華と光と恋心

かじゅ

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第7話 深まる溝とすれ違い

決断

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 遼平がいるから大丈夫。
桔梗が言った言葉が頭から離れない。
要はリョウと付き合うことになった、ということなのだろうか…。
心がバラバラになる衝撃だった。
花蓮といるところは誤解だと、そんなものを解くの何かどうでも良くなった。
桔梗が自分以外の誰かのものになったのだと思うと、そればかりが気になってどうしようもなかった。
あんなに周りに言われていたのに…。
毅流の言う通り、その気になればいつだって告白出来たんだ。
その結果が良かろうが悪かろうが、こんな気持ちにはならなかった。
あんなに独占欲丸出しで、時には桔梗を傷付けるようなことまでしておいて、俺は告白しなかった。
だけどリョウはどうだ?
ちゃんと自分の気持ちを受け止めて、桔梗に告白して、桔梗もそれをきちんと受け取った。
ずっと、
でも、だけど…。
何て陳腐な言葉で大事なことを後回しにしていた俺に、勝ち目何かあるハズない。
あんなに後悔してほしくないと言ってくれてたのに。
俺はそんな周りの言葉を無視して、すべてを棒に振ったんだ。
こんなになってから気付く何て…。
俺は大馬鹿野郎だ。

 朝目が覚めて、体を起こそうとしたが、鉛のように重く感じ動かない。
そう言えば全身が熱く感じる…。
「ぬぁぁ…。」
今日から4日間、念願の夏休みだと言うのに何だこれは?
とにかく起きてリビングに行けば、何とかなるだろう…。
桃也がどうにか起き上がろうとしていると、不意にノックの音。
「う、うぁぁ。」
喉がカラカラで上手く声も出せないし、声を出そうとする力も入らない。
これは…風邪か…?
ドアをノックしたのは桔梗。
全員朝食が終わったというのに、桃也だけ下りて来ないため心配で様子を見に来たのだ。
何か…微妙に声が聞こえたような気もするけど…。
少しだけドアを開けて中の様子を窺うと…。
「どうしたもぉにぃたんっ?」
うつ伏せで真っ赤な顔。
グッタリとした表情で荒い呼吸を吐き出す桃也を見て、すぐに部屋に入ると桃也に寄りおでこに手を充てる。
「うわあつっ!」
高熱!
「ちょっとお待ち!」
桔梗は慌てて出て行き、仕事中の隆一、静音ではなく海斗に事情を説明。
海斗がかかりつけのお医者さんに往診に来てもらえるよう連絡をしてくれることになり、桔梗はリビングに戻り手早く風邪に効く特製ジュースを作ると冷えピタと体温計を準備し桃也の部屋へ。
「もぉにぃたん今お医者さん来るからね。」
言いながらサイドボードに特製ジュースを置き、
「ふんっ!」
気合で桃也を仰向けに転がす。
「よし!」
前髪を避けながら冷えピタを貼って、
「ジュースなら飲める?」
グッタリしたままの桃也を、再び気合で体を起こしてやる。
「う、うぅぅ。」
うっすら目を開ける桃也を見て、意識があるのを確認、特製ジュースを入れた吸い飲みを口元に持って行く。
「ほい飲んで。」
「あ、あぁぁ。」
何とか吸い飲みで特製ジュースを飲んで行くのを見てホッ、とする。
良かった、水分も摂取出来なかったらどうしようかと思った。
「ゆっくり飲むんだよ。」
ゆっくりだけどけっこう飲んでるな、あとでたくさん作っておかなきゃいけん。
飲み終えたのを見てサイドボードに吸い飲みを置くと、ゆっくり寝かせてやる。
「お次は…。」
スイッチを入れて体温計を耳に入れると、僅かな時間でピピピッと電子音が鳴り、体温が表示される。
39度8分…かなり高いな。

