死ぬほど愛しているけれど、妻/夫に悟られるわけにはいかないんです

杏 みん

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162.不安とか書き出して整理すると意外となんとかなると気付ける事が多い

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 「フローチャートを作ってみたんだ」

 「ん? どしたどした?」

 ノートPCをパカっと開いて見せる俺に、目を瞬かせる一輝。

 終業後のオフィス。
 斎藤が帰り、唯も帰り……それを確認して、一輝を呼び出した。
 とあるプレゼンテーションを、聞いて貰う為に。

 「俺は、唯に告白する」

 「え!? マジでどした!?」

 「もういい加減しんどいんだ。思わせぶりな事しか言えない自分、蓮さんと唯の詳細不明な関係に心を乱す自分、人様の結婚パーティーでもハッピーな気持ちに浸れない自分……そんな自分に別れを告げたい! まぁとりあえず座ってくれ!」

 斎藤の椅子を俺のデスクまで転がしてきて、戸惑う一輝を座らせる。

 「俺は今まで、自分が告白なんてしたら、俺に恩を感じている唯は断れない筈。だから申し訳なくて言えない、と思ってたんだけど。蓮さんが現れてから、ホントにそうか? と思い始めて」

 「ってゆーと?」

 「一度でも誰かを愛した事がある人間なら、愛していない人間をきちんと拒めるんじゃなかろうか?」

 「ええ~? それは人によるんじゃない~? 唯ちゃん、あんな仕事をしてたわけだしさ」

 「だから! あんな仕事をさせられてたからこそ! 愛の無い行為には強い拒否を示す筈じゃねえ!? つまり、俺を好きじゃないなら、ちゃんと振れる筈! そこでこのチャートだ!」

 カチカチっとマウスを操作して、スライドを表示する。

 「ん? なにこれ」

 「告白後、唯のレスポンスごとに、訪れる未来を推測してみた」

 「ええとまず、OKだった場合……真の夫婦として幸せまっしぐら。フラれた場合……一時的に気まずくなるが、離婚はしない……?」

 「そう! たとえフラれても、ここで恩人という盾が役に立つ! 唯は俺が社長になるまでは、離婚したいなんて言い出さないと思うんだ性格的に! つまり! うまくいかなくても、俺が唯を失う事はないんだよ! だったら恐れずに、告白すべきだと思わねぇか!?」

 ドン! と力強く机を叩く俺を、一輝は冷ややかな目で見る。

 「ねえ、なに、そのテンション……。てか、チャートもスライドも少な……。こんなもん、口で相談してくれりゃ十分でしょうよ」

 「無理にでもギア上げてかないと、怖すぎて告白なんて出来ないからな……何せ、唯と出会ってもう10年……10年こじらせた片思いを、実らせようとしてんだから」

 「まぁ、そうなんだろーけどさ。あ。もしや仁、軽井沢で決行する気? 夏休み、明日からだったよね?」

 ご明察。
 だからこれは最終確認のプレゼンであり、自分自身を鼓舞するための決起集会なんだ。

 「一輝……良い報告を待っててくれ」

 「うん、待つのはタダだから別に良いけど」

 正直、勝敗はさっぱりわからん。
 去年あたりからちょいちょい、思わず期待したくなるような言動が目立つ唯だけれど……唯にとっての家族愛のボーダーラインが所在不明過ぎて、越えてる越えてないの判断が、つかない。

 だが、もしもうまくいったら……閑静な別荘地に、ピンクの声がこだましたりして……。

 「あぁやばいっ! 鼻血出そう!」

 「えっ……、仁、大丈夫か?」

 突然聞こえてきた、一輝以外の声。
 鼻をつまんだまま、驚いて顔を上げる。
 すると、ドアを開けた蓮さんが心配そうな顔だこちらを見ていて。

 「「蓮さん!?」」

 一輝と二人、揃って声をあげてしまう。

 「ごめん、ノックしたんだけど、返事が無くて……でも、中にいるのは外から見えたから」

 「すいませんっ、気づかなくて……どうかしました?」

 「実は……おい、ちゃんとお詫びして」

 蓮さんに促され、その背後からヒョコっと顔を出したのは、凛。

 「すいませ~ん、仁く~ん。実は……」

 ぜってー『すいません』なんて思ってねぇだろうな。と言いたくなるようなにやけ顔で、掌を顔の前で合わせる、クソ坊ちゃんの登場に……

 俺の中に、唯との夏休みはピンク色にはならないだろうという、嫌な予感が生まれていた。
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