死ぬほど愛しているけれど、妻/夫に悟られるわけにはいかないんです

杏 みん

文字の大きさ
77 / 273

77.そんなドラマみたいな事起こるかよって言い出したらもうフラグ

しおりを挟む
 「調べた所ね、腹筋に力を入れる事がポイントらしいんだよ」

 辛い……。

 「背筋がまっすぐに伸びた良い姿勢だと、見栄えもいいし、抱える側の仁ちゃんの負担も減るみたい」

 病み上がりの体で、借り物の特訓をするのがキツイんじゃない。

 「首にまわした腕に力を込めるのも重要なんだけど、後頚部をひっぱるような力み方はダメで」

 大好きな唯を……しかもモコモコパジャマを着た超絶可愛い冬バージョン唯を、お姫様抱っこしている。
 万一転倒した時の保険として、唯の部屋の、ベッドの横で。

 ふわ~、いい匂い~、女子の香り~、つーか唯の香り~。
 これ、転倒したら逆にラッキーじゃねえか? ドラマとかでよくあるよな? つまづいてこけて、どっちかがどっちかに覆いかぶさるような体勢になっちゃって、次回の予告に入る……みたいな。いやいや、どうかばえばそんな体制で転げるんだよ。そもそも何も無い室内でどうしてこけんだよ。いや、いいけど。同じ事が俺と唯に起きるなら、あのフィクションなハッピーハプニングも自然と受け入れられるけど。
 
 なんて……心を躍らせる余裕が、今は、無い。

 「怖いのは、妨害された衝撃で、腕がほどけちゃうことなんだけど」

 俺はとにかく、唯が好きで。

 もし結婚して貰えないまま、唯が実家を出ていたら……
 俺は毎日唯に電話して、メッセージ送って、出社時は自宅前、退社時は会社前で待ち伏せして、天気予報が外れて雨が降ったら家族なのでという最強の言い訳を駆使して管理人さんに部屋の中に入れて貰いベランダに干してある洗濯物を取り込んで――で、ストーカー規制法により、逮捕されていただろう。
 って位に、唯が大好きで。

 「だからこう、首の後ろで手首を交差して、縛ったりしたら、いけないのかな?」

 だから、社長になる為に、なんて理由をつけてまで、俺の隣に縛り付けたのに。もう大丈夫だって思ってたのに。
 今更……あいつに盗られるなんて。

 「……仁ちゃん?」

 「……え、ん?」

 「ダメかな? 手首縛るの。ルール的に?」

 だめだ。
 お姫様抱っこ中に上の空状態になってしまったら、また『私なんかと運動会に出るが嫌なんだ』という、ネガティブな勘違いをさせてしまう。

 「ええと、確か、縛るのは禁止されてた。万一の時、抱えてる側の首、折っちゃうかもって理由で」

 「わっ、それはダメだね! ごめん私、そこまで頭が回らなくて! じゃあやっぱりしっかりつかまるしかないか、う~ん、手をどう組むのが安定するのか……」

 ブツブツ言いながら、俺の後頭部に回した腕に力を込める唯。
 心臓の鼓動を感じる程、密着する体。
 吐息がかかる程、近付く顔。

 「ゆ、唯、ごめん、おりて……っ」

 「え!?」

 だめだ。
 こんなに近いのに、俺のものじゃない。
 触れられるのに、俺のものにできない。
 
 そう思ったら、もう、たまらなくて……。唯をおろそうと、身をかがめた。
 でも、唯がちょうど腕の力を抜いたタイミングで、体勢を変えてしまったようで。

 「きゃ……っ」

 首の後ろに回されてた腕はほどけ、唯の背中は大きく反り、俺の元から離れて行って――。

 「うわ、ごめ……!」

 慌てて、唯の体を支えたものの――倒れてしまった。
 唯フレグランスが充満する、ベッドの上に。


 「「あ……」」

 
 唯、仰向け。俺、うつ伏せ。

 重なる声、足、腹。

 「ご……ごめん、仁ちゃん……大丈ぶっ……!」

 ついでに、唇。

 限界だった。
 色々なものが、もう――。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

【完結】「別れようって言っただけなのに。」そう言われましてももう遅いですよ。

まりぃべる
恋愛
「俺たちもう終わりだ。別れよう。」 そう言われたので、その通りにしたまでですが何か? 自分の言葉には、責任を持たなければいけませんわよ。 ☆★ 感想を下さった方ありがとうございますm(__)m とても、嬉しいです。

恋。となり、となり、隣。

雉虎 悠雨
恋愛
友人の部屋にルームシェアすることになった篠崎ゆきは、引っ越してから三ヶ月、家が変わった以外は今まで通りの日常を送っていた。隣は赤ちゃんがいる家族と一人暮らしの背の高いあまり表情のない男。 ある日、マンションに帰ってくると、隣の部屋の前でその部屋の男、目雲周弥が倒れていた。 そして泥酔していたのを介抱する。 その一ヶ月後、またも帰宅すると隣の部屋の前でうずくまっている。また泥酔したのかとゆきが近づくと、前回と様子が違い酷いめまいを起こしているようだった。 ゆきは部屋になんとか運び入れ、また介抱した。 そこからゆきの日常も目雲の日常も変化していく。 小説家になろうにも掲載しています

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

友達婚~5年もあいつに片想い~

日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は 同僚の大樹に5年も片想いしている 5年前にした 「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」 梨衣は今30歳 その約束を大樹は覚えているのか

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

処理中です...