障王

泉出康一

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第2章『ガイ-過去編-』

第61障『念の為』

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【12月13日、17:45、桜田の通う大学内にて…】

山口,堺,広瀬,有野,友田。そして、友那,勉,将利の計八人は誘拐されたガイを助けるべく、桜田を探して大学内を歩いていた。

「何処だー!桜田ぁー!出てこぉーい!」
「ちょっと山口くん!騒いじゃまずいよ!」

叫ぶ山口に堺が抑止する。
その時、勉が皆に問いかけた。

「皆さん、ホントに桜田がココに居ると思ってるんですか?」

皆、首を傾げた。
勉は皆のバカさ加減に飽き飽きしたようにため息をついて、説明を始める。

「あのですねぇ、人を攫った後に学校へ行こうなんて思う奴、何処の世界に居ると思ってるんですか。」

その発言を聞き、皆は「あっ。」と言った。どうやら、気づいたようだ。
そう。桜田は大学には居ない。少し考えればわかる事だ。勉は続けて発言した。

「きっと猪頭先生がココに来た理由は、桜田を探す為じゃなく、桜田への手がかりを探す為。だから僕達も桜田本人を探すのではなく、聴き込みをして、桜田の家の場所などの情報を集める方が賢明かと思いますが。」

八歳に諭される中学生達。頭良いのにバカなのが、彼ら放課後防衛隊のお茶目なところだ。
その時、誰かが堺に話しかけてきた。

「キミ達、桜田君を探してるのかい?」

堺らはその人物を見た。それは、先程、堺らを陰から眺めていた二人組の一人、紺のハットを被った男子大学生だ。

【数分後、大学内、オカルト研究部、部室にて…】

堺らはハットの男子学生に連れられて、オカルト研究部の部室へとやってきた。
堺らの何人かがソファや椅子に座ると、ハットの学生は話を始めた。

「念の為説明すると、桜田君はココの部長でね。俺は部員の土狛江どこまえ。桜田君と同じ三年生だ。」

部室内には、いくつもの本や資料が置かれている。山口は席から立ち上がり、それらを手に取った。

「訳わかんねー。」

山口は本の内容を見てそう呟いた。
そんな勝手な行動ばかりとる山口を止めるべく、堺も椅子から立ち上がり、山口に近づいた。

「ダメだって!勝手に触っちゃ!」

堺はもう完全に山口の保護者である。
そんな堺の保護者的頑張りも虚しく、山口だけでなく、友那と将利も椅子から立ち上がって、部屋の中の資料を漁り始めた。
その姿を見て、土狛江は微笑ましい表情で言った。

「いいよ。自由に見てくれても。」

資料の閲覧を許可する土狛江。そんな土狛江に、広瀬が尋ねた。

「超能力関係の資料が多いんですね。」

そう。部屋にある資料はほぼ全て超能力にまつわる類のものばかり。それが気になった広瀬は土狛江に尋ねる。

「オカルトって、幽霊とか都市伝説とかも含まるはず。そういうのは無いんですか?」
「うーん、そうだねぇ。そういうの、俺たち…というより、部長が興味無いから。桜田君は、根拠のあるものしか信じないから。」
「根拠がある…?超能力が?」

ハンディーキャッパーである広瀬達は別として、一般的に超能力の存在は確立していない。それを根拠のあるものとして捉えた桜田も十中八九、ハンディーキャッパーであるという事。
しかし、不可解なのが土狛江の存在だ。彼がハンディーキャッパーであるのなら、PSIを感じるはず。しかし、土狛江からはそのPSIが一切感じられない。つまり、土狛江はハンディーキャッパーでは無い事となる。

「知ってるかい?最近この辺りで起こった怪奇事件のこと。」

土狛江は話を続ける。

「4月、いきなり姿が消える引ったくり犯。7月、猫に姿を変えられた店員。8月、とある村に現れた異形なる獣達。11月、謎の通り魔事件。」

土狛江の言う怪奇事件の全てに、ガイが関わっていた。それは偶然か、それとも。
土狛江の次の発言で、その答えが明らかとなる。

「そして今月、障坂家ご子息誘拐事件。」

それを聞いた堺らの表情が一変した。
ガイの誘拐は今朝起こった。つまり、この事はまだガイと親しい者達しか知らないはず。そもそも、誘拐かどうかもまだはっきりと分かった訳では無い。しかし、土狛江はハッキリと『誘拐』と言った。
コレで確定した。ガイは桜田に攫われたと。その事を悟った一同の警戒が高まった。

「お前!ガイ君を何処に…」

広瀬は椅子から立ち上がろうとした。しかし、それは叶わなかった。

「なッ…⁈」

なんと、椅子が独りでに動き出し、椅子に座っていた広瀬,有野,友田,勉が椅子に拘束された。
そして、拘束の完了と共に、部室のドアが開き、土狛江と話をしていたカチューシャをつけた茶髪の女子大生が入ってきた。
その時、土狛江は椅子から立ち上がり、話を始めた。

「俺らとゲームをしよう。」
「ゲームだと…⁈」
「あぁ。座ってる四人は俺とトランプ。立ってる四人は後ろのお姉さんと鬼ごっこ。あ、念の為言っとくけど、拒否権は無いよ。わかるだよ?この状況。」

その時、ドアの前に立っているカチューシャ女子大生がドアを開け、立っている四人を呼んだ。

「おいで。」

山口達は戸惑った。しかし、着いて行く他ない。何せ、拘束されている広瀬達が人質なのだから。
山口,堺,友那,将利はその女子大生に連れられ、部屋を出た。

「さて。」

土狛江は机の引き出しからトランプを取り出した。

「誰からやる?それとも、全員でやる?」

土狛江の提案に、珍しく有野が質問をした。

「何を…?」
「トランプだよ。勝負方法はキミ達で決めてもらって構わない。」

続けて、広瀬が質問をした。

「なぜお前はそんなに勝負したがる?それに、俺たちを捕まえてどうするつもりなんだ?」」
「暇だからだよ。」
「暇…?」
「あぁ。俺はキミ達にとっての刺客だ。本当は、桜田からは作戦の邪魔をする奴は殺せって命令されてるんだけど、さすがに殺しは無しかなぁって。さっきの子と話し合ったんだ。だから、キミ達を生かしたままで拘束させてもらった。」

土狛江は先程取り出したトランプをきり始め、話を続けた。

「でもさ、ただ捕まえただけってのは面白くない。だから暇潰しがてらに勝負をしようって事。」

勝負、つまりは土狛江の暇潰しだ。それを理解した広瀬は怒り、声を荒げた。

「お前にとってこの時間は暇なのかもしれない…けどな!こっちにとっては一大事なんだぞ!家族の方達は今も必死になってガイ君を探してる!ガイ君本人だって、きっと不安で仕方ないはずだ!」

普段温厚な広瀬が怒りを露わにし、土狛江に向かって言葉を放つ。そんな彼の姿を見て、友田は驚いた。

「(コイツがこんなに怒ったところなんて初めて見たかも…)」

友田が物珍しそうな顔で広瀬を見ている。一方、広瀬は周りの目など気にせずに土狛江に怒りを言葉でぶつける。

「お前らの勝手な都合でガイ君を巻き込むな!この犯罪者共が!!!」
「…」

しかし、土狛江は顔色一つ変えずに広瀬を指差した。

「念の為言うけど…キミ、負けるよ?」

負ける、とは一体。

「トランプゲーム含め、心理戦における感情の起伏は死に直結する。ポーカーフェイスを忘れ、喜怒哀楽に流されては、賭け事で勝つ事は不可能。」

次の瞬間、土狛江の体がぐにゃぐにゃに溶け、ただの泥と化した。

「「「ッ…⁈」」」

皆、それを見て驚愕した。先程まで怒り心頭だった広瀬も、その光景を見て驚愕し、冷静さを少しばかり取り戻した。
その時、部屋の奥の窓が開き、外から新たに土狛江が入ってきた。
そして、土狛江はニヤリと笑い、こう言った。

「勝者って、確信と同時に笑うらしいよ。」

窓から入ってきた土狛江からは、PSIを感じられた。つまり、今までの土狛江は偽物。この土狛江こそが本物なのだ。
土狛江は入ってきた窓を閉め、先程まで偽物が座っていた椅子に座り、話し始めた。

「俺だって好きでこんな事してる訳じゃない。誘拐だって反対したさ。でも、アレ以上反対してたら、桜田に何されるかわからない。その証拠にほら、キミ達を殺さずにいるだろ?」

土狛江から先程の笑みは消え、冷静に話をしている。それが事実かどうか、彼のポーカーフェイスからは予想がつかない。

「でも、やるからには何事も楽しむ。それが俺のポリシー。」

土狛江は先ほど偽物が持っていたトランプを手に取った。

「そうだ。俺に勝てたら何か一つ、質問していいよ。俺の知る限りならなんでも答えてあげる。どう?やる気になった?あ、念の為言っとくけど、キミらが負けてもペナルティ無いから。」

この提案、もはややる他ない。動けない広瀬達にとって、今は情報収集に切り替えるべきだ。この四人は頭がいい。皆、その事を理解していた。

「わかった。俺がやる。」
「オーケー。種目は?」

すると、広瀬は聞き慣れぬゲーム名を言った。

「ラストババ抜き!」

果たして、ラストババ抜きとは一体。
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