華と光と恋心

かじゅ

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第7話 深まる溝とすれ違い

約束の夏祭り

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 翌日、桔梗は起きてすぐに桃也の部屋に向かう。
静かにドアを開けると、薬のせいか桃也はまだ眠っていた。
そっと近付き桃也のおでこに手を充てる。
良かった…すっかり熱が下がってる。
薬が効いたんだな。
朝はとりあえず消化がいい物がいいだろうから、お粥にするか。
冷凍しておいた鮭があったし。
何て思いながらゆっくり部屋を出ようとしたが、
「う、うぁぁ…。」
桃也が唸ったため
起きた?
と思い振り返る。
すると桃也がゆっくり目を開けた。
「あ、起きたね、おはよう。」
ベッド脇に立って桃也を見ると
「あ、おはよう。」
「おはよう、熱下がったみたいだけど、今日1日には安静に、今お粥作って来るから待ってて。」
「あ、ああ、分かった、頼む。」
桔梗が出て行ったのを見送ってから、枕元のスマホを手にして横になったまま検索を開始。
せっかくの夏休み、あと2日しかなくなっちまったからな、確か近場であったハズ。
桃也が検索を始めたのは花火が上がる夏祭り。
観覧車に乗ったあの夜、桔梗に花火を見せる約束をし、それを果たすための検索。
「あった、これだ。」
学生時代は親友の龍輝や、付き合ってからは花蓮とも行ったことのある夏祭り。
花火もかなり上がり、桃也たちには自分たちだけが知る穴場スポットもあった。
ここなら行ける、明日か…。
今日は無理せず明日のために、体調万全にしないとな。

桔梗がお粥を作っていると、毅流が入って来た。
「おはよ、モモ兄どう?」
「おはよう、熱も下がったし今日1日安静にしてれば、残り2日間の夏休みは楽しめると思う。」
「良かった、じゃあ桔梗だけじゃなくてモモ兄も誘おうかな。」
「誘う?何やら面白そうですな。」
「うん、実は昨日光希とお祭りの話になって、最終的に光希の浴衣姿を見たいってなったんだよね。」
「あぁ、あの浴衣ね。」
イケメン女子である光希。
普段着は大抵パンクロック系な上、スカートは制服以外で着たことがない。
そんな娘の姿を見て嘆いた母親が、
「せめてこれくらいは着て。」
と、購入した浴衣を見せたのは1年前の話。
それに対して光希は
「桔梗の分もあるなら着る。」
と答えたため、その程度の条件で着てくれるなら喜んで用意する!と桔梗の分も購入したわけで…。
「ちょうど明日近場で夏祭りがあるんだ、花火もたくさん上がるしそこに行こうって話になって、海斗兄はもう誘ったんだけど桔梗とモモ兄はどうかな?」
「桃也さんにはお粥持って行ったときに聞いてみる、あたしは勿論行くよ。」
もぉにぃたんの体調も大丈夫だろうし。
「それでさ桔梗…。」
「分かってる、浴衣着ますよ、光希にあたしが着ないと着ない、とか言われたんしょ?」
「ありがとう桔梗!」
毅流の表情がパァッと明るくなる。
「着付けは母さんが出来るから、昨日のうちに頼んでおいたからバッチリだよ。」
「ママちゃん忙しくないの?」
「桔梗の浴衣姿が見られるなら問題ないって。」
「あぁそう…。」
それは大丈夫なのか?
「あ、そうそう毅流、覚悟しておいた方がいいよ。」
「覚悟?」
「うん、浴衣姿の光希はかっちょいいし妖艶だから。」
「なっ!」
かっこいい上に妖艶だとぅ!
「ぐ、ぐぬぬぬぬぬぬぅ…!」
「毅流、ファイト。」
「し、精進します…!」
頑張れ俺の理性!
「あたしは出来たお粥を持っていきがてら桃也さんに話してくる。」

