華と光と恋心ー桃也sideー

かじゅ

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第2話 プレゼントの理由

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 結局、昨夜力尽きた桔梗は、朦朧としつつも静音が浴衣を脱がせてくれたのは認知していた。
朝食中静音にお礼を伝え、朝食後には後片付け。
そして昨夜入れなかったお風呂に入ってから、
「昨夜のお礼。」
と、サンルームで洗濯物を干していた。
もぉにぃたん夏休み今日までだから、何処か行くのかな?
もぉにぃたん…。
洗濯物を干しつつも、顔を赤くしてしまう。
まさか…。
あのもぉにぃたんにまで告白される何て…。
遼平とのことも考えなきゃいけないのに…。
て言うか…。
どうしたんだあたし!
一体何が起きているんだ?!
前世のあたし、どんだけの徳を積んだんだよっ?
どんだけの徳を積んだら、あんな素敵な2人に告白されたり取り合いされるような、現世が待っていると言うのかね…!
「馬鹿な!」
「何が馬鹿なんだ?」
「うひょ!」
いきなり背後から声を掛けられ、桔梗は思いっ切り驚いてしまう。
「あ、わりぃ、そんなに驚くと思わなかったんだよ。」
「だ、大丈夫、それより何か用がある?」
一旦手を止めて桃也を見る。
「お前今日予定あんのか?」
「家事くらいしかないけど、どしたの?」
「冴子さんの店行くぞ。」
「冴子さんの?何か欲しい下着でも?」
「まぁな。」
「分かった、じゃあ洗濯物を干したら準備して桃也さんの部屋に行く、待ってて。」
「分かった待ってる。」
去って行く桃也の背中を見ながら考える。
今は前世のあたしが積んだ徳のこと考えるより、もぉにぃたんと遼平のこと、ちゃんと考えなくちゃ。










 何とか朝稽古はこなしたものの、光希は早々に部屋に引っ込み、
「朝ご飯持ってきたよ。」
毅流に朝食を運んでもらっていた。
「わりぃ…流石のあたしも今日ばっかりは…。」
「何か…ごめん…。」
ベッドからソファに移動する光希に、手を貸しながら言った。
「何で謝るんだよ?」
ゆっくりソファに座る光希の隣に座ると
「だって…。」
うつむき加減で呟く毅流に
「後悔してるのか?」
「まさか違うよっ!」
「だったら謝るなよ、この程度のダルさなら気にするな、午後には良くなるよ。」
「光希ぃ。」
「次はお互いがもっと気持ち良くなれるように、頑張ろうな?」
「う、うん勿論っ!俺一生懸命勉強する!」
「勉強?どうやって?」
「それは…。」
確かに何をどう見て勉強するんだ?
自分が言ったことに困惑気味の毅流を見てぷぅっ、と吹き出してしまう。
「勉強何て必要ないよ、肌を重ね合わせてけば、少しずつ分かってくもんじゃね?」
「そそそっ、そうだねっ!」
海斗兄に…少し話聞いてもらおうかな。








