障王

泉出康一

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第2章『ガイ-過去編-』

第79障『4周目』

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【翌日(12月14日)、夕方、病院にて…】

障坂家専属の病院。その病室でガイは目を覚ました。

「…」

ガイの全身の怪我は全て完治していた。おそらく、父親がまた治したのであろう。
何故、自分は生きているのか。出口の言う『奇跡』が起こったのか。そんな思考を巡らせながら体を起こすと、病室にはいつもの執事三人、ヤブ助,十谷,村上が居た。

「なんか…久しぶり……」

ガイはそう呟いた。長い間、戦っていた為、そう感じたのだろう。そんなガイに十谷は尋ねた。

「お体の具合は…?」
「うん…大丈夫…」

少しガイは目を閉じ、頭の中を整理する。そして、ヤブ助に尋ねる。

「今回の件、全部説明してくれ。」
「わかった。」

ヤブ助はガイが意識を失うまでの経緯を話した。ガイが誘拐された後の仲間達の行動。出口の裏切り。白鳥組の介入。そして、山口のダブルタレント。

「時を…逆行…」

山口のあまりに強大なタレントを聞いたガイは驚いた表情でそう呟いた。

「あぁ。最後に目を覚ました時点まで時間を逆行する能力。ただ、代償として命が削られるらしくてな…もう使えん…」

そう言ったヤブ助の表情はすごく思い詰めていた。

「ヤブ助…?」

ガイはその表情に疑問を持った。いや、嫌な予感といった方がいいだろう。

「使えないって、どういう事だ…⁈タレントが使えなくなっただけなのか⁈それとも…山口の身に、何か…あったのか…?」

胸騒ぎがしてならない。もしかしたら、山口は。いや、もう、そうなんだろう。

「山口は死んだ。ガイ。この世界は4周目なんだ。」

1周目、山口が『あの日見た懐景色ザ・サンライズ』を発現した世界。
2周目、広瀬や堺達が駅で海王に潰された世界。
3周目、ガイが出口邸でこめかみを撃たれ死亡した世界。
4周目、現在の世界。

「山口は3周目で既に限界だった。次使えば死ぬ。3周目の俺が、山口にそう言った。しかし、アイツは使った。」

それを聞いたガイは頭を抱えた。

「じゃあ…つまり、なんだ…山口は…俺の身代わりに……死んだ……のか…?」

このままでは、ガイは自暴自棄に陥る。そうならない為に、村上はガイに言う。

「ガイ様のせいじゃ無いですよ!もとあと言えば桜田や白鳥組の奴らが…」

その時、村上の発言を遮るかのように、ヤブ助はガイに言った。

「そうだ。ガイ。山口はお前を助ける為に死んだんだ。」
「ちょっとヤブ助!」

村上は叫んだ。しかし、ヤブ助は続ける。

「チビマルも白マロも…お前の代わりに何人も傷つき、死んだ。」
「やめろヤブ助!」

村上はヤブ助を止めようと肩を掴んだ。その時、ヤブ助は言った。

「俺が巻き込んだんだ…」

ヤブ助は続ける。

「俺がアイツらに頼んだんだ…ガイを助けてくれって……すまない………」

それを聞いた村上はヤブ助の肩から手を離した。そして、十谷が話し始める。

「ガイ様にも、ヤブ助にも、罪は無い。村上の言う通り、諸悪の根源たるは桜田や白鳥組の連中です。」

すると、十谷はガイの肩に上着をかけた。

「もう終わったのです。さぁ、家に帰りましょう。」
「終わった…のか……」

その時、病室のドアが開いた。

「終わってなどいない。」

病室に入ってきたのは、なんと、ガイと同じクラスのウンコ発言でお馴染み、石川いしかわ寛人ひろとだった。

「石川…⁈お前、なんで…⁈」

ココは障坂家専属の病院。それ故、部外者は立ち入りすらできないはず。何故、石川がいるのか。

「誰が悪いとか悪くないとか、そんな幼稚な話をしている場合じゃないだろ、ヤブ助。出口邸でガイが意識を失った後、その話をすべきじゃないのか?」
「…あぁ。そうだな。」

