障王

泉出康一

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第2章『ガイ-過去編-』

第116障『お前がトップで死ナせテクレよ』

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【4月1日、18:55、フリージア王国、城下町、港、倉庫街にて…】

四肢を切断され、頭部に重傷を負い、地面に倒れる桜田。その側には大きめの鉄パイプが腹に貫通し、桜田同様に地面に倒れる角野。数メートル離れた所では、全身に剣が突き刺さった、魔物化した出口の姿が。

「お前がトップで死ナせテクレよッ!!!」

出口はそう叫んだ。彼が桜田を助けた理由もそれであろう。出口にとって桜田は最強でなくてはならない。彼が一善に殺されるなど、今まで桜田を超える事だけを生き甲斐に生きてきた出口にとっては、これほど無念な事はないのだ。

「哲…也……」

桜田は出口を見て涙ぐむ。自身を助けてくれた。誇りを取り戻させてくれた。そして何より、戦う気力をもう一度与えてくれた。薄れかけていた桜田の意識が覚醒する。

「終われるかッ…こんな…所で…ッ‼︎」

桜田のPSIが強まる。そう。覚醒したのは意識だけではなかったのだ。
その時、海に落とされた一善が舞い上がってきた。羽根を広げ、上空へと。

「出口哲也ァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!!」

一善は出口に裏切られた事により怒り心頭。一善は出口へと真っ直ぐ飛んだ。

「『殺輪眼機関銃ピストルアイ』!!!」

出口は飛んでくる一善に向かいPSI弾を乱射した。しかし、一善は上空を飛び回ってPSI弾を回避し、出口の間合いに入った。

「『濃く吐く磁刃乱れクールサイド』!!!」

次の瞬間、一善は持っていたスマホで電波を飛ばし、出口の首を切断した。

「かふッ…‼︎」

出口の首が地面に転がる。一善はその首を踏み潰すと怒りが少しおさまったのか、深呼吸を始める。

「とンだ邪魔ガ入っ……⁈」

その時、一善は目の端でとんでもないものを目にした。それは自身の両足で地面を立っている桜田の姿だ。

「オ前…何で…⁈」

一善はすぐにその理由を理解した。桜田の機械のような両手両足を見て。

「タレントの発現…‼︎」

そう。桜田はこの土壇場で第二のタレントが発現したのだ。そして、頭から大量の血を流す桜田の足元には金属片・プラスチック片がたくさん落ちていた。

「『組立パラクト』!!!」

すると、その金属片・プラスチック片は一人でに動き出し、とあるものの形を成した。それはスピーカーだった。

説明しよう!
桜田が発現した新たなタレント『組立パラクト』は、一瞬にして素材を完成品に組み立てる能力。今の場合、桜田は金属片やプラスチック片にタレントを使用して、スピーカーを組み立てたのだ。
タイプ:操作型

このタレントは完成品組み立ての為の素材パーツが必要。しかし、それは角野の『角箱ボックス』で解決する。『角箱ボックス』はありとあらゆる材質の箱を創造するタレント。木、金属、プラスチックなどありとあらゆる素材を。
桜田はスピーカーのスイッチを入れた。既に角野と桜田は耳栓の組立・装着済み。そう。攻撃が通用しない一善にはこうする他ない。いや、こうすれば一瞬で決着がつく。

「死ね。」

桜田は『誤謬通信ブラックコネクター』で死の言葉を発した。この言葉を聞くだけで、一善は即死する。しかし、一善はその声が耳に届く前に、電波で自身の両耳の鼓膜を破裂させた。

「(浄化コロスッ…‼︎)」

一善は桜田に猛スピードで飛んだ。地面スレスレの低空飛行で、桜田に真っ直ぐ。

「(今ノ俺なら5メートル…いや、6メートルまで電波ヲ操レルッ‼︎)」

一善は魔物化の影響でPSIが強まった。その為、タレントの射程範囲・操作性も必然的に向上した。彼から半径6メートル、それは即ち死の領域。その間合いに入ってしまえば、桜田は有無を言わさず体を解体されてしまうだろう。
桜田は飛んでくる一善から距離を取る為、後方へと走り出す。しかし、使い慣れぬ義足でいくら走った所で、身体強化された一善の飛行に敵うわけもない。

「(くそッ…‼︎あと少し…あそこまで辿り着けさえすればッ…)」

桜田はとある場所へと走っていた。しかし、今や桜田と一善との距離は10メートルをきった。桜田の目指す場所まではまだ距離がある。このペースでは、桜田はそこへ辿り着く前に体を解体されてしまう。
一善が死の領域に桜田を捉えた次の瞬間、低空飛行する一善の片腕・片翼が吹き飛んだ。片翼を失った一善は無様に地面に落下する。

「ヌグゴッ…‼︎」

一善を地に叩き落としたのは、首を切断され死んだと思われた出口だった。出口は首だけの状態で後頭部から生えた複腕と複眼を使い、『殺輪眼機関銃ピストルアイ』で一善にPSI弾を放ったのだ。
PSI弾は一善の片腕・片翼を吹き飛ばした後、大型船に直撃。船は無惨に爆発し、黒い煙を上げた。