 玄関が開き若葉が現れると、
「迎え早過ぎちゃってごめんねぇ、言われた通り車庫に車止めちゃったけど、あれで大丈夫?」
「大丈夫、それより上がって、お茶出すよ。」
「ありがとぉ。」
本日-bule-は練習日。
貸しスタジオに向かうため、海斗は若葉を迎えに来たのだが、だいぶ早く着いてしまった。
若葉に逢いたくて早く着き過ぎたとか…。
乙女かよ…。
「お邪魔しま~す。」
言いながら玄関内に入ると
「いらっしゃ~い!」
やたらテンション高めの女性が、若葉と共にお出迎え。
「あ、もしかしてお母様?」
「う、うん、海斗君に上がってもらうって言ったら出迎えるって聞かなくて、ごめんね。」
「大丈夫だよぉ。」
答えてから母親の方に向き直ると、まずは深々~とお辞儀。
「初めましてお母様~、若葉さんとバンド-bule-で一緒にプレイさせて頂いてます黒岸海斗といいます、よろしくお願いします。」
「あらあらご丁寧に~、それより上がって上がって、ね?」
「ありがとうございます、お邪魔します。」
リビングに通され、座るよう促されたためソファに若葉と並んで座る。
「ごめんね、部屋に連れて行こうと思ったんだけど母さんがどうしても会いたいって言うから。」
申し訳無さそうに言ってくる若葉を見つめてクスッ、と笑うと言った。
「大丈夫気にしないで、俺も挨拶したいと思ってたし、それに若葉の部屋には…。」
そこで一旦言葉を切ると、若葉に近付き小声で囁く。
「若葉の部屋には、ご両親公認になってから、ね?」
「へっ!」
こっ、公認てどういう意味っ?
てかいつの間にか喋り方もいつもと違うしっ。
若葉が困惑しているとリビングのドアが開き、
「あれ、今日は練習日じゃなかったか、て…いらっしゃい?」
部屋でひと仕事終えた雄大が現れ、どなた?と言いたげな顔で海斗を見た。
「あ、雄大兄さんあの…っ。」
若葉が紹介するよりも早く、海斗はす…と立ち上がる。
「初めまして、-bule-で若葉さんとプレイさせて頂いてますボーカルの黒岸海斗です、よろしくお願いします。」
ニコッと笑って深々とお辞儀。
「これはこれはご丁寧に、俺は次男の雄大、よろしくね、どうぞ座って。」
てことは…。
このお兄さんの影響で若葉はドラムを始めたわけか…。
あらかじめ若葉から家族構成を聞いていた海斗は、そんなことを思いながら座ると、雄大は向かい側に座った。
「雄大もアイスティーでいい?」
母親に言われ「よろしく。」と答えてから、ニコニコして海斗を見つめる。
「君が噂の海斗君か。」
「噂?」
「ちょっ、雄大兄さんっ!」
余計なこと言わないで!
「-bule-のメンバーになってから、若葉はメンバーとの話をするようになったんだけど、特に君の話をするんだよ。」
「そうなの?」
「あ、あぁ…うん。」
バラされた…っ。
あっさり雄大兄さんにバラされてしまった…!
海斗君本人にだけは、絶対知られたくなかったのにぃっ!
若葉ががくぅ~ん、とうなだれても雄大はまったく動じず、相変わらずニコニコ。
「若葉は昔から良くも悪くもドラムにしか興味がなかったのに、-bule-のメンバーになってから君の話はよくするようになったからね、会ってみたいと思ってたからこうして今日会えて良かったよ。」
ドラムバカの若葉が夢中になるのも分かるくらい、滅茶苦茶イケメンだなぁ。
性格も良さそうだし、海斗君もまんざらでもなさそうだし…。
「良かったね若葉。」
「何がぁ…?」
何がいいの?
海斗君にバラされたのにぃ…。
「ライブにいらして頂ければ、いつでもお会い出来ますよ。」
そう言ってニッコリしていると、
「駄目なんですって。」
母親がそれぞれの前にアイスティーを置きながら言った。
「駄目とは?」
ライブハウスに来るのが嫌なのか?
「君の真似してるみたいだよ。」
「雄大兄さんっ、それに真似じゃないもんっ、あたしもケジメ付けてるだけだもんっ。」
ケジメ…。
「あぁ、もしかして若葉もメジャーデビューするまでは家族に見せないの?」
「べべべべっ、別に海斗君の真似したわけじゃないよっ、共感したのは事実だけどもっ。」
「別に責めてるわけじゃないから落ち着いて、はいアイスティー飲んで。」
海斗に促されるがまま、ちぅーっとアイスティーを飲む。
「なかなかグループに所属出来なかった若葉が、インディーズで実力ナンバー1と言っても過言ではない-bule-に所属出来たわけだから、俺としてはすぐライブに参戦したかったんだけどねぇ。」
「だっ、だからメジャーデビューしたら来てもいいってば!」
「だったらせめて、メンバーの皆さんを今度家に招待したらどうだい?」
「あらいいわねっ、お母さん腕によりをかけて料理作るわ!」
「ええぇ~。」
すがるように海斗を見ると、
「それは是非、他のメンバーにも伝えておきます、きっと喜びますよ。」
「なっ!」
海斗君に断ってほしかったのにぃ!
「そのときはゆっくり-bule-のこと、それと君のこと聞かせてもらいたいな。」
「いいですよ。」
「もっ、もういいでしょ!行こう海斗君っ!」
「え?まだ早いよ?」
「いいのっ、楽器屋寄ってから行くからいいのっ。」
「そう?」
慌てちゃって可愛いなぁ。
「じゃあ、次はゆっくり伺わせて頂きます。」
立ち上がり丁寧にお辞儀する海斗を、若葉は半ば引っ張るようにリビングから出て行った。
「ねぇねぇ、若葉絶対海斗さんのこと好きよねっ?」
「そうだね、それに海斗君もまんざらじゃなさそだし。」
「嘘っ!やだもう嬉しい!お赤飯炊こうかしら!」
「嬉しいのはわかるけど、お赤飯はまだ早いでしょ。」
あの若葉が恋か…。
成就するといいな。
「…て、もう確定かな。」










 店内に入ってすぐ、
「待ってたわよ~。」
冴子が出迎えてくれた。
「桔梗、俺は少し冴子さんと話があるから先に行って見ててくれ。」
「うん?分かった。」
何だろう?と思いつつも素直に従い、1人女性用下着フロアに移動する桔梗を見送ってから冴子にむきなおる。
「どうしたの?」
「実は冴子さんに頼みがあって…。」
まで言うとスマホを取り出し操作しつつ、
「こんなん用意出来ます?」
と言ってスマホで、ある画像を見せる。
「あらやだ、こんなのが欲しいの?」
「まぁ…。」
「これを桔梗ちゃんにプレゼントするわけ?」
「まぁ、そうっす。」
「でもこれ…。」
「昨夜告白して、これから全力で口説くとこっすから。」
「えっ?はっ?そうなのっ?」
「そうっす。」
ちょっとやだ!
あんなに煮え切らなかった態度ばっかり取ってたのに、いつの間にそんなに進展したのよぅ!
「するする用意するわよ~!むしろもっと凄いのたくさん用意しちゃう!あたしからのご祝儀よっ。」
「それはありがたいっすけど、程々でお願いします。」
「はいはい了解りょうか~い、と・に・か・く!用意出来たら連絡するわね。」
「お願いします、それと…お袋にはぜってぇ内密にお願いします。」
ずずずいっ!と近付きながら念を押す。
「わ、分かったわよぅ。」
「もし冴子さんからお袋の耳に入ったら、俺も桔梗も二度とここには来ません。」
「それは困るぅ!」
2人の今後の展開めっちゃ気になるもの!
「姉様には言わない!絶対!」
「じゃあ諸々、お願いします。」
「任せて!」

