107 / 273
107.頭が良い人は説明が上手い
しおりを挟む
「ちょちょちょちょ、蓮ちゃん! なんか、説明の順番が違う気がする!」
予想外に説明が下手くそな蓮ちゃんに、大慌てしてしまう。
ううん、諸悪の根源である私が下手くそとか……失礼極まりない話なんだけど。
「結論から伝えた方が早いだろ?」
ああ、そうか。男の人って経緯より結論、てよく言うよね。
でもそれでも……今回の場合は、経緯をきちんと説明しないと、誤解を招くというか、意味不明というか。
「ご、ごめんね仁ちゃん、びっくりさせて……実は……」
謝りながら正面に座る仁ちゃんを見て……驚いてしまった。驚きすぎている仁ちゃんの顔に、私が驚いてしまったんだ。
「こ……恋人……」
「ええと、はじめからきちんと説明するね。ここに来る途中斎藤さんに」
「だ、大丈夫っ、わかってる! わかってた! 唯と蓮さんがそういう事になってたのは……っ」
「え?」
あ、そっか。蓮ちゃんが病院に送ってくれた所を、仁ちゃんも見てたって斎藤さんが言ってたっけ。
でもこの口ぶりだと……やっぱり誤解されちゃってそう。
「違うの仁ちゃん、そういう事じゃなくて」
「ごめんな、俺に気を遣って、堂々と会えなかったんだろ?」
「仁ちゃん聞いて? 誤解なの」
「心配しなくていいからっ! ちょうど、そういうの解禁してもいいんじゃないかって言おうとしてた所で……」
「ん? 解禁? え? どういう事……?」
きちんと説明をしなきゃという義務感が、気になる言葉を前に、引っ込んでしまった。
「ずっと思ってたんだ。世間体を気にして、お互いに本物のパートナーは作らないようにしようって決めてたけど……唯の人生からそういう幸せまで奪いたくないって。だから……」
「今後は唯が誰と付き合おうが、構わないってことか」
最後まで聞かずに、そう結論付ける蓮ちゃん。
仁ちゃんは……静かに頷いた。
「唯には……幸せになってほしいので」
嫌だ。こんなの嫌だ。
私が誰とお付き合いしようが、仁ちゃんにはどうでもいい。そんな事わかってるけど。でも、それでも――。
「仁ちゃ」
「……お前はいつもそうやって、唯の話をろくに聞いてもやらないのか?」
蓮ちゃんの言葉に、仁ちゃんの肩がピクリと動く。
「同じ車に乗っている所を、清香に見られた。そして、俺達が不倫関係にあると誤解された。清香は仁を裏切っている唯を許せないと……俺達の事を公にして、唯を糾弾すると言い出した。そんな事をされたんじゃ、仁に迷惑がかかると考えた唯は、自分達は政略結婚で結ばれた愛の無い夫婦で、俺と自分の関係も容認されている。だから仁は傷付かない……と説明した」
落ち着いた、でも少し冷ややかで端的な口調で、事のあらましを説明する、蓮ちゃん。
要点が簡潔にまとまっていて、さすがだな。と思う反面……最初から、そう言ってくれればこんな事にはならなかったのに。と、心の中でため息を吐いてしまう。ごめん……蓮ちゃん。
「そ……う、だったのか……?」
仁ちゃんはまたも驚いたような表情で、私の顔を見た。
「うん、そうなの。政略結婚、って感じで、私の血筋とか極秘事項は隠したつもりなんだけど……勝手にごめんね?」
「それはいいけど……え? じゃあ蓮さんとは……? 政略結婚て事にするなら、あえて蓮さんと唯が恋人同士なんて嘘をつく必要ないよな? やっぱり二人はそういう……」
「だから、さっきから唯が言ってるだろう。誤解だ。俺達は何でもない」
「でもね、斎藤さんはそもそも、ソコを信じてくれなくて興奮状態だったから……もう認めちゃった方が、他の嘘をすんなり信じてくれるかなって……」
私と蓮ちゃんとで、代わる代わる、説明する。
仁ちゃんは話し手が変わる度に、視線を移して、真剣な顔で聞いてくれた。
「そ、か。わかった。ごめん俺……はやとちりして……」
「ううん、私こそ勝手な事してごめんね。本当はもっと上手なやり方があったと思うんだけど……なにぶん、残念な脳みそで」
「いや、そんな……」
ガチガチに固かった仁ちゃんの表情から、力が抜けた。よかった。とりあえず誤解は解けたみたい。
と。ほっとしたのも束の間。
「あれ……?」
突如襲ってきた、猛烈な倦怠感。
甲羅でも背負っているように、重い。思わず、前かがみになってしまう。
「唯?」
「唯? どうした?」
仁ちゃんと蓮ちゃんが私に声をかけてくれたのはわかった。ちゃんと聞こえた。
でも……遠い。透明な膜の向こうから、名前を呼ばれているみたい。
「唯!?」
貧しい育ちで、見た目にそぐわず体が丈夫な事が、唯一といってもいい位の取柄だったのに。
二人の声と、花火の音。両方が突然途絶える。
私はそのまま、意識を失ってしまった。
予想外に説明が下手くそな蓮ちゃんに、大慌てしてしまう。
ううん、諸悪の根源である私が下手くそとか……失礼極まりない話なんだけど。
「結論から伝えた方が早いだろ?」
