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第2章『ガイ-過去編-』
第54障『会合』
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【12月12日、19:40、柴宮市、ホテル・シバミヤ28階、パーティ会場にて…】
体育館程の広さの会場には、100人以上もの人が集まっていた。テーブルには豪勢な食材が並んでおり、立食ビュッフェ形式だ。
人々は皆、食事をしながら自由に会話をしている。その中にガイと猪頭も居た。
「(親父は居ない。まだ来てないのか…?)」
ガイは辺りを見渡した。しかし、どこにも父親の姿はなかった。
その時、猪頭はガイに話しかけた。
「いやぁ~。参加費無料でこんな良いもの食べられるなんて最高だね。子供達も連れてくればよかったよ~。」
すると、ガイは尋ねた。
「普段は食べ物は置いてないんですか?」
「ううん。そんな事はないけど、今日はなんか羽振りいいみたい。」
それを聞いたガイはとある事を疑問に思った。
「何故、今日だけ豪華なんでしょう…?」
「確かにね。あの障坂さんが気分で羽振りよくするはずがない。何か意味があるはずだ。」
そして、思案するガイに猪頭は言った。
「もしかしたら、『最後の晩餐』だったりしてね。」
猪頭はコレを冗談で言ったつもりだ。しかし、ガイにはそれが冗談だとは思えなかった。
その時、ガイの存在に気づいた者が二人いた。
「あ!先輩!アイツ!」
「あぁ。障坂の息子だ。」
それは以前、伊従村で館林と密会し、クマ高田からガイを助けた一善と、その後輩の前田であった。二人は黒スーツを着た集団の中に居て、自らも黒のスーツを着ている。
その時、一善は黒スーツ集団の中心にいた銀髪の大柄な男に話しかけた。その男は、白の派手なスーツとサングラスを身に付けており、その黒スーツの集団のリーダーである事が見てとれる。
一善から話を聞いたその男は、黒スーツの男達を引き連れ、ガイの元へとやってきた。
「お前さんが障坂のせがれか。」
ガイにはこの男が誰なのかわかっていない。しかし、その風貌から表社会の人間ではない事は理解できた。一方、猪頭は彼の正体を知っている。その上で、猪頭はその男を睨んでいる。
その時、男はガイに名乗った。
「俺は白鳥組現組長、陽道要だ。」
「白鳥組…」
馴染みのあるその言葉。会うのは初めてだが、その名前だけでガイは嫌悪感を抱いた。
陽道はガイに言う。
「お前さんの親父とは昔からの付き合いでな。まぁ、仲良くしようや。」
「…」
ガイは黙秘した。おそらく、仲良くはできない。ガイは直感でそれを悟ったのだ。
すると、陽道はガイの元を去っていった。どうやら、今回は挨拶だけのようだ。
去り際に、ガイは一善と前田の存在に気づいた。
「(あの二人、どこかで…)」
しかし、ガイは思い出せなかった。
その時、猪頭がガイに話しかけてきた。
「嫌なのに顔覚えられちゃったね。」
猪頭も白鳥組の事はよく思っていないようだ。まぁ、暴力団というだけでそう思うのは当然だが。しかし、それ以上に何かあるような様子だ。
「あの人も国公認のハンディーキャッパーなんですか?」
「うん。ていうか、白鳥組自体が国公認のハンディーキャッパー集団って感じだね。まったく、この国は何考えてるんだか。」
その時、会場のステージ上に一人の男が現れた。
「お、そろそろ始まるね。」
それを見て、猪頭は会合開始の合図だと悟った。
ガイはステージの方を見た。
「親父…」
ステージに立っていた男は、ガイの父親、障坂家当主の障坂巌だ。
巌はマイクを手に取り、皆に向かって話し始めた。
「皆さん、お忙しい中お集まりいただき誠にありがとうございます。今回、会合の主催・進行役を務めさせてもらう障坂です。」