桃也の部屋に入ると
「あれっ、かぁ君どうした?」
「兄貴の調子を見がてら明日のお誘いだよぉ。」
「お、もしかして夏祭りかい?」
「そうそう、-bule-のメンバーも行くことになったんだぁ。」
「そっかぁ、賑やかになりそうだね。」
言いながら桃也を見て、はて?となる。
「桃也さん?」
「何だ?」
「調子悪くなっちゃった?」
「いや、だいぶ回復した。」
「そう?何か嫌な顔してるけど大丈夫?」
「いやこれはその…。」
「大丈夫だよ桔梗~、兄貴は明日までに全快出来るかちょっと不安になってるだけだからぁ。」
「そっか。」
なら平気かな、と思いながらテーブルにトレイを置く。
「大丈夫だよ桃也さん、ちゃんと食べて薬飲んで、特製ジュース飲んで1日ゆっくりしてれば明日には元気。」
「あ、あぁそうだな、サンキュ。」
そんな桃也に海斗は目配せ。
上手くやれよな、兄貴。
何を上手くやれよ、と言いたいのかと言うと…。
それではこの部屋の時間を、桔梗がお粥作りに向かった直後に巻き戻そう。
桔梗と入れ違いに海斗が入って来た。
「体調大丈夫ぅ?」
「ああ、今日1日安静にしてりゃ問題ない、それよりどうした?」
「いやさぁ、明日夏祭りあるんだけどぉ。」
「それなら今調べた。」
それって桔梗を誘おうとしてた?
そう思い深い溜め息をつく。
「な、何だよっ。」
「いやそれがねぇ、夏祭りの話になって-bule-のメンバーを誘ったんだけどぉ、runaのシュウがさぁ、カズとヒロの部屋に…てかカズにベッタリでさぁ…。」
「ま、まさか…。」
「そのまさか、流れで結局…runaも来ることになって…まぁさ、バレたらパニックになるとかカズも止めたんだけどさぁ、意外とバレないって、runaのメンバー全員ノリノリみたいだし、特にリョウは内緒にして桔梗にサプライズするってねぇ。」
「そ、そうか…。」
桔梗と2人でゆっくり…とも思ったけど…。
でもこれは考えようによってはチャンスじゃねぇか?
「海斗。」
「ん~?」
あら兄貴、だいぶギラッギラな目をしてるなぁ。
「宣戦布告してやる…!」
と言うわけで…。
いくら何でもリョウのサプライズを潰すのはフェアじゃない、となり、バレないようにしなきゃいけないのだ。
桔梗は変なトコで勘が働くからな、気を付けねぇと。
「桃也さん食べよう?」
「そうだな。」








 そして翌日…。
準備が終わった3兄弟は、リビングにて桔梗、光希の着付けが終わるのを待っているのだが…。
「少し落ち着いたらどうだ?」
呆れた顔で桃也は言って、さっきからソワソワソワソワしている毅流を見た。
「いやだって…桔梗が光希の浴衣姿は妖艶だって言ってたから…。」
想像しただけで居ても立っても居られない!
「はっ!」
「今度は何だよ?」
「モモ兄こそどうなわけっ?」
「何が?」
「桔梗の浴衣姿想像すれば今の俺の気持ち分かるでしょっ?」
何か早口だし必死だな。
「そうだな…脱がせる想像はした。」
ニヤリと笑う桃也。
「なっ!」
一気に顔を真っ赤にする毅流を見て、海斗はぷふぅっと堪えきれず吹き出してしまう。
「毅流ぅ、これが大人の余裕だよ。」
「なっ、何だよっ、悪かったな子供でっ。」
ふてる毅流の頭をポンポンして慰めつつ言った。
「脱がせる想像するのはいいけどさぁ、まずは告白でしょ。」
「分かってる。」
邪魔されなきゃいいけど。
そこでドアが開き、
「渾身の出来栄えよ!」
ドヤ顔の静音が入って来たのを見て、3人はソファから立ち上がる。
「入ってらっしゃいな。」
静音に言われ桔梗、光希が入って来た。
「2人とも素敵だし、浴衣の柄がそれぞれのキャラを引き立たせていていいじゃな~い。」
光希の浴衣は黒地に赤い薔薇が描かれた浴衣。
桔梗の浴衣は赤地に桔梗の花が描かれた浴衣となっていた。
こ…これは!
想像したよりエロっ!
「お前の名前の花だな。」
「う、うん。」
目の前に立つ桃也の距離の近さにドギマギしながらも頷く。
「このヘアピンもかんざしっぽくていいな。」
前髪を止めたヘアピンにそ…と触れながら言ってくる。
「あ、ありがとう、ママちゃんが用意してくれたの。」
「そっか、似合ってて、いつもより可愛く見える。」
「あっ、ありがとう…っ。」
何か、何かもぉにぃたんがいつもと違うし距離が近いっ。
一体どうしたことかっ?
「ちょいと毅流、あんたは彼女に何か言うことないの?」
静音に言われ、やっと我に返る。
光希の前に立つと
「似合ってるし、想像以上にエ…、綺麗でビックリした。」
「サンキュ。」
今エロいって言おうとしなかったか?
「じゃあそろそろ行くか。」