ああ、そうか。男の人って経緯より結論、てよく言うよね。
でもそれでも……今回の場合は、経緯をきちんと説明しないと、誤解を招くというか、意味不明というか。
「ご、ごめんね仁ちゃん、びっくりさせて……実は……」
謝りながら正面に座る仁ちゃんを見て……驚いてしまった。驚きすぎている仁ちゃんの顔に、私が驚いてしまったんだ。
「こ……恋人……」
「ええと、はじめからきちんと説明するね。ここに来る途中斎藤さんに」
「だ、大丈夫っ、わかってる! わかってた! 唯と蓮さんがそういう事になってたのは……っ」
「え?」
あ、そっか。蓮ちゃんが病院に送ってくれた所を、仁ちゃんも見てたって斎藤さんが言ってたっけ。
でもこの口ぶりだと……やっぱり誤解されちゃってそう。
「違うの仁ちゃん、そういう事じゃなくて」
「ごめんな、俺に気を遣って、堂々と会えなかったんだろ?」
「仁ちゃん聞いて? 誤解なの」
「心配しなくていいからっ! ちょうど、そういうの解禁してもいいんじゃないかって言おうとしてた所で……」
「ん? 解禁? え? どういう事……?」
きちんと説明をしなきゃという義務感が、気になる言葉を前に、引っ込んでしまった。
「ずっと思ってたんだ。世間体を気にして、お互いに本物のパートナーは作らないようにしようって決めてたけど……唯の人生からそういう幸せまで奪いたくないって。だから……」
「今後は唯が誰と付き合おうが、構わないってことか」
最後まで聞かずに、そう結論付ける蓮ちゃん。
仁ちゃんは……静かに頷いた。
「唯には……幸せになってほしいので」
嫌だ。こんなの嫌だ。
私が誰とお付き合いしようが、仁ちゃんにはどうでもいい。そんな事わかってるけど。でも、それでも――。
「仁ちゃ」
「……お前はいつもそうやって、唯の話をろくに聞いてもやらないのか?」
蓮ちゃんの言葉に、仁ちゃんの肩がピクリと動く。
「同じ車に乗っている所を、清香に見られた。そして、俺達が不倫関係にあると誤解された。清香は仁を裏切っている唯を許せないと……俺達の事を公にして、唯を糾弾すると言い出した。そんな事をされたんじゃ、仁に迷惑がかかると考えた唯は、自分達は政略結婚で結ばれた愛の無い夫婦で、俺と自分の関係も容認されている。だから仁は傷付かない……と説明した」
落ち着いた、でも少し冷ややかで端的な口調で、事のあらましを説明する、蓮ちゃん。
要点が簡潔にまとまっていて、さすがだな。と思う反面……最初から、そう言ってくれればこんな事にはならなかったのに。と、心の中でため息を吐いてしまう。ごめん……蓮ちゃん。
「そ……う、だったのか……?」
仁ちゃんはまたも驚いたような表情で、私の顔を見た。
「うん、そうなの。政略結婚、って感じで、私の血筋とか極秘事項は隠したつもりなんだけど……勝手にごめんね?」
「それはいいけど……え? じゃあ蓮さんとは……? 政略結婚て事にするなら、あえて蓮さんと唯が恋人同士なんて嘘をつく必要ないよな? やっぱり二人はそういう……」
「だから、さっきから唯が言ってるだろう。誤解だ。俺達は何でもない」
「でもね、斎藤さんはそもそも、ソコを信じてくれなくて興奮状態だったから……もう認めちゃった方が、他の嘘をすんなり信じてくれるかなって……」
私と蓮ちゃんとで、代わる代わる、説明する。
仁ちゃんは話し手が変わる度に、視線を移して、真剣な顔で聞いてくれた。
「そ、か。わかった。ごめん俺……はやとちりして……」
「ううん、私こそ勝手な事してごめんね。本当はもっと上手なやり方があったと思うんだけど……なにぶん、残念な脳みそで」
「いや、そんな……」
ガチガチに固かった仁ちゃんの表情から、力が抜けた。よかった。とりあえず誤解は解けたみたい。
と。ほっとしたのも束の間。
「あれ……?」
突如襲ってきた、猛烈な倦怠感。
甲羅でも背負っているように、重い。思わず、前かがみになってしまう。
「唯?」
「唯? どうした?」
仁ちゃんと蓮ちゃんが私に声をかけてくれたのはわかった。ちゃんと聞こえた。
でも……遠い。透明な膜の向こうから、名前を呼ばれているみたい。
「唯!?」
貧しい育ちで、見た目にそぐわず体が丈夫な事が、唯一といってもいい位の取柄だったのに。
二人の声と、花火の音。両方が突然途絶える。
私はそのまま、意識を失ってしまった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
鬼隊長は元お隣女子には敵わない~猪はひよこを愛でる~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「ひなちゃん。
俺と結婚、しよ?」
兄の結婚式で昔、お隣に住んでいた憧れのお兄ちゃん・猪狩に再会した雛乃。
昔話をしているうちに結婚を迫られ、冗談だと思ったものの。
それから猪狩の猛追撃が!?