巌は家に居る時とはまるで雰囲気が違う。他を寄せ付けない圧倒的な存在感はあるものの、言葉や表情の節々に社交性が感じられる。おそらくは、自らそのオーラを作り出しているのだろう。
「皆さんに急遽集まっていただいたのには理由があります。」
急遽とは、この緊急集会の事。やはりガイの考察通り、理由があったのだ。
次の瞬間、巌の発言により、ガイは衝撃を受ける事となる。
「その理由は、私の寿命が残り一年も無いという事です。」
その事実を聞いた人々は驚嘆し、口々に話し始めた。
「ど、どういう事だ…⁈」
「障坂さんは、病か何かを患っていたのか…⁈」
その時、猪頭はガイに尋ねた。
「キミは知ってたかい?」
「いえ、初耳です…」
そう。ガイもこの事実については今初めて知った。しかし、ガイには思い当たる節があった。
〈一年以内だ。〉
数日前、ガイが武夫の入院先の理由を父に尋ねた際に言われたこの言葉。それが父親の寿命と関係していた事に、ガイは今気づいた。
皆、落ち着きを取り戻した頃合いを見て、巌は再び話を始めた。
「私のタレントは、使用者に短命をもたらすデメリットがある。私の父も、40になる前に亡くなった。」
巌は今39歳。もし、このタレントが40歳で死ぬものと仮定するならば、巌が1年と考えたのも納得がいく。
巌は話を続けた。
「私にはもう時間が無い。だから、今日この場をもって、外の世界へ行くメンバーを決定する。」
外の世界、それはつまり、外国の事。海を渡り、チハーヤやデカマーラのあるエゲツ大陸、ポヤウェストがある西エゲツ大陸へ向かうという事だ。
ゴルデンは何千年もの間、外界との交流は一切されてこなかった。それがタブーとされていたからだ。では何故、巌は外の世界へ目指そうとするのか。それは、まだこの時のガイにはわからなかった。
その時、白鳥組現組長の陽道要を含めた数人の男達がステージ上に現れた。巌は彼を手で指し、話し始めた。
「先日の議会の上、外の世界へ行くのは私とココに居る八人の技術者、そして、陽道要率いる白鳥組に決定しました。」
その時、一人の青年が声を上げた。
「ちょっと待ってください!」
その青年は大学生ぐらいの歳で、身長180cm以上はある爽やか系イケメンだ。
名前は桜田秋。春明町にある大学の三回生だ。
桜田は巌に向かって言い放った。
「納得できません!外へ行くメンバー決めのチャンスは、どのハンディーキャッパーにも公平にあるんじゃなかったんですか!そもそもそんな議会が昨日行われたなんて、ココに居る大部分の人は知りませんでしたよ!」
桜田は必死の素振りで巌に訴えかけている。
すると、そんな桜田に向かって、陽道は言った。
「そりゃあ、大部分だからな。」
それを聞き、桜田は陽道を睨み付けた。
「どういう意味ですか…?」
「知らされなかった、その時点でテメェらは候補にすら選ばれなかったって事だ。そうだろ?お前さん、不特定多数のモブに公平なんてもんがあると思ってんのか?」
見下す陽道。桜田は陽道を無視し、巌に問いかけた。
「障坂さん。どうして白鳥組を選んだのか、理由を教えてください。」
すると、巌が答えるよりも早く、陽道がそれに答えた。
「有能だからに決まってんだろ。」
「障坂さんに聞いてるんです。」
桜田は怒りながらそう答えた。
その時、巌は説明した。
「外の世界には、魔物という怪物が存在する。つまり、それらに引けを取らない強い能力者集団が必要だ。」
「でもそれなら…!」
桜田の発言を遮るかのように、巌は説明を続けた。
「それに彼らなら、私が居なくとも、魔王の封印を解く事ができる。」
それを聞いた桜田は眉を顰め、陽道を睨んだ。
「そういう事か…」
