1 / 44
プロローグ
しおりを挟む
母親に突然告げられた言葉に動きを止めたのは本作の主人公である川野辺桔梗。
高校2年に無事進級が決まり、春休みを満喫していた桔梗に母親が言った言葉はこうである。
「お父さんが栄転で海外赴任が決まったからお母さんも付いて行くわね。」
お母さんも付いて行くわね?
「は?」
「聞こえなかった?」
「いや、聞こえたからこのリアクションなのだが…。」
長めの前髪の隙間から母を見つめる。
「どういうこと?」
「父さん海外赴任、母さん付いてく、あたしは?どうするのだ?1人暮らし?」
「違う違う、引っ越すのよ、大都会に。」
「???」
は?どゆこと?
「何だ?赴任先が海外の大都会?」
「そうじゃなくて、桔梗は日本、昔あなたが小さい頃住んでたでしょ?そこに引っ越すのよ、勿論桔梗だけね。」
「あー、その、分かるような説明を求む。」
桔梗の父親はある企業に勤めているのだが、まだ桔梗が幼い頃、その企業がある地方都市に大掛かりな支社を展開することになり、優秀な父親がその支社長に大抜擢され、この地方都市に引っ越した。
そして今回、海外支社を展開するに当たり、父親がその支社の支社長に抜擢。再びの栄転である。
桔梗は何処か抜けている、と言うかズレてはいるものの頭はいい。
英語は話せるが父親が栄転するのはフランス支社。
母親は優秀な娘ならそのうちフランス語も話せるようになるでしょ、と思ったものの、日本から離れさせるのも…と、都会に住んでた頃のお隣さんに相談したところ、
「そういうことなら家で預かるわよ~!」
と快諾してくれたので、だったら預かってもらおう、となったらしい。
「確かに友達から離れたフランスに住むよか同じ日本のがいいが…。」
あたしに何も言わずに決めた?
てか、それどの道友達と離れることになるな。
「覚えてる?昔住んでたときの幼馴染みのこと。」
あたしが現状を受け入れる時間はないのだろうか…?
「いや、あんまり…。」
「あら薄情、でも再会したら思い出すかもね。」
これはもう…。
受け入れるしかないんだろうな。
「てかさ、このままここであたしが1人暮らしをするという選択肢はないのか?」
「あら忘れた?ここ、会社が用意してくれた要は社宅みたいなものよ、お父さんがフランス行くんだから借り続けられないでしょ。」
「…。」
これは絶対、
1人暮らし用のアパートを借りるという選択肢は?
と言ったところで、
ないわよ。
とか、
そんなの勿体ないじゃないの。
とか言われて一刀両断だろうなぁ。
「ちょっと出てくる。」
桔梗はスマホ片手にリビングから出て行った。
あれは間違いなくあそこに向かったわね!
「連絡入れておこっと。」
狭霧光希。
桔梗がこの地に引っ越してからの付き合いのいわゆる幼馴染みであり親友。
それでは桔梗と光希の出会いに時間を巻き戻そう。
光希の父はその世界では有名な狭霧流古武術の本家師範。
そんな狭霧家に長男に遅れること5年後に生を受けたのが光希。
幼い頃から道場で鍛錬を積み、メキメキと実力を伸ばしてきた。
そんな光希が小学1年生のとき、道場に入門してきたのが桔梗。
2人はそこからの付き合いなのだ。
何故桔梗が道場に入門したかは、いずれお話するとして…。
桔梗が連絡もなく訪ねて来るのはいつものことなので部屋に通し、向かい合って座ると母親が飲み物を持ってきてすぐに退室。
「直接光希の部屋、珍しい。」
狭霧家に桔梗が遊びに来た場合、長い付き合いであるため大抵リビングで光希の家族と一緒に過ごすことが多い。
「連絡あったからな。」
テーブルの上に置いたままのスマホをちょんちょんと指しながら言った。
「母さんか。」
「まぁな。」
「じゃあ引っ越しのことも?」
「聞いた。」
「そっか…。」
「行くんだろ?」
「それしかないから…。」
ずぅぅぅぅん、と落ち込む桔梗。
それを見ながら
ここに置いてくれ、何て甘ったれたことは言わないんだよな。
「偉いなお前は。」
うなだれた桔梗の頭をポンポンしてやる。
偉い?何故?
と思いながらも光希を見つめ、またうなだれる。
「どした?」
「光希と離れるの、何よりも辛い…。」
くっ…!
可愛いこと言うじゃねぇかこいつ!
「安心しろよ、どうにかするさ。」
「どうにかって…。」
どうにかなるの?
