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第3話 嵐の転校生と嵐の夜に
いやもう犯罪じゃん
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早朝に桃也の運転するワゴンで出発し、近所のコンビニに寄って朝ご飯と飲み物をを購入後、20分程走ったところで高速に入る。
「そう言えば最近梅山さん絡んで来ないね?」
「あそっか、あんとき毅流いなかったもんな。」
ニヤニヤする光希とは逆に、何処か落ち込んだ表情の桔梗。
「やっぱり何かあったんだ?」
「あったも何も…。」
相変わらずニヤニヤしたままの光希が、桔梗がブチ切れた例の件をご説明。
「そんなことあったんだ?まぁ、じゃあ、そりゃあ…。」
流石の梅山さんも心折れたか。
「あんな感じだからそのうち新しい王子様見付けんじゃね?」
「て言うよりさぁ、桔梗もキレたりするんだねぇ、意外。」
助手席から後部座席の方を見ながら海斗が言った。
「光希を悪く言われたからつい…。」
「足場であんなことされてもキレなかったお前がなぁ。」
「おかしい?」
もしかして、もぉにぃたん呆れてる?
「いや、理由がかっけーじゃん、友達のためにキレるとかよ、桔梗は優しいな。」
優しい?
キレたのに?
「大切な人のためにキレたんだろ?それはお前が優しいからだ、偉いぞ桔梗。」
「ありがとう…。」
それ言うなら、あたしがガリガリだのメガネザルだの言われてた話したときに、本気で怒ってくれたもぉにぃたんこそ優しいよ。
やっぱ天は二物を与えずって嘘だな。
スマホの機種変は事前にショップに来店予約をしているため、それまでは買い物を満喫出来る。
まずは桔梗の財布を買い替えるため、桃也御用達の革製品のお店へ…。
「アウトレットってこんなに安いのかよ…。」
多少遠くてもこれからはこっちまで来るかな。
店舗が広い分、いつも行ってるトコより品揃えも豊富だし…。
「これ、安いの、か?」
だとしたら…!
定価はいくらだ?!
「毅流ぅ、向こうに毅流好みの財布あったよ、リーズナブルだったし光希と一緒に見てきたらぁ?」
値段を見てフリーズしている桔梗に代わり、海斗がナイスアシスト。
「じゃあ行こう?」
「おぅ。」
歩きだしですぐに振り返り、海斗に向かってサイレントで
「ありがと。」
それを見てニッコリ笑って返してから、
さぁてこっちはどうかなぁ?
桃也と桔梗を挟むように立って、ショーケースを覗く。
「これ、桃也さんが好きなブランドでしょ?なら別にあたしのをここで買わなくとも…。」
「俺もちょうど財布買い替えようと思ってたから、せっかくならお前と揃いで買ってもいいかと思ったんだ、ここはカラーも豊富だから女性が持ってもおかしくないしな、長財布欲しいって言ってたろ?」
「う、うん。」
「自分の選びがてらネットであらかじめ見てたんだけど、これ何かどうだ?」
ショーケースの中のひとつを指差す。
「あ、あぁ、まぁ、見た目かっこいいし、最初に見たのよりは安い。」
と言っても充分たけぇですよ。
「最初にお前が見たやつは最新モデルだよ、これは2つ前のモデルなんだけど、こっちのが俺好みだったんだ、すいません。」
声を掛けると、近くの店員がすぐにやって来た。
「いらっしゃいませ。」
「これ、見せてもらっていいかな?」
「かしこまりました。」
などと桃也が店員とやり取りしている間…。
「いいんじゃない桔梗~、母さんに値段は絶対気にしないことって約束させられたんでしょ~?」