往診に来た医者の診察では夏風邪だった。
少し熱が高いですが、薬を飲めば少しずつ良くなると思います。
2日経っても熱が下がらないようでしたら、連絡を下さい。
とのことだった。
お粥を作って持って行くと、先生が打った注射が効いたのか、桃也は何とか自力で体を起こした。
「お粥作って来たんだけど食べる?」
「食べる。」
「はいはい。」
ベッドからソファに移動しようとしている桃也を見て、お粥をテーブルに置いて素早く動いて桃也に肩を貸しソファに移動。
「大丈夫?」
「う、うぅ、熱い。」
うん、まぁそうだろうな、40度近くあるんだし…。
「もう少しすればきっと注射のおかげで少しは熱下がるかもだし、これ食べて薬飲めば楽になる。」
桃也の前にずずず…と1人鍋に入ったお粥を移動すると、
「あ~。」
口を開けてきた。
ん?
んんん?
これは…!
はいあ~んして、てことか!
桃也を見ると…。
何か…雛鳥みたいで可愛いな。
桔梗はレンゲでお粥を掬うとふぅふぅして、
「はいあ~ん。」
あむっ、と食べる桃也。
か…!可愛いな!
何だ?風邪で弱ってるからか?
このもぉにぃたん、可愛いが過ぎるぞ!
今まで見たことのない、桃也可愛いバージョンに萌えながらお粥を食べさせ終える。
食欲はあるみたいで良かった。
「よし、じゃあこの特製ジュースで薬飲んじゃって。」
自分に言われた通り薬を飲んだ桃也に、
「じゃあ横になりましょうな。」
声を掛けてベッドに寝かせる。
「今特製ジュースをデキャンタで持って来るから待っててね。」
タオルケットを掛けてやり、立ち上がろうとしたが桃也に手首をやんわり掴まれる。
「ん?どした?」
もぉにぃたんどうしたんだ?
「…。」
「何か欲しいの?」
「あ、いや…。」
そう言って手を離す。
枕元にスマホがあるのを確認してから、
「何かあったら電話して。」
自分のスマホをポケットから出して、見せながら言った。
「分かった。」
「じゃあ少し待っててね。」
空になった鍋を持つと、桔梗は静かに出て行った。
風邪で弱ってるからって俺…。
桔梗に行かないでくれ、何て言いそうになってた。
ださ…。

リビングに入ると海斗と毅流が待っていた。
「あれ毅流、光希のトコ行ったのかと…、かぁ君も今日は-bule-の活動ないの?」
「モモ兄が心配だから休ませてもらったんだ。」
「ボクは最初から予定なかったんだよねぇ。」
「そっか。」
2人とも、もぉにぃたんが心配なんだな、流石仲良し兄弟。
鍋を洗っているとポケットに入れたままのスマホが鳴る。
あ、もしかしたらもぉにぃたんから早速電話か?
一旦洗うのを止め、タオルで手を拭いてからスマホを手にすると、
「んなっ!」
遼平からだ!
ドキドキする胸を落ち着かせるように深呼吸してから電話に出る。
「もしもし?」
ーごめん、もしかして忙しかったかな?ー
「あぁいや、ちょっと心を落ち着かせていた。」
ーあはは、そっかそっかぁ、じゃあ今大丈夫?ー
「うんへーき、どうしたの?」
桔梗の声が弾んでいるのを聞いて2人は目配せして、同じことを考える。
絶対リョウからだな。
ー暇な日あったらさ、デートしない?ー
「でっ!」
デートですとぅ!
ー俺は今日にでも逢いたいんだけど、突然電話しちゃったからそれは無理だろうから、桔梗の都合はどうかな?ー
「あ、あの…別に逢いたくないとかそういう意味じゃなくて、実は桃也さんが風邪引いちゃって、看病したいから、桃也さんが回復してからかな…ごめんなさい。」
ー謝らなくていい、そういう理由なら仕方ないから、お大事にして。ー
「うん、ありがとう。」
その後少し話してから通話を終了。
あぁー!ビックリしたぁ!
まさか遼平にデートと言われるとか…ある意味心臓に悪い。
洗い物を再開してすぐ
「リョウからだったの?」
毅流に聞かれる。
「あ、うん、で…逢おうって言われて予定聞かれたんだけど、桃也さんの看病があるから、桃也さんが回復したら連絡するって伝えた。」
デートに誘われたんだな。
桔梗は上手く隠したと思っているが、2人にはバレバレ。
「兄貴の看病だったらボクと毅流でも大丈夫だから、リョウに会って来たらぁ?」
「そういうわけにはいかないよ、遼平だってそういう理由なら仕方ないって言ってくれたし。」
それにこんな状態で遼平に逢っても楽しめないだろうし。
洗い物を終え、あらかじめ作っておいた風邪に効く特製ジュースを冷蔵庫から出すと、デキャンタに移し替える。
「じゃああたしは桃也さんトコにこれ置いてくる。」
「あ、待って桔梗。」
「どした?」
「今日母さんの代わりに洗濯するんだよね?それ俺と海斗兄でやるから、そのままモモ兄に付いていてあげて。」
「いやでも…。」
「多分モモ兄、相当辛いと思うんだ、俺たち兄弟ってありがたいことに全員頑健なんだよね、そのせいか風邪引くと凄く辛いし心細くもなったりして…。」
あ…もしかしてさっき、掴まれたのってもぉにぃたん、あたしにいて欲しかったのか?
「ボクたちもちょいちょい顔出すからさぁ、兄貴に付いててくれる?」
「分かった、じゃあ行ってくる。」
デキャンタを手に桃也の部屋に戻ると、少し呼吸は荒いものの、さっきよりは落ち着いていた。
「もぉにぃたん大丈夫?さっきはコップで飲めたけど、吸い飲み持って来ようか?」
「いや、いい、だから…。」
「大丈夫、ここにいるよ。」
ベッドに腰掛け、子供をあやすように桃也をポンポンしてやる。
「そろそろ薬も効いてくるし、少し眠って?」
さっき貼ったばっかだけど…。
冷えピタを確認してから、そのまま頭を撫でてやる。
今出て行こうとしたら止められそうだし、もぉにぃたんが眠ったのを見計らってから替えの冷えピタ持ってくるかな。
「子守唄でも歌う?」
「馬鹿言うな。」
そう言って弱々しいながらも笑う。
「歌われたくないなら寝る、ね?」
「ああ、おやすみ…。」
「おやすみ。」








