障王

泉出康一

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第2章『ガイ-過去編-』

第88障『AG(アフターグロウ)』

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【12月19日、深夜、寂須山さびすやま、山頂付近の小屋前にて…】

暗黒の雷雨の中、重症のガイと重傷の猫の姿のヤブ助が秀頼と対峙している。

「この女を殺すッ。爆弾処理はその後だ…」
「あぁ。ろう。二人で…!」

二人は本気だ。そうしなければ、死ぬ。そう直感していた。

「良い目だ。」

秀頼はそれを見て微笑みを浮かべている。
次の瞬間、ガイは秀頼に向かって飛び出した。

「(この女に触れさえすればッ…!)」

それを見たヤブ助は秀頼の背後に回り込んだ。

「(猫化できるッ…!)」

人間化猫化キャットマン』なら、秀頼を猫化する事ができる。そうなれば、秀頼は得意の格闘術を失う。そう。彼女に触れて、タレントを発動するだけで、二人に勝ち目はあるのだ。
しかし、それは彼女も承知。触れて、タレントを発動するだけ。それがどれだけ難しい事か、後にガイ達は思い知る。

「前方後方からの同時攻撃。悪くはないが、良くもない。」

秀頼は二人の攻撃を回避しながら、解説を始める。どうやら、この状況でガイ達に戦い方を教えているようだ。

「集団リンチが効果的なのは、味方の数が三人以上の場合。二人では左右の手脚で対処されてしまうからな。」

言葉の通り、彼女は常に体の向きを変えながら、右でガイを、左でヤブ助を対処している。

「もっと効果的な方法を教えてやる。それは遠近戦法だ。」

その時、秀頼は同時タイミングで襲ってきたガイとヤブ助を裏拳で殴り飛ばした。

「「ぐはッ!!!」」

ガイとヤブ助は地面に倒れた。しかし、受け身を取り、すぐさま起き上がった。

「「ハァ…!ハァ…!ハァ…!ハァ…!ハァ…!」」

息を切らすガイとヤブ助。そんな二人対し、秀頼は心境変わらず話し続けた。

「一人は相手との間合いを詰め、常に攻撃。もう一人が遠距離からそれをサポート。それが二人戦法で一番理想的だ。」

秀頼の言う事に嘘は無い。それを承知の二人は、彼女の言う遠近戦法を試した。ガイが近距離、ヤブ助が遠距離だ。
それを見た秀頼はこう言う。

「ヤブ助が遠距離か。悪手だな。」

ヤブ助は桜田と戦った時のように、体を半猫人化した。そして、石を集める。一方、ガイは近距離で秀頼に攻撃を続ける。
秀頼はガイの攻撃を回避しながら話を続ける。

「この遠近戦法をするに当たって一つ問題がある。それはもっぱら遠距離役にだ。」

ガイは近距離で秀頼に直接攻撃。ヤブ助も秀頼に石を投げ、ガイをサポートする。

「遠距離役には高い投石術、または弓術、または狙撃術が必要だ。でなければ、味方に当たる恐れがあるからな。」

その時、秀頼の言う通り、ヤブ助の投げた石の一つが、ガイの頭部に当たった。

「痛ッ…!」
「あ!すまんッ!」

すると、その隙をついた秀頼は、ガイをヤブ助の方へ投げ飛ばした。ガイは受け身を取り、すぐさま起き上がる。

「ほらな。言った通りだ。ヤブ助、お前は武器や道具を使っての戦いに向いていない。この場合、ガイが投石役をするのがベスト。」

それを理解したガイはヤブ助に言った。

「交代だ…」
「わかった…」

二人とも、疲労は既にピークに達している。しかし、それでもやらねばならない。

「『人間化猫化キャットマン』!!!」

ガイは自身の体をヤブ助と同じように、半猫人化させた。暗闇で視野を広げる為だ。
この半猫人化、人間のフォルム・サイズのまま、猫の身体能力をある程度引き継ぐ事ができる為、とても使い勝手が良いように思える。しかし、一つだけ大きな弱点がある。それは手先だ。猫は人間のように器用に物を扱えない。つまり、半分は猫化している為、武器の扱いが難しいのだ。投石も勿論、人間時に比べて精度はかなり落ちる。
しかし、そこはガイだ。ガイは道着の帯で投石器、スリングと呼ばれる武器を作り、投石の威力・精度を補った。それを見た猪頭は感心した。

「ほう。それは良い。さすが、機転が効くな。だが…」

その時、秀頼はヤブ助の攻撃を回避しつつ、ガイの投石を手でキャッチした。そして、その石をガイに向けて放った。

「ふがッ…!!!」
「詰めが甘い。」

石はガイの顔面に命中し、ガイは地面に倒れた。

「遠距離=安全地帯ではない。油断はするな。」
「ガイッ…!」

次の瞬間、そんなガイに気を取られたヤブ助の顎に、秀頼の右膝が襲う。

「ぬがッ!!!」

ヤブ助は大きく背後に蹴り飛ばされた。ヤブ助は脳震盪を起こし、立てない。そこにすかさず、秀頼は踵を振り下ろした。

「ヤブ助ッ!!!」

ガイは倒れたヤブ助に駆け寄り、秀頼の踵を腕でガードした。

「くッ…!」

ガイの両腕の骨が軋む。

「(なんて力だ…!こっちはPSI纏ってんだぞ…!)」

踵を防がれた秀頼はガイとヤブ助から飛び退き、距離を取る。一方、ガイは現状を整理していた。

「(ヤブ助は…しばらくは立てない。それに、首輪爆発まで時間が無い…)」

爆破まであと八分。ガイは戦いながらもカウントを数えていた。

「(今、完全に猫化すれば、首輪は外せる。けど、そこから更に人間に戻って、ヤブ助を抱えて逃げるだけの余裕を、秀頼コイツが与えてくれるとは思えない。それに何より、俺の気が治らない…!)」

ガイは立ち上がった。

「(この女を殺す…!いや、殺すだけじゃ面白くない……泣かしてやるッ…!)」

闘志を燃やすガイ。そんなガイに向かって、秀頼は言い放った。

「どうした?殴られに来ないのか?それとも殴りに来て欲しいのか?」

次の瞬間、ガイは秀頼に向かって走り出した。

「このドSゴリラがァァァァアッ!!!」

その時、ガイは足元の泥を蹴り上げ、猪頭妹に目眩しをした。しかし、これは前にヤブ助が使った技。秀頼には、同じ類の技は二度効かない。
秀頼はガイの真横に回り、泥を回避した。

「ペットは飼い主に似るものだな。」

すると、そう言い放った秀頼の目の前に、白く大きな布が現れ、秀頼の視界を遮った。

「(道着…)」

そう。コレはガイの道着。ガイの二重の目眩しだ。

「うぉぉぉらぁぁぁぁあッ!!!!!」

ガイは広げた道着に向かって拳を放った。道着ごと、秀頼の顔面を殴るつもりだ。しかし、それはあっけなく防がれた。

「なッ…⁈」

猪頭妹はガイの拳を掴んでいたのだ。それができたのは、秀頼の常人ならざる動体視力と反応速度ゆえ。ガイが放った拳、その道着の膨らみ。それを瞬時に見抜き、秀頼はガイの攻撃を防いだのだ。

「今のはまあまあだ。」

次の瞬間、ガイの顔面に秀頼の拳が直撃する。威力は十分。ガイの意識を奪うには十分過ぎる程のパンチだ。

「ほう…」

しかし、ガイは倒れなかった。それどころか、ガイは秀頼に反撃を繰り出す。

「(まだだッ…!まだ諦めるなッ…!手はある…!必ず…!それを見つけろッ…!)」

ガイは何度も何度も秀頼に拳を当てられた。顔、腹、顎、脇。しかし、ガイは立っている。そして、秀頼の攻撃・回避・防御、全ての動作を瞬きせずに観察する。

「(今の俺じゃ秀頼コイツに勝てない…それなら今ッ…!ここで勝てる技術を得るッ…!理解しろッ!コイツの動き全てをッ!)」

すると、秀頼の攻撃が徐々に防がれるようになってきた。それに、秀頼も気づいた。

「(……私の動きを読み始めた……いや、この動きは…⁈)」

秀頼は驚いた。何故なら、今、ガイが行なっている攻撃や防御、回避は全て、自分のものそっくりだったからだ。

「(模倣マネしているのか⁈私を⁈)」

しかし、それがただの模倣マネではない事に、秀頼は気づいた。

「(模倣マネじゃない…!これはもはや…私自身…!)」

その時、ガイと秀頼の格闘技量が拮抗きっこうした。そして、ガイは自分の真の能力に気づいた。

「(そうか…これが、本質……)」

その時、ガイの頭の中に再び、見知らぬ記憶がフラッシュバックした。

〈あふたーぐろう、ってのはどうかな?〉

ガイは理解した。コレが、そうなんだと。
その時、ガイは秀頼の目の前で指パッチンを放った。しかし、それはただの指パッチンではない。
次の瞬間、ガイの指パッチンから放たれた強烈な爆音が、秀頼の体を一瞬麻痺させる。

「ッ!!!?!?!??!!!」

そう。コレは『Zoo』の殺し屋、ホールドの技。ガイは模倣マネたのだ。彼の技を。

「ぐッ……!!!」

しかし、それはホールドの強靭な肉体を持ってして初めて出来る芸当。普通の人間がそんな事をすればどうなるか。予想通り、ガイの右手親指と中指の骨は完全に砕け、右腕の筋肉も断裂した。
だが、技は成功した。秀頼は完全に麻痺している。今しかない。

「うるあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!!!」

ガイは秀頼の顔面を思い切り殴った。

「ぬがぁぁあッ!!!」

秀頼は背後へ大きく殴り飛ばされた。

「やった……ッ!」

ガイは息を切らしながらも、喜びの表情を浮かべている。

「コレが俺の、『模倣コピル』の本質……『模倣 コピルAGアフターグロウ』…!」

ガイは新しい力を手に入れた。
しかし、喜ぶのも束の間、ガイは意識を失い、その場に倒れた。
するとその時、ガイに殴り飛ばされた秀頼が起き上がり、ガイに近づいた。

「まったく…女の顔を本気で殴るとは…」

秀頼は満足げに眠るガイの顔を見た。

「…陽道が摘んでおきたくなる理由もわかるよ…」

その時、猪頭妹は予備の首輪の鍵を取り出し、ガイの首輪を外した。どうやら、『鍵は一個しかない』というのは嘘だったみたいだ。

「育て甲斐がある…!」

秀頼もガイに負けじと満足げな表情を浮かべていた。
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