障王

泉出康一

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第2章『ガイ-過去編-』

第77障『出る杭は打たれる』

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【12月13日、19:00、出口邸前にて…】

有野,堺,友田,白マロ(人間),チビマル(猫)が出口邸へと辿り着いた。

「何かあったらすぐ知らせてよ!」
「京香…!気をつけてね…!」

堺と友田は出口邸から少し離れた位置で待機だ。何かあったら、すぐにヤブ助に報告できるように。
一方、有野,チビマル,白マロは出口邸へ乗り込む。

「うん…!」
「お前らも、油断だけはすんじゃねーぞ。」

有野とチビマルは気合十分に出口邸へと向かう。しかし、白マロだけは表情が怪しい。不安、いや、そんなものではない。

「…」

チビマルはそんな白マロを見た。彼とヤブ助だけだ。白マロのとある事情を知っているのは。

【出口邸、門前にて…】

今、木森は桜田と猪頭愛児園へと向かっている。それ故、条件獣は居ない。そして、土狛江と裏日戸が先に出口邸へ行き、策を講じているはず。

「行くぞ。」

チビマルは二人を先導し、手口邸へと入った。

【19:30、成金部屋にて…】

ガイ,角野,不知火の前に誰かがいる。

「茶番はココまでだ。」

それは桜田の仲間の出口だ。何故、出口が成金部屋にいるのか。土狛江達が策を講じているはずではなかったのか。
その時、出口はガイ達に右腕を見せた。そこには残金と脱出に必要な金額が書かれていた。

「3000万ある。障坂ガイ、コレでお前をココから出す。お前だけだ。」
「何故だ。」
「あの方の命令だ。」

すると、角野は出口に尋ねた。

「あの方って…秋…じゃ、ないわよね…?」
「あぁ。」
「誰なの…」

出口は少し躊躇しながらも、言葉を発した。

「白鳥組組長、陽道要だ。」

それを聞いた角野は驚嘆した。

「どうして…どうして白鳥組なんかと⁈秋を裏切ったの⁈」
「お前だってそうだろ、葉湖。」
「わ、私は秋に…人殺しなんてして欲しくないだけ…でも、哲也!貴方は…」

その時、角野の発言を遮るかのように、出口は話し始めた。

「秋じゃ無理だ。確かに、潜在的な能力で言えば、陽道なんかよりも上だ。けど、秋にはまだ、金も地位も権力も…人望も無い。いくら才能があっても、まだ、ただの学生だ。そんな奴に、国は外へ行く権利なんて与えはしない。」
「だからと言って、白鳥組なんかと…」

その時、出口は叫んだ。

「俺が春を生き返らせるッ!!!」

春、すなわち、11年前に亡くなった桜田の妹の事だ。それを聞いた角野は言った。

「哲也…やっぱり、春のこと…」

そう。出口は桜田の妹、春が好きだったのだ。

「今一番外の権利を得られるのは白鳥組だ。そして、白鳥組は資金援助と名前、つまり財閥を仲間に欲している。利害の一致だ。」
「もう一度、春に会えるのなら…俺は、魔王を復活させる悪魔にだってなってやるッ!白鳥組にだって、喜んで頭を下げる…!」

すると、角野は出口に提案した。

「秋ともう一度話し合おう。私も、今度はちゃんと言うから。自分の気持ち…他人を傷つけるのは間違ってるって…」

しかし、出口は首を横に振る。

「無駄だ。どう足掻いたって、白鳥組の優位は変わらない。それに、陽道は秋を放っては置かないだろう。あの人は必ず、出る杭は打つ。」

出る杭は打つ。その言葉を聞いたガイは出口に尋ねた。

「まさか、俺をココから出す理由は、俺を殺す為か?魔王の封印を解く可能性のある、俺を。」
「あぁ。」

その時、出口の頷きを見た不知火がガイの前に立った。それを見て、出口は言う。

「情が移ったか?」
「かもね。」

そして、角野も。

「どうあれ、彼を殺させはしない。哲也。貴方にも、人殺しなんてして欲しくないから。」
「お前まで…」
「それに、そんな事したら、春はきっと悲しむよ。」

出口は俯いた。

「春が生きてさえくれれば、俺は嫌われたって構わない…」

その時、出口はPSIを纏い、右目に指の輪を当てた。

「角野。不知火。お前らをココに置いていくのはせめてもの情けだった。今ココを出れば、あの方はきっとお前ら二人も殺す。だから、残念だ。」

出口のタレント『殺輪眼機関銃ピストルアイ』が来る。彼のPSIが弾丸のように放たれ、ガイ達を襲う。はずだった。しかし、出口は構えを解いた。

「こんな事しても無駄か。」

脅しだった。コレで二人が引いてくれればよかったのだが。しかし、身を挺してガイを守ろうとする角野と不知火。そんな二人を見た出口は脅しが通用しない事を悟ったのだ。

「(仕方ない。このやり方だけは使いたくなかったんだが…)」

すると、出口はガイに話しかけた。

「障坂ガイ。お前、仲間が来ている事は知っているか?」
「仲間…」
「大学で見た。男三人と女二人。あと猪頭んトコのガキが三人。」

それを聞いたガイの表情が強張った。

「俺は白鳥組と手を組んでいる。お前なら、この意味がわかるだろ。」

人質だ。いや、正確にはまだ人質を取られている状態では無い。しかし、白鳥組ならばそれも簡単。人質を取る前から人質宣言をしても、十分過ぎるほどに効力はある。

「陽道は、出る杭は必ず打つ。しかし、俺はお前を連れて来いと命令された。奇跡が起こるかもしれないぞ。」

奇跡とは、すなわち、ガイが殺されないという事。

「さぁ、どうする?仲間を見捨てるか?奇跡に賭けるか?」

あまりに非道な脅し。例え、ココで出口を倒しても、成金部屋から出れば白鳥組が待ち構えている。しかしそれ以上に、友達を人質に取られたガイに選択肢などなかった。

「わかった…」

ガイは出口の脅しに屈した。

【19:50、出口邸、応接間にて…】

包帯だらけのガイが出口に連れられ、応接間へと入ってきた。

「ガイ…!」

なんと、応接間には有野,白マロ,チビマルがいた。そして、その向かい側のソファには、白鳥組組長の陽道。そして、応接間全体を囲う程の黒スーツの男達。
ガイは出口に椅子に座らされた。ガイは今、左目を抉られ、両手の全指切断、その上、全身大火傷。とても一人で歩ける状態ではなかったのだ。
そんなガイの元へ、有野達は駆け寄った。

「酷い…」
「クソッ…桜田の野郎ッ…!」

ガイの怪我を見て心を痛める一同。その時、有野はガイに謝った。

「ごめん…もっと早く…助けに……」

有野は泣き出した。それを見たガイは気を遣い、笑顔でこう言った。

「ありがとう。全然、大丈夫だから。」

有野達にとって、その笑顔が逆に辛かった。明らかに、大丈夫ではない。その事がわかっているからだ。
すると、白鳥組組長の陽道が話を始めた。

「いよぉし!大丈夫なら話しようか。」

その時、一人の黒スーツの男が懐から拳銃を取り出し、ガイのこめかみに当てた。

「え……」

発砲。
ガイは死んだ。
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