉のこと別に好きじゃ無い。」

勉は死んだ。精神的な意味で。
それを聞いた日焼け少年が嘲笑った。

「ぎゃはははは!!!1人で抜け駆けするからだバーカ!」

すると、日焼け少年はガイの前へ一歩出て、自己紹介を始めた。

「俺は夜東やとう将利しょうり!8歳!好きなタイプは…」

次の瞬間、将利は友那の方を向いて言った。

「友那ちゃん!!!キミです!!!」

すると、友那は即答した。

「無理。」

将利は死んだ。精神的な意味で。
勉と将利は地面に倒れている。そんな3人の様子を、ガイはまたもや冷めた目で傍観していた。

「(コイツら面倒臭い…)」

しかし、彼らの様子を見て、ガイはとある確信が生まれ始めていた。

「(でもコイツら、明らかに洗脳なんかされてないよな。酷い人体実験をされてる様子もないし…何よりクソ元気だし…)」

彼らの様子からして、ガイの悪い予想、いや、ガイにとっては都合の良い予想は外れていた。そういう確信を。
しかし、気がかりはあった。

「(だとしたら何で、コイツらは俺と戦いたがるんだ…?)」

そう。ココが普通の児童養護施設なら、ガイに戦いを挑む理由などないはず。
その時、友那はガイに指を刺した。

「次はてめーだ、オトコオンナ。」
「オトコオンナ言うな。」

ガイは自己紹介を始めた。

「障坂ガイ。13歳。好きなタイプは…」

ガイは言葉を詰まらせた。しかし、いつまでも黙っている訳にはいかない。ガイは頬を赤らめながらも、決心した。
果たして、ガイの好きな人のタイプとは…!

「…女装した俺…」

それを聞いた友那は、まるで道端の吐瀉物を見るかのような目で言った。

「きも…」

ガイは死んだ。精神的な意味で。
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