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第7話 深まる溝とすれ違い
もう大丈夫
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嬉しそうに花火を見つめる若葉の隣に立ったのは海斗。
「だいぶ楽しんでるんじゃなぁ~い?」
「あ、う、うん、こんな近くで花火見るの、多分子供の頃以来だから。」
「そっかぁ。」
若葉って思った以上にドラムに夢中だったんだなぁ、他に興味なさ過ぎ。
「-bule-のみんなには感謝してるんだ。」
「どしてぇ?」
「あたしずっと、ホントにドラムしか興味なくて、他のことはどうでも良かったからその気になれなくて…。」
とまで言って苦笑する。
「だけど-bule-に加入して、みんなと一緒にいるうちに色んな体験して、それが凄く楽しくて、そういう経験も大事なんだなって思った。」
「そう?そう思ってくれたら嬉しいなぁ。」
「特に海斗君には感謝してる、いつも助けてくれてありがとう。」
「どうして俺が若葉を助けるか、訳を知りたい?」
何処か含み笑いの海斗を見つめゾクッ、としながらも頷く。
「いつか若葉が俺なしじゃいられなくなるため、だったらどうする?」
「え…っ!」
「いつかそうさせてみせるから、覚悟しておいてね。」
「あ、あぅぅ…。」
こういうの、免役のないあたしには刺激が強過ぎる…っ。
「なぁなぁ、今日もカズ君トコ帰っていい?」
「俺がいいよって言うの分かってて聞いてるんでしょ。」
「その言い方冷たい。」
「だったら…。」
和誠は不意に自分より背の低いシュウの腰に腕を回しグイッ、と引き寄せると至近距離で見つめ合う。
「シュウがいないと寂しいから泊まっていいよ、て言えば嬉しい?」
「ぬ…ぬぅ…ん。」
「どうしたのシュウ、顔が真っ赤だよ。」
いつも余裕げなカズ君に、俺は翻弄されっ放し。
ちょっと悔しいけど心地良くもあって…でも…。
「カズ君の本心て…何処にあるの?」
「聞きたい?」
赤い顔のまま小さく頷くシュウを見て、ニヤリと笑う。
「まだ駄目だよ、もう少し、もう少ししたら必ず教えるよ。」
俺の本心を受け入れるには、まだシュウの覚悟が足りてないからね。
「もっとシュウが俺といたいと思ったら教えてあげる。」
「う、うん…。」
今でももう、1人の家には帰りたくないって思い始めてるのに…。
まだ教えてくれないの?
光希を送った後、久々に黒岸家に帰還。
「無理しなくていいんだよ。」
車庫に入れてエンジンを切ってから、海斗に言われる。
「大丈夫。」
答えながら桔梗は、帰り際リョウに言われた言葉を思い出す。
「もし辛くなったら電話して、すぐに迎えに行くから。」
本日運転手の海斗、祐翔がアルコールを飲まないのは分かるが、招いている側のリョウも飲んでいなかった。
それが桔梗には不思議に思えた。
遼平、あたしをすぐに迎えに来られるように飲まないでいてくれた?