桜田は歯を食いしばり、悔しそうな表情だ。そんな桜田を、陽道は嘲笑っている。
一方のガイは、聞き慣れない単語に頭を悩ませている。
「(魔王の封印…?一体何の話をしている…)」
この時のガイはまだ知らない。魔王の存在も、封印の事も。そして、自らが魔王を蘇らせる悪魔になる事も。
その後、桜田の他に質問や抗議をする者はなく、巌がこれからの方針や自分が居なくなった後の仕事の引き継ぎなどの話をしたが、ガイにはどれも関係がなかった。
数十分後、巌の話が終わり、人々は再び自由に会話や食事を始めた。
その時、ガイは猪頭に話しかけた。
「園長。魔物ってなんですか?」
「さぁ。私もよくわかんない。色んな種類いるらしいけど、私は一匹しか見た事ないな。」
「一匹見た事あるんですか?」
「うん。名前はオザトリスって言ってね、きっとこの会合にも来てるはずだよ。」
ガイは首を傾げた。
「オザトリス?」
その時、何者かがガイの耳元で囁いた。
「ひょひはひはー?」
そのヘナヘナした声にビックリして、ガイは飛び退いた。
「うわっ!何⁈」
ガイは冷や汗をかき、囁かれた方の耳を押さえている。
そして、ガイは目の前の生き物を見て再び驚嘆した。
「な…⁈」
なんと、ガイに囁いたそれは半人半狐の魔物だったのだ。
それを見た猪頭は全く驚かずにガイに教えた。
「コイツがオザトリスだよ。初めは驚くよね。私もビックリしたもん。」
すると、オザトリスはガイに挨拶した。
「ほ~も~、ほはほひふへふ~。」
「…え?」
オザトリスは滑舌が悪い。ガイはオザトリスの挨拶を聞き取れなかった。
その時、猪頭はガイに提案した。
「そうだ。話はオザトリスから聞きなよ。外の世界についてなら、きっと一番詳しいからさ。」
状況の整理が追いつかないガイ。しかし、外の世界の事や魔王の封印について何としても知りたかったガイは、半狐の魔物オザトリスに尋ねてみた。
「魔王の封印って何ですか…?」
「はほーはははひはんほへんへんはへひはひひんほひゅーひゃ、ひょーほーひひょっへふーひんはへはんへふー。」
ガイは頭の中がハテナでいっぱいになった。
要約するとこうだ。
魔王は2万5000年前にこの世界を支配していた統治者の略称で、クーデターにより、とある人物のタレントで封印されてしまった。
魔王には、魔物と呼ばれる生物を創造するタレントがあり、外の世界にいる魔物は魔王の指揮が途絶え、本能のままに暴れている。人間を襲うのはその為だと言う。ガイの父、巌は何千年もの間続いたゴルデンの鎖国を解くべく、外の世界を目指しているのだとか。その為には、魔王を復活させ、外にいる魔物を大人しくさせる必要があると。
その時、ガイはオザトリスに質問した。
「アンタも魔物だろ?人間を襲わないのは何故だ?」
「ほふはほふへふははぁはひひょーふはんへふほー。」
すると、ガイは再びオザトリスに質問した。
「魔王なんて呼ばれてる奴、復活させても大丈夫なのか?」
「はひひょーふへふほー。はほーははぁほほふぁはふひふほーひょふはふへひ、ひっほふはひひんへんはひほへひほっれふーひんはへははへ。ほんほーはひーはあはほへふほ。」
オザトリスの言葉は軽かった。まるでそこに、真実など無いかのように。ガイはオザトリスの言葉をイマイチ信用できなかった。
しかし、今頼れるのはオザトリスしかいない。ガイは質問を続けた。
「親父はまぁアレとして、白鳥組が魔王の解放に協力をするのは何故だ?国からの報酬金って訳じゃないんだろ。」
白鳥組は現時点で金に不自由はしていない。国からの報酬金目当てではないとすれば、白鳥組は何故、外の世界へ行く事に躍起になっているのか。ガイはそれが気になった。
「はほーははふぉふっはふはへはははふひひふぁ、へはひほほふぉひほふ、はんへほははへへふははふんへふほー。」
「何でも…?」
「はひ。はんへほ。ほへほほ、はほーははふぉひははふぁひはひはほへふほー。」
あまりにも胡散臭い。こんな話、信じる方がバカだ。しかし、白鳥組はコレを信じている。何故なら、障坂巌がコレを後押ししているから。それだけで、この胡散臭い話も真実に変わる。そして何より、白鳥組には他にも目的があった。
その時、ガイ達の元へ桜田と二人の男女がやってきた。
「猪頭さん。僕らと同盟を組んでください。」
桜田達は猪頭に用があるらしい。
猪頭は返答した。
「またそれかい?何度も言っただろ。私は既に猪頭家とは縁を切ったって。それに、もう外へ行くメンバーは決まったんだ。もう諦めなよ。」
「でも、まだチャンスはあるはずです。今からでも、魔王の封印を解けるハンディーキャッパーを見つければ、あるいは…」
桜田は必死に訴えかけた。しかし、猪頭は首を横に降り、桜田の勧誘を拒む。
「悪いけど…」
桜田は悔しそうに拳を握りしめている。
「そうですか…」
桜田達は去っていった。
そんな彼らの様子を見ながら、ガイは猪頭に尋ねた。
「あの人は?」
「桜田 秋くん。大学生だよ。その後ろの二人は彼の友達。角野葉湖ちゃんと、出口哲也くん。彼らも、外の世界へ行きたがってるんだ。」
出口の名前を聞き、ガイは猪頭に聞いた。
「出口ってあの…?」
「あぁ。キミや私と同じ、四大財閥の一つ、出口財閥のご子息さ。まぁ、出口家は今彼しか居ないから、実質当主だけどね。」
その時、ガイは背後から何者かに名を呼ばれた。
「ガイ。」
ガイは嫌に聞き慣れたその声を聞いて、一瞬体が硬直した。
「ッ…」
ガイは振り返った。すると、そこにはガイの父親、巌が立っていた。
「話がある…」
ガイは巌に連れられ、会場の外へと歩いて行った。
そして、その様子を見ている者が猪頭とオザトリス以外にもう一人。
「(障坂さん…?)」
それは桜田だった。桜田は巌と一緒にいるガイを見ている。
「(一緒にいるあの子は、もしかして…)」
この時、桜田の脳裏に悪魔のような作戦が思い浮かんだ。
体育館程の広さの会場には、100人以上もの人が集まっていた。テーブルには豪勢な食材が並んでおり、立食ビュッフェ形式だ。
人々は皆、食事をしながら自由に会話をしている。その中にガイと猪頭も居た。
「(親父は居ない。まだ来てないのか…?)」
ガイは辺りを見渡した。しかし、どこにも父親の姿はなかった。
その時、猪頭はガイに話しかけた。
「いやぁ~。参加費無料でこんな良いもの食べられるなんて最高だね。子供達も連れてくればよかったよ~。」
すると、ガイは尋ねた。
「普段は食べ物は置いてないんですか?」
「ううん。そんな事はないけど、今日はなんか羽振りいいみたい。」
それを聞いたガイはとある事を疑問に思った。
「何故、今日だけ豪華なんでしょう…?」
「確かにね。あの障坂さんが気分で羽振りよくするはずがない。何か意味があるはずだ。」
そして、思案するガイに猪頭は言った。
「もしかしたら、『最後の晩餐』だったりしてね。」
猪頭はコレを冗談で言ったつもりだ。しかし、ガイにはそれが冗談だとは思えなかった。
その時、ガイの存在に気づいた者が二人いた。
「あ!先輩!アイツ!」
「あぁ。障坂の息子だ。」
それは以前、伊従村で館林と密会し、クマ高田からガイを助けた一善と、その後輩の前田であった。二人は黒スーツを着た集団の中に居て、自らも黒のスーツを着ている。
その時、一善は黒スーツ集団の中心にいた銀髪の大柄な男に話しかけた。その男は、白の派手なスーツとサングラスを身に付けており、その黒スーツの集団のリーダーである事が見てとれる。
一善から話を聞いたその男は、黒スーツの男達を引き連れ、ガイの元へとやってきた。
「お前さんが障坂のせがれか。」
ガイにはこの男が誰なのかわかっていない。しかし、その風貌から表社会の人間ではない事は理解できた。一方、猪頭は彼の正体を知っている。その上で、猪頭はその男を睨んでいる。
その時、男はガイに名乗った。
「俺は白鳥組現組長、陽道要だ。」
「白鳥組…」
馴染みのあるその言葉。会うのは初めてだが、その名前だけでガイは嫌悪感を抱いた。
陽道はガイに言う。
「お前さんの親父とは昔からの付き合いでな。まぁ、仲良くしようや。」
「…」
ガイは黙秘した。おそらく、仲良くはできない。ガイは直感でそれを悟ったのだ。
すると、陽道はガイの元を去っていった。どうやら、今回は挨拶だけのようだ。
去り際に、ガイは一善と前田の存在に気づいた。
「(あの二人、どこかで…)」
しかし、ガイは思い出せなかった。
その時、猪頭がガイに話しかけてきた。
「嫌なのに顔覚えられちゃったね。」
猪頭も白鳥組の事はよく思っていないようだ。まぁ、暴力団というだけでそう思うのは当然だが。しかし、それ以上に何かあるような様子だ。
「あの人も国公認のハンディーキャッパーなんですか?」
「うん。ていうか、白鳥組自体が国公認のハンディーキャッパー集団って感じだね。まったく、この国は何考えてるんだか。」
その時、会場のステージ上に一人の男が現れた。
「お、そろそろ始まるね。」
それを見て、猪頭は会合開始の合図だと悟った。
ガイはステージの方を見た。
「親父…」
ステージに立っていた男は、ガイの父親、障坂家当主の障坂巌だ。
巌はマイクを手に取り、皆に向かって話し始めた。
「皆さん、お忙しい中お集まりいただき誠にありがとうございます。今回、会合の主催・進行役を務めさせてもらう障坂です。」
巌は家に居る時とはまるで雰囲気が違う。他を寄せ付けない圧倒的な存在感はあるものの、言葉や表情の節々に社交性が感じられる。おそらくは、自らそのオーラを作り出しているのだろう。
「皆さんに急遽集まっていただいたのには理由があります。」
急遽とは、この緊急集会の事。やはりガイの考察通り、理由があったのだ。
次の瞬間、巌の発言により、ガイは衝撃を受ける事となる。
「その理由は、私の寿命が残り一年も無いという事です。」
その事実を聞いた人々は驚嘆し、口々に話し始めた。
「ど、どういう事だ…⁈」
「障坂さんは、病か何かを患っていたのか…⁈」
その時、猪頭はガイに尋ねた。
「キミは知ってたかい?」
「いえ、初耳です…」
そう。ガイもこの事実については今初めて知った。しかし、ガイには思い当たる節があった。
〈一年以内だ。〉
数日前、ガイが武夫の入院先の理由を父に尋ねた際に言われたこの言葉。それが父親の寿命と関係していた事に、ガイは今気づいた。
皆、落ち着きを取り戻した頃合いを見て、巌は再び話を始めた。
「私のタレントは、使用者に短命をもたらすデメリットがある。私の父も、40になる前に亡くなった。」
巌は今39歳。もし、このタレントが40歳で死ぬものと仮定するならば、巌が1年と考えたのも納得がいく。
巌は話を続けた。
「私にはもう時間が無い。だから、今日この場をもって、外の世界へ行くメンバーを決定する。」
外の世界、それはつまり、外国の事。海を渡り、チハーヤやデカマーラのあるエゲツ大陸、ポヤウェストがある西エゲツ大陸へ向かうという事だ。
ゴルデンは何千年もの間、外界との交流は一切されてこなかった。それがタブーとされていたからだ。では何故、巌は外の世界へ目指そうとするのか。それは、まだこの時のガイにはわからなかった。
その時、白鳥組現組長の陽道要を含めた数人の男達がステージ上に現れた。巌は彼を手で指し、話し始めた。
「先日の議会の上、外の世界へ行くのは私とココに居る八人の技術者、そして、陽道要率いる白鳥組に決定しました。」