どうやら、石川は廊下から話を立ち聞きしていたようだ。そして、石川の振りでヤブ助は話を始める。

「ガイ。結果的にお前を助けたのは、石川と桜田だ。」

【昨日、19:20、猪頭愛児園付近にて…】

園内からの逃走に成功した桜田が木森と合流した時点の頃、桜田は出口に電話が通じない事を疑問に思っていた。

「(もしかして、哲也は成金部屋に…)」

この時、桜田は出口の裏切りを疑っていた。そして、そんな出口と連絡が取れた木森も。

「木森さん。」
「何?」
「スマホ、貸してくれませんか?園での戦いで全部壊れちゃってさ。」

嘘だ。桜田にはまだ使えるスマホが存在する。

「さっき連絡取れなかったって、電話かけたんじゃないの?」
「戦闘前にです。今はもう使えるスマホ無くて…だから貸してくれませんか?スマホ。不知火に電話したくて。」
「私が代わりにかけるわ。」
「いや、僕が話しますよ。万一の為にタレントも使えますし。」
「万一?」
「はい。万一です。」

桜田と木森は見合っている。しかし、木森は目線を逸らし、頑なにスマホを渡そうとしない。

「万一なんて無いわ。私が代わりに電話するわね。」

その時、桜田は言った。

「見せられないんですよね。連絡先一覧。」

その発言を聞いた木森の動きが止まった。動揺しているのだ。

「僕も貴方も、不知火の電話番号を覚えていない。であれば、必然的に連絡先を開いて電話をかける。」

次の瞬間、桜田は木森を睨みつけた。その眼差しは敵に向けるそれと同じだ。

「あるんですよね。不知火の連絡先の近くに、『し』から始まる『見せられない連絡先』が。例えば、『白鳥組』とか。」

それを聞いた木森はため息をついたと同時に、懐から拳銃を取り出した。

「ホント、頭良い人って難儀よね。」
「ッ⁈」

木森は桜田に向けて弾丸を放った。しかし、桜田はすぐさま物陰に隠れ、それを回避した。

「(銃⁈やっぱり白鳥組か!って事は哲也も…)」

桜田は親友の裏切りに確信し、ショックを受けた。

「痛ッ…!」

その時、桜田は左手に鋭い痛みが走った。

「(な、なんだ…⁈)」

桜田は左手を見た。すると、何か糸状の虫のようなものが手の甲から体内に入っていく様子が見えた。

「(まさか…条件獣⁈)」

そう。木森は弾丸に条件獣を仕掛けていたのだ。そして、避けられた際に発動するようにプログラムしていた。寄生型の条件獣を。
その条件獣は胴体の方へと腕の中を徐々に移動していく。

「(まずい…!)」

桜田はスマホを取り出し、変声アプリを使って、条件獣に命令した。

「出ていけッ!!!」

しかし、条件獣は命令を聞かない。聴覚や視覚がない為、桜田の『誤謬通信ブラックコネクター』の影響を受けないのだ。

「(こうなったら…!)」

桜田は懐からナイフを取り出し、腕内を這う条件獣にナイフを突き刺した。

「くッ…!」

しかし、条件獣は容易くナイフを回避した。

「(コレも条件か…)」

桜田は物陰から木森の方を見た。しかし、木森は既にどこかへ去ってしまった。

「(彼女は本当に僕を殺すつもりだった。この条件獣、早く取り出さないとヤバい…)」

条件獣は肘の所までやってきた。

「ふー…」

その時、桜田はポケットからハンカチを取り出し、それを口に咥えた。
そして次の瞬間、桜田は自身の左腕をナイフで切断し始めた。

「ッ!!!!!!!!!!」

左腕は切り落とされ、その中の条件獣も地面に落ちた。
タコやトカゲなど、自らの命の為に体の一部を切り離す生き物は多く存在するが、人間がそれをやるのは容易ではない。しかし、桜田はそれを平然とやってのけた。彼の精神力は並大抵のものではない。目的の為なら自他共に犠牲にする事を厭わない。それが桜田という男だ。

「ハァ…!ハァ…!ハァ…!ハァ…!」

桜田は苦痛に満ちた表情で息を荒くきている。

「(もう、作戦は無理だ…哲也を…白鳥組を何とかしないと…)」

桜田の目的はガイにタレントを発現させる事。しかし、白鳥組の介入により、それどころではなくなった。優先すべきは彼らの排除。

「(頼るしかない…あの人を…)」
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