そう思うと胸が温かくなり、気持ちが和らいだ。
それぞれ大荷物を抱えて玄関を開け、
「ただいまぁ。」
3人声を揃えて言うと、すぐにリビングのドアが開き
「桔梗ちゃん!」
隆一がすっ飛んできて、すぐに桔梗に抱き着く。
「おかえり桔梗ちゃん!もう帰って来てくれないと思ったよ~!」
「大丈夫、パパちゃん、帰って来たから、あの…苦しい。」
「あぁごめんねっ。」
パッ、と桔梗から離れる。
「父さん、息子2人も帰って来てるんですけど。」
毅流がじとぉっ、とした目で言うと
「分かってるよおかえり毅流っ、海斗っ。」
隆一が慌てて早口で言った言葉に
「はいただいま。」
毅流は返したが、海斗は返さず、玄関の一点を見つめて眉間にシワを寄せていた。
「かぁ君どうしたの?」
「誰が来てるの?」
桔梗の問いには答えず、海斗は険しい顔で隆一を見た。
「ん?誰か来てる?」
「知らない靴がある。」
海斗に言われ見てみると、確かにそこには見たことがない、若い女性向けのオシャレな靴があった。
「それは…。」
「桔梗、まずは部屋に行って荷物を整理しよう。」
「そうだねっ、行こう桔梗っ。」
「かぁ君毅流、ありがとう、でもあたしなら大丈夫だよ。」
そう言って靴を脱ぎ上がると、そのままリビングへ…。
「桔梗っ!」
ダイニングテーブルには桃也、静音が並んで座り、向かいには花蓮が座っていた。
「桔梗あのな…っ。」
立ち上がる桃也に
「大丈夫座って。」
桔梗はそう言って座らせ、花蓮に会釈してから桃也を見る。
「あのね桔梗ちゃん…。」
「ごめんママちゃんは黙ってて。」
「桔梗…。」
「平気か?」
「大丈夫だよ、ありがとう。」
寄り添うように立ってくれる海斗と毅流に微笑んで見せてから、再度桃也を見る。
「ただいま。」
「あ、お、おかえり。」
「あの日ね、桃也さんが花蓮さんと会ってるの見たとき、頭の中が真っ白になって、心が真っ黒い嫌な何かに支配されそうになって…あたしはそれを無理矢理閉じ込めて心の奥底に封じ込めたの。」
「桔梗あのな…。」
「でももう大丈夫、遼平がね、一緒に持ってくれるって言ったの、閉じ込めた感情を外に出して、泣いたあたしに寄り添って、俺がいるからって言ってくれて、抱きしめてくれたんだ、帰り際だって何かあったら迎えに来てくれるって言ってくれた、だから大丈夫、あたしには遼平がいてくれるから、だからあたしのことは気にしないで、今まで通りでいてね、あたしが言いたいことはそれだけ、じゃあ、部屋に戻るから。」
桔梗は最後にニコッ、と笑うとリビングから出て行った。
「待ってくれ!」
立ち上がった桃也を手で制したのは海斗。
「俺が行く…。」
それだけ言ってさっさとリビングから出て行った。
「俺、桔梗を幸せに出来るのはモモ兄しかいないと思ってた、でも今は違う。」
「待って毅流君誤解なのっ。」
「そういう問題じゃない、花蓮さんとモモ兄が一緒にいるところを見たのはきっかけになっただけ、今までモモ兄にはその気があるならいくらだって告白出来たハズだよ、でもそれをしなかった、モモ兄本人がどう思ってるか知らないけど、その気がないって周りから思われても仕方ないよね。」
「それは…っ。」
「その気がないなら二度と邪魔しないでね。」
荷物を片付けている桔梗に
「ホントに大丈夫?」
ソファに座ってそれを見ていた海斗が聞く。
「ホントに大丈夫。」
「リョウのおかげ?」
その問いに頬をほんのり染めつつもコクッ、と頷く。
まぁ…大丈夫なのはホントなんだろな、花蓮さん見ても一切動揺しなかったし。
そう考えると…リョウって凄い。
「付き合うの?」
「う~ん、でもゆっくり行こうって遼平が…、まずはゆっくり友達としてって。」
「そっか。」
兄貴のことで弱ってる桔梗に、付き合おうと言うのはフェアじゃないと踏んだか…。
俺が思ってる以上に本気だな。
恋愛初心者の桔梗が本気のリョウを見たら、すぐ落ちちゃうだろうし、リョウだってそれに気付いてるだろうに桔梗に合わせようとしてる何て…。
俺もまだまだ精進しないと。
若干海斗が人知れず反省していると、ノックの音がして
「俺が出る。」
海斗は素早く立ち上がりドアに向かう。
兄貴だったら追い返してやる。
ドアを開けると、そこに立っていたのは意外にも花蓮。
「何の用?」
「あ、ごめんなさい、その…ちょっとだけでもいいから桔梗ちゃんと話したくて…。」
「だってさ。」
桔梗に向かって言うと、片付けの手を止め頷いて見せる。
「どうぞ。」
花蓮を招き入れてから、
「俺は一旦席外すけど、何かあったらすぐ呼んで。」
「分かった。」
かぁ君、喋り方いつもと違うまんまだけど大丈夫だろうか。
「とりあえずどうぞ。」
「ありがとう。」
桔梗は花蓮と並んでソファに座る。
「ええと…何から話せばいいかな…まずはこの前はごめんなさい、あたしが桃也に内緒で勝手に会いに行っただけで、桃也は知らなかったの。」
「そのことなら大丈夫ですよ、ホントに気にしてないので、あたしこそ挨拶もせずすみません。」
「そんな、気にしないで。」
優しいなぁ花蓮さん。
しかも写真より綺麗だし、ちょっと大人っぽくなってて、更にキラキラが増している。
「あの、前に桃也さんが今は彼女いないって言ってたけど、ヨリ戻したんじゃ…。」
「ええっ!違うよ戻してないのっ、何ならあたし桃也の今の連絡先知らないし、彼氏いるし桃也にも彼氏出来たことは年賀状で伝えてるしっ。」
慌てる姿が可愛い。
綺麗だし可愛い、そして優しい…やっぱ神様ずりぃな、天は二物を与えずの後に、人によっては二物以上与えます、て付けないと詐欺だ。
「そうだったんですか。」
そんな風に見えない程、あの日の2人はお似合いだった。
やっぱりもぉにぃたんには、花蓮さんみたいに綺麗で優しい人がお似合いだ…。
「それにね、もし付き合ってたとしても別れてたと思う、しかも酷い別れ方してたと思う。」
「何故に?」
「高校を卒業したら桃也は芸能活動を本格的に始動させることが決まってたし、あたしはウィーンの音楽大学でヴァイオリニストとして学ぶことがたくさんあった、日本とウィーンて遠距離恋愛するだけでも大変なのに、お互い新たな環境に入ったら向き合わなきゃいけない問題がいくつもある、人としてまだ未熟なあたしたちがそれを全部乗り越えて、恋愛を続けられるとは思えなかったの、桃也は大丈夫だって言ってたけど、あたしは無理だと思った、きっと二度と顔も見たくない、て思えるような別れ方をするとも思ってた、まぁ…何をどう理由付けようとしても、あたしが逃げたと言われればそれまでなんだけど…。」
苦笑する花蓮に、
「でも、桃也さんも後々理解してくれたんじゃ…?」
「うんまぁ、ね…でも別れるときは大変だったのよぅ、桃也が勝手に決め付けんな!別れるかどうかはやってみなきゃ分かんねぇだろ!て般若みたいな顔で怒ったんだから!」
と言って、指で目を吊り上げて見せると、桔梗は思わず笑ってしまった。
「でも今は仲良しですよね?」
「うん、半年くらい経ったときかな、桃也が謝ってきたの、多分お前の言う通りになってただろうって、俺は理想しか見てなかったけど、お前はちゃんと現実を見てたんだなって言ってくれてね、それでわだかまりもなくなって仲のいい友達に戻った感じかなぁ、て言うか聞いて桔梗ちゃんあいつ酷いのよっ。」
「う、うぬ?」
花蓮さんて感情がポンポン変わって…可愛い。
「これからはまたいい友達だぁ何て言ってたクセに、あたしに新しい連絡先教えなかったのよっ、酷くないっ?」
「あ、あぁまぁ、じゃあそれから連絡は?」
「しなかったわよぅ、静音さんとはしてたけどね、でも桃也とは連絡しなかった、桃也が新しい連絡先をあたしに教えてくるまで、絶対静音さんにも聞かないって決めたの、だって悔しいじゃない。」
当時のことを思い出したのか、花蓮はプンスカ怒り出す。
「だけど今回みたいなことがないように、しょうがないからあたしから桃也に聞いてあげたわ、サプライズ何てもうこりごり。」
そう言うと立ち上がる。
「今夜はもう遅いしこれくらいでお暇するわね、今度はゆっくり話しましょ。」
「はい、是非。」
「そのときはあたしの彼氏、紹介させてね。」
「おぉ、楽しみです。」
「それじゃね桔梗ちゃん、話せて良かった。」
桃也の隣にいるのが、貴女みたいな子だったら良かったのに…。
「だいぶ楽しんでるんじゃなぁ~い?」
「あ、う、うん、こんな近くで花火見るの、多分子供の頃以来だから。」
「そっかぁ。」
若葉って思った以上にドラムに夢中だったんだなぁ、他に興味なさ過ぎ。
「-bule-のみんなには感謝してるんだ。」
「どしてぇ?」
「あたしずっと、ホントにドラムしか興味なくて、他のことはどうでも良かったからその気になれなくて…。」
とまで言って苦笑する。
「だけど-bule-に加入して、みんなと一緒にいるうちに色んな体験して、それが凄く楽しくて、そういう経験も大事なんだなって思った。」
「そう?そう思ってくれたら嬉しいなぁ。」
「特に海斗君には感謝してる、いつも助けてくれてありがとう。」
「どうして俺が若葉を助けるか、訳を知りたい?」
何処か含み笑いの海斗を見つめゾクッ、としながらも頷く。
「いつか若葉が俺なしじゃいられなくなるため、だったらどうする?」
「え…っ!」
「いつかそうさせてみせるから、覚悟しておいてね。」
「あ、あぅぅ…。」
こういうの、免役のないあたしには刺激が強過ぎる…っ。
「なぁなぁ、今日もカズ君トコ帰っていい?」
「俺がいいよって言うの分かってて聞いてるんでしょ。」
「その言い方冷たい。」
「だったら…。」
和誠は不意に自分より背の低いシュウの腰に腕を回しグイッ、と引き寄せると至近距離で見つめ合う。
「シュウがいないと寂しいから泊まっていいよ、て言えば嬉しい?」
「ぬ…ぬぅ…ん。」
「どうしたのシュウ、顔が真っ赤だよ。」
いつも余裕げなカズ君に、俺は翻弄されっ放し。
ちょっと悔しいけど心地良くもあって…でも…。
「カズ君の本心て…何処にあるの?」
「聞きたい?」
赤い顔のまま小さく頷くシュウを見て、ニヤリと笑う。
「まだ駄目だよ、もう少し、もう少ししたら必ず教えるよ。」
俺の本心を受け入れるには、まだシュウの覚悟が足りてないからね。
「もっとシュウが俺といたいと思ったら教えてあげる。」
「う、うん…。」
今でももう、1人の家には帰りたくないって思い始めてるのに…。
まだ教えてくれないの?
光希を送った後、久々に黒岸家に帰還。
「無理しなくていいんだよ。」
車庫に入れてエンジンを切ってから、海斗に言われる。
「大丈夫。」
答えながら桔梗は、帰り際リョウに言われた言葉を思い出す。
「もし辛くなったら電話して、すぐに迎えに行くから。」
本日運転手の海斗、祐翔がアルコールを飲まないのは分かるが、招いている側のリョウも飲んでいなかった。
それが桔梗には不思議に思えた。
遼平、あたしをすぐに迎えに来られるように飲まないでいてくれた?