 うっすら目を開ける。
どんくらい寝たんだ?
腹減ったな…。
桔梗は何処だ?
横を向くと、
「あれぇ、起きたぁ?」
「海斗?」
「そうだよ、桔梗なら兄貴の昼飯作りに行ってるよ~、その間の相手はボクで我慢してね。」
「我慢てお前…。」
「熱はどうかなぁ?」
桃也の側に寄り、持っていた体温計を耳に入れる。
「ん~、39度ジャストか、少し下がったかなぁ。」
注射打ったし薬も飲んだからかな。
「桔梗ね、ずっと兄貴に付いてくれてたんだよぉ。」
「そうなのか?」
「うん、まぁボクと毅流が頼んだのもあるけどさぁ、それでも心配でついてたんだよ、だって健気だよねぇ、兄貴が回復するまではってリョウのお誘いも断ってたんだからぁ。」
「え…。」
「兄貴に朝飯食べさせた後、リョウから電話がかかってきてねぇ、お誘い受けたのに断ったの、健気な桔梗も偉いけどさぁ、その桔梗の意志を尊重したリョウの懐の深さ、見習わなきゃねぇ、兄貴。」
「…。」
「ま、風邪引いてるからこれくらいにしてあげるぅ、でもさ兄貴、諦めるには早いよね?」
「え…。」
そこでドアが開き、桔梗が鍋焼きうどんを持って現れる。
「熱いかもだけど、風邪も吹っ飛ぶ光希直伝鍋焼きうどんだよ。」
テーブルの上に置いていると、
「ほら兄貴移動出来るぅ?」
海斗が手を貸して、桃也をソファに移動させる。
「じゃあ桔梗、ボクは行くねぇ。」
「ありがとかぁ君、お昼は…。」
「ボクと毅流ならどうにでもなるから大丈夫だよぉ、だから兄貴をよろしくねぇ。」
「かしこまり!」
海斗が出て行くのを見送ってから桃也に向き直る。
「気持ち悪いとかはない?」
「平気だ、ちょうど腹減ってたし。」
「なら良かった、じゃあ食べましょかね。」
お椀によそったうどんをふぅふぅして、
「はいあ~ん。」
素直に食べる桃也を見て、
やっぱり雛鳥みたいで可愛い。
と思いながら食べさせる。
あ、冷えピタ取り替えなきゃなぁ。
さっきテーブルの上に置いた冷えピタをチラッと見てそんなことを思いながら、うどんを食べさせていると
「悪かった…。」
いきなり謝られる。
「ん?」
もしかして看病のことか?
「これくらい大丈夫、体調悪い人の看病するのは当たり前。」
「そうじゃなくって…。」
桃也が何か言おうとしているので、一旦お椀を置く。
「どしたの?」
「俺の看病すんのに、デート断ったんだろ?」
「なっ!何故にそれを…!」
遼平と電話したのはここじゃないし、もぉにぃたんは知らないハズなのに…!
はっ!
「エスパーか!」
「ちげぇよ、海斗に聞いたんだ。」
「あ、あぁそう、そうよなぁ。」
あのとき毅流とかぁ君いたもんなぁ、とんだ早とちり。
「そのことならへーき、謝る必要ない、遼平も納得してくれて、付いててあげなって言ってたし、あとお大事にとも言っていた。」
「そ、そうか…。」
「うん、だから大丈夫、そんなことは気にせずに、まずは治す、せっかくの休み寝込むのは勿体ない。」
「そうだな。」
「ならば食べて薬飲んで寝る。」
「分かった。」
本当は会いに行けと言った方がいいかもしれない。
だけど…。
傍にいてほしい…。