桔梗が下着を選んでいる姿を見つける。
あいつ…。
また地味なやつ選んでんなぁ、ぜってぇ値札見てからサイズ見てんな。
桔梗はチラッと値札を見て
よし、これなら何とか安いな。
と安心してからサイズをチェック。
あ~、サイズが合っとらん。
なかなか安価でサイズぴったりのがないのぅ。
「おい。」
振り返ると、何だかブスくれた桃也が立っていた。
「どしたもぉにぃたん、冴子さんと何かあった?」
「そっちはバッチリだ、それより問題はお前だ。」
「ぬ?」
「お前、また値段で選んでんだろ?」
「え?駄目?」
「駄目だ、お前はこれから俺好みの下着にしろ。」
「なぬっ?」
「お前…何で俺がお前に下着買うか分かってねぇだろ。」
「この前買ってもらった以外の下着がみっともない、から?」
てか、やっぱり今日もあたしは下着を買ってもらう側なのか…。
「ちげぇよ。」
そう言って桔梗の目を真っ直ぐ見つめると、ニヤリと笑う。
「…っ!」
「理由はひとつだ、プレゼントした下着を脱がせるためだよ。」
「ぐはっ!」
え、え、え!
エロ過ぎるぞ!
「告白した俺を甘く見るなよ、もう遠慮も容赦もしねぇ、覚悟しとけよ。」
リョウにも、他の男にも、桔梗だけはぜってぇ渡さねぇ…!








 車に戻り、助手席でシートベルトを装着する頃には、桔梗は抜け殻のようになっていた。
つ、疲れた…。
主に精神面が…。
「何処か行きたいトコあるか?」
「ふぇ?」
「疲れてんなら帰宅してもいいけど、もし何処か行きたいトコあるんなら連れてくぞ。」
「何処か…。」
何かこぅ、癒しが欲しい…。
「触れ合える動物園、行きたい…それが駄目なら猫カフェでもいい、動物から癒しを頂きとぉございます。」
まで言ってガクッ、とうなだれた桔梗を見て
少し強引に進め過ぎたか…。
若干反省しつつも、頭の中で地図を広げながら腕時計で時間をチェック。
「よし…。」
スマホを取り出し静音に素早くメッセを送る。
「これでよし、次は…。」
ナビに目的地をセットしてからサングラスを掛けた。
未だうなだれたままの桔梗の頭をポンポンしてやってから、
「少し遠いからゆっくり寝てろ、動物園着いたら起こしてやるから。」
優しく微笑む桃也にキュン、としてしまう。
こんなに優しいもぉにぃたんに運転させておいて、助手席で寝るとか何様だ、とも思うけど…。
「うん、ありがとう…。」
流石に疲れた…。
ここはお言葉に甘えさせてもらっておこう…。










 お昼には光希も回復したため、茶の間にてお昼を食べることになったのだが…。
「伯母さん…ニヤニヤし過ぎ。」
我慢しきれなくなった光希が言った。
「だって昨夜毅流君とぉ…。」
「へっ!」
まさか!と真っ赤になる毅流。
そこへ午前の稽古後シャワーを浴び、
「腹減った~、飯ぃ~!」
と言いながら入って来た京介に
「爆ぜろ…!」
低音デスボイスで言って
「ひげぇっ!」
京介の顔に思い切り麺つゆボトルをヒットさせる。
「てめぇ…!伯母さんに何言いやがった…!」
「いやいや光希俺はたださぁ、昨夜毅流が俺の部屋にぃっぶ!」
言葉の途中で今度はマヨネーズのチューブをぶつけた。
「あらいいじゃない光希、あたしは別に構わないわよ、愛する2人が結ばれたなら素敵なことよ、あ、ただちゃんと対策はしてる?」
まだ学生なんだし…。
「それは問題ない。」
まさか海斗さんが先を見越して毅流に渡していたとは…。
昨夜海斗がご褒美、と称して毅流に渡していた物とは、明るい家庭計画の必須アイテム、コン○ームであった。
そのお陰で、毅流と光希は問題なく結ばれることが出来たのだ。
「でも羨ましいなぁ、優ちゃん。」
「優ちゃん?」
そこでやっと毅流が会話に入ってきた。
「あたしの母さん、優希って言うから伯母さんは優ちゃんて呼んでる、で…何で母さんが羨ましいんだ?」
「だってだって、こんなイケメンが将来義理の息子になるんでしょ?羨ましい~!」
「ふえっ!」
毅流、再び顔真っ赤。
「まぁ、将来そうなることもあるだろうけど、まだまだ先だろ。」
光希!
俺との将来ちゃんと考えてくれてるんだ!
嬉しい!
俺だって将来光希と…。
「将来も大事だけど、今はまだ毅流とゆっくり進みたいんだよ、だから伯母さん、母さんに余計な報告しないでくれよ、それに年末年始に帰ったときに報告する予定だし。」
「あらそうなの?ならそのときは毅流君も一緒に?」
「へっ!」
驚いた顔で光希を見ると
「いいか?」
「ももっ、勿論っ、むしろ行ってみたい!」
光希が育った場所を見てみたい!
「じゃあよろしくな。」
「うんっ!」












