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142.大人からのプレゼントは金額だよ、だってお金に気持ちがこもってるんだから
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「えええ……っ」
仁ちゃんから頂いた、クリスマスプレゼント。
包装紙を丁寧に剥がして、小さな箱をパカっと開けて現れた、その正体に愕然としてしまう。
「……好みじゃなかった?」
「う、ううん! すごく可愛いけど……! こんな高そうなもの……っ!」
真珠らしきものと、ダイヤモンドらしきものが付いた、小さなイヤリング。
箱根に行って、ママが亡くなって、自宅に戻って……なんやかんやで迎えた年末。
昨日無事に今年の仕事を納め、少し寝坊気味に起きて来た仁ちゃんから、まさかまさか、こんなプレゼントを頂けるなんて。
「遅くなってごめんな。なんか……タイミング的に、渡しにくくなっちゃって」
ああそうか。真珠のイヤリングは、喪服に合わせる事も多いから。ママの事、仁ちゃんは気を遣ってくれたんだな。
「そんなのは全然いいのっ。な、なんかごめんね!? 私からのプレゼント、加湿器だったのに……っ」
「いや、会社のデスクサイドに置くのにちょうどよくて、重宝してるよ」
恐縮する私に、仁ちゃんはコーヒーを飲みながら笑ってくれた。
少し寝ぐせの残っている髪の毛が、可愛い……けれども。今はそんな事より――
「で、でもどうしてこんな」
「運動会でパールのバレッタ付けてて、似合うなーと思ってたんだ。今までアクセサリー類をプレゼントしても付けてくれた事は無いけど……真珠なら、冠婚葬祭で使えると思って」
う。仁ちゃん、気付いていたんだ。
「ごめんね。頂いたものは全部、使わずにとっておいてあるの。この先仁ちゃんが困った時、お金に替えられたらいいなと思って」
「え!」
私の告白に、コーヒーを飲む手を止める仁ちゃん。
「あ、あの、仁ちゃん程優秀な人なら、そうはならないとは思うんだけど。人生何があるかわからないじゃない? そういう時、少しでも力になれたらなって」
「唯はそんな事……っ、あっ……ええと、ありがとうな、そこまで俺の事考えてくれて」
あれ? いつもの仁ちゃんならこういう時『唯はそんな事気にしなくていい』とか『俺の為に我慢しないで』とか言いそうなのに。
「でも、せめてそのイヤリングは使ってくれると嬉しい」
「うんっ。万が一にも落としたりしないよう、全神経を耳たぶに集中させて、着けさせてもらう!」
『んな大袈裟な……』と笑う仁ちゃんの正面に座って、早速着けてみる。けれど。いかんせん、アクセサリーなんて着けた事がほぼ無いから、スマートに出来ない。
「あれ? これ、この部分をクルクル回してきつくするんだよね?」
「そう。あ、もっと、タプタプしたあたりに付けた方が」
「タプタプ?」
「そう、もうちょい下の……俺、やってもいいか?」
席を立ち、私の傍らにやって来た仁ちゃんは中腰になって、私の耳に……触れた。
「ちょうどいいきつさになったら教えて」
「は……はいっ」
うあああああああっ。
思わず、心の中で絶叫してしまう。
近い、くすぐったい、恥ずかしいっ。
どうしよう、私最後に耳掃除したのいつだっけ? テレビで耳鼻科のお医者さんがやり過ぎは良くないって言ってたから、月に2回位しかしてないんだけどっ。大好きな仁ちゃんに耳垢なんて見られた日には……私、恥ずかしくて死んでしまう……っ。
「……唯、まだ平気? なんか赤くなってきたけど」
「っは! あ、うん、なんか痛い気がする!」
「えっ、ごめん、緩めるっ」
「ううん、私が声かけなかったから……っ」
と、ふとしたタイミングで、目が合ってしまった。
至近距離で拝む、仁ちゃんの美顔。
「あ……のさ、どさくさに紛れてアレなんだけど……朝のギュー、してもいいか? 玄関ギューのお陰で、俺はかなり癒されてて。だから……仕事が休みの日もご協力頂けると、大変有難いんですが」
「は、はい勿論! そんな事でよろしければ!」
嬉しすぎる仁ちゃんからの要請を、即、快諾させて頂いて。
私は仁ちゃんの胸に、顔をうずめた。
「なんか……高いもん贈って、気を遣わせてごめんな。でも……プレゼントは金じゃないっていう奴もいるけど、どうでもいい事に金を使う奴なんていないと思うんだ。金は、一生懸命働いて貰う対価だから……だから俺は、大事な唯の為に使いたかった。自己満に付き合わせて悪いけど……受け取って」
「……うん。ありがとう、仁ちゃん。大切にするね」
仁ちゃんの背中に回した腕に、力を込める。
すると仁ちゃんも、それに応じるように強く抱きしめてくれて。
「俺は、あの人の代わりになんてなれないけど。これからもずっと一緒だから。一緒にいたいと、俺は思ってるから」
「私もだよ」
仁ちゃんをママの代わりにしようだなんて、思ってない。思った事もない。
ママはママ。仁ちゃんは仁ちゃん。どちらも私にとって、かけがえのない存在。
だから、大切にしたい。愛していきたい。今この瞬間もこれから先も、ずっと――。