「う、うん、固く約束させられた。」
「じゃあいいじゃなぁ~い、それに、兄貴が自分からお揃いにしよう何て言うの稀だよぉ、しかも事前にチェック何て、自分のついでみたいな感じで言ってるけどぉ、桔梗のためだと思うよ。」
「ん、ん~。」
まぁ観念してはいるけど、実際値段を見てしまうと…うひゃ~!てなってしまうのだよ。
でも…。
チラッと桃也を見る。
もぉにぃたんがそこまでしてくれるなら…。
「桔梗。」
「ぬ?」
「中はこんな感じだ。」
店員さんが開いて中を見せてくれ、桃也に並んで桔梗もチェック。
「お、小銭入れ大きく開く、使いやすそう。」
「だろ?カード入れるスペースもそれなりにあるし、どうだ?」
「うん、これ、いいかも。」
「他もご覧になりますか?」
「いや、今回はこれにします、俺はともあれこいつは革製品初めてなんで、最初はこの辺りでいいかなとも思うんで、ちなみに在庫のカラー、黒と赤、ありますか?」
「少々お待ち下さい、確認して参ります。」
「お願いします。」
店員が離れたところで
「赤、好きだろ?」
桔梗を見て言った。
「うん。」
「赤っつっても鮮やかではなくてワインレッドというかダーク系なんだけど、お前も気に入ると思う。」
「何から何までありがとう。」
「大したことねぇよ、それにお前は俺と似たトコあるし、大事に長く使いたいなら、いい物買って長く使うって選択肢もあるだろ?」
「それも一理ある。」
光希によく、
お前の場合は、物大事にする通り越してみっともないときあんぞ。
と言われてたんだっけ。
あ、そういや…。
桔梗は辺りをキョロキョロ。
「あ…。」
いつの間にか、あんな所で2人きりに…。
「ボクがアシストしたんだよぉ。」
「かぁ君、グッジョブ!」
「ふふ、ありがとぉ。」
いいぞ光希、なかなか素敵な距離だ。
「お待たせ致しました、在庫がございましたのでお持ちしました。」
そう言って実際に赤と黒の財布が並べられる。
「実際見たらもっと素敵だねぇ。」
「どうだ桔梗?」
「うん、かぁ君がいった通り素敵だし気に入った。」
「すいません、じゃあこれ。」
「毅流も長財布?」
こちらはなかなかいい距離の毅流と光希。
「うん、モモ兄に勧められて長財布にしたら使いやすくて、そしたら今度はここの長財布オススメされたんだ、少し背伸びしてもいいんじゃねぇかって。」
「なるほどな。」
「光希の財布は?」
「いやそれが…財布に関しては桔梗に偉そうなこと云えないくらい年季入ってるんだよ。」
「そうなの?」
「うん、なかなかあたし好みの物に巡り会えなくてな。」
「今使ってるのは?」
「兄貴のお下がり、うちの兄貴センスいいから。」
「仲いいんだね?」
「お前も海斗さんと桃也さんと仲良しじゃん。」
「まぁね。」
「それでどうする?お揃いにするか?」
「えっ!」
お揃いっ?
俺と光希がお揃いっ?
この場にいるのは毅流と光希だけなのだから、それが当然なのだが毅流、プチパニック。
「値段もリーズナブルだし背伸びの手始めとしてはこれ、ちょうど良くね?」
「あっ、うっ、うっ、うんっ、俺もこれがいいと思ってた!」
「じゃあお揃いで買うか?」
「うんっ!お揃い大好き!」
「お揃い大好きって…大好きなのはお揃いだけ?」
「ぴゃっ!」
おかしな悲鳴を上げて一気に顔を噴火させる毅流を見てクスクス笑う。
「ま…、お揃いにするってことは、下心があると思ってくれていいよ。」
ふぉぉぉぉぉっ!!!!!!!!
光希かっこいい~!
お、お、お、俺だって!