「イチ…い……オ…ま……ぇ……」

執念。例え魔物化の影響で生命力が向上したとはいえ、首だけの状態でタレントを使う恐ろしい精神力。しかし、今のが正真正銘最後の力。出口はピクリとも動かなくなった。

「(くそ死ニ損ナいがッ…‼︎)」

一善は吹き飛んだ片腕・片翼の痛みを堪えてすぐさま立ち上がり、桜田に向かって走り出した。速い。しかし、桜田の目指す場所まではあともう少し。

「(あった…!)」

桜田が目指していたのは波止場、そこに落ちたプロジェクター。あの時は一善の電波妨害で遠隔操作ができずにやられてしまったが、今は違う。桜田はそれを直接操作するつもりだ。
次の瞬間、桜田の胸に野球ボールサイズの石が貫通した。

「がはッ…‼︎」

一善だ。追うよりも早し、と考えたのであろう。一善は落ちていた石を超スピードで桜田に投げつけたのだ。きっと一善は、地に足をつけなければ、この投石には気づかなかっただろう。不運にも、出口は片腕・片翼と引き換えに、一善に思考という選択を与えてしまったのだ。
桜田は倒れた。もう彼は立てない。いや、心臓を貫かれたのだ。もうじき彼は死ぬ。しかし、彼はやり遂げたのだ。彼の右義手人差し指に触れているもの。そう、プロジェクターのスイッチ。プロジェクターが起動したのだ。被投影物はおそらく、出口のPSI弾で爆破した船、そこから上がった黒煙。

「(コレハ…ッ⁈)」

一善はプロジェクターの存在に気づいた。しかし、時すでに遅し。目の前に立ち上る黒煙には既に文字が映し出されていた。その文字は勿論、あの言葉。

〈死ね〉

全てにおいて優先される脳機能停止の文字。一善はそれを目にしてしまった。

「えっ……」

しかし、一善は死ななかった。何故なら、それが文字だと認識できなかったからだ。
よく考えて欲しい。元々、この文字は白い霧に投影するつもりだった。つまり、表示される文字は黒色。今、被投影物は何か。そう。黒煙。黒に黒が被り、文字が見えなかった。だから一善は『誤謬通信ブラックコネクター』の影響を受けなかったのだ。

「ハ……ハハハッ…!アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!!」

それに気づいた一善は死の焦りを誤魔化すかのように、勝ち誇ったように声をあげて笑った。と同時に、プロジェクターを破壊した。

「『濃く吐く磁刃乱れクールサイド』!!!」

そして、一善は電波で桜田の首を切断した。桜田の鼓動は既に止まっていた。しかし、念には念を。

「最後の最後デ墓穴ヲ掘ッたな!桜田秋!」

桜田の首にそう吐き捨てた。しかし、自ら鼓膜を破ってしまったため、一善自身、自分の発した言葉は聞こえなかった。それでも尚、桜田に勝利した喜びか、自身には聞こえない声を上げ続けた。

「見てくレマシたか‼︎勝呂警部ッ‼︎悪ハ俺ガ浄化コロスッ‼︎貴方ノ意思ヲ継グッ‼︎ アハハハハハハハハハハハハッ…」

一善は振り返った。背後からPSIを感じたからだ。

「ッ…⁈」

油断した。そう思った。しかし、一善の背後に立っていたのは腹に鉄パイプが貫通した満身創痍の角野。それを見た一善はほっと胸を撫で下ろした。彼女程度、敵じゃないからだ。
いや、違う。彼女は手に何か持っていた。それをかざしていた。一善に画面が見えるように。そう。スマホだ。桜田からあらかじめ渡されたスマホ。画面に『死ね』と表示されたスマホ。それを、一善は見てしまったのだ。

「しまっ………」

一善の脳機能が停止した。一善は死んだのだ。このたった二文字を見てしまった事で。あっさりと。
いや、あっさりなんかじゃない。全て桜田の計画通り。プロジェクターを使ったのも。あえて黒煙に投影したのも。一善が油断したところで、本当の一手を打った事も。

「終わっ…た……」

角野はそのスマホを地面に落とした。そして、腹の痛みを堪えて歩き出し、切断された桜田の首を拾う。その彼の頭部からはまだ温もりが感じられた。首を刎ねられてから数秒、桜田はまだ生きていたのだ。でないと、あのスマホの文字にかけた『誤謬通信ブラックコネクター』の効果が切れてしまうから。

「勝ったよ…秋……」

桜田の首にそう告げると、角野は再び歩き始めた。傍目から見ると、激痛に堪えるかのように歩みを進めるが、角野の表情はまるで痛み一つ感じていないかのように穏やかだった。当然だ。彼女はもう、痛みを感じる事すら出来ないのだから。
角野は出口の首の前に膝をつく。そして、その首を拾い、桜田と出口の頭部を自身の胸で優しく抱きしめた。

「やっと三人…揃ったね……」

角野は目を閉じ、二人の首を抱きしめたまま、その場に倒れ込んだ。

「あっちじゃ……ずっ…と……四人…で………」

桜田秋。21歳。死亡。
出口哲也。21歳。死亡。
角野葉湖。21歳。死亡。
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