そんな決意を新たに、私は仁ちゃんの心臓に、今日もお礼を言うのだった。
仁ちゃんから頂いた、クリスマスプレゼント。
包装紙を丁寧に剥がして、小さな箱をパカっと開けて現れた、その正体に愕然としてしまう。
「……好みじゃなかった?」
「う、ううん! すごく可愛いけど……! こんな高そうなもの……っ!」
真珠らしきものと、ダイヤモンドらしきものが付いた、小さなイヤリング。
箱根に行って、ママが亡くなって、自宅に戻って……なんやかんやで迎えた年末。
昨日無事に今年の仕事を納め、少し寝坊気味に起きて来た仁ちゃんから、まさかまさか、こんなプレゼントを頂けるなんて。
「遅くなってごめんな。なんか……タイミング的に、渡しにくくなっちゃって」
ああそうか。真珠のイヤリングは、喪服に合わせる事も多いから。ママの事、仁ちゃんは気を遣ってくれたんだな。
「そんなのは全然いいのっ。な、なんかごめんね!? 私からのプレゼント、加湿器だったのに……っ」
「いや、会社のデスクサイドに置くのにちょうどよくて、重宝してるよ」
恐縮する私に、仁ちゃんはコーヒーを飲みながら笑ってくれた。
少し寝ぐせの残っている髪の毛が、可愛い……けれども。今はそんな事より――
「で、でもどうしてこんな」
「運動会でパールのバレッタ付けてて、似合うなーと思ってたんだ。今までアクセサリー類をプレゼントしても付けてくれた事は無いけど……真珠なら、冠婚葬祭で使えると思って」
う。仁ちゃん、気付いていたんだ。
「ごめんね。頂いたものは全部、使わずにとっておいてあるの。この先仁ちゃんが困った時、お金に替えられたらいいなと思って」
「え!」
私の告白に、コーヒーを飲む手を止める仁ちゃん。
「あ、あの、仁ちゃん程優秀な人なら、そうはならないとは思うんだけど。人生何があるかわからないじゃない? そういう時、少しでも力になれたらなって」
「唯はそんな事……っ、あっ……ええと、ありがとうな、そこまで俺の事考えてくれて」
あれ? いつもの仁ちゃんならこういう時『唯はそんな事気にしなくていい』とか『俺の為に我慢しないで』とか言いそうなのに。
「でも、せめてそのイヤリングは使ってくれると嬉しい」
「うんっ。万が一にも落としたりしないよう、全神経を耳たぶに集中させて、着けさせてもらう!」
『んな大袈裟な……』と笑う仁ちゃんの正面に座って、早速着けてみる。けれど。いかんせん、アクセサリーなんて着けた事がほぼ無いから、スマートに出来ない。
「あれ? これ、この部分をクルクル回してきつくするんだよね?」
「そう。あ、もっと、タプタプしたあたりに付けた方が」
「タプタプ?」
「そう、もうちょい下の……俺、やってもいいか?」
席を立ち、私の傍らにやって来た仁ちゃんは中腰になって、私の耳に……触れた。
「ちょうどいいきつさになったら教えて」
「は……はいっ」
うあああああああっ。
思わず、心の中で絶叫してしまう。
近い、くすぐったい、恥ずかしいっ。
どうしよう、私最後に耳掃除したのいつだっけ? テレビで耳鼻科のお医者さんがやり過ぎは良くないって言ってたから、月に2回位しかしてないんだけどっ。大好きな仁ちゃんに耳垢なんて見られた日には……私、恥ずかしくて死んでしまう……っ。
「……唯、まだ平気? なんか赤くなってきたけど」
「っは! あ、うん、なんか痛い気がする!」
「えっ、ごめん、緩めるっ」
「ううん、私が声かけなかったから……っ」
と、ふとしたタイミングで、目が合ってしまった。
至近距離で拝む、仁ちゃんの美顔。
「あ……のさ、どさくさに紛れてアレなんだけど……朝のギュー、してもいいか? 玄関ギューのお陰で、俺はかなり癒されてて。だから……仕事が休みの日もご協力頂けると、大変有難いんですが」
「は、はい勿論! そんな事でよろしければ!」
嬉しすぎる仁ちゃんからの要請を、即、快諾させて頂いて。
私は仁ちゃんの胸に、顔をうずめた。
「なんか……高いもん贈って、気を遣わせてごめんな。でも……プレゼントは金じゃないっていう奴もいるけど、どうでもいい事に金を使う奴なんていないと思うんだ。金は、一生懸命働いて貰う対価だから……だから俺は、大事な唯の為に使いたかった。自己満に付き合わせて悪いけど……受け取って」
「……うん。ありがとう、仁ちゃん。大切にするね」
仁ちゃんの背中に回した腕に、力を込める。
すると仁ちゃんも、それに応じるように強く抱きしめてくれて。
「俺は、あの人の代わりになんてなれないけど。これからもずっと一緒だから。一緒にいたいと、俺は思ってるから」
「私もだよ」
仁ちゃんをママの代わりにしようだなんて、思ってない。思った事もない。
ママはママ。仁ちゃんは仁ちゃん。どちらも私にとって、かけがえのない存在。
だから、大切にしたい。愛していきたい。今この瞬間もこれから先も、ずっと――。
そんな決意を新たに、私は仁ちゃんの心臓に、今日もお礼を言うのだった。
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