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第2章『ガイ-過去編-』
第89障『反撃開始』
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【3月10日、夜、戸楽市、廃工場前にて…】
ガイとヤブ助が秀頼の弟子になってから約三ヶ月後。かつてガイを襲った『Zoo』の殺し屋、ホールドはとある廃工場へとやってきた。
「…」
ホールドは辺りを警戒しながら、屋内へと入っていく。
【廃工場屋内にて…】
屋内へと入ってきたホールドの前には、帽子とマスクを付けた茶髪ロングの可憐な少女が立っていた。ホールドはその少女に話しかける。
「お前か?俺に依頼したのは。」
少女はこくりと頷く。どうやら、この少女が依頼主のようだ。
それを知ったホールドはあまり良くないといった表情をし、少女に尋ねた。
「お前さん、歳はいくつだ。」
「ナンパですか?」
少女の態度に呆れたような顔をしながらも、ホールドは話を続ける。
「俺もあまりとやかく言うつもりはない。『Zoo』と連絡を取れたというだけでも、お前が特別なのはわかる。しかし、お前のような子供が殺しの依頼なんて……」
すると、少女はクスクスと笑い始めた。
「何がおかしい…?」
「別に。子供に優しいんだなって思っただけです。」
それを聞いたホールドは目線を下に向けた。
「ガキはまだ、思慮分別というものがわかっていない。そんな世間知らずに、殺しを依頼されたくないだけだ。勿論、殺すのもな。そうだ。俺はただ、ガキが嫌いなだけだ。」
すると、少女は笑みを浮かべ、こう言った。
「大丈夫ですよ。誰かを殺して欲しいなんて依頼、するつもりありませんから。」
「なに…?」
ホールドはそれを聞き、首を傾げた。『Zoo』は暗殺組織。殺しの依頼以外で仕事は来ないはず。
「どういう事だ…?」
「私の依頼はただ一つ……」
次の瞬間、少女は懐から拳銃を取り出し、ホールドに向けて発砲した。
「さっさと死にやがれッ!クズ野郎ッ!」
ホールドは床に倒れ込む。一方、少女は帽子とマスクを脱ぎ捨て、頭部に弾丸を打ち込まれたホールドに向かって叫んだ。
「立てよおらぁ!テメェら『Zoo』がこんぐらいで死なない事は知ってんだ!」
「……」
すると、少女の言う通り、ホールドは易々と立ち上がった。そして、無傷だ。
「バケモンがッ…!」
少女はホールドのとあるものを見て、眉を顰めながらそう言った。とあるものとは、ホールドの右目に止まった弾丸。
なんと、ホールドはまばたきで弾丸を受け止めたのだ。しかも、止められた弾丸はペシャンコに潰されている。
そして、ホールドはその弾丸を床に捨て、少女に言った。
「お前、障坂ガイだな。」
そう。少女の正体は、女装、いや、変装したガイだったのだ。
「似合ってるぞ、それ。」
「知ってる。ありがとう。良い冥土の土産になったのなら早く死ね。殺すから。」
ガイは茶髪ロングのカツラを外した。
「復讐か。」
「あぁ。わかってるなら話は早いな。」
すると、ガイは武器である拳銃を投げ捨て、構えた。それを見て、ホールドはガイに問う。
「使わんのか…?」
「お前に無意味だろ。こんなオモチャ。」
ガイの言葉通り、『Zoo』の殺し屋に拳銃などほぼ無意味。しかし、ホールドはその行動を怪しんだ。武器を自ら捨てるという、あまりに愚かな行為に。そして、辺りの気配を探る。
「(周りには誰もいない。相当な使い手が潜んでいるか、あるいは…)」
ガイは正真正銘、真っ向勝負の一対一を望んでいたのだ。そんなガイは怪しむホールドに言った。
「ウチの師匠、ちょっと…いや、めちゃくちゃ鬼畜でさ。コレも修行の一つらしい。素手でお前に勝つ。そうしないと俺、師匠に殺されるから。それに俺も…」
その時、ガイはホールドに向かって走り出した。
「お前を完膚無きまでにぶっ殺したいからッ!!!」
【ガイの回想…】
数日前、修行を終えたガイとヤブ助は、秀頼に連れられて、有野たちが匿われている猪頭邸へとやってきた。そこでは、ガイとヤブ助、そして、氷室と堺は秀頼の話を聞いていた。どうやら、有野と友田、他の園の子ども達は話し合いには参加していないようだ。
