華と光と恋心

かじゅ

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第4話 好きなヒト

運命の観覧車

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 課外授業が無事終了し、解散となってすぐ桔梗たちはパーク内のカフェテラスへ移動。
限られた時間で何処を見て回ろうかという話をしようとしていたが、
「とりあえずあたしと賢吾は別行動でもいいかな?」
「実はここ、俺たちの初デートの場所だからさ、久々に来たし2人でゆっくり回ろうかと…。」
「だったら解散してすぐ言ってくれたら良かったのに、わざわざここまで来てくれてサンキュ。」
「どういたしまして、それよりちょっといいか?」
そう言って賢吾は、毅流を少し離れた場所に引っ張ってく。
「ん?何?」
「お前も狭霧さんと頑張れよ、応援してる。」
「あ、ありがとう。」
照れる。
「ま、お前と狭霧さんなら問題ないだろうけどな、お前が相当なヘマしない限り。」
「何だよそれぇ。」
「俺なりのエール、焦らずな?」
「うん、頑張る。」
伊織と賢吾が去った後、
「申し訳ないのですが…。」
撫子が済まなさそうに言った。
「実は今日ここで課外授業があることを伝えたら、婚約者が会いたいと…。」
「撫子婚約者がいるの?」
「はい、元々幼馴染みで彼は今専門学生なんです。」
「てことは年上か?」
「はい、彼は今大事な時期ですから邪魔をしたくなくて、あまり私のことで時間を割いてほしくはないんですが…会いたいと言ってくれて、私も本音を言えば会いたいですから…。」
いつもは冷静沈着な撫子が頬を染めるのを見て、本当に好きなんだなぁ、と思う。
そこで撫子のスマホが鳴り、画面を見た瞬間晴れやかな顔になる。
「行ってやれよ。」
光希が言うと、
「ありがとうございます、行って参ります。」
撫子は本当に嬉しそうに去って行った。
「婚約者とか、撫子が改めてお嬢様だと実感する。」
「結局あたしたちだけになっちまったな、まぁ3人で仲良くやるか。」
「うん。」
と頷いたものの…。
あたし邪魔ではないか?
「おい。」
光希に頭を軽くコツッとされる。
「ふぬ?」
「お前今、自分が邪魔じゃね?とか思ったろ?」
「うんまぁ、思ったっす。」
「そんな、俺も光希も邪魔何て思うわけないじゃないか、3人で回ろう、ね?」
「うん、ありがとう。」
「よし、じゃあどれから行くか?」
テーブルにマップを開いて3人で見る。
「絶叫系は鉄板だよな。」
「だったらこれがオススメ、ここで1番の絶叫マシーンだよ。」
「毅流は乗ったことあんのか?」
「うん、前に賢吾たちと男だけで来たんだ。」
誤解されないように、ちゃんと男だけでって言ったけど、変じゃないよな?
「じゃあまずはこれに乗って…イルカショー、見たい。」
「逆がいいんじゃねぇか?」
急に飛んできた声に3人は同時に、声の方に視線を向けた。
「桃也さん何故にっ?」
「モモ兄今日仕事じゃないの?」
「あぁ、もう終わった、ここの新CMの撮影だったんだ。」
そこで桔梗は思い出す。
あの日課外授業の日程を聞いてきたとき、企みっぽい匂いがしたのはこれだったか。
「イルカショーは時間が決まってるし、このアトラクションは多少並ぶ、その上2つの場所は離れてるからな、余裕持って動きてぇならまずはイルカショーだな。」
「おぉ、流石桃也さん。」
「もしかして以前デートで来たことあるとか?」
からかい半分で言った光希に
「まぁな。」
と大人の余裕で軽く返す。
デート…。
ズキン。
まただ…。
何か、また胸がちょっと痛い。
これ、何だろうか?
「ただ中途半端だから少し時間無駄にしちまうかな。」
「ならあたしと毅流は絶叫マシーン、桃也さんと桔梗はイルカショー、どう?」
「えっ?」
急にフラれ、前髪の隙間から光希を見る。
「あたしと毅流は絶叫マシーンのハシゴすっから、桔梗は桃也さんとのんびりイルカショー、どうよ?」
「そうさなぁ、あたしは正直そこまで絶叫マシーン得意じゃないから、ハシゴはキツい、光希と毅流が良ければあたしと桃也さんはイルカショーに行くよ。」
「じゃあ決まりだな、行こうぜ毅流。」
「え、う、うんっ。」
光希に遅れつつも立ち上がる毅流に親指を立てて見せる。
ありがとう桔梗!
毅流はヒラヒラと手を振って答えた。
「じゃあまずは毅流のオススメから乗ろうぜ。」
「うん。」
毅流と並んで歩きながら思った。
なぁ~にが絶叫マシーンのハシゴは苦手、だよ。
あたしより得意だし好きなクセに。
分かりやすいエールだな。
「毅流、桔梗の分も楽しもうな、2人っきりで。」
「う、うんっ。」

正直言うと絶叫マシーン乗りたかったけど、今回は我慢なぁ。
「ホントに良かったのか?」
イルカショーが行われる建物に向かうため、パーク内をのんびり歩いていると桃也が聞いてきた。
「何が?」
「絶叫マシーン、お前が苦手とは思えねぇけど?」
「うんまぁ、それはそうだけど、あの2人を2人きりにさせる作戦は成功だから良しとします。」
「だったらまた来ようぜ、そんときは俺が一緒に乗ってやる。」
トクン…。
何だろう、これ…凄く温かい気持ちだ。
「そのときはもぉにぃたんのオススメよろしく。」
「いいぜ、あ…ちょっとここで待ってろ。」
「ん?うん。」
何だろうかと思っていると、桃也は小走りですぐ近くのショップに入り、数分で戻って来た。
「何か欲しかった?」
「これだよ。」
そう言って見せたのは可愛いヘアピン。
「約束だろ。」
あ、前髪のことか。
「じゃあ鏡…。」
「いいよこっち向け。」
そう言ってヘアピンで器用に桔梗の前髪を止める。
今…また何か、胸が温かく…。
「どうだ?」
「うん、クリアな世界。」
「何だよそれ。」
笑う桃也を見て桔梗も笑う。
「よし、行こうぜ。」
「うん。」
と歩き出したがすぐ止まる。
「もぉにぃたん?」
どうした?
「そのワンピース、やっぱ似合ってる。」
「あ、ありがとう。」
この色男の褒め言葉は破壊力半端ねぇっす。






 
 少し早く夕食を食べ、桔梗たちは観覧車の列に並び始めた。
このテーマパークの中でも大人気であるこの観覧車、実際は大観覧車で1周20分かかるという国内でもハイレベル。
夜にもなると大都会の夜景が一望出来ると、特にカップルに大人気。
ゴンドラも大きめな作りのため、ゆったりと鑑賞出来るのだ。
「けっこう並んどる。」
「まぁこの時間だからな、ここに来た大半はこれが目当てだろうし。」
桔梗と桃也が観覧車を見上げ、そんなことを話している前に並んでいる毅流と光希は…。
絶対観覧車の中で告白する!
毅流は胸の高鳴りを抑えつつ、固く決意していた。
「見事にカップルばっかだな。」
その隣で光希はそんなことを言って行列を眺めた。
「そ、そうだね、今日は平日だし週末の夜だから余計かも。」
と無難に答えつつもソワソワ。
「なぁ毅流。」
「な、何?」
「うちらもカップルに見えるかな?」
フフ…と笑う光希の前でボン!と一気に顔を噴火させる毅流。
それでも何とか
「そ、そう見えると、いいな。」
言葉を絞り出す。

行列の割には思ったより早く、15分程度で順番が回ってきた。
桔梗に見送られながらゴンドラに乗り、告白しようとするもなかなか言葉が出てこない。
「毅流見てみろよ、夜景が綺麗だ。」
「えっ!あ!うんっ!」
告白のこと考えてばっかで夜景見る余裕もなかった。
毅流はとりあえず落ち着こうと大きく深呼吸すると、夜景を見つめた。
「ホントだ、凄く綺麗だね…。」
夜景を見つめる毅流の横顔を見つめ、光希は不意に立ち上がると毅流の隣に移動。
「み、光希っ?」
「本音を言うと…今は夜景何てどうでもいい、夜景を楽しむのは次にデートで来たときにとっといて…、あたしは毅流の気持ちが聞きたい。」
そう言って毅流の手に自分の手を重ねる。
「み、光希、俺…っ。」
「言わなくてもお前の気持ちはあたしと同じだって分かってる、でもちゃんと聞きたい、これでも一応女だからな。」
微笑む光希の瞳は、いつもと違い潤んで見えた。
「俺、光希が好きだ、最初は見た目が好みって始まりだったけど、桔梗から光希の話を聞く度好きになって、実際逢って、一緒に行動するようになってからは、もっともっと好きになった、だから俺…光希の彼氏になりたい。」
「じゃあ、あたしは毅流の彼女だな。」
「うん…。」
そこで微笑み合うと、潤んだままの光希の瞳が妖しく光る。
「光希…?」
「もうすぐてっぺんてことは、誰からもあたしたちの姿が見えなくなるってことだよな?」
「う、うん…。」
何だか光希…距離詰めてきてるっ?
「じゃあ、キスしても恥ずかしくないよな?」
「…っ!」
「好きだよ毅流。」
目を閉じて近付いてくる光希の口唇を見つめ、毅流も瞳を閉じる。
やがて触れ合うふたつの口唇…。
「これからは彼女としてよろしくな。」
「う、うんっ。」
「ちなみに次のキスは毅流からな?」
「がっ!頑張ります!」
「期待してる。」

桔梗と桃也のゴンドラは…。
「うわぁ、綺麗!もぉにぃたん遠くまで見える!」
「そうだな。」
子供みたいにはしゃいでんな。
「これなら光希と毅流は上手く行っているに違いない。」
フフン、と笑う桔梗を見て思わず吹き出す。
「だいぶ得意気な?」
「だって光希と毅流が幸せになるんだよ?嬉しいじゃん。」
「まぁそうだな。」
「この夜景だもんよぉ、イチコロだぁね。」
もぉにぃたんもそうだったんかな?
夜景を見ながら、ボンヤリとそんなことを思う。
「急に黙ってどうした?」
「もぉにぃたんもこの夜景、彼女と見たんかなぁと…。」
「あぁまぁ…正確には元カノな。」
チクリ…。
まただ…また胸が…。
「今は?」
「お前、仕事から直帰してる挙げ句、たまの休みったって大したことしてねぇ俺に彼女がいるとでも?」
「まぁ…うん、影は見当たらない。」
「だろうな、いねぇから。」
「そっかぁ。」
何か今、あたし…ホッとしたのか?
何故に?
「今はそんな気分じゃねぇからな、俳優業もままならねぇし。」
「忘れられない?」
「元カノをってことならちげぇよ、まぁ…別れた当時は納得いかねぇ部分もあったけど今は何とも思ってねぇ、でも…。」
「ん?」
「何つぅかその…まぁ、何もかもが初めてで…この世で唯一俺の初めてを見た女だからな、忘れんのは無理だけどいい思い出にはなった。」
「あぁ、そう…。」
もぉにぃたんの初めての人…。
どんな人なんだろう…。
どうしてこんなに、胸がザワザワするんだろう…。
「俺のことはもういいだろ、それよりそろそろてっぺんだぞ、よく見られるように…。」
桃也はそこまで言って桔梗の隣に座るとヘアピンを外す。
「お?」
「少し髪が落ちてきてる、どうせならクリアな視界でクリアな世界を見てぇだろ?」
ニッカリ笑ってヘアピンを付け直しでやる。
「ありがとう。」
「どういたしまして。」
もぉにぃたん、優しいなぁ…。
こんなに優しい人と何故に別れたのだろうか?
謎だ…。
「あ…写真撮ろう。」
新しいスマホは夜景も綺麗に撮れると毅流が言っていた。
「だったら夜景とお前を一緒に撮ってやるよ。」
桔梗が取り出したスマホを取って桔梗に向ける。
「だったらもぉにぃたんも撮ってあげる。」
「それなら…。」
空いてる手を桔梗の肩に回し引き寄せると
「ぬおっ?」
スマホを持った手を伸ばし
「撮るぞ。」
「う、うん…。」
フレームに入るように自分からも寄り添う。
これ、何か、心臓の動きが早くなって…だけど心地良くて…。
「はいチーズ。」
撮ってすぐに2人で画像を確認する。
「夜景もちゃんと入ってるし、いいの撮れたな。」
「うん、いいの、撮れた。」
桔梗にスマホを返して向かい側に戻ろうとしたが、不意に桔梗がポテッと寄り添ってきたので動きを止める。
「どした?」
疲れたか?
「もぉにぃたんありがとね、今日もお仕事だったのに。」
「平気だよ、俺が好きでやってんだし楽しかったしな。」
「なら良かったけど…無理は駄目だ、疲れたときに無理は良くない。」
「だったら疲れが吹き飛ぶくらいの美味い飯、作ってくれるとありがたい。」
「お安い御用、それでもぉにぃたんの力になれるなら喜んで。」
「ありがとな、でもお前も無理は禁物な。」
と言って頭をポンポンしてやる。
「ラジャー!」
「お、見てみろ桔梗。」
「ん?」
桃也の視線を辿って夜景に目をやると、遠くで花火が上がっているのが見えた。
「おぉ、何の花火?」
「さぁな、しかも遠いな。」
どうせなら近くで見てぇよな。
そう思いながらも桔梗を見る。
「夏んなったら花火見に行くか?」
「おぉ、それ素敵、行く!」
「たくさん見せてやる。」
「嬉しいが無理は駄目だ。」
「分かってる。」
でもな桔梗、お前が嬉しそうな顔してくれんなら、俺の疲れ何て吹き飛んじまうんだよ。
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