相変わらず格好いい猪狩に次第に惹かれていく雛乃。
でも、彼のとある事情で結婚には踏み切れない。
そんな折り、雛乃の勤めている銀行で事件が……。
愛川雛乃 あいかわひなの 26
ごく普通の地方銀行員
某着せ替え人形のような見た目で可愛い
おかげで女性からは恨みを買いがちなのが悩み
真面目で努力家なのに、
なぜかよくない噂を立てられる苦労人
×
岡藤猪狩 おかふじいかり 36
警察官でSIT所属のエリート
泣く子も黙る突入部隊の鬼隊長
でも、雛乃には……?
→📚️賛否分かれる面白いショートストーリー(1分以内で読了限定)
ノアキ光
大衆娯楽
(▶アプリ無しでも読めます。 目次の下から読めます)
見ていただきありがとうございます。
1分前後で読めるショートストーリーを投稿しています。
不思議なことに賛否分かれる作品で、意外なオチのラストです。
ジャンルはほとんど現代で、ほのぼの、感動、恋愛、日常、サスペンス、意外なオチ、皮肉、オカルト、ヒネリのある展開などです。
日ごとに違うジャンルを書いていきますので、そのときごとに、何が出るか楽しみにしていただければ嬉しいです。
(作品のもくじの並びは、上から順番に下っています。最新話は下になります。読んだところでしおりを挟めば、一番下までスクロールする手間が省けます)
また、好みのジャンルだけ読みたい方は、各タイトル横にジャンル名を入れますので、参考にしていただければ、と思います。
短いながら、よくできた作品のみ投稿していきますので、よろしくお願いします。
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
俺様御曹司は十二歳年上妻に生涯の愛を誓う
ラヴ KAZU
恋愛
藤城美希 三十八歳独身
大学卒業後入社した鏑木建設会社で16年間経理部にて勤めている。
会社では若い女性社員に囲まれて、お局様状態。
彼氏も、結婚を予定している相手もいない。
そんな美希の前に現れたのが、俺様御曹司鏑木蓮
「明日から俺の秘書な、よろしく」
経理部の美希は蓮の秘書を命じられた。
鏑木 蓮 二十六歳独身
鏑木建設会社社長 バイク事故を起こし美希に命を救われる。
親の脛をかじって生きてきた蓮はこの出来事で人生が大きく動き出す。
社長と秘書の関係のはずが、蓮は事あるごとに愛を囁き溺愛が始まる。
蓮の言うことが信じられなかった美希の気持ちに変化が......
望月 楓 二十六歳独身
蓮とは大学の時からの付き合いで、かれこれ八年になる。
密かに美希に惚れていた。
蓮と違い、奨学金で大学へ行き、実家は農家をしており苦労して育った。
蓮を忘れさせる為に麗子に近づいた。
「麗子、俺を好きになれ」
美希への気持ちが冷めぬまま麗子と結婚したが、徐々に麗子への気持ちに変化が現れる。
面倒見の良い頼れる存在である。
藤城美希は三十八歳独身。大学卒業後、入社した会社で十六年間経理部で働いている。
彼氏も、結婚を予定している相手もいない。
そんな時、俺様御曹司鏑木蓮二十六歳が現れた。
社長就任挨拶の日、美希に「明日から俺の秘書なよろしく」と告げた。
社長と秘書の関係のはずが、蓮は美希に愛を囁く
実は蓮と美希は初対面ではない、その事実に美希は気づかなかった。
そして蓮は美希に驚きの事を言う、それは......
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる