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友情より愛情を取るのは子孫を残す為の本能ゆえだという言い訳
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「ねえ奥様、お聞きになりまして? レオナルド様の痴話喧嘩のお話し!」
「ええ! なんでも、レオ様の非公式な恋人が、陛下との関係を怪しんで職務中のレオ様を殺そうとしたとか! 一体どちらのお嬢さんなのかしら!?」
「わからないものよねえ。とても誠実そうに見えたのに。今頃レノックス家は大わらわじゃなくって? 代々清廉潔白なお家柄で通してきたのに、次代当主のレオ様が女性関係のスキャンダルで護衛騎士を辞するなんて、私なら恥ずかしくて外も出歩けな……あ! しーっ!!」
向かいから歩いてくる俺に気付いたらしい奥様方は、人差し指を口元にあてて、急に黙りこくった。
「よくもまあ、あんなでかい声で陰口が叩けるよな。どこの誰と出くわしてもおかしくない、城内の廊下で」
隣を歩くアランが、嫌悪感に満ちた顔でため息を吐く。
噂とは恐ろしい。
いくら隠しても、あっという間に広がる。陛下のおっしゃる通りだった。
一月前、エレナ嬢が俺に花瓶を投げつけた件は、隠匿された。俺の望んだ形で。
騎士団長は俺の辞任に免じて、『恋人』がどこの誰かを問い詰める事はしなかったし、陛下のお口添えもあり、襲撃事件そのものが公になる事はなかったのだ。
にも関わらず、『女王の護衛騎士が、女ともめて殺されかけたらしい』という噂は、瞬く間に城中に広まって。
「まったくバカだよお前は。いくら陛下の為とはいえ、濡れ衣を着て辞任するなんて。何も知らない連中にあんな風に言われて……悔しくねえの?」
「好きなように言わせておけばいい。そんなことよりさっさと運んでくれ。じきに荷馬車が出発してしまう。俺の荷物全部、明日にはノースリーフの駐屯地に着いてないと困るんだ」
はいはいと、うっとおしそうに返事をするアランの手には大きな木箱が抱えられている。
勿論俺の手にも。
「いつもなら、それが人に頼む態度かって文句言ってやりたい所だけど……お前はド田舎の駐屯地に飛ばされる哀れな身だからな。荷造り位は手伝ってやるよ」
「寂しいならそう言え。素直になれないツンデレ男は、もう流行ってないぞ」
図星を突かれ、ムキになって怒るかと思ったけれど。同期の桜は、真顔で俺を見つめた。
「お前は色々とアレな奴だったけど……陛下の護衛騎士としては間違い無く一流だった。下心があったとはいえ、お前ほど努力家で、陛下への忠誠心に厚い騎士はきっといない。誰がなんと言おうと、お前は誇り高い、女王の護衛騎士だった」
驚いて、即座に返す言葉が思い浮かばない。
いつもなんやかんやと小言ばかりのこいつから、餞別代わりに賛辞を貰うなんて。
「お前の悪口言ってる奴がいたら、ボコる位の事はしといてやる。だから安心して左遷されろ。今家の方も大変だろ? 家名に泥を塗るような真似をして……お袋さん、カンカンだったんじゃねえの?」
「いや、むしろ褒められた。母には陛下が真実をお伝えくださったからな。保身よりも陛下への忠義を重んじた息子を誇りに思うと、父の墓の前でハグされた程だ」
「気丈な人だな。あちこちで陰口を叩かれて、名家の奥方様としては、内心穏やかじゃないだろうに」
気の毒そうに目を伏せ、首を横に振るアラン。
しかし、俺はキョトンと間抜けな表情を浮かべてしまう。だって、陰口如きを気に病んでいる母上の姿が、まるで想像できないから。
「心配には及ばない。母のメンタルは鋼だ。他人のあら捜しをして喜ぶような連中にどう思われようが、毛ほども気にしていないだろう」
「……成程。そういう母親に育てられたら、お前みたいな人間ができるわけね」
「そうだ。だから俺も、お前には本当の事を話した」
「は?」
いつも通り、嫌味に反応しないばかりか、予期せぬ事を言い始めた俺に、目を瞬かせるアラン。
「俺にとって、アラン・カーティスは“どう思われてもいい連中”じゃない。お前には失望されたくなかった。だから伝えたんだ、真実を。……お前さえわかってくれていれば、それで十分だから」
「おま……よせよ……っ」
アランは慌てた様子で、顔を右斜め下……俺から見えない方向へとそらした。
両手に大荷物を抱えているせいで、目に溜まる涙を拭う事が出来ないのだ。
大の男が、同僚が異動になった位で泣くなんて、情けない。
でも、お前がそういう奴だから、俺は話したんだ。
どんなに優秀な同僚達よりも、俺にはお前こそが尊かった。
「落ち着いたら、手紙位よこせよ。じゃないと、生きてるか死んでるかもわからねーからな」
赤くなった鼻をすするアラン。
流行らないと忠告してやったのに。懲りもせずに、ツンデレな言い回しで、文通を要求してきた。
が、断る。
「悪い。多分俺はかなり忙しくなると思うんだ。お前と無益な文のやりとりをしている暇はない」
だって、ノースリーフには、あの方が待っておられる。
だから俺は異動先に、あのド田舎駐屯地を希望したのだ。
「は……? お前なんなの……?」