「お、俺もあるよっ、下心…っ。」
「ん、期待してる。」
出だしからなかなかいい買い物が出来た面々。
店外に出ながら
「お前何買ったんだ?」
「あれぇ、兄貴気付いてたんだ?実はキーケースをねぇ、この前金具の一部が壊れちゃってさぁ、騙し騙し使ってたんだけど限界。」
「青か?」
「まぁねぇ。」
「かぁ君青好きだよね。」
「海の色ですから。」
「あぁ。」
なるほど、海斗、海だからか。
「毅流と光希はいいの買えた?」
「勿論、最高にいいの買えた。」
本当に満足そうな光希の表情を見てピンとくる。
「ほほぅ、もしやお揃いですな?」
「なっ!」
いきなり図星を突かれ真っ赤になる毅流とは逆に
「まぁな。」
余裕綽々で答える光希。
「じゃあ次はまず靴を見に行くか。」
桃也の言葉で目当ての店舗に向かって歩き出そうとしていると、
「やっぱりいた~!」
急に桃也の腕にくっつく女性。
「ちょっ!おい何だよ!」
「こんな所で偶然会える何てもう運命だよねっ。」
「てめぇ…!」
何でこんなトコにまで!
「あれぇ、この子確かぁ。」
「ミミでぇ~す!やだ何だかみんなイケメン!」
桃也の腕に自分の腕を絡めてキャッキャしているこの女性。
ミミという名でモデルをしている。
ティーンを中心に人気があるのだが、皆様覚えているだろうか?
以前桃也が、
下手くそな女のせいで遅くなった。
と嘆いていたことを。
そう!
このミミこそが桃也が言っていた下手なモデルである。
「離れろうるせぇ…!」
桃也は冷たく言って振りほどく。
「やだ冷たい、せっかく会えたのにぃ!」
「うるせぇよマジで、そんなこと言って最近てめぇちょいちょい現れて纏わりつきやがって。」
「ふぅ~ん。」
ちょいちょい現れる、ねぇ…。
「…?」
何だか、かぁ君いつもと雰囲気違う?
「ねぇミミちゃ~ん。」
海斗は声を掛けながら桃也とミミの間に割って入る。
やだこっちもイケメン!
「なぁにぃ?」
「ボクたち今家族水入らずで仲良く買い物中なんだよねぇ。」
「えっ!家族っ?」
このイケメン桃也の兄弟っ?
やだ素敵!
「だからさぁ…。」
ニコッと笑った次の瞬間、絶対零度の冷ややかで鋭い眼差しでミミを睨む。
「…っ!」
流石のミミも動きを止め、それが予想の範疇だった海斗は固まったままのミミの耳元に口を寄せると、低く冷え切った声で言った。
「てめぇ邪魔なんだよ、さっさと消えろ…!」
パッとミミから離れるとニッコリ。
「理解出来たよね?じゃあボクたちは行くから、バイバイ、みんな次のお店行こ~う。」
あ、いつものかぁ君だ。
未だ固まったままのミミを置いて、少し歩いたところで
「兄貴ぃ、さっき言ってたけどぉ、あの女よく遭遇するの~?」
「ああ、ここ1ヶ月半くらいなんだけど、今みてぇな感じで急に現れてしつこく絡んで来んだよ。」
「桃也さんモテモテ?」
「いやそりゃストーカー予備軍だろうが。」
光希、すかさず桔梗にツッコミ。
「ねぇ兄貴、ちょっとスマホ見せて。」
「いいけど急にどうした?」
訳が分からないながらも、ポケットに入れたままのスマホを海斗に渡していると、
「海斗兄もしかして…。」
ピンと来た毅流は海斗の隣に移動して、一緒にスマホ画面を覗く。
「やっぱり…。」
海斗が操作すると、暗証番号が初期設定のまま。
「モモ兄ぃ、俺と海斗兄で何回もロックかけろって言ったよね…⁉」
「いや、めんどくて…。」
「桃也さん、あたしですらロックはかけてるよ。」
「お前もあたしが再三言ってやっとのロックだけどな。」
そこ言われると痛いっす。
海斗が操作してると、それを見ていた毅流が
「げっ!」
と小さく悲鳴を上げた。
「何だよ?」