 目を覚ますと部屋は薄暗かった。
日が傾きかけてる、俺どんだけ寝たんだ?
重い体をゆっくり起こすと、
「どしたの?何か欲しい?」
桔梗がすぐに背中に手を回し支えてくれる。
「わりぃ…。」
「平気だよ、ちょっと待って。」
おでこに手を充てられ、
「まだ少し熱が高いね。」
「…っ。」
顔がちけぇよ!
計らずも至近距離で見つめ合う形になってしまう。
「もぉにぃたん熱上がった?顔が真っ赤になった。」
「これはその…っ。」
「大丈夫?冷えピタ交換するか。」
離れようとした桔梗の腕を掴んで引っ張ると
「ぬあっ。」
まだ桔梗の片手が背中に回ったままだったため、抱き合うような格好になってしまう。
「もぉにぃたんっ?」
「わりぃ、離れねぇでくれ…っ。」
堪えきれず強く抱きしめてしまう。
「あ、あの…。」
「お前を渡したくねぇ…。」
そう言って桔梗を見つめ、桔梗も自分を見つめてくる。
頬に手を差し伸べると、
「もぉにぃたん、手ぇあったかい。」
「熱のせいだ。」
けど…。
「今からすることは熱のせいじゃねぇから。」
傾けた顔を近付け、桔梗の口唇に自分の口唇を…。