「数日の内、白鳥組が外の世界へ出発する情報が入った。それまでに、私たちは陽道を殺す。だが、それが簡単ではない事は周知の事実。だから先ず、奴の周りから崩していく。」
秀頼は一枚の写真をガイ達に見せた。それにはホールドの姿が。
「コードネーム、ホールド。『Zoo』の殺し屋だ。どうやら、奴らは陽道のボディーガードとして雇われているようだ。」
その時、氷室が秀頼に質問した。
「殺し屋なのにボディーガードですか?」
「私もまさかとは思った。あの『Zoo』を長期間雇用なんて…だが、事実だ。それ程までに、敵の力は強大だという事。抜かるなよ、お前たち。」
その時、ガイは手を挙げた。
「それで、そのホールドの写真を出した理由は何ですか。」
「あぁ。そうだった。その話だ。この陽道を守る殺し屋達、雇用の身ではあるが依頼の受付はしているようでな。」
それを聞くと、ガイは納得した。
「なるほど。依頼と偽り奴等を呼んで、一人ずつ始末する。ついでに、陽道や他の仲間の能力も聞き出せる。」
「そういう事だ。そして、この男を一番に選んだ理由は…」
【現在…】
ガイはホールドに近距離戦を仕掛けた。ホールドはそれらの攻撃をいなしながら、思考する。
「(以前より攻撃が鋭い。この三ヶ月、ただ隠れていただけではないようだな。だが…!)」
次の瞬間、ホールドはガイに反撃した。すると、ホールドの拳はガイの顔面に直撃した。
「あがッ…!」
ガイはホールドから距離を取った。そんなガイにホールドはこう言う。
「まだまだ付け焼き刃だな。」
ガイは鼻血を拭き、ホールドを睨みつける。ホールドは話を続けた。
「お前一人の実力では、『Zoo』は殺せない。しかも、お前のタレントが相手のタレントをコピーする能力だとすれば尚更。俺達はノーマルだ。お前のコピーは無意味。PSIによる肉体的強化があれど、たかがその程度。」
【ガイの回想…】
先程の回想の続き。秀頼はガイにホールドを一番最初の標的にした理由を話している。
「この男を一番に選んだ理由は、圧倒的武力だ。」
「圧倒的武力?」
「あぁ。基本的な身体能力や格闘技術だけで言えば、敵の中でホールドが抜きん出ている。だからこそ、お前が戦う必要がある。それを奪う為に。」
【現在…】
ガイはホールドとの距離を保ちつつ、構えを取り、思考する。
「(コイツは未だ、自身の格闘術を使ってはいない。俺の戦闘レベルの低さが、奴の実力を引き出せていないからだ。コレが『Zoo』の実力…)」
ガイは深呼吸をした。
「(だったら、引き出してやるよ。俺なんかの付け焼き刃じゃない、ホンモノで…)」
その時、ガイの雰囲気が変わった。それをホールドも理解した。
「(空気が変わった…)」
ガイは先程までとは違う構えをとった。それを見るなり、ホールドは自身の目を疑った。
「誰…だ…⁈」
目の前に居るのは間違い無く障坂ガイだ。しかし、その異様な雰囲気と完熟しきったその構えを見たホールドは、まるでガイが別人になったかのように思えたのだ。
「(数ヶ月訓練を積んだ程度では、この構えはできない。この俺が、美しいとさえ思ってしまった。まるで芸術作品。時価数億で取引される程の崇高さ。ただの模倣では絶対に辿り着けない武の頂が、今、彼処にある…)」
ガイのこの構えは師である猪頭妹のもの。ガイは自身の格闘技量ではホールドに勝てないと見込み、秀頼の格闘術を模倣したのだ。
次の瞬間、ガイはホールドに向かって走り出した。
「(来るッ…!)」
この時、ホールドは初めて真剣に構えをとった。コレが、ホールドの全力の姿勢。
ガイはホールドに拳を繰り出す。だが、全力のホールドにその拳は届かない。しかし、当たらずとも遠からず。拳は確実にホールドの実力を引き出すに申し分ない技量。フェイント、連撃、狙い目からタイミング、それら全てがホールドの精神を削る。
「ッ‼︎」
しかし、さすがはホールド。心の消耗をいとも容易く打ち破り、ガイの繰り出した右拳を掴んだ。