その時、一人の青年が声を上げた。
「ちょっと待ってください!」
その青年は大学生ぐらいの歳で、身長180cm以上はある爽やか系イケメンだ。
名前は桜田秋。春明町にある大学の三回生だ。
桜田は巌に向かって言い放った。
「納得できません!外へ行くメンバー決めのチャンスは、どのハンディーキャッパーにも公平にあるんじゃなかったんですか!そもそもそんな議会が昨日行われたなんて、ココに居る大部分の人は知りませんでしたよ!」
桜田は必死の素振りで巌に訴えかけている。
すると、そんな桜田に向かって、陽道は言った。
「そりゃあ、大部分だからな。」
それを聞き、桜田は陽道を睨み付けた。
「どういう意味ですか…?」
「知らされなかった、その時点でテメェらは候補にすら選ばれなかったって事だ。そうだろ?お前さん、不特定多数のモブに公平なんてもんがあると思ってんのか?」
見下す陽道。桜田は陽道を無視し、巌に問いかけた。
「障坂さん。どうして白鳥組を選んだのか、理由を教えてください。」
すると、巌が答えるよりも早く、陽道がそれに答えた。
「有能だからに決まってんだろ。」
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「外の世界には、魔物という怪物が存在する。つまり、それらに引けを取らない強い能力者集団が必要だ。」
「でもそれなら…!」
桜田の発言を遮るかのように、巌は説明を続けた。
「それに彼らなら、私が居なくとも、魔王の封印を解く事ができる。」
それを聞いた桜田は眉を顰め、陽道を睨んだ。
「そういう事か…」
桜田は歯を食いしばり、悔しそうな表情だ。そんな桜田を、陽道は嘲笑っている。
一方のガイは、聞き慣れない単語に頭を悩ませている。
「(魔王の封印…?一体何の話をしている…)」
この時のガイはまだ知らない。魔王の存在も、封印の事も。そして、自らが魔王を蘇らせる悪魔になる事も。
その後、桜田の他に質問や抗議をする者はなく、巌がこれからの方針や自分が居なくなった後の仕事の引き継ぎなどの話をしたが、ガイにはどれも関係がなかった。
数十分後、巌の話が終わり、人々は再び自由に会話や食事を始めた。
その時、ガイは猪頭に話しかけた。
「園長。魔物ってなんですか?」
「さぁ。私もよくわかんない。色んな種類いるらしいけど、私は一匹しか見た事ないな。」
「一匹見た事あるんですか?」
「うん。名前はオザトリスって言ってね、きっとこの会合にも来てるはずだよ。」
ガイは首を傾げた。
「オザトリス?」
その時、何者かがガイの耳元で囁いた。
「ひょひはひはー?」
そのヘナヘナした声にビックリして、ガイは飛び退いた。
「うわっ!何⁈」
ガイは冷や汗をかき、囁かれた方の耳を押さえている。
そして、ガイは目の前の生き物を見て再び驚嘆した。
「な…⁈」
なんと、ガイに囁いたそれは半人半狐の魔物だったのだ。
それを見た猪頭は全く驚かずにガイに教えた。
「コイツがオザトリスだよ。初めは驚くよね。私もビックリしたもん。」
すると、オザトリスはガイに挨拶した。
「ほ~も~、ほはほひふへふ~。」
「…え?」
オザトリスは滑舌が悪い。ガイはオザトリスの挨拶を聞き取れなかった。
その時、猪頭はガイに提案した。
「そうだ。話はオザトリスから聞きなよ。外の世界についてなら、きっと一番詳しいからさ。」
状況の整理が追いつかないガイ。しかし、外の世界の事や魔王の封印について何としても知りたかったガイは、半狐の魔物オザトリスに尋ねてみた。
「魔王の封印って何ですか…?」
「はほーはははひはんほへんへんはへひはひひんほひゅーひゃ、ひょーほーひひょっへふーひんはへはんへふー。」
ガイは頭の中がハテナでいっぱいになった。
要約するとこうだ。