そう思うと胸が温かくなり、気持ちが和らいだ。
それぞれ大荷物を抱えて玄関を開け、
「ただいまぁ。」
3人声を揃えて言うと、すぐにリビングのドアが開き
「桔梗ちゃん!」
隆一がすっ飛んできて、すぐに桔梗に抱き着く。
「おかえり桔梗ちゃん!もう帰って来てくれないと思ったよ~!」
「大丈夫、パパちゃん、帰って来たから、あの…苦しい。」
「あぁごめんねっ。」
パッ、と桔梗から離れる。
「父さん、息子2人も帰って来てるんですけど。」
毅流がじとぉっ、とした目で言うと
「分かってるよおかえり毅流っ、海斗っ。」
隆一が慌てて早口で言った言葉に
「はいただいま。」
毅流は返したが、海斗は返さず、玄関の一点を見つめて眉間にシワを寄せていた。
「かぁ君どうしたの?」
「誰が来てるの?」
桔梗の問いには答えず、海斗は険しい顔で隆一を見た。
「ん?誰か来てる?」
「知らない靴がある。」
海斗に言われ見てみると、確かにそこには見たことがない、若い女性向けのオシャレな靴があった。
「それは…。」
「桔梗、まずは部屋に行って荷物を整理しよう。」
「そうだねっ、行こう桔梗っ。」
「かぁ君毅流、ありがとう、でもあたしなら大丈夫だよ。」
そう言って靴を脱ぎ上がると、そのままリビングへ…。
「桔梗っ!」
ダイニングテーブルには桃也、静音が並んで座り、向かいには花蓮が座っていた。
「桔梗あのな…っ。」
立ち上がる桃也に
「大丈夫座って。」
桔梗はそう言って座らせ、花蓮に会釈してから桃也を見る。
「あのね桔梗ちゃん…。」
「ごめんママちゃんは黙ってて。」
「桔梗…。」
「平気か?」
「大丈夫だよ、ありがとう。」
寄り添うように立ってくれる海斗と毅流に微笑んで見せてから、再度桃也を見る。
「ただいま。」
「あ、お、おかえり。」
「あの日ね、桃也さんが花蓮さんと会ってるの見たとき、頭の中が真っ白になって、心が真っ黒い嫌な何かに支配されそうになって…あたしはそれを無理矢理閉じ込めて心の奥底に封じ込めたの。」
「桔梗あのな…。」
「でももう大丈夫、遼平がね、一緒に持ってくれるって言ったの、閉じ込めた感情を外に出して、泣いたあたしに寄り添って、俺がいるからって言ってくれて、抱きしめてくれたんだ、帰り際だって何かあったら迎えに来てくれるって言ってくれた、だから大丈夫、あたしには遼平がいてくれるから、だからあたしのことは気にしないで、今まで通りでいてね、あたしが言いたいことはそれだけ、じゃあ、部屋に戻るから。」
桔梗は最後にニコッ、と笑うとリビングから出て行った。
「待ってくれ!」
立ち上がった桃也を手で制したのは海斗。
「俺が行く…。」
それだけ言ってさっさとリビングから出て行った。
「俺、桔梗を幸せに出来るのはモモ兄しかいないと思ってた、でも今は違う。」
「待って毅流君誤解なのっ。」
「そういう問題じゃない、花蓮さんとモモ兄が一緒にいるところを見たのはきっかけになっただけ、今までモモ兄にはその気があるならいくらだって告白出来たハズだよ、でもそれをしなかった、モモ兄本人がどう思ってるか知らないけど、その気がないって周りから思われても仕方ないよね。」
「それは…っ。」
「その気がないなら二度と邪魔しないでね。」
荷物を片付けている桔梗に
「ホントに大丈夫?」
ソファに座ってそれを見ていた海斗が聞く。
「ホントに大丈夫。」
「リョウのおかげ?」
その問いに頬をほんのり染めつつもコクッ、と頷く。
まぁ…大丈夫なのはホントなんだろな、花蓮さん見ても一切動揺しなかったし。
そう考えると…リョウって凄い。
「付き合うの?」
「う~ん、でもゆっくり行こうって遼平が…、まずはゆっくり友達としてって。」
「そっか。」
兄貴のことで弱ってる桔梗に、付き合おうと言うのはフェアじゃないと踏んだか…。
俺が思ってる以上に本気だな。
恋愛初心者の桔梗が本気のリョウを見たら、すぐ落ちちゃうだろうし、リョウだってそれに気付いてるだろうに桔梗に合わせようとしてる何て…。
俺もまだまだ精進しないと。
若干海斗が人知れず反省していると、ノックの音がして
「俺が出る。」
海斗は素早く立ち上がりドアに向かう。
兄貴だったら追い返してやる。
ドアを開けると、そこに立っていたのは意外にも花蓮。
「何の用?」
「あ、ごめんなさい、その…ちょっとだけでもいいから桔梗ちゃんと話したくて…。」
「だってさ。」
桔梗に向かって言うと、片付けの手を止め頷いて見せる。
「どうぞ。」
花蓮を招き入れてから、
「俺は一旦席外すけど、何かあったらすぐ呼んで。」
「分かった。」
かぁ君、喋り方いつもと違うまんまだけど大丈夫だろうか。
「とりあえずどうぞ。」
「ありがとう。」
桔梗は花蓮と並んでソファに座る。
「ええと…何から話せばいいかな…まずはこの前はごめんなさい、あたしが桃也に内緒で勝手に会いに行っただけで、桃也は知らなかったの。」
「そのことなら大丈夫ですよ、ホントに気にしてないので、あたしこそ挨拶もせずすみません。」
「そんな、気にしないで。」
優しいなぁ花蓮さん。
しかも写真より綺麗だし、ちょっと大人っぽくなってて、更にキラキラが増している。
「あの、前に桃也さんが今は彼女いないって言ってたけど、ヨリ戻したんじゃ…。」
「ええっ!違うよ戻してないのっ、何ならあたし桃也の今の連絡先知らないし、彼氏いるし桃也にも彼氏出来たことは年賀状で伝えてるしっ。」
慌てる姿が可愛い。
綺麗だし可愛い、そして優しい…やっぱ神様ずりぃな、天は二物を与えずの後に、人によっては二物以上与えます、て付けないと詐欺だ。
「そうだったんですか。」
そんな風に見えない程、あの日の2人はお似合いだった。
やっぱりもぉにぃたんには、花蓮さんみたいに綺麗で優しい人がお似合いだ…。
「それにね、もし付き合ってたとしても別れてたと思う、しかも酷い別れ方してたと思う。」
「何故に?」
「高校を卒業したら桃也は芸能活動を本格的に始動させることが決まってたし、あたしはウィーンの音楽大学でヴァイオリニストとして学ぶことがたくさんあった、日本とウィーンて遠距離恋愛するだけでも大変なのに、お互い新たな環境に入ったら向き合わなきゃいけない問題がいくつもある、人としてまだ未熟なあたしたちがそれを全部乗り越えて、恋愛を続けられるとは思えなかったの、桃也は大丈夫だって言ってたけど、あたしは無理だと思った、きっと二度と顔も見たくない、て思えるような別れ方をするとも思ってた、まぁ…何をどう理由付けようとしても、あたしが逃げたと言われればそれまでなんだけど…。」
苦笑する花蓮に、
「でも、桃也さんも後々理解してくれたんじゃ…?」
「うんまぁ、ね…でも別れるときは大変だったのよぅ、桃也が勝手に決め付けんな!別れるかどうかはやってみなきゃ分かんねぇだろ!て般若みたいな顔で怒ったんだから!」
と言って、指で目を吊り上げて見せると、桔梗は思わず笑ってしまった。
「でも今は仲良しですよね?」
「うん、半年くらい経ったときかな、桃也が謝ってきたの、多分お前の言う通りになってただろうって、俺は理想しか見てなかったけど、お前はちゃんと現実を見てたんだなって言ってくれてね、それでわだかまりもなくなって仲のいい友達に戻った感じかなぁ、て言うか聞いて桔梗ちゃんあいつ酷いのよっ。」
「う、うぬ?」
花蓮さんて感情がポンポン変わって…可愛い。
「これからはまたいい友達だぁ何て言ってたクセに、あたしに新しい連絡先教えなかったのよっ、酷くないっ?」
「あ、あぁまぁ、じゃあそれから連絡は?」
「しなかったわよぅ、静音さんとはしてたけどね、でも桃也とは連絡しなかった、桃也が新しい連絡先をあたしに教えてくるまで、絶対静音さんにも聞かないって決めたの、だって悔しいじゃない。」
当時のことを思い出したのか、花蓮はプンスカ怒り出す。
「だけど今回みたいなことがないように、しょうがないからあたしから桃也に聞いてあげたわ、サプライズ何てもうこりごり。」
そう言うと立ち上がる。
「今夜はもう遅いしこれくらいでお暇するわね、今度はゆっくり話しましょ。」
「はい、是非。」
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