アランは時間差で零れた涙に頬を濡らしながら、俺を睨みつけてきたが……
俺の頭の中は、未来の妻の事でいっぱいだった。
ノースリーフの屋敷で暮らす、ローラ陛下とうり二つだという従妹君の事で。
「ええ! なんでも、レオ様の非公式な恋人が、陛下との関係を怪しんで職務中のレオ様を殺そうとしたとか! 一体どちらのお嬢さんなのかしら!?」
「わからないものよねえ。とても誠実そうに見えたのに。今頃レノックス家は大わらわじゃなくって? 代々清廉潔白なお家柄で通してきたのに、次代当主のレオ様が女性関係のスキャンダルで護衛騎士を辞するなんて、私なら恥ずかしくて外も出歩けな……あ! しーっ!!」
向かいから歩いてくる俺に気付いたらしい奥様方は、人差し指を口元にあてて、急に黙りこくった。
「よくもまあ、あんなでかい声で陰口が叩けるよな。どこの誰と出くわしてもおかしくない、城内の廊下で」
隣を歩くアランが、嫌悪感に満ちた顔でため息を吐く。
噂とは恐ろしい。
いくら隠しても、あっという間に広がる。陛下のおっしゃる通りだった。
一月前、エレナ嬢が俺に花瓶を投げつけた件は、隠匿された。俺の望んだ形で。
騎士団長は俺の辞任に免じて、『恋人』がどこの誰かを問い詰める事はしなかったし、陛下のお口添えもあり、襲撃事件そのものが公になる事はなかったのだ。
にも関わらず、『女王の護衛騎士が、女ともめて殺されかけたらしい』という噂は、瞬く間に城中に広まって。
「まったくバカだよお前は。いくら陛下の為とはいえ、濡れ衣を着て辞任するなんて。何も知らない連中にあんな風に言われて……悔しくねえの?」
「好きなように言わせておけばいい。そんなことよりさっさと運んでくれ。じきに荷馬車が出発してしまう。俺の荷物全部、明日にはノースリーフの駐屯地に着いてないと困るんだ」
はいはいと、うっとおしそうに返事をするアランの手には大きな木箱が抱えられている。
勿論俺の手にも。
「いつもなら、それが人に頼む態度かって文句言ってやりたい所だけど……お前はド田舎の駐屯地に飛ばされる哀れな身だからな。荷造り位は手伝ってやるよ」
「寂しいならそう言え。素直になれないツンデレ男は、もう流行ってないぞ」
図星を突かれ、ムキになって怒るかと思ったけれど。同期の桜は、真顔で俺を見つめた。
「お前は色々とアレな奴だったけど……陛下の護衛騎士としては間違い無く一流だった。下心があったとはいえ、お前ほど努力家で、陛下への忠誠心に厚い騎士はきっといない。誰がなんと言おうと、お前は誇り高い、女王の護衛騎士だった」
驚いて、即座に返す言葉が思い浮かばない。
いつもなんやかんやと小言ばかりのこいつから、餞別代わりに賛辞を貰うなんて。
「お前の悪口言ってる奴がいたら、ボコる位の事はしといてやる。だから安心して左遷されろ。今家の方も大変だろ? 家名に泥を塗るような真似をして……お袋さん、カンカンだったんじゃねえの?」
「いや、むしろ褒められた。母には陛下が真実をお伝えくださったからな。保身よりも陛下への忠義を重んじた息子を誇りに思うと、父の墓の前でハグされた程だ」
「気丈な人だな。あちこちで陰口を叩かれて、名家の奥方様としては、内心穏やかじゃないだろうに」
気の毒そうに目を伏せ、首を横に振るアラン。
しかし、俺はキョトンと間抜けな表情を浮かべてしまう。だって、陰口如きを気に病んでいる母上の姿が、まるで想像できないから。
「心配には及ばない。母のメンタルは鋼だ。他人のあら捜しをして喜ぶような連中にどう思われようが、毛ほども気にしていないだろう」
「……成程。そういう母親に育てられたら、お前みたいな人間ができるわけね」
「そうだ。だから俺も、お前には本当の事を話した」
「は?」
いつも通り、嫌味に反応しないばかりか、予期せぬ事を言い始めた俺に、目を瞬かせるアラン。
「俺にとって、アラン・カーティスは“どう思われてもいい連中”じゃない。お前には失望されたくなかった。だから伝えたんだ、真実を。……お前さえわかってくれていれば、それで十分だから」
「おま……よせよ……っ」
アランは慌てた様子で、顔を右斜め下……俺から見えない方向へとそらした。
両手に大荷物を抱えているせいで、目に溜まる涙を拭う事が出来ないのだ。
大の男が、同僚が異動になった位で泣くなんて、情けない。
でも、お前がそういう奴だから、俺は話したんだ。
どんなに優秀な同僚達よりも、俺にはお前こそが尊かった。
「落ち着いたら、手紙位よこせよ。じゃないと、生きてるか死んでるかもわからねーからな」
赤くなった鼻をすするアラン。
流行らないと忠告してやったのに。懲りもせずに、ツンデレな言い回しで、文通を要求してきた。
が、断る。
「悪い。多分俺はかなり忙しくなると思うんだ。お前と無益な文のやりとりをしている暇はない」
だって、ノースリーフには、あの方が待っておられる。
だから俺は異動先に、あのド田舎駐屯地を希望したのだ。
「は……? お前なんなの……?」
アランは時間差で零れた涙に頬を濡らしながら、俺を睨みつけてきたが……
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