 動物園に行く道すがら、コンビニでお昼を買って運転中に食べつつ、目的地に到着。
「広い。」
「まぁこの辺じゃ最大級の動物園だからな、つっても俺も子供んとき来て以来だからな、デートで来るのは初めてだ。」
「どえっ!」
「何だよ、違うのか?」
「うあ、まぁ…デート、なのだとぉ…。」
赤い顔でごにょごにょ言う桔梗の手を取ると、そのまますかさず恋人繋ぎ。
「おぉぉ…!」
「そんなに毎回リアクションでかいと疲れんぞ。」
クスクス笑う桃也。
「な、慣れなくて…。」
「少しずつ慣れてくれ、今後もっと触れ合うつもりだからな。」
「うあ、あぁ…。」
もぉにぃたんにしろ遼平にしろ、触れ合いが濃ゆくて慣れないっす。
入場ゲートをくぐり、すぐにパンフレットを広げる。
「とりあえずのんびり歩いて動物見つつ、まずはヤギに餌でもやるか?」
「うん、餌やりしたい。」
「じゃあ行こうぜ。」
歩き出してすぐ、桔梗は周りに目をやる。
もぉにぃたんかっこいいからなぁ、周囲の女性の視線が…。
「次は洋服も買いに行くぞ。」
「ん?急にどしたの?」
「今日のその服、一緒に選ぶときにも思ったが、お前スカート少な過ぎだろ、パンツばっかじゃねぇか。」
「あぁまぁ、どうもスカートはねぇ、慣れぬもので。」
「俺的にはスカート姿のお前もタイプだからな。」
「た、タイプっ?」
「ああ、でもなぁ…。」
こいつ、気付いてねぇんだろうな。
前髪ピンで止めるようになってから、男の目を引くようになったのをよ。
さっきから通り過ぎる男共が彼女そっちのけで自分を見てる何て、夢にも思ってねんだろな。
スカート姿の桔梗を連れて歩きたい気持ちもあるが、そうなると余計目を引くよなぁ。
こいつ可愛いし!
でも本人自覚ねぇし!
だからこそ余計に可愛く見えちまうし!
まぁ…俺がしっかりビッタリ付いてりゃいいだけの話だが、他の男共がこいつを見てると思うと…!
でもこいつのスカート姿ぜってぇ可愛いから着せたいし…。
でも着せると…。
人知れず堂々巡りしている桃也が、小さく溜め息をついていると、
「もぉにぃたんモテモテよなぁ。」
「は?何だよ急に。」
「すれ違う女の人たち、みんなもぉにぃたん見てる。」
女性たちがあたしに向ける視線、いてぇです。
桃也は桔梗をじぃっと見つめると、
「はぁっ。」
盛大に溜め息。
「ぬ?」
何故にそんな溜め息?
「そういう意味で俺を見てんじゃねぇよ。」
「ぬ?」
ではどんな…。
まで考えてハッとする。
「もぉにぃたんはあたしが守る!」
「何でそうなんだよ?」
「いやだって、もぉにぃたんが芸能人てバレたんじゃ…。」
そう言った桔梗を見つめ合い
こいつ、本気で言ってんな。
と思い再度溜め息をつきながら、桔梗の頭に軽くチョップ。
「ふぬ?」
何故にチョップ?
「そういう意味でもねぇ。」
「そうなの?」
「あのな、確かに由貴仁とドラマ出てからは前よりも声掛けられるようになったけど、俺何てまだまだ大したことねぇよ。」
「そ、そうなのか…。」
バレてないなら良かったけど…。
「お前…俺と誰かを比べてないか?」
「比べる?」
もぉにぃたんと誰を?
「いや、いい、それより行くぞ。」
「うん?」
俺とリョウを比べてるのかとか、勘繰りすぎだな…。










