障王

泉出康一

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第2章『ガイ-過去編-』

第108障『超便利キッチンペーパー』

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【4月1日、深夜3時、潜水艦内にて…】

操縦室一つ手前の部屋には、ガイ,ヤブ助,氷室,桜田,角野,不知火,裏日戸,陣野,気絶した二名の潜水艦整備士。そして、艦壁の隙間に潜む『Zoo』の殺し屋ソフト。また、潜水艦の外側の壁に張り付くは、同じく『Zoo』の殺し屋ブレス。
桜田は辺りを見渡し作戦を考える。

「(この密室された艦内じゃ僕の声洗脳は諸刃の剣。不知火の火炎も同じだ。日光が届かないから裏日戸のタレントも…それに、奴らは僕たちのタレントを把握している。奴らに限って下手なミスは踏まないだろう。)」

桜田はガイを見た。

「(勝利の鍵を握るのは間違いなく彼。まさか奴らもガイ君がまだ生きているとは思ってもいないはず。それに今、彼の容姿は佐藤武夫。だから敵はガイ君を優先的に狙ったんだ。整備士の次はタレントが不明の敵。そう思ったんだろう。)」

その時、再びブレスのトンツーが聞こえ始めた。同時に、桜田は叫んだ。

「葉湖!来るぞ!」

桜田はモールス信号を知っている。それ故、桜田は敵が誰を狙っているかがわかるのだ。
桜田の宣言通り、角野の背後の壁からソフトが現れ、腕を鞭のようにしならせ、角野の首を狙う。

「『角箱ボックス』!!!」

速すぎるソフトの攻撃を回避できないと悟った角野は、自身の背後に鉄の箱を創造し、ソフトの攻撃を防いだ。攻撃を防がれたソフトは再び壁の隙間へと身を潜める。

「(こんなの…いつまでも防げない…!)」

攻撃をなんとか防ぐ事ができた角野。しかし、それを続けるのは困難であり、角野以外もそれを理解していた。早くこの状況を打開せねば。
しかし、ブレスのトンツーが始まる。ガイ達に考える暇を与えないようだ。

「土狛江!今度は君の…」

桜田が敵の次の標的を叫んだその時、陣野が桜田を突き飛ばした。瞬間、陣野の胸にソフトの腕が突き刺さる。

「陣野さん…⁈」

その時、桜田は敵の罠にハマった事を理解した。

「(和文…!)」

モールス信号には和文と欧文の二種類がある。ブレスは今まで欧文モールス信号でソフトに敵の位置を知らせていた。しかし、今回は違う。ブレスは桜田を欺く為、和文モールス信号でソフトに指示を出していたのだ。そして、その標的は桜田。欧文では土狛江のいる位置を示し、和文では桜田を示す。だから、桜田は騙されたのだ。おそらく、ソフトとブレスは事前に決めていたのであろう。欧文よりも和文を優先しろと。
しかし、陣野はそれに気づいていた。潜水艦の操縦が可能な彼もまた、モールス信号を覚えていたのだ。

「あ…ぁ……」

床に仰向けに倒れた陣野は貫かれた胸を押さえる。しかし、溢れ出る血の勢いは激しく、到底止められるものではなかった。氷室がすぐに駆け寄り、治療を始めようとしたその時、またもやブレスのトンツーが始まった。

「(まずい…来るッ…!)」

桜田がそう思った瞬間、土狛江が声を上げた。

「足元だ!桜田!」

土狛江に言われるがままその場を飛び退いた桜田。すると次の瞬間、土狛江の発言通りに攻撃が来た。

「もう大丈夫。この艦内の隙間全域に土が行き届いた。奴の動きは俺の土を通して全部わかる。」

それを聞いた瞬間、ガイはPSIを身に纏い、土狛江に尋ねた。

「奴は今どこに?」

土狛江は壁を指差す。どうやら壁の中を移動しているようで、土狛江は腕を動かしソフトの位置を示している。

「そのままで。」

ガイは土狛江に位置特定を指示した。すると次の瞬間、なんとガイは自身の右腕の骨を折った。

「ぐッ…‼︎」

皆、ガイの行動の意味がわからず困惑する。しかし、ガイは痛みを堪えながら、右腕を殴り続け、骨を粉砕した。

「ハァ…!ハァ…!」

次の瞬間、ガイはソフトが潜んでいるあろう場所に飛び出し、折れた右腕を壁に押し込む。

「『模倣コピルAGアフターグロウ』!!!」

すると、ガイの折れた右腕は壁の中へニュルニュルと入り込んだ。そう。ガイはソフトの超軟体をコピーしたのだ。骨を折ったのは、少しでもソフトの特異体質に近づけ、より正確に奴の特技をコピーを可能にする為。
数秒後、ガイは壁から手を抜いた。

「逃げられたッ…!」

ガイの右手には大量の血がついている。しかし、それはガイのものではなくソフトの血液だ。どうやらガイはソフトへの攻撃は成功したものの、仕留めるまではいかなかったようだ。

