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219.つわりには3種類あるらしい
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「お疲れ様でした! じゃ~んっ」
という、ダサめの効果音を添えてお出ししたのは、ルイボスティー。
「え!? ルイボスティー! もう大丈夫になったの?」
帰宅したばかりの蓮ちゃんは、玄関で目を丸くする。
「うん! 先週あたりから気にならなくなってきて……おかげ様で匂いツワリ卒業しました!」
氷を入れてストローをさして、アイス仕様にしたルイボスティーを、蓮ちゃんにお出しする。
「よかった……! 安定期に入るとツワリも落ち着いてくる人が殆どだって書いてあったけど……唯は随分長かったもんな?」
「本当……このまま一生、ルイボスティーの匂いで吐く体質になっちゃったらどうしようかと思ってた。蓮ちゃんもごめんね? 私の為に、飲むの我慢してくれてたんだよね?」
グラスを受け取って貰った代わりに、鞄とジャケットを預かろうと思ったんだけど。『重いから』と、蓮ちゃんは自分で持ったまま、廊下を進んで。
「いいんだよ。というか……唯と一緒になってから、カフェイン摂っても良く寝れるようになったから。もうルイボスティーでもコーヒーでも何でもこいって感じ」
「そうだったんだね、よかった……。眠れないって、本当にしんどいもんね」
「今、唯がまさにその状態だもんな。つらかったら、仕事も無理しなくていいんだよ?」
「ありがとう。ごめんね、今日も結局休ませてもらっちゃって」
「気にしないで。唯と子供と……二人分の命をかけてまでやらなきゃいけない仕事なんて、どこにもないよ」
命をかけて……っていうのは大袈裟な気もするけど。
心配症とノイローゼの境界で、いつも不安な想いをしている蓮ちゃんを笑う気にはなれないから。
「それに、この前話してた事務員さん、今日会ってきたんだけど、決まりそうなんだ」
「本当!? 良さそうな人だったんだね!」
「……うん、まぁ。穏やかそうな女性だったよ」
『うん』までの間が、少しだけ気になったけど。
蓮ちゃんも経営者として色々想う所はあるのかな? 私が一つ一つ詰問する必要な無いよね。
「そっか、よかった!」
リビングに入って、ダイニングチェアに鞄とジャケットを置いてから、蓮ちゃんは私の為に椅子を引いてくれた。
お仕事で疲れているだろうに、優しいなぁ。
「だから唯が抜けても仕事は回るから。これからは体第一に、無理なく、ね」
「……うん」
「ん? なに? 何か心配な事ある?」
私はスルーしたのに。蓮ちゃんは少しの間も、丁寧にひろいあげてくれる。
「ううん。私がいなくても大丈夫って、安心だけどちょっと寂しいな、なんて。えへへ」
迷惑をかけてるくせに。自分勝手な寂しんぼ発言。それを誤魔化すように、ちょっと笑ってみる。
すると蓮ちゃんは身をかがめ、椅子に座る私をそっと抱き寄せて。
「かわいい……邪悪なものが全部、浄化されてく……」
「ええ? 邪悪なものなんて、蓮ちゃんには無いでしょう?」
「あるよ。あえて、妻って3回も言っちゃったし」
「うん?」
首を傾げる私に『ううん、こっちの話』と言って、蓮ちゃんは笑った。
「さて、夕飯どうしようか? 食べられそう? リクエストあったら作るよ?」
「もう作ってあるから大丈夫だよ。食欲も先週あたりから復活してきてね。むしろ食べ過ぎかもって思う位、ずっと何かしらつまんじゃう」
「そういえば……唯、ちょっとふっくらしたような?」
「え!」
膝立ちのまま、私をまじまじと見てからの、つぶやき。これは率直な感想に違いない。
「そ、そうかな!? やだ! 体重管理ってすごく大事なんだよね!? どうしよう!?」
「大丈夫じゃないかな? 痩せ過ぎで心配って、主治医の先生にも紫苑にも言われてるし」
「でも、このままぐんぐん巨大化して、お相撲さんレベルになっちゃったら流石に……」
蓮ちゃんも嫌でしょう? と言いかけて、やめておいた。
さっきも『かわいい』なんて言わせちゃったし。なんというか、そんな心配してる私、可愛いでしょ? みたいな。あざとい感じになっちゃうのが嫌で。
でも、聖人蓮ちゃんには、そんな私の思考は全てお見通しだったようで。
「ふふ。そうだね。お相撲さんレベルは健康面が心配になるけど……どんな唯も、俺は好きだよ? むしろ、コロコロムチムチな唯も、味わってみたいというか」
そう微笑みながら、私のほっぺをムニムニする。
「あ、味わう……?」
「あ、ごめん、変な意味じゃなくて。いや変な意味でもいいんだけど。産後落ち着くまではちゃんと耐えるから、安心して」
変な意味……想像してしまって、熱くなる顔を隠すように、俯く。
すると蓮ちゃんは『もう、かわいいな~』と言って再び私を抱きしめた。
「ど、どうしたの蓮ちゃん? 今日なんか変だよ?」
「本物が、俺の所にいてくれる幸せをかみしめてるんだよ」
「んん??」
「しかも来月には子供にまで会える……申し訳ない位だなぁ……」
申し訳ないって、誰に? ……まぁいいか。