 馴染みの楽器屋にリョウに誘われ来たのだが…。
「遼平。」
「何?」
「ギターを見に来たの?スマホを見に来たの?」
ユキヤにツッコミを入れられ、
「わりぃ…。」
バツが悪そうな顔をして、リョウはポケットにスマホをしまう。
「出る?ギター見る?」
「あぁ~、そうだな止めとく。」
駄目だ、ギター選びに集中出来ないな、こんなんじゃロクな物選べそうもない…。
「出よう。」
と言うわけで、近くのカフェで休憩することに。
「桔梗ちゃん?」
テラス席で頼んだ飲み物を飲んでから、ユキヤが聞いた。
「まぁ…、朝メッセ送ったんだけど返事がなくて。」
「数時間は空いてるね。」
「そうなんだよ、普段は1時間もしないで返信あるから…。」
「何処か出掛け…あぁ、そういうことか。」
ひとつ屋根の下にいるライバルと、2人きりで出掛けてるかもしれないってことね。
「それは気が気じゃない。」
「理解してくれてどーも。」
付き合い長いと全部説明しなくて済むから助かる。
「光希の話だと、桔梗が長い前髪をピンで止めるようになったのは桃也君のお陰だと言ってたし、何より最初は桃也君に桔梗を任せようと思ってたらしいんだ。」
「それは…予想以上に強いライバルだね。」
「そうなんだよ。」
桔梗が桃也君と元カノのことで傷付いたとき、それを打ち明けられて慰めて、そこから一気に距離が近付いたのは間違いないんだけど…。
「もう少し強い一手が欲しいんだよな。」
溜め息をついてから飲み物で喉を潤すリョウに
「気持ち分からないでもないけど、強引になるのはいけないよ。」
「分かってる、桔梗を傷付けるようなことは絶対したくないし。」
「分かってるならいい。」
そう言って飲み物を飲むユキヤを横目でチラッと見ながら、タバコに火を点ける。
「そういうお前はどうなんだ?」
「ん?」
「あんまり相手に合わせても逃げ腰になるぞ。」
ユキヤはユキヤでそんなリョウをじとぉっ、とした目で見てからタバコに火を点ける。
「遼平と違って俺は普通じゃないからね。」
「普通?普通何て気にすることないだろ、そんな誰が決めたか分からないもん何かさ。」
「そうは言うけど…。」
「お前以外が決めた普通何て形どうだっていいんだよ、お前の普通はお前が決めていいんだ、それはつまり今のユキヤが普通ってこと、お分かり?」
煙を吐き出すリョウを見ながら、溜め息混じりに煙を吐き出す。
「何だ?」
「俺にとってはこれが普通だとしても、相手にとっては普通じゃなかったら、ただただ迷惑なだけだ。」
「向こうが普通か普通じゃないか、迷惑か迷惑じゃないかは、本人が決めることでお前じゃないだろ?」
「それは分かってる、けど…。」
「まごまごしてる間に、自分以外の誰かが隣に立つことになったらどうする?」
リョウの探るような眼差しから逃げるように、うつむいてしまう。
「そんなのは嫌だよ…。」
耐えられそうもない…。
「お前以外の誰かじゃなくて、お前が幸せにしなきゃ駄目なんじゃないの?」
その言葉に顔を上げ、真っ直ぐリョウを見つめてひとこと。
「ブーメラン。」
「分かってる、自分で言っててそう思ったよ、俺も肝に銘じる、だからお前も少しは踏み込んでみたら?」
「踏み込んで落ち込むようなことがあったら…。」
「そのときは飲みにでも何でも付き合うから、お前も俺に何かあったら付き合うように。」
「それも肝に銘じる。」
「よろしく。」










 動物園から出て、駐車場に向かう桔梗の足取りは軽かった。
「楽しかったぁ。」
ヤギにウサギに餌あげて、アルパカとか羊とか色んな動物たちと触れ合えて癒された~。
無意識に鼻歌を歌いながら助手席に乗り込むと、運転席に座った桃也はムスッとした顔をしていた。
「も、もぉにぃたん?」
ヤバい、あたし浮かれすぎたかっ?
「あ、あの、ごめんなさい、ちょっと浮かれすぎました。」
「いや、違う、お前は何も悪くないから謝らなくてもいいし気にするな、今俺がこんな顔をしてるのは、自分に腹立ってるだけだから。」
「へ?何故に?」
「いいんだ、気にするな。」
心持ち微笑んで頭をポンポンしてやる。
情けねぇ…。
桔梗が機嫌良くなったりテンション高くなると、鼻歌歌うのは前からだし癖みてぇなもんじゃねぇか。
しかもほぼ毎回鼻歌はrunaの曲ばっかなのも前から。
それなのにそんな些細なことに勝手に嫉妬した挙げ句イラッとして、桔梗を不安にさせるとか…。
そんな自分にムカついたせいで顔に出しちまうとか。
重ね重ね情けねぇ…。
「ごめんな…。」
「いや、あの、もぉにぃたん、平気?」
「平気だよ、それより夕飯、何食べたい?」
「え?」
「お袋には飯食ってから帰るって連絡済みだから大丈夫だ、だから気にしなくていい、何でも好きな物言えば連れてってやるから。」
「ん~…。」
急に言われると迷う。
あ!そうだ!
「もぉにぃたんは何食べたい?」
「お前が食べたい物。」
と言ってニヤリ。
「ぬぬぅ…!」
ず、狡いぞもぉにぃたん!
「そういやお前、イタリアン好きだよな。」
「あ、うん。」
もぉにぃたんのこういう何気ない言葉に、胸がほんわかするんだよなぁ。
「じゃあ…。」
桃也はスマホを取り出し操作を開始。
「ん?」
もぉにぃたんどうしたんだろ?
「こことかどうだ?」
スマホ画面に写されたのは、海の見えるオシャレなイタリアンレストラン。
「おぉ!おしゃんてぃー。」
「じゃあここにするか。」
ここからならそこまで遠くないしな。
「でもここ素敵だし混んでるのでは?」
「大丈夫、ツテがある。」
お~!
流石もぉにぃたん!
顔が広いな!
感心している桔梗の前で、今度は電話をかけた。
「もしもしわりぃ、今平気か?ん?何だよオフかよ。」
オフ…業界の友達かな?
「親父さんトコの店、今から個室予約出来るか?あ?あぁ~、いやそのな…、おいっ、お前は予約すりゃいいんだよっ、絶対来るな!俺と桔梗のデート邪魔すんな!」
で!デートとな!
桔梗が1人真っ赤になっている中、桃也はその後も少し言葉を交わし
「頼んだぞ、あとお前はぜってぇ来るなよ!」
と言って電話を切った。
「たく…。」
せっかくのデートなんだ、邪魔されてたまるか!
そんでなくても手強いライバルがいるんだからよ。
「よし、じゃあ…。」
とまで言って桔梗の顔を見て言葉を止める。
「お前もしかして…デートって言葉に照れてんのか?」
「ぬえっ?」
「何だ今の変な声、どっから出してんだ?」
クスクス笑う桃也を前にして、更に赤くなってしまう。
「だ、だってぇ…。」
赤い顔のままモジモジする桔梗。
くっそぅ!
何だこの可愛い生き物はよ!
桃也は一応周囲をキョロキョロ見て誰もいないのを確認してから、桔梗に素早く近付くと
チュッ。
「ひょわっ!」
頬にキス。
「なななななななっ!」
「お前が可愛いのがわりぃんだからな。」
そう言ってサングラスを掛ける桃也の頬も、赤く染まっていた。
ナビを操作して
「よし、行くぞ。」
表面上は何事もなかったかのように、ゆっくり車を発進させた。
ほっぺだったけど、いきなりはマズかったか?
桔梗は免疫ねぇからなぁ。
でも抑えられねんだよなぁ。
も、もぉにぃたん、告白してからなかなか距離感が凄いっす。
ドキドキする胸を押さえつつ、
「だ、誰に電話してたの?」
「ん?あぁ、由貴仁だよ。」
「由貴仁さんっ?何故にっ?」
シャインレッドと電話してたのか!
プールのとき、あんまり話せなかったのは残念だった。
「店側に迷惑かかんねぇように完全非公開なんだけど、今から行くあの店、由貴仁の両親がやってる店なんだよ。」
「ほぇ~。」
由貴仁さんの両親はシェフなのか。
「あの店はおじさんとおばさんが昔から大事に守ってきた店だからな、常連客も多い、だから由貴仁が芸能界に入るときに事務所と相談して完全非公開にしたんだよ、勿論事務所側も全面協力してな。」
「そうなの?」
「ああ、もし由貴仁の人気が出てあの店が両親の店だって情報がファンに流れてみろ、たちまちファンが押し寄せて来て常連客に迷惑がかかるのは明白だろ。」
「確かに…、しかもマナーを守るファンだけじゃなかろうし。」
「その通り、だからあらかじめ常連客にも由貴仁のことは口外しないよう頼んだらしい、そのお陰が未だ店は守られてるってわけだ。」
そんなお店をもぉにぃたんには教えたってことは、由貴仁さんはそれだけもぉにぃたんを信頼してるってことだ。
「もぉにぃたん、由貴仁さんはいい友達だね。」
「まぁ、あれでもヒーローだった男だからな、それに何だかんだいい奴だし。」
腐れ縁だしな。
それにあいつが言ってたことに間違いがなかったわけだし、多少は感謝しとくか。