まずい。アレが来る。数秒後には、ガイの右拳は紙粘土のように握りつぶされてしまうだろう。どうにかして、一刻も早くホールドの腕を振り払わなければ。
「ッ!!!」
しかし次の瞬間、ガイはあろう事か自らその右拳を開き、ホールドの掌を掴んだ。
これにはホールドも驚いた。まさか、力比べをしようというのか。しかし、ホールドの握力に敵うものなどいるはずがない。それはホールドが一番よく知っている。天賦の才と絶え間ない修行によって身につけた剛力。模倣しようにも出来るものではない。
「握殺ッ!!!」
ホールドは拳に力を入れ、ガイの右手を潰そうとした。その刹那、ガイは叫んだ。
「握殺ッ!!!」
次の瞬間、握り合っていたガイの右掌とホールドの左掌が、まるで破裂するかのように弾け飛んだ。
「なッ…⁈」
ホールドは大きく背後に飛び退き、ガイから距離を取った。そして同時に、ホールドは確信した。
「何故…お前がそれを扱えるッ…!それは、俺の技だッ…!」
ガイはホールドの『握殺』をコピーしたのだ。しかし、ホールドの『握殺』は肉体的な技。タレントではない。
「どういう事だッ!お前はタレント以外、コピーできないはずじゃ…!」
ガイは弾け飛んだ右腕を押さえ、激痛を感じながらもニヤリと微笑んだ。
「どうやら、本質は別にあるみたいなんだわ…!」
そう。コレこそが、ガイのタレントの真の力。『模倣』の本質。『模倣 AG』だ。
説明しよう!
タレントとは本来、発現時に効果や発動条件などが『なんとなく』で頭によぎる。しかし、あくまでそれは『なんとなく』。何故そんな効果があるのか。どのようにして効果が成されるのか。それを理解した時、タレントの真の力が引き出される。それが『AG』。タレントの本質である。
そして、『模倣 AG』は、タレント以外の技や身体能力をも完璧にコピーする事が出来る。しかも、タレントコピー時とは違って、近くに被コピー体が居なくとも、自由に使う事が出来るのだ。
「お前の技も大体理解した。もういつでもコピーできる。」
ガイは服で右腕を縛り、止血しながらホールドの元へ歩く。
「そろそろ終わらせるぞ。ホールド。」
ガイとヤブ助が秀頼の弟子になってから約三ヶ月後。かつてガイを襲った『Zoo』の殺し屋、ホールドはとある廃工場へとやってきた。
「…」
ホールドは辺りを警戒しながら、屋内へと入っていく。
【廃工場屋内にて…】
屋内へと入ってきたホールドの前には、帽子とマスクを付けた茶髪ロングの可憐な少女が立っていた。ホールドはその少女に話しかける。
「お前か?俺に依頼したのは。」
少女はこくりと頷く。どうやら、この少女が依頼主のようだ。
それを知ったホールドはあまり良くないといった表情をし、少女に尋ねた。
「お前さん、歳はいくつだ。」
「ナンパですか?」
少女の態度に呆れたような顔をしながらも、ホールドは話を続ける。
「俺もあまりとやかく言うつもりはない。『Zoo』と連絡を取れたというだけでも、お前が特別なのはわかる。しかし、お前のような子供が殺しの依頼なんて……」
すると、少女はクスクスと笑い始めた。
「何がおかしい…?」
「別に。子供に優しいんだなって思っただけです。」
それを聞いたホールドは目線を下に向けた。
「ガキはまだ、思慮分別というものがわかっていない。そんな世間知らずに、殺しを依頼されたくないだけだ。勿論、殺すのもな。そうだ。俺はただ、ガキが嫌いなだけだ。」
すると、少女は笑みを浮かべ、こう言った。
「大丈夫ですよ。誰かを殺して欲しいなんて依頼、するつもりありませんから。」
「なに…?」
ホールドはそれを聞き、首を傾げた。『Zoo』は暗殺組織。殺しの依頼以外で仕事は来ないはず。
「どういう事だ…?」
「私の依頼はただ一つ……」
次の瞬間、少女は懐から拳銃を取り出し、ホールドに向けて発砲した。
「さっさと死にやがれッ!クズ野郎ッ!」
ホールドは床に倒れ込む。一方、少女は帽子とマスクを脱ぎ捨て、頭部に弾丸を打ち込まれたホールドに向かって叫んだ。
「立てよおらぁ!テメェら『Zoo』がこんぐらいで死なない事は知ってんだ!」
「……」
すると、少女の言う通り、ホールドは易々と立ち上がった。そして、無傷だ。
「バケモンがッ…!」
少女はホールドのとあるものを見て、眉を顰めながらそう言った。とあるものとは、ホールドの右目に止まった弾丸。
なんと、ホールドはまばたきで弾丸を受け止めたのだ。しかも、止められた弾丸はペシャンコに潰されている。
そして、ホールドはその弾丸を床に捨て、少女に言った。
「お前、障坂ガイだな。」
そう。少女の正体は、女装、いや、変装したガイだったのだ。
「似合ってるぞ、それ。」
「知ってる。ありがとう。良い冥土の土産になったのなら早く死ね。殺すから。」
ガイは茶髪ロングのカツラを外した。
「復讐か。」
「あぁ。わかってるなら話は早いな。」
すると、ガイは武器である拳銃を投げ捨て、構えた。それを見て、ホールドはガイに問う。
「使わんのか…?」
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ガイの言葉通り、『Zoo』の殺し屋に拳銃などほぼ無意味。しかし、ホールドはその行動を怪しんだ。武器を自ら捨てるという、あまりに愚かな行為に。そして、辺りの気配を探る。
「(周りには誰もいない。相当な使い手が潜んでいるか、あるいは…)」
ガイは正真正銘、真っ向勝負の一対一を望んでいたのだ。そんなガイは怪しむホールドに言った。
「ウチの師匠、ちょっと…いや、めちゃくちゃ鬼畜でさ。コレも修行の一つらしい。素手でお前に勝つ。そうしないと俺、師匠に殺されるから。それに俺も…」
その時、ガイはホールドに向かって走り出した。
「お前を完膚無きまでにぶっ殺したいからッ!!!」
【ガイの回想…】
数日前、修行を終えたガイとヤブ助は、秀頼に連れられて、有野たちが匿われている猪頭邸へとやってきた。そこでは、ガイとヤブ助、そして、氷室と堺は秀頼の話を聞いていた。どうやら、有野と友田、他の園の子ども達は話し合いには参加していないようだ。
「数日の内、白鳥組が外の世界へ出発する情報が入った。それまでに、私たちは陽道を殺す。だが、それが簡単ではない事は周知の事実。だから先ず、奴の周りから崩していく。」
秀頼は一枚の写真をガイ達に見せた。それにはホールドの姿が。
「コードネーム、ホールド。『Zoo』の殺し屋だ。どうやら、奴らは陽道のボディーガードとして雇われているようだ。」
その時、氷室が秀頼に質問した。
「殺し屋なのにボディーガードですか?」
「私もまさかとは思った。あの『Zoo』を長期間雇用なんて…だが、事実だ。それ程までに、敵の力は強大だという事。抜かるなよ、お前たち。」
その時、ガイは手を挙げた。
「それで、そのホールドの写真を出した理由は何ですか。」
「あぁ。そうだった。その話だ。この陽道を守る殺し屋達、雇用の身ではあるが依頼の受付はしているようでな。」
それを聞くと、ガイは納得した。
「なるほど。依頼と偽り奴等を呼んで、一人ずつ始末する。ついでに、陽道や他の仲間の能力も聞き出せる。」
「そういう事だ。そして、この男を一番に選んだ理由は…」
【現在…】
ガイはホールドに近距離戦を仕掛けた。ホールドはそれらの攻撃をいなしながら、思考する。
「(以前より攻撃が鋭い。この三ヶ月、ただ隠れていただけではないようだな。だが…!)」
次の瞬間、ホールドはガイに反撃した。すると、ホールドの拳はガイの顔面に直撃した。
「あがッ…!」
ガイはホールドから距離を取った。そんなガイにホールドはこう言う。
「まだまだ付け焼き刃だな。」
ガイは鼻血を拭き、ホールドを睨みつける。ホールドは話を続けた。
「お前一人の実力では、『Zoo』は殺せない。しかも、お前のタレントが相手のタレントをコピーする能力だとすれば尚更。俺達はノーマルだ。お前のコピーは無意味。PSIによる肉体的強化があれど、たかがその程度。」
【ガイの回想…】
先程の回想の続き。秀頼はガイにホールドを一番最初の標的にした理由を話している。
「この男を一番に選んだ理由は、圧倒的武力だ。」
「圧倒的武力?」
