華と光と恋心

かじゅ

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第7話 深まる溝とすれ違い

世界で1番優しい…

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 お昼過ぎからいそいそと光希と毅流に手伝ってもらい、作った物をお重に入れて準備万端。
特製ジュースは大量に作り、ウォータージャグに入れたのだが…。
「海斗兄貴に迎えに来たよ。」
毅流は言いながらウォータージャグを持ち、光希はお重を持つ。
桔梗はサーモボトルを手にすると、ショルダーバッグに入れた。
「それは…?」
「これはその…特別。」
少しだけ頬を染める桔梗を見てピンとくる。
間違いねぇ、あれはリョウの分だな。
「桔梗、今夜楽しもうな。」
「うん。」
今日はいよいよ、遼平の家にお呼ばれの日。
昨夜遼平からメッセが来て、先日の特製ジュースをおねだりされたため、それだけは別にサーモボトルに入れておいたのだ。
遼平、喜んでくれるといいな。
外に出ると海斗の車に乗り込み、桔梗は助手席へ。
全員がシートベルトをしたのを確認してから、海斗は車を発進させた。
「稽古はどう~?」
「久々だから楽しかった、勘を取り戻すのも光希のお陰で早かったし。」
「て言うより、あたしが思ってたより桔梗が鈍ってなかったからだ。」
「そう?」
「ああ、これからたまには来てみたらどうだ?」
「そうだね、それもいいかも。」
「て言うか久々の桔梗の方が俺よりレベル高いんだもん、狡いよなぁ。」
「そんな拗ねるなよ、毅流だって覚え早い方なんだぞ。」
「確かに、毅流思ったより進んでてちょっとビックリした。」
「ホント?」
「良かったじゃない毅流~。」
「うん。」
嬉しそうな毅流をルームミラー越しに見てから、チラッと桔梗を見る。
「聞きたいことがあるならどうぞぉ。」
「あ、うん…あの、桃也さんは平気かな…。」
「大丈夫だよぉ、兄貴だって子供じゃないんだし、それに兄貴には最強の親友がいるからねぇ。」
「そうなの?」
「そうそう~、だから心配しなくて大丈夫、桔梗は優しいなぁ。」
兄貴はあそこにいるんだろうし…。










 少し遅い昼ご飯を食べていると、向かいで食べている人物が声を掛けた。
「お前さ、飯んときくらい楽しそうに食えよ、まるで俺が無理矢理不味い飯食わせてるみてぇじゃねぇか。」
「わりぃ…飯は美味いよ。」
「ならいいけどよ…。」
桃也の向かいで食べているのは、この家の住人であり、桃也とは小学校からの付き合いの親友、浅見龍輝あさみりゅうき
花蓮と再会したところを桔梗に見られた後、何とか仕事をこなし、いざ桔梗に連絡しようとスマホを見ると、そこには海斗からのメッセ。
内容は、
今日からしばらく自分、毅流、桔梗は家に帰らない。
その間、桔梗とは一切連絡を取らないように。
などというもの。
海斗に意見しようと思い連絡をしたが、海斗だけじゃなく毅流のスマホもどうやら桃也を一時的にブロックしたようで繋がらなかった。
そこで桔梗にも…と思ったが、予想通り桔梗からもブロックされていた。
桔梗がそこまでするとは思えねぇ。
ぜってぇ海斗の仕業だ…。
結局桃也は、連絡を取ることを断念せざるを得なかった。
両親はその日帰って来ないことを知っており、一旦帰宅したものの、正直母親と顔を合わせたくなかった。
そこで親友の龍輝に連絡を…とも思ったが、龍輝は超売れっ子のイラストレーター。
仕事が立て込んでいるところに転がりこむのも…と思い連絡を躊躇っていると、まさかのタイミングで龍輝からの連絡。
大きな仕事が終わってしばらくのんびり出来るから、良かったら家に来ないか?
と誘われ、桃也は迷うことなくそれに乗った。
「口止めされてたんだけどさ…。」
「ん?」
「お前に電話した日の昼間な、海斗から連絡あったんだよ、兄貴を頼むって。」
「海斗から…。」
「ああ、詳しくは聞かなかったけど遠野と会ったらしいな、ヨリ戻したのか?」
「んなわけねぇだろ、別れを切り出したのは花蓮だし、そもそもあいつ彼氏いる、今年の年賀状何か彼氏との写真付きだったからな。」
「そうなのか?」
「そうだよ、同じヴァイオリニストらしい。」
「へぇ…まぁそれはそうと、何があったんだよ、話せるんなら聞くぞ。」
「…。」
桃也は一旦食べるのを止め、あの日のことを龍輝にすべて話した。
「なるほどね。」
そんなことがあっても海斗は兄貴をよろしく何て連絡よこしてくるとか…相変わらずブラコンと言うか、行き届いていると言うか…。
「で…お前はどうしたいんだよ?このまんまじゃ十中八九その桔梗ちゃんて子、お前から離れんじゃね?俺的にはその桔梗ちゃんの気持ちも気になるが、ここに本人がいないからどうとも言えないし、大事なのはお前の気持ちとどうしたいかだな。」
「俺は…。」
うつむく桃也を見て溜め息。
「その考え過ぎるクセ、良くねぇぞ、そうやって考え過ぎていつまでもウジウジしてっと取り返しの付かねぇことになんじゃね?」
取り返しの付かないこと…。
俺は桔梗を…。










