障王

泉出康一

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第2章『ガイ-過去編-』

第62障『ラストババ抜き』

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【12月13日、17:55、大学内、オカルト研究部、部室にて…】

部屋の中には土狛江と、椅子に拘束された広瀬,有野,友田,勉がいる。
その時、土狛江はトランプを持って、広瀬の正面の席へと移動した。

「さて。キミの言う『ラストババ抜き』だけど、ルールは?」

広瀬は『ラストババ抜き』のルール説明を始める。

「同じ数字のカード二枚とジョーカー一枚、計三枚のカードでババ抜きをする。まず先攻後攻を決めて、先攻の人が数字のカード一枚を持ち、残りの二枚を持つ後攻の手札を引く。それで絵札が先に揃った方が勝利。ダーツと同じで先攻が有利のゲームだ。」

広瀬の言う『ラストババ抜き』とは、要はババ抜きの最後のあのハラハラドキドキだけを味わうゲームの事である。
そのルールを聞いた土狛江はそれを理解し、承諾した。

「なるほど。それで『ラストババ抜き』か。いいね!面白そう!」

承諾した土狛江はハートの4,ダイヤの4,ジョーカーの計三枚を机の上に置き、広瀬に尋ねた。

「先攻後攻はどうする?」
「俺は後攻でいい。」

それを聞いた土狛江はとある事を察したようだ。

「後攻でいい…ねぇ…」

土狛江の呟きに、広瀬は首を傾げた。

「不満か?」
「いや全然。」

後攻でいい。何故、広瀬は圧倒的に先攻有利の条件下で、先攻を土狛江に譲ったのか。そして、この時の土狛江には、広瀬の発言はこのように聞こえた。

〈後攻がいい。〉

そう。広瀬は何か仕掛けるつもりだ。そして、それを土狛江も理解していたのだ。
土狛江はハートの4を、広瀬はダイヤの4とジョーカーを手に取った。
するとその時、広瀬は二枚のカードを持ったまま、腕を机の下に隠した。それを見て、土狛江は言った。

「念の為、かい?」
「あぁ。」

広瀬は、土狛江には見えないように2枚のカードをシャッフルする為、腕を机の下に隠したのだ。
そして、土狛江は言った。

「よぉ~くきらないとダメだもんね。」

土狛江のこの言葉、コレは皮肉だ。
そう。広瀬が机の下に腕を持っていった理由はシャッフルをする為ではない。タレントを使う為である。
広瀬のタレントは『詭弁ビライブ』。PSIによって作り出した筆で、対象物に物や人の名前を書く事で、その筆で書いた物や人に錯覚させる能力である。以前、広瀬はこのタレントで、ガイの体に乗り移った本田の腕や足をミミズにした。今、広瀬はダイヤの4のカードの裏面に『ジョーカー』と筆記した。すると、広瀬以外にはこのカードはジョーカーとして錯覚されるのだ。裏面に書いたのは、後攻で広瀬が引く時にどれが本物か偽物かを区別できるようにする為だ。
数秒後、二枚のジョーカーを手札に備えた広瀬が、それらを土狛江に構えた。

「さぁ選べ。」

二枚のジョーカー。広瀬のタレントを見破らない限り、どちらを引いても土狛江に勝利はない。
しかし、土狛江の表情に一切変化はない。広瀬のイカサマに気づいていないのか。はたまた、気づいていながら冷静なのか。
次の瞬間、土狛江は何の迷いもなく、広瀬の手札から一枚引いた。引かれたそのカードは、『ジョーカー』と書かれたダイヤの4である。しかし、土狛江にはそれがダイヤの4だと認識できない為、あがる事ができない。

「あっちゃー!ジョーカーひいちゃったよー!」

土狛江は残念がっている。しかし、おそらくコレは演技。土狛江にはなんの焦りも見えないからだ。
今、手札の状況的には、広瀬がジョーカー、土狛江がハートの4と『ジョーカー』と書かれたダイヤの4がある。

「次は俺だな。」

広瀬が土狛江からトランプを引こうとしたその時、土狛江は机の下に腕を隠した。

「俺も。よぉ~くきらせてもらうよ。」
「…」

土狛江には何か考えがある。しかし、広瀬はあまり気にしていない。現状では広瀬が圧倒的に有利だからだ。
広瀬はこのターン、裏面に『ジョーカー』と書かれたダイヤの4を引くつもりだ。いや、このターンだけでなく、これ以降も。そうする事で、いずれ土狛江が本物のジョーカーを引いた際に、後攻で広瀬がハートの4を引けば良いだけ。もし、その際に本物のジョーカーを引いてしまっても、次に持ち越して再度トライすれば、途中・最後でイカサマがバレる事もなく、広瀬は安全に勝つ事ができる。