「あぁ。基本的な身体能力や格闘技術だけで言えば、敵の中でホールドが抜きん出ている。だからこそ、お前が戦う必要がある。それを奪う為に。」
【現在…】
ガイはホールドとの距離を保ちつつ、構えを取り、思考する。
「(コイツは未だ、自身の格闘術を使ってはいない。俺の戦闘レベルの低さが、奴の実力を引き出せていないからだ。コレが『Zoo』の実力…)」
ガイは深呼吸をした。
「(だったら、引き出してやるよ。俺なんかの付け焼き刃じゃない、ホンモノで…)」
その時、ガイの雰囲気が変わった。それをホールドも理解した。
「(空気が変わった…)」
ガイは先程までとは違う構えをとった。それを見るなり、ホールドは自身の目を疑った。
「誰…だ…⁈」
目の前に居るのは間違い無く障坂ガイだ。しかし、その異様な雰囲気と完熟しきったその構えを見たホールドは、まるでガイが別人になったかのように思えたのだ。
「(数ヶ月訓練を積んだ程度では、この構えはできない。この俺が、美しいとさえ思ってしまった。まるで芸術作品。時価数億で取引される程の崇高さ。ただの模倣では絶対に辿り着けない武の頂が、今、彼処にある…)」
ガイのこの構えは師である猪頭妹のもの。ガイは自身の格闘技量ではホールドに勝てないと見込み、秀頼の格闘術を模倣したのだ。
次の瞬間、ガイはホールドに向かって走り出した。
「(来るッ…!)」
この時、ホールドは初めて真剣に構えをとった。コレが、ホールドの全力の姿勢。
ガイはホールドに拳を繰り出す。だが、全力のホールドにその拳は届かない。しかし、当たらずとも遠からず。拳は確実にホールドの実力を引き出すに申し分ない技量。フェイント、連撃、狙い目からタイミング、それら全てがホールドの精神を削る。
「ッ‼︎」
しかし、さすがはホールド。心の消耗をいとも容易く打ち破り、ガイの繰り出した右拳を掴んだ。
まずい。アレが来る。数秒後には、ガイの右拳は紙粘土のように握りつぶされてしまうだろう。どうにかして、一刻も早くホールドの腕を振り払わなければ。
「ッ!!!」
しかし次の瞬間、ガイはあろう事か自らその右拳を開き、ホールドの掌を掴んだ。
これにはホールドも驚いた。まさか、力比べをしようというのか。しかし、ホールドの握力に敵うものなどいるはずがない。それはホールドが一番よく知っている。天賦の才と絶え間ない修行によって身につけた剛力。模倣しようにも出来るものではない。
「握殺ッ!!!」
ホールドは拳に力を入れ、ガイの右手を潰そうとした。その刹那、ガイは叫んだ。
「握殺ッ!!!」
次の瞬間、握り合っていたガイの右掌とホールドの左掌が、まるで破裂するかのように弾け飛んだ。
「なッ…⁈」
ホールドは大きく背後に飛び退き、ガイから距離を取った。そして同時に、ホールドは確信した。
「何故…お前がそれを扱えるッ…!それは、俺の技だッ…!」
ガイはホールドの『握殺』をコピーしたのだ。しかし、ホールドの『握殺』は肉体的な技。タレントではない。
「どういう事だッ!お前はタレント以外、コピーできないはずじゃ…!」
ガイは弾け飛んだ右腕を押さえ、激痛を感じながらもニヤリと微笑んだ。
「どうやら、本質は別にあるみたいなんだわ…!」
そう。コレこそが、ガイのタレントの真の力。『模倣』の本質。『模倣 AG』だ。
説明しよう!
タレントとは本来、発現時に効果や発動条件などが『なんとなく』で頭によぎる。しかし、あくまでそれは『なんとなく』。何故そんな効果があるのか。どのようにして効果が成されるのか。それを理解した時、タレントの真の力が引き出される。それが『AG』。タレントの本質である。
そして、『模倣 AG』は、タレント以外の技や身体能力をも完璧にコピーする事が出来る。しかも、タレントコピー時とは違って、近くに被コピー体が居なくとも、自由に使う事が出来るのだ。
「お前の技も大体理解した。もういつでもコピーできる。」
ガイは服で右腕を縛り、止血しながらホールドの元へ歩く。
「そろそろ終わらせるぞ。ホールド。」
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