魔王は2万5000年前にこの世界を支配していた統治者の略称で、クーデターにより、とある人物のタレントで封印されてしまった。
魔王には、魔物と呼ばれる生物を創造するタレントがあり、外の世界にいる魔物は魔王の指揮が途絶え、本能のままに暴れている。人間を襲うのはその為だと言う。ガイの父、巌は何千年もの間続いたゴルデンの鎖国を解くべく、外の世界を目指しているのだとか。その為には、魔王を復活させ、外にいる魔物を大人しくさせる必要があると。
その時、ガイはオザトリスに質問した。
「アンタも魔物だろ?人間を襲わないのは何故だ?」
「ほふはほふへふははぁはひひょーふはんへふほー。」
すると、ガイは再びオザトリスに質問した。
「魔王なんて呼ばれてる奴、復活させても大丈夫なのか?」
「はひひょーふへふほー。はほーははぁほほふぁはふひふほーひょふはふへひ、ひっほふはひひんへんはひほへひほっれふーひんはへははへ。ほんほーはひーはあはほへふほ。」
オザトリスの言葉は軽かった。まるでそこに、真実など無いかのように。ガイはオザトリスの言葉をイマイチ信用できなかった。
しかし、今頼れるのはオザトリスしかいない。ガイは質問を続けた。
「親父はまぁアレとして、白鳥組が魔王の解放に協力をするのは何故だ?国からの報酬金って訳じゃないんだろ。」
白鳥組は現時点で金に不自由はしていない。国からの報酬金目当てではないとすれば、白鳥組は何故、外の世界へ行く事に躍起になっているのか。ガイはそれが気になった。
「はほーははふぉふっはふはへはははふひひふぁ、へはひほほふぉひほふ、はんへほははへへふははふんへふほー。」
「何でも…?」
「はひ。はんへほ。ほへほほ、はほーははふぉひははふぁひはひはほへふほー。」
あまりにも胡散臭い。こんな話、信じる方がバカだ。しかし、白鳥組はコレを信じている。何故なら、障坂巌がコレを後押ししているから。それだけで、この胡散臭い話も真実に変わる。そして何より、白鳥組には他にも目的があった。
その時、ガイ達の元へ桜田と二人の男女がやってきた。
「猪頭さん。僕らと同盟を組んでください。」
桜田達は猪頭に用があるらしい。
猪頭は返答した。
「またそれかい?何度も言っただろ。私は既に猪頭家とは縁を切ったって。それに、もう外へ行くメンバーは決まったんだ。もう諦めなよ。」
「でも、まだチャンスはあるはずです。今からでも、魔王の封印を解けるハンディーキャッパーを見つければ、あるいは…」
桜田は必死に訴えかけた。しかし、猪頭は首を横に降り、桜田の勧誘を拒む。
「悪いけど…」
桜田は悔しそうに拳を握りしめている。
「そうですか…」
桜田達は去っていった。
そんな彼らの様子を見ながら、ガイは猪頭に尋ねた。
「あの人は?」
「桜田 秋くん。大学生だよ。その後ろの二人は彼の友達。角野葉湖ちゃんと、出口哲也くん。彼らも、外の世界へ行きたがってるんだ。」
出口の名前を聞き、ガイは猪頭に聞いた。
「出口ってあの…?」
「あぁ。キミや私と同じ、四大財閥の一つ、出口財閥のご子息さ。まぁ、出口家は今彼しか居ないから、実質当主だけどね。」
その時、ガイは背後から何者かに名を呼ばれた。
「ガイ。」
ガイは嫌に聞き慣れたその声を聞いて、一瞬体が硬直した。
「ッ…」
ガイは振り返った。すると、そこにはガイの父親、巌が立っていた。
「話がある…」
ガイは巌に連れられ、会場の外へと歩いて行った。
そして、その様子を見ている者が猪頭とオザトリス以外にもう一人。
「(障坂さん…?)」
それは桜田だった。桜田は巌と一緒にいるガイを見ている。
「(一緒にいるあの子は、もしかして…)」
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