 祐翔は運転しながら呟いた。
「何でこうなった?」
「ホントにねぇ…。」
助手席でそう言ってタバコに火を点けたのは和誠、ではなくケント。
夏祭り会場に向かう車中。
祐翔所有のワゴンには、運転祐翔、助手席ケントの他、後ろに和誠、シュウが並んで座り、更にその後ろにはリョウ、ユキヤが並んで座っていた。
「何かごめんねぇ。」
「いやまぁ、不安は多少ありますけど、一緒に行けて楽しいっすよ、それに…バレたら俺たちに構わず逃げるように、まで言ってくれてんすから。」
「ホントに楽しい?」
運転する祐翔の横顔をじっ、と見ながら言う。
「はい、楽しいっすよ?」
何だ?
俺の言い方嘘っぽかったか?
「ならさぁ、そろそろ止めない?敬語ぉ。」
「はいっ?」
「確かに俺たち先輩だしキャリアそれなりにあるけどさぁ、俺たち的には-bule-のメンバーって可愛い弟分かつ友達みたいに思ってるわけよ、それなのにいつまでも敬語とかかったいわぁ、カズ君何て既にシュウに敬語使ってないじゃない?」
「そりゃそうっすけど、カズだってシュウさん以外には敬語使ってるじゃないっすか。」
「それってヒロ、俺たちと距離置きたいってことっ?」
「いやいやいや違いますよっ、敬ってるんですっ。」
「敬ってるんなら俺たちの意思尊重して敬語止めてよぉ。」
「ん~…。」
その言い方されるとなぁ…。
「わ、分かりました。」
「やったね!これ、他のメンバーにも伝達してね。」

「カズ君俺りんご飴食べたい!あとたこ焼きとぉ、かき氷も食べたいし、あ!お好み焼きも必須だよね!」
「はしゃぐのはいいけど、バレないようにしないと…。」
「分かってるよぅ!」
「ホントに分かってるの?」
和誠の声のトーンが若干変化した気がして、その目をじっと見つめる。
「いい?はしゃいでもしバレたら、俺たちそこから一緒にいられなくなる可能性大なんだよ、バレたら俺と祭り回れなくなるの。」
「そ、それやだっ。」
「だったらもう少し意識して、それとひとつ約束。」
「な、何ぃ?」
無理難題な約束なんじゃないかと、内心オドオドしていると和誠がぎゅっ、と手を握ってくる。
「バレないのも大事、だけどそれと同じくらい大事なのは俺とはぐれないこど、だから会場ではずっとこうして手を繋いでおくこと、ね?」
どきぃーーーーーん!!!!!!!
こういうときのカズ君…エロくて困るぅ!

「顔がデレってる。」
ユキヤの鋭いツッコミに一気に顔を引き締める。
「悪い、言ってくれてサンキュ。」
「何かいいことでもあった?」
「うん、まぁ…。」
参ったな、抱き着かれただけでこんなに浮かれる何て…。
自分でもビックリ。
「何かもう、俺まるで思春期の中学生かよって自分にツッコミたくなる。」
情けなさそうな顔をするリョウを見てクスッと笑う。
「好きになったらそんなものじゃない?」
「そうだけどさぁ、お前は上手くやってるじゃん。」
その発言に一瞬キョトン、とした顔をした後苦笑する。
「どうかな、君にバレてる時点でそう上手くやってるとは言えないような気がするんだけど。」
「そりゃしゃあない、俺とお前は付き合い長いんだから。」
「そういうもの?」
「そういうもの。」
そっか、ならいいかな。
「微力かもだけど協力は惜しまないよ。」
「ん、ありがと。」











 会場に程近いコインパーキングに車を止め、待ち合わせ場所に歩いて行く。
「大丈夫か?」
歩いている途中で、不意に桃也に手を取られそのまま握られてしまう。
「え…っ?」
「いや、下駄だと歩きにくいと思ってよ。」
「あ、うん歩きにくいかもだけど、そこまで心配してくれなくても大丈夫、ありがとね。」
ニッコリ笑顔でやんわり手を離していると、
「あ、いたいたぁ~。」
海斗の言葉で前を見ることに気を取られ、
「うおっ!」
ちょっとした段差に躓いた桔梗の手を掴み
「危ねっ!」
桃也はそのまま抱き寄せる。
「だから言わんこっちゃない。」
「ご、ごめん、ありがとう。」
何か今…待ち合わせ場所に遼平の幻が見えて、若干動揺してしまった。
「心配だから手ぇ…。」
桃也が言いかけた瞬間、
「ぬあっ!」
後ろから凄い勢いで引き寄せられ、そのままバックハグ。
誰だっ?
てか、この匂い…まさかっ。
「り、遼平っ?」
「桔梗にこんなんしていいのは、俺だけなんだから当然、さっきは大丈夫だった?」
「う、うん、桃也さんが咄嗟に引き寄せてくれたから。」
てか何故にここに遼平っ?
「桃也君さっきはありがとう、お陰で桔梗が転ばずに済んだ、ここからは俺が桔梗をエスコートするから、そっちはそっちで楽しんで。」
とまで言うと、桔梗を開放して手を繋ぐ。
「こうすれば次何かあったら俺が助けるから。」
「う、うん、てか何故に遼平?」
「ふふ、桔梗の驚く顔が見たくてサプライズ、嫌だった?」
「嫌くはないが、驚いた。」
「じゃあサプライズ成功ってことでいい?」
「う、うん。」
「じゃあ行こうか?」
桔梗の手を引いてさっさと行ってしまうリョウを見て、桃也はチッと舌打ち。
「手強いライバルだよぉ。」
「分かってる。」
海斗、桃也のやり取りと桃也の眼差しを見て光希はピンとくる。
「毅流もしかして…桃也さん、自覚したのか?」
「うん、そうみたい、俺は直接じゃなくて海斗兄から聞いたんだけど…今夜告白するみたいだよ。」
「へぇ…。」
このタイミングで気付いて告白とか…桃也さんてドMなのか?








 若干キョロキョロしている桔梗を見てクスッと笑うと、
「案外バレないものだから、そんなに気にしないで大丈夫、むしろ普通にしてた方がバレないよ。」
「う、うむぅ、しかし不測の事態が起きたとき、すぐに遼平を守れるようにと思うと…。」
「え、そっち?」
「そっちとは?」
「いや、最初に言ったけど俺が身バレしたら逃げていいから。」
「そうはいかん、そうなったら誰が遼平を守るか。」
「守ってくれるんだ?」
「そりゃ勿論、そうなったら下駄脱いで遼平の手ぇ引いて、全速力で走る!」
「そんな逞しい桔梗も好きだけど、こうして艶やかな浴衣姿ので桔梗と穏やかにお祭り楽しみたいから、バレないようにしようね。」
「う、うん。」
艶やかとか言われてしまった!
「今日のヘアピン、可愛いね。」
「あ、うん、ママちゃんが用意してくれてたんだ。」
「次は俺がプレゼントしたヘアピンして出掛けない?」
「え…?」
「じゃん。」
と言ってヘアピンを出した。
「なるべく身軽で来たかったから、ラッピングとかなくてごめん。」
「これも和っぽくて浴衣に似合いそう。」
「実は昨日夏祭りのことが決まって、慌てて買いに行ったんだ、桔梗が浴衣で来るって聞いたし。」
何処か照れたように笑うリョウを見て、心がほんのり温まる。
「ちょっと待って…。」
ママちゃんには申し訳ないが…。
前髪からかんざし調のヘアピンを取ると、
「俺が付けるよ。」
前髪を束ねてプレゼントしたヘアピンを付けてやる。
「ありがとう。」
言いながら外したヘアピンは大事に巾着の中に入れた。
「似合ってる。」
「あ、ありがとう。」
「じゃあゆっくり回ろうか、桔梗何食べたい?」
「あ、りんご飴。」
「じゃあ行こう。」

2人の微笑ましいやり取りを離れた所から見てチッ、と悪い顔で舌打ちしているのは桃也。
移動を開始する2人に合わせて、自分も移動しようとしていると、
「兄貴ぃ、気持ち分からないでもないけど、やってることまるでストーカーだよ。」
海斗がツッコミ。
「なぬっ?!」
振り返ると海斗だけでなく、輝と由梨亜もいたたまれない顔をして見てきた。
「じゃあどうすりゃ…!」
「悪いけどボクは手伝えないよぉ、この後遅れて来る子と回るから。」
「あの、桃也さん、自然な形で俺たちと一緒に桔梗ちゃんたちと合流しましょうか?」
「あ、あぁ、お願いします。」
「じゃあテル、由梨亜、悪いけど兄貴をよろしくねぇ。」
「任せてよ!あたしとテルでしっかりフォローするわ。」
と話していると、海斗のスマホが鳴った。
「若葉が着いたみたいだからボクは行くよぉ。」
「ああ、桃也さんのことは俺と由梨亜に任せて、お前はお前で頑張れよ。」
「サンキュ~。」

まさか母さんが、あたしの浴衣を用意してるとは思わなかった…。
海斗との待ち合わせ場所で待ちながら、若葉はぼんやりそんなことを考えていた。
昨夜、メンバーに夏祭りに誘われたから行くことを伝えたら、母親が嬉々として浴衣を持ってきたのだ。
望み薄で作ったけど、まさか着てくれる日が来る何て~!
と、泣いて喜ぶ母を見たら断れるわけもなく…。
で、母が着付けてくれたのだが思ったより手こずり、遅れてしまったのだ。
へ、変じゃないかな…。
浴衣何て子供の頃に着たような、ないような…。
朧げなんだよなぁ。
「若葉…。」
声を掛けられ振り返る。
「あ、海斗君。」
海斗は駆け寄り開口一番、
「似合いすぎ…。」
赤い顔で言われ、若葉もつられて赤くなる。
「あ、ありがとう…浴衣何て着たことないから不安だったんだ。」
「そうなの?凄く似合ってる。」
「あ…また…。」
「ん?」
「海斗君、喋り方が…。」
「若葉の浴衣姿が思ったより可愛い過ぎて、余裕がないってこと。」
とまで言うと素早く手を取り、そのまま恋人繋ぎ。
「変な虫が付いたら困るから、絶対俺から離ないで。」
「う、うんっ。」
かっ、かっこ良すぎてあたしの心臓、壊れそう…。
それに離ないでは…あたしの台詞、て思ってしまった。
あたしはこのまま海斗君に…。










 これはマズいな…。
出店を回ってすぐ、シュウがあれが欲しいこれが欲しい、となり、30分後にはお互いの両手は食べ物が入ったビニール袋でパンパン。
「仕方ない…。」
和誠はシュウを連れて、海斗たちと集合した際に桃也に聞いた穴場スポットへと移動。
「確かに誰もいない。」
輝が
「あらかじめブルーシート敷いておくから、疲れたら移動していいぞ。」
と準備していてくれたため、すぐに発見出来た。
人数が人数だけに、デカいブルーシートだな。
「ほらシュウ、靴脱いで。」
りんご飴に夢中になっているシュウに靴を脱がせ、2人並んで座り、傍らに荷物を置く。
「ホントにこれ、全部食べられるの?」
食べられるって言って買ってたけど、りんご飴ですでに満足した顔してるけど…。
「平気っ、ぜんぶ食べるっ。」
りんご飴にかぶりつきながら答えるシュウを見てクスッ、と笑う。
「な、何っ?カズ君もしかして俺がりんご飴だけでお腹いっぱいになっちゃうと思ってるっ?」
「違うよ。」
と言ってシュウの顎に手を掛ける。
「りんご飴のカス、付け過ぎ。」
妖艶に微笑む和誠にゾクッ、と震えていると
ペロリ…。
「…っ!」
口のすぐ横を舐められる。
「かっ、かっ…!」
「嫌ならもうしないけど?」
「い、嫌じゃない…っ。」
むしろ、もっと…。
「もしかしておねだりしてる?」
「そっ、そんな…っ。」
「おねだりする前に、俺に伝えなきゃいけないことあるんじゃない?秀一。」
「ほっ、本名っ!」
「俺が知らないとでも?」
まだまだ甘いなぁ。
「俺に伝えなきゃいけないことが分かったら、そのときに改めておねだりしてね。」
俺が伝えなきゃいけないこと…。
それは…。