「信用出来ねぇか?」
「まさか。」
光希があたしに嘘つくわけないし、出来ないこと出来る何て無責任なことも言わない。
「じゃあ先行って待ってろ。」
「分かった。」
そんなわけで春休みの最中、桔梗は住み慣れた場所から大都会へと旅立つことになったわけだ…。
高校2年に無事進級が決まり、春休みを満喫していた桔梗に母親が言った言葉はこうである。
「お父さんが栄転で海外赴任が決まったからお母さんも付いて行くわね。」
お母さんも付いて行くわね?
「は?」
「聞こえなかった?」
「いや、聞こえたからこのリアクションなのだが…。」
長めの前髪の隙間から母を見つめる。
「どういうこと?」
「父さん海外赴任、母さん付いてく、あたしは?どうするのだ?1人暮らし?」
「違う違う、引っ越すのよ、大都会に。」
「???」
は?どゆこと?
「何だ?赴任先が海外の大都会?」
「そうじゃなくて、桔梗は日本、昔あなたが小さい頃住んでたでしょ?そこに引っ越すのよ、勿論桔梗だけね。」
「あー、その、分かるような説明を求む。」
桔梗の父親はある企業に勤めているのだが、まだ桔梗が幼い頃、その企業がある地方都市に大掛かりな支社を展開することになり、優秀な父親がその支社長に大抜擢され、この地方都市に引っ越した。
そして今回、海外支社を展開するに当たり、父親がその支社の支社長に抜擢。再びの栄転である。
桔梗は何処か抜けている、と言うかズレてはいるものの頭はいい。
英語は話せるが父親が栄転するのはフランス支社。
母親は優秀な娘ならそのうちフランス語も話せるようになるでしょ、と思ったものの、日本から離れさせるのも…と、都会に住んでた頃のお隣さんに相談したところ、
「そういうことなら家で預かるわよ~!」
と快諾してくれたので、だったら預かってもらおう、となったらしい。
「確かに友達から離れたフランスに住むよか同じ日本のがいいが…。」
あたしに何も言わずに決めた?
てか、それどの道友達と離れることになるな。
「覚えてる?昔住んでたときの幼馴染みのこと。」
あたしが現状を受け入れる時間はないのだろうか…?
「いや、あんまり…。」
「あら薄情、でも再会したら思い出すかもね。」
これはもう…。
受け入れるしかないんだろうな。
「てかさ、このままここであたしが1人暮らしをするという選択肢はないのか?」
「あら忘れた?ここ、会社が用意してくれた要は社宅みたいなものよ、お父さんがフランス行くんだから借り続けられないでしょ。」
「…。」
これは絶対、
1人暮らし用のアパートを借りるという選択肢は?
と言ったところで、
ないわよ。
とか、
そんなの勿体ないじゃないの。
とか言われて一刀両断だろうなぁ。
「ちょっと出てくる。」
桔梗はスマホ片手にリビングから出て行った。
あれは間違いなくあそこに向かったわね!
「連絡入れておこっと。」
狭霧光希。
桔梗がこの地に引っ越してからの付き合いのいわゆる幼馴染みであり親友。
それでは桔梗と光希の出会いに時間を巻き戻そう。
光希の父はその世界では有名な狭霧流古武術の本家師範。
そんな狭霧家に長男に遅れること5年後に生を受けたのが光希。
幼い頃から道場で鍛錬を積み、メキメキと実力を伸ばしてきた。
そんな光希が小学1年生のとき、道場に入門してきたのが桔梗。
2人はそこからの付き合いなのだ。
何故桔梗が道場に入門したかは、いずれお話するとして…。
桔梗が連絡もなく訪ねて来るのはいつものことなので部屋に通し、向かい合って座ると母親が飲み物を持ってきてすぐに退室。
「直接光希の部屋、珍しい。」
狭霧家に桔梗が遊びに来た場合、長い付き合いであるため大抵リビングで光希の家族と一緒に過ごすことが多い。
「連絡あったからな。」
テーブルの上に置いたままのスマホをちょんちょんと指しながら言った。
「母さんか。」
「まぁな。」
「じゃあ引っ越しのことも?」
「聞いた。」
「そっか…。」
「行くんだろ?」
「それしかないから…。」
ずぅぅぅぅん、と落ち込む桔梗。
それを見ながら
ここに置いてくれ、何て甘ったれたことは言わないんだよな。
「偉いなお前は。」
うなだれた桔梗の頭をポンポンしてやる。
偉い?何故?
と思いながらも光希を見つめ、またうなだれる。
「どした?」
「光希と離れるの、何よりも辛い…。」
くっ…!
可愛いこと言うじゃねぇかこいつ!
「安心しろよ、どうにかするさ。」
「どうにかって…。」
どうにかなるの?
「信用出来ねぇか?」
「まさか。」
光希があたしに嘘つくわけないし、出来ないこと出来る何て無責任なことも言わない。
「じゃあ先行って待ってろ。」
「分かった。」
そんなわけで春休みの最中、桔梗は住み慣れた場所から大都会へと旅立つことになったわけだ…。
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる