障王

泉出康一

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第2章『ガイ-過去編-』

第52障『未練』

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【翌日(12月8日)、昼休み、学校、中庭にて…】

ガイ,広瀬,堺,山口は会話しながら昼食をとっている。

「よかったね。その猪頭って人が良い人で。」
「まぁ。良い人かどうかは置いといて、悪さを働くような人ではなかったな。」

ガイは昨日尋ねた猪頭愛児園の話をしていた。
それを聞き、山口は頬を膨らませていた。

「んだよ。俺が居ない時に限って大事な話しやがって。」

ヘソを曲げる山口を無視して、広瀬はガイに話しかけた。

「今日も行くんだろ?」
「うん。昨日は遅くなったから、詳しい話はまた後日って。」

その時、山口はガイに向かって叫んだ。

「俺も行く!!!」
「ダメ。」

ガイは即答した。

「何でダメなんだよ!ケチ!お尻フェチ!」

【放課後、夕方、猪頭愛児園内、植物園にて…】

ガイと猪頭は園内の植物園に来ていた。
植物園では、子供達が楽しそうに遊んでいる。ガイと猪頭はそんな彼らの様子を見ながら、話をしていた。

「世間じゃ、私は独立して、この園を建てた事になってるが、実際はそうじゃない。」

猪頭は語り始めた。ガイはそれを黙って聞いている。

「勘当されたんだよ。高校卒業と同時にね。」

その時、猪頭はガイの方を向いた。

「キミになら、その理由がわかるんじゃないかな?」
「…」

ガイは黙っている。しかし、それは決して『わからない』の黙秘ではない。ガイはその理由がわかっていながら、言わなかった。いや、言えなかったのだ。

「お察しの通り、私のこの体のせいだよ。」

この体、それはつまり、幼過ぎる容姿の事。とても35歳には見えない。

「私の体は、小学校低学年から成長が止まってる。一族はそれが気に入らなかったみたいでね。猪頭に欠陥品は要らないって、家を追い出されたんだ。」

知らされる猪頭の過去。胸くそ悪くなるような事実を知り、ガイは彼女に同情した。しかし、ガイは何も言う事ができなかった。
猪頭は話を続ける。

「悲しくて、悔しかった。何でこんな目に遭わなくちゃならないんだってね。だから、私はこの園を建てた。私と同じ理由で親に見放された子達を、救ってあげたいって。」

猪頭の視線の先には、友那,勉,将利がいる。

「あの子たち3人がそうさ。私と同じ理由で、親に捨てられた。他の子達も、みんな同じような理由さ。産んだからには責任持てって話だよね。まったく。」

猪頭はこの世の不条理を嘆いた。そして、親の無責任さも。
その時、猪頭は微笑んだ。

「でも、そのおかげでこの子達に会えた。私には、それで十分過ぎるよ。変な家柄の縛りも無いしね。」

すると、猪頭はPSIを指に纏い、ガイを指差した。

「キミはタレントについてどう思う?」

どう思う、それは一体どういう意味なのか。

「超能力だと思ってます。」

ガイは自分が思っているタレントの印象について言った。
それを聞いた猪頭はガイへの指差しをやめ、話し始めた。

「私は、『未練』だと思ってる。」

猪頭はそう言った。タレントが『未練』?一体どういう意味なのか。ガイは疑問に思い、首を傾げた。

「PSIやタレントは、遺伝的性質が大きいのは知ってるよね。きっと、未練がましいんだ。だから、何世代にも渡ってタレントは継承される。」

それを聞き、ガイは猪頭に尋ねた。

「後からハンディーキャッパーになった者は?それも、『未練』なんですか?」

猪頭は微笑み、答えた。

「そうだね。私はそう思うよ。私のタレントが、それを証明してるからね。」

ガイは再び、首を傾げた。

「私のタレントは『ぼくらの大聖堂St.ハウス』。私が所有する敷地内なら何でもできるって能力だ。」

猪頭のこのタレントは支配型。つまり、ガイがこの園内に入った時の支配型タレントの気配は、彼女のタレントだったのだ。
ガイは猪頭のタレントの『何でもできる』について尋ねた。