 花火が上がる前から早々に、それぞれ飲み始めていた。
そんな中トイレに行ったリョウ。
出たところに光希が待っていたため内心驚いたが、
「どうしたの?」
と平静を装って声を掛けた。
「あの、ちょっと時間貰えますか?2人きりで話したいことあるんですけど…。」
「あ、じゃあこっち。」
と無難に答えたが、内心はヒヤヒヤしていた。
光希は桔梗の親友だし、もしかしたら
軽々しく桔梗に手を出すな。
何て釘を刺されるんじゃないだろうか…。
「ここでいいかな?」
リョウに通されたのは豪華なシアタールーム。
おぉぉ!何だこの豪華な設備のシアタールームは!
「ここじゃまずい?」
「いや大丈夫ですっ。」
思わず見惚れちまった!
とりあえずソファに並んで座る。
「俺に話しって?」
「桔梗のことです。」
「あ、あぁ…。」
やっぱりこれは…。
「あいつ、小学生んときクラスの男子に外見のことでいじめられたことがあって…。」
「どんないじめだったか、差し支えなければ教えてもらえる?」
リョウに言われ、光希は具体的に桔梗が何をされたか答えた。
「酷いな…。」
子供の頃によくある、好きな子程いじめてしまうってパターンだとしても酷すぎる…。
「おかげで桔梗は自分に自信がないせいで、無意識に過小評価するようになってしまって…何とか自分の良さに気付いてほしくて頑張ったんで、多少は昔よりマシにはなったけど、まだ…、ただ、こっちに引っ越して来てから桃也さんのお陰で少しずつ変わってきて、最近じゃ今日みたいに前髪をヘアピンで止めて目を見せるようになって、こっちへ来て良かったなって思いました。」
「そっか…前髪を上げるようになったのは桃也君のお陰だったのか。」
ヤバい…少し妬いてしまった、情けない…。
「はい、だからあたし、桔梗を変えてくれるのは桃也さんだと思ってました…。」
「思ってたって…過去形?」
「今はそう思ってません、今は…。」
そこまで言って真っ直ぐリョウを見つめる。
「今は貴方が変えてくれると思っています。」
「え…。」
「こんな身勝手なお願い失礼だとは思いますが…どうか桔梗をよろしくお願いします。」
そこまで言ってリョウに向かって頭を下げる。
少しの沈黙の後、リョウが肩にポンと手を置いてきたため、光希は反射的に顔を上げた。
「身勝手何かじゃないし、こちらこそありがとう、こんな俺に大切な親友を預けようと思ってくれて。」
「いえ…あたしは、貴方しかいないと思いますし。」
「桔梗のこと絶対傷付けない、て約束出来る自信はまだないけど、でも絶対に泣かせないよ、俺は桔梗の笑顔が好きだし、あの笑顔を守りたいと思ってるから。」
「あ、ありがとうございます。」
リョウに話して良かった…。
「簡単に傷付けないって約束されるよりいいですし、泣かせないなら充分です、あたしも桔梗の笑顔好きなんで。」
「あの笑顔は癒しだよね。」
「はい。」
「じゃあ俺たちは桔梗の笑顔を守る同志ってことで、これからもよろしくね。」
と差し伸べてきた手を見て
「はいっ。」
光希は迷うことなく握手した。
「あ、実はあとひとつ、リョウさんならって思った理由あるんです。」
「そうなの?」
言いながら、どちらともなく手を離す。
「はい、桔梗の推しがリョウさんてのが大きいですね、あたしがrunaを桔梗に勧めて暫くしてから、あいつ嬉しそうに推しが出来たって言ってきたんです、桔梗は基本あまり男に興味がないから箱推しだろうと思っていたら、リョウさんを推すって聞いて、驚いたけど嬉しかった、どんな形であれ男性に興味を持ってくれたから。」
それってもしかして…、桔梗が初めて興味を抱いた男性が俺ってことなのか?
「リョウさん、顔がデレッてますよ、喜び過ぎです。」
「嘘っ。」
「クスクス、桔梗の前では我慢して下さいね。」
「精進します…。」