「兄貴さぁ、これ見てもめんどいって言えるぅ?」
スマホの画面を見せられ、ん?となる。
「何だこのアプリ、見たことねぇな。」
「あのねぇ、このアプリ、間違いなくあの小娘が勝手にインストールしたんだと思うよぉ。」
「は?」
「どうせ撮影の合間にいじって、撮影再開のときその辺に無防備に置いたんじゃないの?」
「いや、最近はマネージャーに怒られるから気を付けてんぞ。」
「最近でしょ。」
「あのねぇ兄貴、簡単に言っちゃうとこのアプリのせいで、あの小娘には兄貴の居場所、丸分かりだよぉ。」
「はぁっ!マジかよっ?!」
「だから俺も海斗兄も前々から言ってたでしょ、ロックは必須だしスマホに無頓着なのは危険だって。」
「とにかくさぁ、こうやって実害が出たわけだし、今日の機種変を機に心入れ変えてねぇ、いつでもボクがフォロー出来るわけじゃないんだからさぁ。」
「わ、わりぃ。」
海斗は自分のスマホで、桃也のスマホ画面に例のアプリが表示された状態で撮影。
その後そのアプリをサクッとアンスト。
「もう問題ないよぉ、でもあの小娘は警戒するべきじゃない?」
「分かってる。」
「犯罪だ、桃也さん大丈夫?」
「平気だよ、心配すんな、ちゃんと対策は練るし。」
「何かあったらすぐ言って、桃也さんはあたしが守るから。」
「サンキュ、気持ちだけ受け取っておく。」
もぉにぃたん大丈夫かなぁ。
靴を選ぶ際にも、光希は毅流と2人で行動していたのだが、
「考え事?」
「あ、うんさっきの桔梗のことでちょっとな。」
「さっきのって?」
「あいつ、迷わず桃也さんを守るって言ってたろ?」
「うん。」
「あいつが自分からあんなこと言うの珍しいんだよ。」
「そうなの?」
サラッと言ったし道場通ってたくらいだから、前にも誰かに言ったことあるかと思った。
「うちの道場通ってたしそれなりに有段者ではあるけど、ブランクがあるだろ?そこに来てあいつは自分を過小評価するトコがあるから、自分の腕は大したことないと思ってる。」
「それに桔梗、光希といるときは凄い自然体だもんね。」
「うん、ちょっと抜けてるくらい自然体、だからさっきも例えば、光希、一緒に桃也さんを守ろうって言うなら分かったんだけど…。」
「あたしが守るからって断言してたね?」
「ああ、だから意外だなって、そうなるともしかして桔梗は…と思っちまってさ。」
「もしかしたら無意識かな、思い出してはいないみたいだから。」
「ん?どういうことだ?」
「桔梗の初恋、モモ兄なんだよ。」
「ほほ~ぅ。」
光希の目が俄然生き生きする。
「そりゃいいこと聞いた。」
これはもしかしたら、もしかするかもしれんなぁ。
でもまずは…。
「そういうことなら納得した、スッキリもしたし買い物再開、それでどうする?靴もお揃いにするか?」
「そう言えば最近梅山さん絡んで来ないね?」
「あそっか、あんとき毅流いなかったもんな。」
ニヤニヤする光希とは逆に、何処か落ち込んだ表情の桔梗。
「やっぱり何かあったんだ?」
「あったも何も…。」
相変わらずニヤニヤしたままの光希が、桔梗がブチ切れた例の件をご説明。
「そんなことあったんだ?まぁ、じゃあ、そりゃあ…。」
流石の梅山さんも心折れたか。
「あんな感じだからそのうち新しい王子様見付けんじゃね?」
「て言うよりさぁ、桔梗もキレたりするんだねぇ、意外。」
助手席から後部座席の方を見ながら海斗が言った。
「光希を悪く言われたからつい…。」
「足場であんなことされてもキレなかったお前がなぁ。」
「おかしい?」
もしかして、もぉにぃたん呆れてる?
「いや、理由がかっけーじゃん、友達のためにキレるとかよ、桔梗は優しいな。」
優しい?
キレたのに?
「大切な人のためにキレたんだろ?それはお前が優しいからだ、偉いぞ桔梗。」
「ありがとう…。」
それ言うなら、あたしがガリガリだのメガネザルだの言われてた話したときに、本気で怒ってくれたもぉにぃたんこそ優しいよ。
やっぱ天は二物を与えずって嘘だな。
スマホの機種変は事前にショップに来店予約をしているため、それまでは買い物を満喫出来る。
まずは桔梗の財布を買い替えるため、桃也御用達の革製品のお店へ…。
「アウトレットってこんなに安いのかよ…。」
多少遠くてもこれからはこっちまで来るかな。
店舗が広い分、いつも行ってるトコより品揃えも豊富だし…。
「これ、安いの、か?」
だとしたら…!
定価はいくらだ?!
「毅流ぅ、向こうに毅流好みの財布あったよ、リーズナブルだったし光希と一緒に見てきたらぁ?」
値段を見てフリーズしている桔梗に代わり、海斗がナイスアシスト。
「じゃあ行こう?」
「おぅ。」
歩きだしですぐに振り返り、海斗に向かってサイレントで
「ありがと。」
それを見てニッコリ笑って返してから、
さぁてこっちはどうかなぁ?
桃也と桔梗を挟むように立って、ショーケースを覗く。
「これ、桃也さんが好きなブランドでしょ?なら別にあたしのをここで買わなくとも…。」
「俺もちょうど財布買い替えようと思ってたから、せっかくならお前と揃いで買ってもいいかと思ったんだ、ここはカラーも豊富だから女性が持ってもおかしくないしな、長財布欲しいって言ってたろ?」
「う、うん。」
「自分の選びがてらネットであらかじめ見てたんだけど、これ何かどうだ?」
ショーケースの中のひとつを指差す。
「あ、あぁ、まぁ、見た目かっこいいし、最初に見たのよりは安い。」
と言っても充分たけぇですよ。
「最初にお前が見たやつは最新モデルだよ、これは2つ前のモデルなんだけど、こっちのが俺好みだったんだ、すいません。」
声を掛けると、近くの店員がすぐにやって来た。
「いらっしゃいませ。」
「これ、見せてもらっていいかな?」
「かしこまりました。」
などと桃也が店員とやり取りしている間…。
「いいんじゃない桔梗~、母さんに値段は絶対気にしないことって約束させられたんでしょ~?」
「う、うん、固く約束させられた。」
「じゃあいいじゃなぁ~い、それに、兄貴が自分からお揃いにしよう何て言うの稀だよぉ、しかも事前にチェック何て、自分のついでみたいな感じで言ってるけどぉ、桔梗のためだと思うよ。」
「ん、ん~。」
まぁ観念してはいるけど、実際値段を見てしまうと…うひゃ~!てなってしまうのだよ。
でも…。
チラッと桃也を見る。
もぉにぃたんがそこまでしてくれるなら…。
「桔梗。」
「ぬ?」
「中はこんな感じだ。」
店員さんが開いて中を見せてくれ、桃也に並んで桔梗もチェック。
「お、小銭入れ大きく開く、使いやすそう。」
「だろ?カード入れるスペースもそれなりにあるし、どうだ?」
「うん、これ、いいかも。」
「他もご覧になりますか?」
「いや、今回はこれにします、俺はともあれこいつは革製品初めてなんで、最初はこの辺りでいいかなとも思うんで、ちなみに在庫のカラー、黒と赤、ありますか?」
「少々お待ち下さい、確認して参ります。」
「お願いします。」
店員が離れたところで
「赤、好きだろ?」
桔梗を見て言った。
「うん。」
「赤っつっても鮮やかではなくてワインレッドというかダーク系なんだけど、お前も気に入ると思う。」
「何から何までありがとう。」
「大したことねぇよ、それにお前は俺と似たトコあるし、大事に長く使いたいなら、いい物買って長く使うって選択肢もあるだろ?」
「それも一理ある。」
光希によく、
お前の場合は、物大事にする通り越してみっともないときあんぞ。
と言われてたんだっけ。
あ、そういや…。
桔梗は辺りをキョロキョロ。
「あ…。」
いつの間にか、あんな所で2人きりに…。
「ボクがアシストしたんだよぉ。」
「かぁ君、グッジョブ!」
「ふふ、ありがとぉ。」
いいぞ光希、なかなか素敵な距離だ。
「お待たせ致しました、在庫がございましたのでお持ちしました。」
そう言って実際に赤と黒の財布が並べられる。
「実際見たらもっと素敵だねぇ。」
「どうだ桔梗?」
「うん、かぁ君がいった通り素敵だし気に入った。」
「すいません、じゃあこれ。」
「毅流も長財布?」
こちらはなかなかいい距離の毅流と光希。
「うん、モモ兄に勧められて長財布にしたら使いやすくて、そしたら今度はここの長財布オススメされたんだ、少し背伸びしてもいいんじゃねぇかって。」
「なるほどな。」
「光希の財布は?」
「いやそれが…財布に関しては桔梗に偉そうなこと云えないくらい年季入ってるんだよ。」
「そうなの?」
「うん、なかなかあたし好みの物に巡り会えなくてな。」
「今使ってるのは?」
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「仲いいんだね?」
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「まぁね。」
「それでどうする?お揃いにするか?」
「えっ!」
お揃いっ?
俺と光希がお揃いっ?
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「値段もリーズナブルだし背伸びの手始めとしてはこれ、ちょうど良くね?」
「あっ、うっ、うっ、うんっ、俺もこれがいいと思ってた!」
「じゃあお揃いで買うか?」
「うんっ!お揃い大好き!」
「お揃い大好きって…大好きなのはお揃いだけ?」
「ぴゃっ!」
おかしな悲鳴を上げて一気に顔を噴火させる毅流を見てクスクス笑う。
「ま…、お揃いにするってことは、下心があると思ってくれていいよ。」
ふぉぉぉぉぉっ!!!!!!!!
光希かっこいい~!
お、お、お、俺だって!
「お、俺もあるよっ、下心…っ。」
「ん、期待してる。」
出だしからなかなかいい買い物が出来た面々。
店外に出ながら
「お前何買ったんだ?」
「あれぇ、兄貴気付いてたんだ?実はキーケースをねぇ、この前金具の一部が壊れちゃってさぁ、騙し騙し使ってたんだけど限界。」
「青か?」
「まぁねぇ。」
「かぁ君青好きだよね。」
「海の色ですから。」
「あぁ。」
なるほど、海斗、海だからか。
「毅流と光希はいいの買えた?」
「勿論、最高にいいの買えた。」
本当に満足そうな光希の表情を見てピンとくる。
「ほほぅ、もしやお揃いですな?」
「なっ!」
いきなり図星を突かれ真っ赤になる毅流とは逆に
「まぁな。」
余裕綽々で答える光希。
「じゃあ次はまず靴を見に行くか。」
桃也の言葉で目当ての店舗に向かって歩き出そうとしていると、
「やっぱりいた~!」
急に桃也の腕にくっつく女性。
「ちょっ!おい何だよ!」
「こんな所で偶然会える何てもう運命だよねっ。」
「てめぇ…!」
何でこんなトコにまで!
「あれぇ、この子確かぁ。」
「ミミでぇ~す!やだ何だかみんなイケメン!」
桃也の腕に自分の腕を絡めてキャッキャしているこの女性。
ミミという名でモデルをしている。
ティーンを中心に人気があるのだが、皆様覚えているだろうか?
以前桃也が、
下手くそな女のせいで遅くなった。
と嘆いていたことを。
そう!
このミミこそが桃也が言っていた下手なモデルである。
「離れろうるせぇ…!」
桃也は冷たく言って振りほどく。
「やだ冷たい、せっかく会えたのにぃ!」
「うるせぇよマジで、そんなこと言って最近てめぇちょいちょい現れて纏わりつきやがって。」
「ふぅ~ん。」
ちょいちょい現れる、ねぇ…。
「…?」
何だか、かぁ君いつもと雰囲気違う?
「ねぇミミちゃ~ん。」
海斗は声を掛けながら桃也とミミの間に割って入る。
やだこっちもイケメン!
「なぁにぃ?」
「ボクたち今家族水入らずで仲良く買い物中なんだよねぇ。」
「えっ!家族っ?」
このイケメン桃也の兄弟っ?
やだ素敵!
「だからさぁ…。」
ニコッと笑った次の瞬間、絶対零度の冷ややかで鋭い眼差しでミミを睨む。
「…っ!」
流石のミミも動きを止め、それが予想の範疇だった海斗は固まったままのミミの耳元に口を寄せると、低く冷え切った声で言った。
「てめぇ邪魔なんだよ、さっさと消えろ…!」
パッとミミから離れるとニッコリ。
「理解出来たよね?じゃあボクたちは行くから、バイバイ、みんな次のお店行こ~う。」
あ、いつものかぁ君だ。
未だ固まったままのミミを置いて、少し歩いたところで
「兄貴ぃ、さっき言ってたけどぉ、あの女よく遭遇するの~?」
「ああ、ここ1ヶ月半くらいなんだけど、今みてぇな感じで急に現れてしつこく絡んで来んだよ。」
「桃也さんモテモテ?」
「いやそりゃストーカー予備軍だろうが。」
光希、すかさず桔梗にツッコミ。
「ねぇ兄貴、ちょっとスマホ見せて。」
「いいけど急にどうした?」
訳が分からないながらも、ポケットに入れたままのスマホを海斗に渡していると、
「海斗兄もしかして…。」
ピンと来た毅流は海斗の隣に移動して、一緒にスマホ画面を覗く。
「やっぱり…。」
海斗が操作すると、暗証番号が初期設定のまま。
「モモ兄ぃ、俺と海斗兄で何回もロックかけろって言ったよね…⁉」
「いや、めんどくて…。」
「桃也さん、あたしですらロックはかけてるよ。」
「お前もあたしが再三言ってやっとのロックだけどな。」
そこ言われると痛いっす。
海斗が操作してると、それを見ていた毅流が
「げっ!」
と小さく悲鳴を上げた。
「何だよ?」
「兄貴さぁ、これ見てもめんどいって言えるぅ?」
スマホの画面を見せられ、ん?となる。
「何だこのアプリ、見たことねぇな。」
「あのねぇ、このアプリ、間違いなくあの小娘が勝手にインストールしたんだと思うよぉ。」
「は?」
「どうせ撮影の合間にいじって、撮影再開のときその辺に無防備に置いたんじゃないの?」
「いや、最近はマネージャーに怒られるから気を付けてんぞ。」
「最近でしょ。」
「あのねぇ兄貴、簡単に言っちゃうとこのアプリのせいで、あの小娘には兄貴の居場所、丸分かりだよぉ。」
「はぁっ!マジかよっ?!」
「だから俺も海斗兄も前々から言ってたでしょ、ロックは必須だしスマホに無頓着なのは危険だって。」
「とにかくさぁ、こうやって実害が出たわけだし、今日の機種変を機に心入れ変えてねぇ、いつでもボクがフォロー出来るわけじゃないんだからさぁ。」
「わ、わりぃ。」
海斗は自分のスマホで、桃也のスマホ画面に例のアプリが表示された状態で撮影。
その後そのアプリをサクッとアンスト。
「もう問題ないよぉ、でもあの小娘は警戒するべきじゃない?」
「分かってる。」
「犯罪だ、桃也さん大丈夫?」
「平気だよ、心配すんな、ちゃんと対策は練るし。」
「何かあったらすぐ言って、桃也さんはあたしが守るから。」
「サンキュ、気持ちだけ受け取っておく。」
もぉにぃたん大丈夫かなぁ。
靴を選ぶ際にも、光希は毅流と2人で行動していたのだが、
「考え事?」
「あ、うんさっきの桔梗のことでちょっとな。」
「さっきのって?」
「あいつ、迷わず桃也さんを守るって言ってたろ?」
「うん。」
「あいつが自分からあんなこと言うの珍しいんだよ。」
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「うん、ちょっと抜けてるくらい自然体、だからさっきも例えば、光希、一緒に桃也さんを守ろうって言うなら分かったんだけど…。」
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「ん?どういうことだ?」
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「ほほ~ぅ。」
光希の目が俄然生き生きする。
「そりゃいいこと聞いた。」
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最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
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