「陣野さん!」

桜田は自身を庇ってダメージを負った陣野の名前を呼ぶ。氷室がタレントで治療をしているが、陣野には意識が無い。

「大丈夫。生きてます。ただ血が出過ぎちゃったみたいで俺のタレントじゃ…」

氷室のタレントは肉を創造する能力。血の生成まではできないのだ。
その時、土狛江は焦った表情でこう叫んだ。

「ヤバい!アイツ、燃料タンクの方へ向かったぞ!」

どうやらソフトはこれ以上ガイ達を襲うのは危険だと判断し、潜水艦の燃料タンクの破壊へと向かったようだ。
燃料タンクの破壊、もとい、潜水艦自体の破壊は少なからずソフト自身にも危険が及ぶ。故に直接的なガイ達の始末を優先した。しかし今、潜水艦内には滞りなく土狛江の土が散布された。コレでは逆に自分がやられてしまう。そう判断したソフトは潜水艦の破壊を選んだのだ。

「土狛江!お前の土でなんとかできないのか⁈」
「無理だ…隙間に入る程度の微少量の土じゃ人間の動きは止められない…!」

裏日戸の問いかけに土狛江は諦めたように語る。

「(どうすれば…)」

桜田が思考を巡らしているその時、ガイはこう言った。

「考えがある。」

【数分後、潜水艦外にて…】

ブレスが潜水艦外の壁に張り付いている。ブレスは潜水艦に耳を当て、中の様子を伺っていた。

「(何も聞こえない…)」

ブレスは首を傾げ、窓から潜水艦内を覗く。潜水艦の中にはガイ達の死体が横たわっていた。
するとその時、潜水艦内からソフトがニュルニュルと出てきた。

「(終わったのかあ…?)」

ブレスがソフトにハンドサインを送る。しかし、ソフトは無反応だ。ブレスはやれやれといった感じで口を開けた

「(ほらあ…終わったのなら帰るぞお…)」

すると、ソフトはブレスの口の中へと入っていった。どうやら、ソフトはブレスの体内に潜伏してここまでやって来たようだ。
ブレスは体内にソフトを入れたまま、潜水艦を離れ、ゴルデンの方向へと泳ぎ始める。

「(帰ったら何しよおかなあ…)」

ブレスは家へ着いた後の事を考えていた。

「(そおだ…キッチンペーパー無くなったから買わないとお…)」

その時、ブレスは腹の奥に鋭い痛みを感じた。

「(お、おい…!動くなあ…!痛いじゃんあああ…!)」

ブレスは自身の腹を叩き、トンツーで体内にいるソフトに静止を求める。しかし、ソフトの動きは止まるどころか、激しくなる一方。

「(やめろおッ‼︎あばれるなあぁあッ‼︎)」

次の瞬間、ソフトは内側からブレスの腹を抉り裂いた。

「ゴはぁぁあァァあアアッ‼︎」

もがき苦しむブレス。ソフトはブレスの体内から出てきた。

「(えっ……)」

ブレスの体内から出てきたソフトは目を見開いた。

「(ココは…海……?俺は何を……)」

その時、ソフトは大量の海水を吸ってしまった。

「がはッ…‼︎」

ソフトは溺れパニックに陥る最中、あるものを見た。それは腹を裂かれ死にゆくブレス。

「(そうか…あの声に……俺………は……)」

【潜水艦内にて…】

ガイ達全員の死体が艦内に横たわる。その時、腹部を貫かれ、大量の血を流すガイが目を開けた。

「ゴホッ‼︎ゴホッ‼︎」

次の瞬間、ガイは『理解アスタ』で保存した氷室のタレントで傷を治した。

「ハァ…ハァ…ハァ…」

ガイは起き上がり、ヤブ助の死体の前に座った。そして次の瞬間、ガイはヤブ助の顔の肉を抉り取った。すると、その肉の下からは巨大な石が現れた。その石はヤブ助の形をしている。

「慣れないな。痛いのって。」

そう。この死体はカモフラージュ。陣野のタレントで皆を石化させ、その上に氷室のタレントで肉を付け、次第に偽装させたのだ。しかし、死体を偽装するだけなら、氷室のタレントだけで構わないはず。いや、皆を石化させたのには別の理由があった。それはソフトの洗脳。桜田のタレントでソフトを命令したのだ。

〈外にいる人間を殺せ。〉

しかし、ココは潜水艦内。声での洗脳は、密閉されたこの空間では響き、耳を塞いでも聞こえてしまう。つまり、仲間まで洗脳されてしまう恐れがある。だから石化したのだ。洗脳の声が仲間には聞こえず、ソフトにだけ聞こえるように。そして、それらを実行可能なのはガイだけ。ガイの『理解アスタ』なら、他人のタレントを保存し、石化・偽装・洗脳の全てを一人で実行できる。ガイは皆を石化した後、自身の鼓膜を破り、洗脳音を艦内に流し、その後、外のブレスに怪しまれぬよう石像に肉付けして死体に偽装し、自身の腹を貫いて死んだフリをしたのだ。

「『靴操ブッシュ』消えちゃったな…」

ガイの『理解アスタ』には今、『飛翼フライド』『火炎PSIフレイム』『現代のオーパーツバイオクラフト』『青面石化談話ノーグッドパーティ』『誤謬通信ブラックコネクター』が順に保存されている。
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