 帰りも海斗が送ってくれることになり、
「シートベルト大丈夫?」
「うん、ちゃんと着けた。」
「じゃあ出発するよ~。」
車を発進させて、窓を開けると海斗は早々にタバコに火を点けた。
「練習後の一服は格別にウマいんだよねぇ。」
「そうなの?」
「まぁねぇ。」
言いながらチラッと若葉を見てクスッ、と笑う。
「なっ、何っ?」
「何ってぇ?」
「今笑わなかったっ?」
海斗君笑ったっ。
「そう?若葉こそどうしたの?」
「なっ、何がっ?」
「何だか緊張してな~い?俺に言いたいことでもある?」
うっ、また海斗君喋り方変えたっ。
最近あたしと2人きりになると、緩い喋り方急に止めるからドキドキしちゃうよっ。
「そ、その、休憩中海斗君夕ご飯のこと話してたでしょ?」
「あぁ、母さんから今夜は各自食べるようにってメッセ入ってたやつのこと?」
兄貴も昨夜告白した途端に今日デートに誘うとか、エンジン全開だもんなぁ。
「とりあえず今夜はコンビニで何か適当に買って帰るかなと思ってる。」
毅流は今夜も泊まりとか言ってたし、テルのトコとも思ったけど、何か実家の方が大変みたいだし、ヒロとカズのトコにはシュウがいるからなぁ、あんま邪魔したくないし。
「あ、なるほど。」
「何がなるほとっ?」
「もしかして若葉、俺を夕食に誘ってくれるの?」
「あ、あの…その…実はあたしも休憩中に電話で母さんに夕ご飯のこと聞かれて…。」
そう言えば休憩中電話が鳴って、1度席外してたっけ。
「今夜は家で食べること伝えたときに色々聞かれて、つい海斗君の夕飯事情のこと話しちゃったら、是非家に連れて来なさいって、言われちゃって…。」
どんどん声が小さくなっていく若葉。
なるほど、ただ誘うならまだしも、家に連れて行かなくちゃいけなくなったから緊張してたわけね。
「お母さん、もう用意しちゃった感じ?」
「う、うん…練習終わってからメッセ見たら、そんな内容だった、あ!でも嫌なら断ってくれていいよっ、母さんが勝手にやったことだし迷惑だろうしっ。」
「迷惑?まさか、むしろ嬉しいよ、それに若葉だけじゃなくて、若葉の家族とも仲良くなりたいしね。」
「いっ、いいのっ?」
「勿論、お言葉に甘えさせてもらうよ。」
「あ、ありがとう。」
「それはこっちの台詞、じゃあ飲み物くらい買って行こうか。」
「そんなっ。」
「手土産くらい持たせてよ、少しは俺にかっこつけさせて、ね?」
「う、うん…。」
そんなことしなくたって充分かっこいいよ、何て恥ずかしくて言えない。
そんなことを思いながら、運転しながらタバコをくゆらせる海斗の横顔をぼんやり見つめる。
優しくて人の嫌がることをしない、その上かっこいい海斗君。
自分を盾にしても大切な仲間を守ったりしてきたんだろうな。
その分、たくさん傷付いたんだろうに…。
それでも優しい海斗君は、強い。
そんな人がもしかしたらあたしのこと、好き?何て…。
出来すぎてるし、自惚れてるよね…うぅ、恥ずかしい…。
今まで海斗君が言ったこと、全部社交辞令だろうに…。
その気になってしまった…!
と言うよりあたし、海斗君のこと、好きなんだ…。
多分、あの日初めて-bule-のライブを観て、海斗君の声を聞いたときからきっと…。
あたしはこの人に魅了されてる。









 入り口で個室に通されてすぐに、
「いらっしゃい。」
シェフ姿のイケオジと、美人なエプロン姿の女性が入って来た。
「ご無沙汰してます。」
座ったままであるものの、頭を下げる桃也を見て桔梗も慌てて頭を下げた。
「由貴仁の両親だ。」
やっぱり!
「あ、お、お世話になります。」
再度頭を下げると
「桔梗ちゃんだね、由貴仁から聞いているよ、今夜は由貴仁オススメのコース料理をもう準備しているから、たくさん食べて行ってくれるかい?」
「へ…。」
もう準備?と思い桃也を見る。
「あいつそんなことまで頼んだんですか?」
「そうなのよ、桃也君が彼女と来店するから特別コースを俺の奢りでって、桃也君の彼女はどんな子かしらと思っていたら、可愛い子ね。」
「かっ!」
彼女ですとぅ!
「いやまだ攻略中です、なかなか難攻不落なんで。」
「んえっ!」
何かあたしがもぉにぃたんを弄んでるみたいじゃん!
「とりあえず飲み物と料理、運ぶからごゆっくり。」
「桃也君頑張ってね。」
「ありがとうございます。」
2人が退室してすぐ桔梗を見て、思わず吹き出してしまう。
「な、何っ?」
「どんだけ顔赤くしてんだよ。」
「だだだだだだって!」
ドモり過ぎてラップみてぇになってるし。
「桔梗…。」
不意に真面目な顔になり、テーブルに置かれた桔梗の手を優しく握る。
「は、はい…っ。」
もぉにぃたん、何か真面目な顔しとる。
もしかして顔赤くしてばっかに対する駄目出しかっ?
「今まで理不尽に傷付けてごめんな。」
「え…。」
「由貴仁にもずっと言われてたんだ、失ってから気付いて後悔するなって、由貴仁以外にも似たようなこと言われてたにも関わらず俺はお前に告白しなかった、告白するチャンスはいくらでもあったのに、ウダウダして告白しなかった挙げ句リョウに先に告白された…。」
「う、うん…。」
て言うかもぉにぃたん、それってつまり…昨日よりも、ずっと前からあたしに告白しようとしてたって聞こえるけど、ま、まさかそんなこと、ないよね…?
「花蓮といるトコ見られて、自分には遼平がいるって言われたとき、愕然とした…つっても、腹を括ったのは風邪引いてお前に看病されたときだったんだけどな。」
苦笑する桃也を前にしても、桔梗は無言のままだった。
「風邪引いて部屋にいたとき、昔のこと思い出してた。」
「昔の…て、子供のときのこと?」
「ああ、お前の家が引っ越すことになって、お前と遠く離れ離れになると分かったとき、すげぇ辛かった、お前は俺たち兄弟の中でも俺に1番懐いてくれてて、そんなお前が可愛くて、大人になってもずっと一緒にいて守りたいと思ってたのに離れて暮らさなきゃいけないって聞いたとき、どうしていいか分からなかったし、お前はお前で引っ越しの日びぃびぃ泣いて、俺に必死にしがみついて俺と離れるの嫌だって、ずっとここにいるって、そんなお前を見て俺は、絶対迎えに行くって、そしてずっとお前を守るって、そう自分に誓ったのに…。」
再会してから俺は桔梗を傷付けてばかりだった…。
「桔梗、約束する。」
「え…約束?」
「これからはお前を傷付けたりしない、泣かせたりもしない、絶対に守ってみせる、だからって急かしたりもしない、お前が納得するまで考えてちゃんとした答えを出せるまで待つよ、ただ…。」
「ただ…?」
期限付き、とかかな?
「他の男に渡す気何かねぇけどな。」
と言ってニヤリと不敵に笑う桃也を見て、心拍数が爆上がり。
「ちゃ、ちゃんと考えるから…待ってて…っ。」
「分かってる、あぁでも、改めて言わせてくれ、愛してるよ桔梗。」
まぁここで、
お前の初恋は俺だったんだぞ。
と言った方が、多分今後かなり有利になりそうだとは思うんだけど、それはフェアじゃねぇからなぁ。
桔梗が自力で思い出してくれるまで待つか…。









 帰宅後、桔梗は自室に入りソファに寝そべる。
何か…濃い1日だった…!
下着をプレゼントするのは脱がせるためだとか、改めて愛してるとか言われて…。
恥ずかしいやら照れるやらだけど…。
本音を言えば嬉しいし、今日のもぉにぃたん、ずっとあったかかった。
あたしの好きな…あったかいもぉにぃたん…。
もぉにぃたんのことも、遼平のことも、ちゃんと考えて答えを出さなくちゃ…。
いつまでも照れたり恥ずかしがったり、動揺してばっかじゃいかん。
「あ…。」
そう言えばスマホ、チェックしてないな。
昼間、動物園で写真を撮ったりはしたが、桃也といるしスマホをチェックするのは失礼だろうとチェックしていなかったのだが、通知はチラッと見たので、誰かからメッセが来ていたことには気付いていた。
光希からかな?
昨夜毅流お泊まり…よもや?
フフフ…と企みながらスマホを手にすると予想外。
メッセはすべて遼平からだった。
もしかして何かあったっ?
凄い数のメッセだ!
メッセ画面を開くと、特に心配した内容ではなく、夏休み中に会える日ある?とか予定は?など…。
とにかく何かあったわけではないみたいだ。
ホッとして返信しようとしていると、タイミング良くリョウから電話が入った。
「お…。」
メッセからだいぶ時間経ってるから、心配して電話してきたのかな?
だとしたら申し訳ない…。
と思いながら電話に出る。
「もしもし遼平、メッセ今見た、ごめんなさい。」
<今大丈夫?>
「あ、う、うん…。」
何か…今の遼平の言い方…。
<メッセないから電話した、今日は忙しかったの?>
「う、うん、さっきまで出掛けてて…だからメッセ返せなくて…。」
<桃也君と2人で出掛けたりしてたの?>
「あ、あの…。」
<2人で出掛けてたから俺にメッセ返す時間すらなかった?>
「ま、待って遼平、あの…遼平の声が…凄く…。」
<何?あっ!ちょっ!>
急にガサガサと音がしたかと思ったら、
<ごめん桔梗ちゃん、ユキヤだよ、こんばんは。>
「あ、こんばんは…。」
ユキヤさんと一緒にいたのか…。
<遼平がごめんね、大丈夫?> 「大丈夫ですけど、あの…。」
<うん?ハッキリ言ってくれていいよ。>
「あの、凄く…嫌でした…。」
<だよね、俺もそう思う、だから遼平から強引にスマホ奪ったんだよね、嫌な思いさせてごめんね。>
「い、いえ…。」
<ちょっと聞かせてもらえる?素直に答えて欲しいんだけど、今日は桃也君と出掛けてたの?>
「は、はい、誘われて…さっき帰宅してスマホチェックしたら遼平からたくさんメッセが来ていて、返信しようと思ったら電話が…。」
<そっか、それで今日は楽しかった?>
「は、はい、楽しかったです。」
<それなら良かった、じゃあ今夜はゆっくり休んで。>
「あ、あの…。」
<大丈夫、遼平のことは俺に任せて、ちゃんと言い聞かせておくから、ね?>
「は、はい。」
遼平のこと気になるけど…ここはユキヤさんに任せた方がいいな。
<じゃあおやすむ、またね。>
「はい、おやすみなさい。」
電話を切ってから少しぼぉっ、とした後立ち上がる。
ゆっくりお風呂に入って、じっくり考えよう…。
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