 毅流の頬についた綿あめを摘まんでパクッ。
「綿あめと戯れる毅流も可愛いな。」
言いながらスマホで毅流を激写。
「可愛い彼氏ってどうなの?」
頬を染めながら言う。
「あたしにとっちゃ最大の癒しだよ、最初の頃に言ったろ?毅流はそのままでいてくれればいいって、それに…。」
「それに?」
「毅流が思ってるよりも、かっこいい毅流をあたしは知ってるから大丈夫。」
「そ、そうっ?」
「まぁね、だってあたしは世界で今1番毅流を見ているから。」
クスッと笑う光希の口唇には、静音が塗ってくれた口紅。
いつもより赤く熟れて見えて、毅流は思わず口唇を見つめてしまう。
あぁ…キスしたい…!
頑張って俺の理性!
「毅流、お楽しみは最後の最後にとっとこうな。」
ば、ば、ば、バレてるぅ!
俺がキスしたいと思ってるのバレてるぅ!
でももしかして…。
「今、同じこと考えてる?」
「多分な、だってあたしはいつでも毅流が欲しいから。」
かぁぁぁぁぁっ、と顔を真っ赤にさせる毅流を見て、マジで可愛いなぁと思うと共に、沸き上がるのは独占欲。
「そういう顔、あたし以外に見せないようにな。」
「あ、あぃ。」
光希エロくて男前だよぅ。
「あ、桔梗。」
「へ?」
未だ呆けた毅流だが、光希の視線を辿ると、離れた前方に桔梗とリョウの姿が見えた。
リョウさん、しっかり手ぇ繋いでんなぁ、まぁ最強のライバルがいるわけだからしゃあないんだろうけど。
桃也さんはどのタイミングで告るつもりなんだ?
何にしても前途多難だろうよ。
自業自得だけど。
「バレないもんだな。」
「まぁ、誰もこんなトコにいると思ってないだろうし、何だかんだリョウさんたちも慣れてるんじゃないかな。」
「確かに…相当周りに集中して見てる人間じゃなきゃバレなさそうだな。」
このままならあたしの心配は取り越し苦労に終わりそうだ、良かった。
桔梗、嬉しそうだし。
「今夜モモ兄が告白したら、桔梗はどっちを選ぶんだろう…?」
「さぁな、すぐに答えが出せる問題でもないだろうし、まぁどんな答えが出るかは別として、あたしたちは見守ってようぜ。」
「うん。」
「あたしは桔梗が傷付かなきゃそれでいいんだ。」
「そうだね。」
誰も傷付かないといいのに…。
「あ…。」
「どうしたの?」
「接触するみてぇだな。」

「そろそろ穴場スポットに行って少し休む?足疲れたろ?」
と遼平に言われ、一旦集合場所である穴場スポットへ向かっていた。
少しずつ人の波が減ってきたところでホッとひと息。
遼平が休もうって誘ってくれて良かった。
流石に少し足が痛い感じする。
やっぱり下駄は慣れない。
昔の人って凄いなぁ。
て言うか…。
「遼平、ありがとう。」
「ん…?」
「あたしが慣れない下駄だから、合わせてゆっくり歩いてくれてる、よね?」
「気にしなくていいよ、俺も久々の祭りだからゆっくり見たかったし、お互い様。」
ニッコリ微笑むリョウを見ただけで、胸が温かくなる。
遼平の優しさって、ホッとする。
癒しだなぁ。
あたし、この人に好きだって言われてるんだな…。
改めて思うと照れる…。
「何考えてるのかな?」
「え?」
「顔が赤くなった。」
「ぬえっ。」
「桔梗可愛い。」
ぐはっ!
痛恨の一撃じゃ!
な、何てキラースマイル…っ!
「桔梗。」
不意に呼ばれて振り返ると、そこには桃也、輝、由梨亜の姿。
「休むのか?」
近付きながら桃也が言ってきた。
「あ、うん、遼平が休もうって言ってくれたから。」
「あたしたちも少しゆっくり休もうって歩いてたら桃也さんとバッタリ、リョウさん、桔梗ちゃん借りていいですか?」
「あ、うん。」
「じゃあ桔梗ちゃん、あたしと一緒に行こう?今日桔梗ちゃんと会えるの楽しみにしてたのよ。」
「あたしも由梨亜さんに会えて嬉しい。」
「や~ん!もう桔梗ちゃん可愛いっ!早く穴場スポット行ってお喋りしよっ、たこ焼き食べる?」
「うん。」
「じゃあ行こ行こ、テルぅ。」
「はいはい、じゃあ俺たち先に行きますんで。」
桔梗と手を繋いで歩いて行く由梨亜の後ろに付いて、輝も行ってしまい、桃也とリョウだけが残る。
「俺たちも行く?」
リョウが声を掛けると、
「歩きながらでいいんで話、聞いてもらってもいいすか?」
その眼差しから、どれだけ深刻な内容か伝わってくる。
「いいよ。」
内容は十中八九桔梗絡みだろうけど…。
「今夜桔梗に告白します。」
「へぇ…。」
とうとう自覚したか…。
周りから聞いているだけだったが、桃也は桔梗への想いを自覚していないだけでは?と思っていたので…。
「まぁ、予想の範疇かな。」
と返す。
「それで…俺に宣戦布告?」
「そんなトコです、それに影でコソコソ口説くのは性に合わないんで…。」
「そう、まぁこの勝負、負ける気しないけどね。」
リョウがニヤリと笑うと、桃也もニヤリと笑って言った。
「俺も桔梗だけは渡す気ないんで、絶対負けません。」
選ぶのは桔梗だ、だけど絶対、桔梗だけは誰にも渡さねぇ…。










 花火も終わり、みんなで後片付けをしていると、
「わりぃ、ちょっといいか?」
桃也に腕を掴まれ、軽く引き寄せられる。
「え、あ、うん…。」
リョウはそれをチラッと見たが、そのまま後片付けを続行。
桃也はすんなり桔梗を穴場スポットの奥の人気のない場所に、桔梗を連れて行った。
「いいのリョウちゃん?」
「桔梗ちゃん、桃也君と行っちゃったよ。」
「告白とかされちゃうんじゃないのぉ?」
「ああ、そう聞いてる。」
普通に答えるリョウを見て、ケントとユキヤは顔を見合わせる。
「え、いいの?リョウちゃんそれでいいの?」
「俺に止める権利はないし、決めるのは桔梗だよ、それに…負ける気しないし。」
ニヤリと笑うリョウを見て、ケントはユキヤに耳打ちする。
「リョウちゃん本気モード突入だね。」
「うん、アクセル全開。」
こんな遼平、久々に見たなぁ。

「あの、もぉにぃたん?」
みんなから離れちゃったし、後片付け途中だったんだけど、一体どうしたのだろうか?
「桔梗…。」
自分を見つめてくる桃也を見て、思わずドキッとしてしまう。
「あ、あの…。」
何だ?何だこのもぉにぃたん。
何か、ただ真剣な眼差しって言うか…熱っぽい。
は!まさか!
「もぉにぃたん!」
桔梗は桃也に近付きバッ!と桃也の額に手を充てる。
「お前何やってんだ?」
「いや、何かもぉにぃたんの視線が熱っぽかったから、もしかしたら風邪がぶり返したのかと。」
「そうじゃねぇって。」
またこいつは独特の感性で的外れなことを…。
「伝えたいことがあってな。」
「ん?」
桃也は目の前にいる桔梗の手を取ると、腰をグイッと抱き寄せる。
「えっ!ちょっ!」
「桔梗、お前が好きだ…。」
「へっ?えっ?」
なぬっ?何とっ?てかこの密着度はどういうことかっ?
「言っておくけど、今の好きは愛してるって意味の好きだからな。」
と言って顔をグイッと近付けてくる。
「なっ!」
なっ!なっ!何ですとぅ!
「自覚させたのはお前だからな、責任は取ってもらう。」
不敵に笑う桃也を前に、最早声も出ず…。
「告白は自由だけど、その密着度は見逃せないな。」
リョウの声が聞こえ、桃也はチッと舌打ち。
「あまり不用意に桔梗に触れないでくれる?免疫ないんだから。」
まで言うと桃也の手から、少し強引に桔梗を奪いそのままバックハグ。
「人に言っておいてあんたは密着するわけ?」
「君に遠慮する理由はないだろ?」
「だったら俺も容赦などしない。」
い…。
一体何が起きているのだ?!
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