しっかり膨らんだお腹に頬をあてる蓮ちゃんの顔は……とても、幸せそうだから。
という、ダサめの効果音を添えてお出ししたのは、ルイボスティー。
「え!? ルイボスティー! もう大丈夫になったの?」
帰宅したばかりの蓮ちゃんは、玄関で目を丸くする。
「うん! 先週あたりから気にならなくなってきて……おかげ様で匂いツワリ卒業しました!」
氷を入れてストローをさして、アイス仕様にしたルイボスティーを、蓮ちゃんにお出しする。
「よかった……! 安定期に入るとツワリも落ち着いてくる人が殆どだって書いてあったけど……唯は随分長かったもんな?」
「本当……このまま一生、ルイボスティーの匂いで吐く体質になっちゃったらどうしようかと思ってた。蓮ちゃんもごめんね? 私の為に、飲むの我慢してくれてたんだよね?」
グラスを受け取って貰った代わりに、鞄とジャケットを預かろうと思ったんだけど。『重いから』と、蓮ちゃんは自分で持ったまま、廊下を進んで。
「いいんだよ。というか……唯と一緒になってから、カフェイン摂っても良く寝れるようになったから。もうルイボスティーでもコーヒーでも何でもこいって感じ」
「そうだったんだね、よかった……。眠れないって、本当にしんどいもんね」
「今、唯がまさにその状態だもんな。つらかったら、仕事も無理しなくていいんだよ?」
「ありがとう。ごめんね、今日も結局休ませてもらっちゃって」
「気にしないで。唯と子供と……二人分の命をかけてまでやらなきゃいけない仕事なんて、どこにもないよ」
命をかけて……っていうのは大袈裟な気もするけど。
心配症とノイローゼの境界で、いつも不安な想いをしている蓮ちゃんを笑う気にはなれないから。
「それに、この前話してた事務員さん、今日会ってきたんだけど、決まりそうなんだ」
「本当!? 良さそうな人だったんだね!」
「……うん、まぁ。穏やかそうな女性だったよ」
『うん』までの間が、少しだけ気になったけど。
蓮ちゃんも経営者として色々想う所はあるのかな? 私が一つ一つ詰問する必要な無いよね。
「そっか、よかった!」
リビングに入って、ダイニングチェアに鞄とジャケットを置いてから、蓮ちゃんは私の為に椅子を引いてくれた。
お仕事で疲れているだろうに、優しいなぁ。
「だから唯が抜けても仕事は回るから。これからは体第一に、無理なく、ね」
「……うん」
「ん? なに? 何か心配な事ある?」
私はスルーしたのに。蓮ちゃんは少しの間も、丁寧にひろいあげてくれる。
「ううん。私がいなくても大丈夫って、安心だけどちょっと寂しいな、なんて。えへへ」
迷惑をかけてるくせに。自分勝手な寂しんぼ発言。それを誤魔化すように、ちょっと笑ってみる。
すると蓮ちゃんは身をかがめ、椅子に座る私をそっと抱き寄せて。
「かわいい……邪悪なものが全部、浄化されてく……」
「ええ? 邪悪なものなんて、蓮ちゃんには無いでしょう?」
「あるよ。あえて、妻って3回も言っちゃったし」
「うん?」
首を傾げる私に『ううん、こっちの話』と言って、蓮ちゃんは笑った。
「さて、夕飯どうしようか? 食べられそう? リクエストあったら作るよ?」
「もう作ってあるから大丈夫だよ。食欲も先週あたりから復活してきてね。むしろ食べ過ぎかもって思う位、ずっと何かしらつまんじゃう」
「そういえば……唯、ちょっとふっくらしたような?」
「え!」
膝立ちのまま、私をまじまじと見てからの、つぶやき。これは率直な感想に違いない。
「そ、そうかな!? やだ! 体重管理ってすごく大事なんだよね!? どうしよう!?」
「大丈夫じゃないかな? 痩せ過ぎで心配って、主治医の先生にも紫苑にも言われてるし」
「でも、このままぐんぐん巨大化して、お相撲さんレベルになっちゃったら流石に……」
蓮ちゃんも嫌でしょう? と言いかけて、やめておいた。
さっきも『かわいい』なんて言わせちゃったし。なんというか、そんな心配してる私、可愛いでしょ? みたいな。あざとい感じになっちゃうのが嫌で。
でも、聖人蓮ちゃんには、そんな私の思考は全てお見通しだったようで。
「ふふ。そうだね。お相撲さんレベルは健康面が心配になるけど……どんな唯も、俺は好きだよ? むしろ、コロコロムチムチな唯も、味わってみたいというか」
そう微笑みながら、私のほっぺをムニムニする。
「あ、味わう……?」
「あ、ごめん、変な意味じゃなくて。いや変な意味でもいいんだけど。産後落ち着くまではちゃんと耐えるから、安心して」
変な意味……想像してしまって、熱くなる顔を隠すように、俯く。
すると蓮ちゃんは『もう、かわいいな~』と言って再び私を抱きしめた。
「ど、どうしたの蓮ちゃん? 今日なんか変だよ?」
「本物が、俺の所にいてくれる幸せをかみしめてるんだよ」
「んん??」
「しかも来月には子供にまで会える……申し訳ない位だなぁ……」
申し訳ないって、誰に? ……まぁいいか。
しっかり膨らんだお腹に頬をあてる蓮ちゃんの顔は……とても、幸せそうだから。
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