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2章 「永遠の罪」

68話 「暴かれた理由」

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 ――ボウケンシャガリヲカクマッテイル。その言葉が聞こえた瞬間、理解が追いつかなかった。
 彼は一体何を言ったのだろうか。そう考えるファルベは理解できていないのに、頭は冷静だった。いや、理解ができていないからこそ冷静なのだろう。重要なことか、そうでないか判断できてないから、危機感がないだけなのだ。

 ゆっくりと噛み砕いて、咀嚼する。ボウケンシャガリ――「冒険者狩り」、つまりはファルベのことであり、この村の住人が共通して畏怖する対象の名である。

 それをカクマッテイル――「匿っている」、とそう言ったのか。
 つまり、ラウラの屋敷にファルベがいるという事実がこの村の住人に知られてしまったのだろう。

「……どうして、バレたんだ……?」

 ファルベはここに向かう前に、アイナハル王国から出国したした辺りから自分の顔を変えている。
 といっても、整形をしているというわけではない。顔の形を変えているわけではない。正確には、化粧と同じ原理だ。自分のスキルで作った「色」を自身の顔に付着させる。そうして他人から見た時の自分の印象を変化させているのだ。
 たかが化粧と思うかもしれないが、それだけで人の印象は変わるものだ。

 この能力は別にファルベだけに限らず、様々な「着色」スキルを持つ人間が有している。というより、着色スキルを持つ者は基本的に画家か美容師を目指すものだ。
 特に美容師になると需要が高い。イメージしただけで好きなように色をつけられて、好きなタイミングで一瞬にして解除できる。つまり、時間をかけて化粧する必要性がないし、わざわざ化粧を落とすために苦労する必要もないわけだ。

 また、景色や写し絵を描く画家、書類などをそのまま他の紙にコピーする職人としても活躍できる。

 このスキル自体はこうやって広く活躍できるものであるものの、これを戦闘特化に進化させたのはファルベただ一人だけだ。
 しかし、ファルベ自身も一般的な活用方法は身に付けており、特に化粧のような使い方では、もはや変装と言って差し支えないほど極めている。

 だからこそファルベを恨む人間が住むこの村を夜中中徘徊したりしていても村人に正体を悟られなかったのだ。
 だというのに何故、バレてしまったのか。ほぼファルベと分かるような要素は無かったはずだ。

 近くを見回し、何か自分の今の姿を見れる物はないかと探す。そして、すぐに目当てのものを見つけ出す。
 大人の身長に合わせた鏡が壁に張り付いていた。玄関前で自分のファッションだったりが一目で確認するためのものだ。

 そこに映るファルベは、

「……どう、して」

 何偽りのない、ファルベの姿そのものであった。変装と言っても過言じゃないほど顔を弄ったのに、その努力は無に帰し、普通の状態に戻っている。

「これじゃあ、何の意味もないじゃねえか……っ!」

 何度も顔を触ってみるが、変化はなし。もう一度スキルを発動させればまた自分の顔を変化させられるだろうが、既に正体がバレてしまったのでは意味がない――

「もう一度、スキルを使えば……つまり、今はスキルが解除されてるわけで……」

 こうなったら原因に気づく。スキルは個人差はあれど集中力が必要だ。思考が回らないくらいパニックになっていたり、気を抜いていたりすると発動しなし、現在進行形で発動しているのも強制的に解除される。

 このルールを思い出せば、答えまではすぐに辿り着ける。ファルベは商団を魔物の脅威から逃すために、全身全霊でやつの攻撃を逸らした。その直後、自分自身の行動の反動で、想像を絶するほどの痛みに襲われ、気を失ってしまった。

 痛みを負ってのたうちまわったことも、気を失ったことも、スキルの発動から意識を逸らせてまで強引に助けに行ったことも、全てスキルの解除が行われる危険性がある行動だ。
 もはや役満だ。誰でもスキルが強制解除されるのに十分な理由だと考える筈だ。

 いつのタイミングかまでは分からないが、この村に着くまでには解除されており、それが村の住人に見つかったのだろう。

 バレた理由は納得できたが、今現在ラウラが矢面に立たされている状況はまずい。元「冒険者狩り」を匿っているなんて事実が知られてはラウラの信頼が失われる恐れがある。いや、もう失われつつあるのかもしれない。

「何で、ルナのやつは止めたんだよ」

 ルナはラウラが話をつけていると言っていた。彼女自身の立場を思えば、正体を知らなかったのだと言い張って、村人にファルベの身柄を渡せば良かったのに。
 そうすれば、彼女の信頼の失墜は最小限に抑えられるし、村人も納得してくれる筈だ。

 なのに何故、こんな状況になってまでもラウラとルナはファルベを守ろうとするのか。
 どうして自分の立場を危うくしてまで、匿おうとしてくれるのか。

 彼女たちの行動の真意を捉えきれず、どこか置いてきぼりにされているような、ある種の疎外感のようなものを感じながら、ファルベは何をすべきか、どう動くべきか、判断できずにいた。

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