「(そういえば、確信したら笑うんだよな…)」

広瀬は土狛江の言葉を思い出し、喜びを顔に出そうとした次の瞬間、広瀬はとんでもない光景を目の当たりにする。

「なッ…⁈」

焦り故声が漏れた。

「(無い…!俺が書いたはずの『ジョーカー』の文字が…!)」

そう。土狛江が手に持っていた二枚のカードの裏面には、何も記載されていなかった。広瀬がタレントで筆記した、広瀬だけが読める『ジョーカー』の文字も。

「(別のトランプと入れ替えたのか⁈だとしたら、イカサマを指摘して…)」

土狛江のイカサマを指摘する事を考えた広瀬は、とある事を危惧した。

「(いや、ダメだ。奴のイカサマに気づいたという事は、俺のタレントを説明する事になる。それはイカサマがバレる事よりもまずい…)」

敵にタレントの詳細が知られる事ほど、ハンディーキャッパーにとって都合の悪い事はない。勝負云々ではなく、生存が脅かされる事実なのだ。
広瀬の額に冷や汗が流れる。焦っているのだ。勝ちを確信していたにも関わらず、予想外の出来事が起こったから。
その様子を見て、土狛江は言った。

「やっぱり、何かしてたんだねぇ~。」

土狛江はニヤリと微笑んでいる。

「俺の勝ちだ。」

すると、土狛江は持っていた手札の2枚のカードを表向きにして机に置いた。

「なにぃ⁈」

それを見た広瀬はさらに驚嘆した。
なんと、土狛江が出した二枚のトランプはハートの4、そして、『ジョーカー』と書かれていたはずのダイヤの4だったのだ。

「(俺のタレントが知られた…!コイツ、文字を消したんだ…!)」

広瀬のタレントは文字が消えると、その物体の錯覚効果も消える。つまり、今、裏面に『ジョーカー』と書かれていないダイヤの4は、土狛江が文字を消して、本来のカードに姿を戻した事になる。それは、広瀬のタレントの詳細について知らなければ絶対に出来ない。
その時、土狛江は広瀬に質問した。

「コレ、俺の勝ちでいいよね?認める?」

驚きと困惑で頭がいっぱいだった広瀬は、負けを認めた後、土狛江に尋ねた。

「あ、あぁ…お前の勝ちだ…でも一つ教えてくれ!いつ何処で、俺のタレントについて知ったんだ⁈」
「知らないよ?そんなの。」
「嘘つくな!俺のタレントを知らなきゃ、文字を消すなんて事できる訳ない!」

シラを切る土狛江。いや、土狛江は本当に知らなかったのだ。その証拠に、土狛江は机に置いた二枚のトランプを指差しながら言った。

「いや、まじまじ。だってほら。」

土狛江が置いた二枚のトランプ、広瀬はそれを手に取って確認した。

「な、なんで…」

なんと、ダイヤの4の裏面には、確かに広瀬が書いた『ジョーカー』の文字が筆記されていたのだ。

「そ、そんな…さっきは消えてたのに…」

あまりの困惑故、広瀬は現状が理解できなかった。周りで見ていた者もそうだ。広瀬が何故、驚いているのかわかっていない。
その時、土狛江はニヤリと微笑み、広瀬に言った。

「ところでさっきキミ、俺が文字を消したとか何とか言ってたけど…キミのタレント、もしかして字を書いてそれが何らかの影響を与える、そんなタレントだったりするの?」

失言。広瀬がそれに気づいた時にはもう遅い。土狛江は広瀬のタレントについて分かり始めてきた。もう、広瀬は土狛江に勝つ事は不可能だ。

説明しよう!
土狛江うつつのタレントは『魂の芸術人クライアントドール』。土にPSIを与える事で、その土を操る能力である。人の形を成して声を発声させる事もできるし、土の配合を変える事で変色も可能。
タイプ:操作型

結果的に言うと、土狛江の勝利の決め手はハッタリである。まず初め、広瀬が自分に先攻を譲った時に、土狛江は広瀬が何かを仕掛けてくる事を悟っていた。そして、おそらくトランプに何か仕掛けを付けてくるのではないかと悟った土狛江は、初めに引いた『ジョーカー』と書かれたダイヤの4を土で纏い、絵柄を変えていたのだ。この時点で、広瀬からは裏面の『ジョーカー』の文字が消え、土狛江からはジョーカーがダイヤの4に変化したように見えた。そして、そのトランプを広瀬に見せる事で、広瀬の反応をうかがったのだ。
結果は良好。広瀬は明らかに動揺を見せた。それを見た土狛江は、広瀬が仕掛けたトランプのサインを消したのだと気づき、一か八かの賭けに出た。それが、広瀬に手札二枚を見せる事だ。誰の目から見ても明らかな土狛江の勝利。しかし、土狛江は内心ヒヤヒヤしていた。何せ土狛江からしたら、このダイヤの4は引いた際はジョーカーだったからだ。それは広瀬のタレントで錯覚させられていたとしても、土狛江にはその事実はわからない。それに、引いた瞬間に何故あがらなかったんだ、と質問されていたら土狛江に答える余地はなかった。だから、広瀬に自身の勝ちを認めさせるという保険をかけてからタレントを解除したのだ。
しかし、結果は土狛江の勝利。土狛江はいくつもの罠と伏線で広瀬の思考を狂わせ、冷静な判断をできなくさせたのだ。

「さぁ。次は誰が相手する?」

コレが土狛江という男。しかし、こんな狡猾な男すらも従わせる桜田は、一体どれほどの強者なのか。それは、いずれわかる。
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