「具体的には?」
「うーん、そうだね…園内にいる生物の数や居場所、今何をしているかがわかるよ。それに、テレパシーだってできるよ。」

その時、ガイの頭の中に猪頭の声が響いてきた。

〈こんな風にね。〉

ガイは少し驚いた表情をした。
猪頭はテレパシーをやめ、再び口頭で話し始めた。

「他にも治癒や瞬間移動なんかもできるけど、このタレント、PSIの消費が激しくてね。緊急時以外はあんまり使わないかな。」

その時、ガイは猪頭にとある事を尋ねた。

「相手の思考を読む事もできるんですか?」
「できるよ。」

猪頭は微笑んだ。

「でも使わない。プライバシーの侵害だからね。」

猪頭はそう言った。おそらく、コレは猪頭の本音。実際に、猪頭はガイの思考を読む事は一度もなかった。
そして、猪頭は話を戻した。

「私の所有する敷地内なら、私は何だってできる。この意味わかる?」

猪頭は再び、PSIを手に纏い、それを眺めた。

「このタレントは私の『未練』そのものなんだ。私は、私の居場所が欲しかった。そんな私の『未練』が現れた結果なんだと思う。」

その時、猪頭はガイに尋ねた。

「キミのタレントは何?」

ガイは少し黙り込んだ。果たして、自身の能力を簡単に話していいものなのかと。
それを察し、猪頭はこう言った。

「言いたくないなら言わなくていいよ。」

タレントには、能力の詳細を知られると致命的なものも多々ある。それが使用者の命に関わる事も。猪頭はそれを知っていた。だから、ガイに強要はさせたくなかったのだ。

「いえ、大丈夫です。」

ガイはそう答えた。相手が自分を信用し、能力を明かしたのだ。こちらもそれに答えなければフェアじゃない。

「俺のタレントは『模倣コピル』。対象のタレントをコピーする能力です。」

それを聞いた猪頭は納得の表情をした。

「なるほど。コピーね。」

すると、ガイは猪頭に尋ねた。

「これも俺の『未練』なんですか?」
「キミのっていうよりは、キミの一族の。障坂家は古くからハンディーキャッパーの家系だからね。」
「じゃあコレは、俺の先祖の『未練』…?」
「うん。」

その時、猪頭はガイにこう言った。

「もしかすると、キミのご先祖様は、誰かになりたかったのかもね。」

その言葉を聞き、ガイは何故か心が揺さぶられた。

「誰かに…」

ガイには、その誰かの正体に心当たりがあった。しかし、名前や顔がわからない。それにコレは、ガイの記憶ではない。
その時、猪頭はガイに話しかけた。

「ごめんね。話がそれちゃって。会合の事聞きに来たんでしょ?」

猪頭は会合について話し始めた。

「今回の会合は、キミのお父さんの障坂巌が開催した緊急集会みたいなもの。招待されたのは主に、国会や内閣の人間、それとゴルデン四大財閥、あとは国公認のハンディーキャッパー組織かな。」

それを聞き、ガイは軽く手を挙げた。

「すいません。ツッコミ所が多すぎるんですけど。」
「どれからツッコミたい?」
「じゃあ、国公認のハンディーキャッパー組織について。」

すると、猪頭は頷き、それについて話し始めた。

「ハンディーキャッパーの存在は、世間じゃ知られてない。でも、国にはちゃんと認知されてるんだ。そして、完璧なまでの情報統制の下、ハンディーキャッパーの力を独り占めしてるって感じ。」

完璧なまでの情報統制、それを聞いてガイは納得した。
以前、ガイがネットなどでハンディーキャッパーやタレントについて調べた際、その事の一切が載っていなかった。つまり、コレはゴルデン国家によって揉み消されていたという事なのだ。その理由は単純。今さっき猪頭が言った通り、国の独り占めである。おそらく、国会や内閣の人間が来る理由も、その事に起因するのだろう。

「でも一方的に利用されてるって訳じゃない。国公認の組織、または人材になると、それなりのお給料が貰えるんだ。私はそのお金目的で国公認のハンディーキャッパーになった。じゃないと、こんな大きな園、とてもじゃないけど支えられないでしょ。」

猪頭は猪頭財閥とは縁を切っている。よって、実家からの仕送りなどは一切ない。それ故、猪頭は国公認のハンディーキャッパーとなり、給付金を受け取る選択をしたのだ。

「四大財閥が来る理由は?」
「そりゃあ、建国当初からこの国を支える大企業だからね。行かない訳にはいかないよ。それに、今回は緊急集会。この国の行く末がどうなるか、流れを読む為にも自ら出席を願う程だ。」

それを聞いたガイは眉を顰め、猪頭に尋ねた。

「この国の行く末がどうなるかって…そんな重要な会合なんですか?今回の。」
「当然。何せあの障坂さんが急遽だよ。前もって連絡とかするあの障坂さんが。」

それを聞き、ガイは納得した。父親の予定や時間へのストイックさは、ガイが1番よく知っている。そんな父が、多少の事で人を集める訳がない。

「でもまぁ、どうして緊急集会を行うのかはわからない。知ってる人もいるかもだけど、私は知らされてないなぁ。ま、当日に言うだろうけど。」

あの父親が『緊急』などという言葉を使うのだ。どれほどの重大さか、ガイにはよく理解できた。

【20:30、猪頭愛児園、門前にて…】

ガイが園内から出てきた。そんなガイを見送る猪頭,友那,勉,将利がいる。

「また来ます。」

ガイがそう言うと、友那と将利は答えた。

「おう!また遊んでやるよ!」
「そん時は蜂の巣にしてやんぜ!」

友那と将利は大きく手を振り、勉は黙って静かに手を振っている。
ガイが帰路へ向かおうとしたその時、猪頭はガイに忠告した。

「そうだ。会合じゃキミの正体、隠しておいた方がいいよ。」
「あ、はい…」

ガイはその言葉の意味が気になった。しかし、時間も時間なので、ガイは質問する気持ちを抑え、家へと向かった。
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