はっ!と目を覚ますと、目の前に桔梗の顔があった。
「良かった、目覚めた。」
「あ…。」
今のは…夢だったのか?
「スヤスヤ寝てたと思ったら唸り始めたから起こした、怖い夢でも見た?」
「いや、怖い夢ではねぇけど…。」
「うわ、凄い汗だ、こりゃマズい、もぉにぃたんほんの数分だから待っててね。」
桔梗がドタバタと出て行くのを見送ってから、盛大な溜め息。
いくら風邪引いて熱があるからって、あんな夢見るか?
桃也が未だかつてないくらいの自己嫌悪に陥って数分が経った頃、ドアが開き
「お待たせ!」
お湯が入った洗面器とタオルを持った海斗。
着替えのパジャマと下着を持った桔梗。
「桃也さん体の汗綺麗に拭いて、新しいパジャマと下着に着替えてね。」
「拭くのと着替えはボクに任せて~、桔梗にやらせるわけにいかないからねぇ。」
「着替えはここに置くね。」
と言ってソファに置く。
「じゃあかぁ君、よろしく!」
敬礼して見せると
「任せて~。」
海斗も敬礼して見せる。
「じゃあ、あたしは一旦席外す。」
そう言って部屋を出ると1階に下りてリビングへ…。
「モモ兄どう?」
「朝よりはダルさはなくなったし、少しずつだけど熱も下がってる、問題なし。」
ぐっ、と親指を立てて見せると、毅流はホッとした表情。
「良かった、せっかくの夏休みなんだから早く治るといいね。」
「そだねぇ。」
桔梗が答えていると来客を知らせるインターホンの音。
「あ、多分光希、さっきモモ兄のお見舞い来るって言ってたから。」
「ほっほぉ~ぅ。」
ニヤニヤする桔梗を前に真っ赤になってしまう。
「ほっ、ほら桔梗っ、行くよっ。」
「へいへい。」
照れとる照れとる。
毅流と共に玄関に行って光希を招き入れたのだが…。
「実は玄関付近をウロウロしてた人物がいたから連れて来た。」
「えっ!不審者っ?」
「大丈夫毅流、ホントの不審者なら今頃光希が締め上げてる。」
2人がそんな話をしている中、開いたままの玄関から外に顔だけ出して
「どうぞ。」
と声を掛ける。
すると現れたのは…。
「りょっ、遼平っ?」
「玄関先まで来たら入るかどうか悩んでるみたいでウロウロしてたからな、あたしから声掛けた。」
「その…桔梗から桃也君が風邪だって聞いてさ、家の場所は知ってたしお見舞いに来たんだけど…。」
いざここまで来たら、俺からのお見舞いとか嫌だよな、とか思って悩んでしまった。
恥ずかしそうにサングラスを外すリョウから桔梗に視線を向けながら、
「わざわざモモ兄のお見舞いに来てくれる何て、リョウさんは優しいね?桔梗。」
ニヤニヤニヤ~。
「ぐぬぅ。」
毅流め!
さっきの仕返しじゃな。
「毅流、あたし桔梗の特製ジュース飲みたいからいいか?」
「あ、じゃあリビング行こうか?」
「サンキュ。」
光希はさっさと靴を脱ぎ、スリッパに履き替えると
「ごゆっくりぃ。」
毅流並みにニヤニヤしながら、2人はリビングへ行ってしまった。
くっそぅ!
してやられた!
「あ、あの、遼平も上がって。」
「いや、俺はいいよ、これだけ渡しておく。」
と言って箱を渡す。
「これは?」
「消化しやすいゼリー、熱があるって聞いたから冷やして食べるといいかなって。」
「ありがとう。」
「桃也君の具合は?」
「朝よりは落ち着いたよ、熱も少しずつだけど下がってきたし。」
「なら良かった。」
「あ、ちょっと待っててね。」
桔梗は一旦リビングに引っ込んだが、少し間を空けてからサーモボトルを持って戻って来た。
「これ、特製ジュース、疲れたときに飲んで。」
「ありがとう、助かる。」
笑顔で受け取る。
「ホントに帰るの?」
上目遣いで聞いてくる桔梗にグッと来る。
こういう無意識の仕草、可愛すぎて困る…。
「桔梗、ちょっといい?」
「ん?」
何かと思っていると、不意に腕を掴まれ
「…っ!」
引き寄せられると、すぐに抱きしめられてしまう。
「ごめん、ちょっとだけ充電させて。」
「じゅ、充電っ?」
「昨日少し曲作り頑張り過ぎたから。」
「あ、う、うん…。」
恥ずかしいんだけど、心臓爆発しそうなくらい暴れてるんだけど…。
遼平の匂い、落ち着く…。
胸に顔を埋め、背中に両手を回すと背中をさすってやる。
「桔梗?」
「よく頑張りました。」
もしかして頭を撫でる変わりに、背中をさすってる?
「クス…ありがとう。」
桔梗を解放してニッコリ笑う。
「おかげでフル充電出来たから、次のデートまでもちそう。」
「そ、そう?」
「まぁね、とりあえず桃也君が回復したら連絡して、それまでは俺のことは気にせずに看病に専念するんだよ。」
「うん、ありがとう。」
「じゃあまたね。」
桔梗に背中を向けて数歩歩いたところで、
「え…っ!」
リョウは動きを止めてしまう。
それもそのハズ、桔梗が後ろから抱き着いてきたのだ。
「桔梗…っ?!」
「あ、あたしも、充電っ。」
参ったな…。
こんな不意打ち、流石の俺もグラついた。
それでも何とか落ち着いた素振りで、回された手に自分の手を重ねる。
「今度逢うときは、2人きりでゆっくりしようね?」
「うん、分かった…気を付けてね。」
「ありがとう。」

体を拭き、部屋から出ようとしたが
「ちょっと待っててくれ。」
桃也に呼び止められ、着替えが終わるまで背中を向けていた。
「いいぞ。」
振り返ってベッド脇に移動すると、そのままベッドに腰掛ける。
「それでぇ、どうしたわけ?」
「今まで散々忠告されたのに、無駄にして悪かった。」
「それ、本気で言ってる?」
「ああ。」
海斗は溜め息をついてから
「それで?自分の気持ちに気付いたの?」
「桔梗が好きだ。」
うわぁ、何この目、真っすぐで滅茶苦茶清々しい。
覚悟決めたわけね。
「で、諦めるの?」
「まさか…。」
「だったら俺の忠告、まだ無駄になってないよね?それに覚悟を決めたなら兄貴に教えてあげる、桔梗とリョウ、まだ完全に付き合ったわけじゃないみたいだ。」
「そうなのか?」
「まぁね、とは言え…兄貴がかなり劣勢なのは間違いないよ、相当努力しないと覆せないだろうね。」
「分かってる、足掻くだけ足掻いてやるさ。」
桔梗が好きだと決断したんだ、もう迷ったりしない。
やるだけやってやる…!
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