 広いバルコニーの端にあるベンチに、桔梗はリョウと並んで座っていた。
「ここが1番良く見えるから。」
と、リョウに誘われたのだ。
他の面々は観葉植物や家庭菜園の向こう側で見ているので、まるで2人きりで見ているようだった。
「うわぁ。」
花火が上がる度、小さく声を出す桔梗を見つめる。
喜んでくれてるみたいだな。
「思ってたより近くに見える。」
「周りに高い建物がないからね、それよりヘアピン、変えた?」
「あ、うん、光希がこの前買ってくれた。」
もぉにぃたんに貰ったの、あんまり使う気になれなかったの光希に見透かされたんだなぁ。
「それも似合ってるけどこれはどうかな?」
そう言ってヘアピンセットを差し出した。
「これは?」
「勿論桔梗のために買ったんだ、受け取ってくれる?」
「ありがとう。」
これ買うとき、あたしのこと考えてくれたのかな…。
と思うだけでキュンとする。
そのとき、一際大きな花火が上がり、桔梗は目を奪われる。
もぉにぃたんが観覧車の中で、もっと近くで花火見せてやるって約束してくれたな…。
だけどもう、そんな風に出掛けること、なくなるんだろうな…。
もぉにぃたんと出掛けたりするの、楽しかったのに…どうしてこんなことになっちゃったんだろう。
「桔梗。」
「えっ、あっ、何っ?」
「悲しいことがあったんじゃない?」
「ど、どして…?」
「悲しそうな顔してる、1人で抱えるのが辛いなら話して、俺も一緒に持つから。」
「あ…。」
だ、駄目だ…いけない、ちゃんと箱に入れたのに…っ。
「桔梗?俺じゃ役不足かな…。」
「ち、ちが…違う、外に出ないように、箱に、入れたから…。」
「俺と一緒なら開けられる?」
そう言ってそ…と自分の手にリョウの手が重ねられる。
「り、遼平…。」
「俺は離れない、傍にいるから。」
優しく微笑まれ、手から伝わるリョウの温もりに触れ、桔梗の中の箱を固めた鎖が、ギチギチと音を立てる。
「あた、あたし…嫌だった、あの日差し入れに行ったら、桃也さんが花蓮さんといて、凄く嫌な気持ちになって、黒くて嫌なモヤモヤが溢れて、近くに行ったら、きっと、桃也さんに嫌なこと、言っちゃうから、会わずに、逃げた…もう、あんなの、嫌だよぅ…!」
鎖は粉々に散り、箱が開いたと同時に、桔梗の瞳からぽろぽろぽろぽろ大粒の涙が零れた。
「桔梗…っ。」
リョウは堪らなくなって抱きしめた。
「う、うえぇ、りょ、りょ、へぇ、もぅ、嫌だよぅ!」
「いいよ、俺がいるから好きなだけ泣いて…。」

少しずつ、少しずつ落ち着きを取り戻し、泣き止みつつリョウの胸に顔を埋める。
遼平、温かくて…何て優しい抱擁なんだろう。
きっと遼平の抱擁は、世界で1番優しいんだろうな…。
このまま溶けてしまいそう…。
桔梗がすっかり夢見心地になっていると、
「大丈夫?」
リョウが声を掛け、顔を覗き込む。
「うん、ありがとう、遼平が傍にいたから、落ち着いてきた。」
「そ、そっか。」
てか…抱きしめただけなのに何だこの顔!
めちゃめちゃ充たされた顔してないかっ?
「ずりぃだろ…っ。」
「ふぇ?」
「こっちの話し、気にしないで。」
苦笑して見つめてから、そ…と涙を拭ってやる。
「花火、見ようか?」
「うん。」
花火を見つめる桔梗が無意識に肩にもたれてきたのを見て、リョウは迷わず肩を抱き寄せた…。












 並んで花火を見ている和誠とシュウ、から少し離れた後ろで祐翔、ケント、ユキヤが並んで花火を見ていた。
「何だかすっごい仲良しよね、あの2人。」
そう言ってケントはふぅっ、と煙を吐き出す。
「そりゃもう、シュウさん今ほぼほぼ家にいますから。」
「えっ、お泊まりっ?」
「はい、打ち上げ後からほぼ毎日泊まってますよ、夜はカズと寝てますし。」
「あらやだシュウってばふしだらねぇ~。」
「カズと仲良くしてるシュウにヤキモチ妬いてるの?」
不意にユキヤに言われ、ケントは一瞬間を空けてからぷぅっ、と吹き出す。
「あのねユキ、俺が面倒くさがりなの知ってるでしょ?俺は誰かに夢中になってる人には興味ないの、俺は俺に夢中になってくれる人がいいの、意味、分かるよね?」
ケントに真っ直ぐ見つめられ、思わずドキッとしてしまう。
「わ、分かる。」
「なら俺が妬いてないの分かるでしょ?」
「う、うん。」
「じゃあこの問題は解決~、でさでさヒロ、家ではシュウはどんな感じ?」
「いやぁ、何つぅか親鳥と雛鳥みたいな感じっす、カズの後ろをシュウさんが常に付いて歩いてて…見てて微笑ましいっすよ。」
「親鳥と雛鳥…ウケる!」
ケラケラ笑い出すケント。
「まぁシュウさんがいて、カズが嬉しそう何で俺は別にいいかなって、カズは昔からあんまり群れないし、自分からアピールするタイプでもないんで、友達も少ないですし…でもシュウさんには凄く心を開いてるから、正直嬉しいんす。」
あいつはあまり、自分から人と深く関わろうとしないからな。
「あらやだ、愛かしら?」
「どうっすかね、まぁそうだとしても、俺はカズが傷付かないで幸せなら何でもいいっす。」
そう言ってタバコを吸う祐翔の横顔を見つめてクスッ、と笑う。
「ヒロはいい男だねぇ。」
「そうっすか?俺はただ…。」
俺を守ってくれたように、俺もカズを守りたいと思ってるだけなんだけど…。
「今度俺とユキも泊まり行っていい?」
「いいっすけど、そんなに布団ないっすよ?」
「大丈夫大丈夫!持参する!ユキは俺と寝ようね。」
「う、うん…。」
何かいいコンビだなぁ。

「じゃあ、リョウさんに桔梗のこと頼んだの?」
「ああ、その…ごめんな?」
2人で花火を見ながら、光希は毅流にリョウとのやり取りを話した。
「どうして光希が謝るの?」
「いや、桔梗のためとは言え、あたし桃也さんを見限ったようなもんだし…。」
「あのね、そりゃ確かに俺はモモ兄の弟だからモモ兄には幸せになってほしいよ、だけど桔梗にだって幸せになってほしい、桔梗が幸せになるために光希が取った行動を、俺が責めたりするわけないだろ。」
「あ、うんごめん。」
「いいよ、だから光希は好きなように動いてよ、俺はそんな光希が好きだし、もし万が一間違った方法を選んだら、俺が引きずってでも修正するから。」
「ありがとな。」
チュッ、と頬にキス。
「あぅ。」
光希からのこういう不意打ち、慣れそうもないや。
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